英霊の灯火 1
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
予約投稿されてねぇええええええ!
ごめんなさアアアアい!
王都パリエはその広い土地を二十の区画によって分割している。
東京の中心部が23区で分けられてるのと同じである。
各区画で名所だったり名産だったりいろいろと特色があるのだが……まぁそれは置いておこう。
その二十ある区画のうちの第十区、東のはずれにある教会。
一応開けた丘の上にはあるものの、人里まではやや遠く、しかも開けているのは東側くらいで、南側には森が広がり人が寄り付く、ということは少ない。
昔は国の支援を受けて孤児院を経営していたのだが、いろいろあって数年前に閉鎖され、人里離れていることもあって今は人が寄り付かないままでいる。
その内装外装がどうなのかというと、数年前まで人がいただけのことはあって、まだボロくなっているなんてことはなく、たぶん掃除すればすぐにでも孤児院として再開できるだろう。
これは、現在、件の少年兵とそれを統率する大人がここを間借りしてそれなりに生活できていることでも証明されている。
そんな、教会に近づく影が一つ、真っ黒のロングスカートにベール、胸には十字架、いうまでもなくシスターだ。
教会なのだからシスターが来たってなんの不思議もないのだが、問題はこの教会が実は少年兵たちと彼らの束ねる大人たちがいるということだ。
とりあえずシスターの格好をした女性二人でやってきたシスター・エルに応対する。
「私はエル、と申します。 お二人はこのグレネスト教会の方ですか? 確かここは少し前に閉鎖されたと聞き及んでいましたが……? それが今日になって人が出入りしているではありませんか。 どういうことなのかと様子を見に来たという次第でして……」
そう苦笑いをしながら言ってきたエルに対し、対応に出た二人のシスターは顔を見合わせる。
実際はシスターではない二人なのだが、
「(グレネスト教会……確かにここは昔そういう名で呼ばれていたようですが…… かつての関係者でしょうか?)」
「(あまり騒ぎ立てずに来たつもりだったけど、気取られたようだね。 とりあえず人目につく前に中に入れよう。 どのみちすぐ居なくなる予定だから誤魔化しきれるなら秘密にさせて返せばいいし、騙しきれないなら始末すればいい)」
「(ではそのように)」
「あの~」
教会のシスター二人がひそひそ声で話し出したものだから、置いてけぼりを食らってしまったエルは、たまらず二人に声をかける。
「失礼いたしました。 シスターエル、歓迎いたします。 現グレネスト教会についてもお話ししたいですし、夕飯などご一緒にいかがですか? 少々にぎやかではありますが……」
と片方のシスターが言うと、エルはその顔に笑みを浮かべてそしてこう言った。
「感謝いたします。 ですが、お話も夕飯も結構ですわ。 それに……」
シスター・エルから出てきた断りの言葉、そしてその言葉を二人が認識するよりも早く、彼女はその距離を詰めてきた。
「それに貴女方の許しを請うまでもなく……勝手に入りますから」
そんな不遜な言葉とともにエルの修道服の袖から現れた一対のナイフ、それを両手で持って構え、二人のシスターの間に入り、その首筋を掻き切る。
頸動脈を切られた二人の身体からは夥しい量の血が噴き出し、緑色の草を赤く染めあげる。
「これだから黒い服はいい……」
ついでに周りを赤く彩ったその張本人であるエル、彼女の修道服にもまた大量の鮮血が付着するのだが、黒い服ゆえにそれが目立つことはなかった。
「まったく、最期の最後まで殺意に気づかないとは……戦場ではまさに命とり、元とはいえ兵士が情けない」
と嘆いたエルは頭から首のあたりを覆っていたベールを無造作に脱ぎ去り、ウェーブのかかった髪をたなびかせ、袖から野球ボール程度の球を取り出した。
「とはいえ、この鈍さはこちらにとってはありがたいのも事実ですし、ありがたく暴れまわることにしましょうか」
エルはその球をサイドスローで放り投げ、教会の窓から内部へと送り込んだ。
すると、教会の内部から白い煙が立ち始めた。
