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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
純粋なる黒と汚れた白
76/125

その影の名は 1

(クロエ) …………


(ジュリ) ん? 何で戻ってきたんだ?


(クロエ) ここどこ?


(ジュリ) …………知らん。

 「我が名はエルザ=ド・ベルナール! 我が主、ディーナ=ミレッジの名のもとにこの戦いに介入させていただく!!」


 「「…………」」


 「あの……タニア、ヘックス? なんか言ってくれないと私一人滑ったみたいになっちゃうよ?」


 「滑ってるじゃないか」


 「一人だけ気合入ってて寒~い」


 「身内ばかりなのになぜだか味方がいない気がする!」


 せわしなくもやってきたのは、ミレッジ家の使用人である、エルザ、タニア、ヘックスの三人である。

 それぞれがもともと国仕えの騎士、軍人、冒険者だったうえに現在貴族令嬢の使用人兼護衛をやっているだけあってその実力は高い。

 どことなく息があっていない気がしないでもないが……

 そんな何とも緊張感のない三人に対しても、容赦なく凶弾が放たれる。

 

 のだが、その凶弾は三人に届く前にヘックスによって防御され、撃った子供たちはタニアとエルザによって切り伏せられた。




***




 さて、広場に人が集まりはじめ、形成は傾き始めた。

 そんな様子を遠く離れた建物から見ていた者がひとり。

 その人物は戦場の流れを見て自分たちの旗色が悪くなった判断し、魔法を展開し始めた。

 発動したのは≪明星花火・緑式≫、攻撃能力を一切持たず、ただ上空で爆ぜて緑色の光を放つ。

 言ってしまえば信号弾のようなその魔法はあらかじめ撤退の時の合図として決めていたものであった。

 上空でしっかりと発動されたことを確認すると、自分もそそくさと身支度を始める。


 「よろしいのですか? 真上に放ってしまっては自分の位置を知らせるということになりますが?」


 話しかけてきたのは、兎の耳を持った獣人の少女である。

 その声を聴いて、一度その手を止め彼女を一瞥すると、その手を再び進めながら、


 「それはそうだがここから広場まで相当な距離が離れているんだ。 気付いて追ったところでもう私はここにはおるまいよ」


 そう言っている間に身支度は完了し、少し大きめのカバンを抱えて外へ出ようとした。

 その際、獣人の女とすれ違う、その瞬間彼女の口が動いた。


 「全く、子供に殺し合いをさせておいて自分は高みの見物ですか? ずいぶんな聖職者ではないですか、シスター(・・・・)さん」


 そんな独り言のような呟きとともに、すれ違った人物、すなわちシスターの背にナイフが突き立てられる。

 この段になって初めて、シスターは自分が殺されかかっていることを認識する。


 (なぜ? 何でこの距離になるまで殺意に気づけなかった? いやそれ以前にこの娘を目に捉えたのにも関わらず何で警戒できなかった!?)


 シスターは間違いなくこの獣人の少女を視界に捉えていた。

 顔見知りじゃないし、そもそもこの部屋に堂々と入って来て会話すらしてくるという段階で、誰がどう見ても不自然なことこの上なく、警戒心を抱かせるには十分すぎる。

 はずなのに、実際には少女を見てもなんとも思わなかったし、警戒心だって一切感じていなかった。


 そんなシスターの心からの疑問を読み取ってか獣人の少女は言葉をつづける。

 

 「簡単なことですよ。 あなたの精神に働きかけて警戒心が持てないようにしたのです。 警戒心というのは生き物が生きていくために備わっている本能です。 ですがそれが無くなってしまえば……命の危機が差し迫っていることにも気づけないというわけです」

  

 切り伏せられたシスター(もどき)は、背に負った傷の痛みに苦悶しながらも、逃げようとその足を出口へと伸ばすが、獣人の少女がそれを許さない。


 後ろの足首も切り捨てられ、シスターは歩くことはおろか、立つこともままならずその場に倒れこんだ。

 敵に背を向けて倒れるなど死も同義であることは本人自身がよくわかっていた。


 「殺せ……」


 どうせ死ぬならひと思いに……そう思ったのだが、