彼女が放り投げたのはいわゆる煙玉である。
そうして立ち上った白煙を合図に草陰から数人の影が現れ教会の四方を囲むべく散らばっていった。
そんななかエルに近づく人物が一人。
「鍵開けご苦労エル、ユーが正面を抑えてるから、そのまま私と一緒に突っ込むわよ、先鋒をお願い」
軍帽を被り、黒いマントを纏った女性がエルに指示を出す。
「了解、ケイ隊長殿」
エルはケイ、と呼んだ女性に敬礼し、ナイフを両手に教会に突っ込んでいくのだった。
「古今、幽霊を軽んじたものは痛い目を見る。 亡霊の真似事などしたのだから呪い殺されても文句は言えないな」
これより虐殺の舞台となることが確定している、教会を見上げ、ケイはそう呟き、エルの後を追うのだった。
***
一方教会内部はというと、突然の白煙に大慌てだった。
そんな内部の様子把握したうえで、近くで様子をうかがう影が三つ。
三人がいるのは煙が発生しているところの真裏、当然ここまで煙が及ぶことはなく、視界はクリアであった。
「よぅし中はいい感じに騒がしくなってるな二十秒後に突入だ。 私とアールで前衛、アイは後衛な」
指示を受け、アールと呼ばれた長身で眼鏡をかけた女性は頷き、アイと呼ばれた小柄で癖っ毛の女性は浮かない表情を浮かべる。
そしてアイが口を開いた。
「ねぇ……ディー」
ディー、呼ばれた大柄な女性は出鼻をくじかれたのが不快なのか、不機嫌そうにアイを睨み付ける。
「あんだよ」
「そんなに睨まないでよ……本当に子供たちも撃滅しちゃうの?」
隊長であるケイから三人が聞いていたのは少年兵を含めた教会にいた人物、全員を始末することだった。
一応、情報を得るため数名は生かしてとらえるつもりだが、有益な情報を握っていると思われるのは大人であろうから、子供は生かすことはないと思われる。
「……仕方ないさ、それが命令だ。 それにあの子供たちは生まれた時から殺しの手管を教わっていたというじゃないか、どのみちいまからまともな道には戻れないよ」
答えたのはディーではなくアールだった。
「そういうこった、自分らで気付けりゃいいが、それを待つ時間もないし待ってやるほど優しくもない。 気の毒だとは思うけどね、それを救ってやる手段だってあたしらには無い。 行くぞ」
その合図で、三人は誰に気づかれることもなく、侵入せしめるのだった。
「周囲敵影なし」
アールが二人を手招きし、だんだんと中へと入っていく。
そのまま進んでいくと、ベッドや机のある部屋が両脇に並ぶ廊下に出た。
どうやら居住スペースのようだ。
その奥の突き当り、T字になっている廊下のその左右で人の話し声が聞こえる。
「(アールは右のほうを頼む、あたしが左だ。 アイは後ろだ)」
二人は声を出さない代わりに首肯で応える。
そして三人は忍び足で一気に廊下を駆け抜け、前衛二人が左右に散る。
右に曲がったアールは、懐からナイフ付きの拳銃を取り出す。
「あ! なんだおま」
アールを視界にとらえた子供三人が何かを言い切るよりも先に、一人がナイフで首を切られ、残った二人は拳銃で額を撃ち抜かれた。
左に曲がったディーは子供たちが持っているものよりもさらに大きなライフルで、子供二人をハチの巣にする。
そして、子供らが抱えていた銃を拾い、後ろからやってきたアイに見せる。
「これどうよアイ、あたしらのと比べてみてみて」
「う~ん、詳しくは分解してみてですけど……私たちが使ってる、弾丸を魔法で打ち出すものとは違うようですね。 レティシアさんの言う通り、弾丸なしで攻撃できるようですね」
「あっそ、じゃあお前の見立て通りか?」
「はい、魔力自体を圧縮して物理的な威力まで持たせているとなるとコストは低いですが使用者の負担が圧倒的に多いです。 存外弾切れは早いかと」
「だからって襲撃する側が持久戦に持ち込むわけにもいかねぇよな」
と、アイとディーが話し込んでいると、アールも合流してきた。
「向こうから声が聞こえるよ。 さすがに感づいたみたいだね」
「よっしゃアイ、アール、こっからはこそこそすんのは止めだ、派手にいくぜ」
ディーがそう言うと三人は声のするほうへ走り出した。
人は誰しも何かトチる生き物ですからね。
しょうがないですね。




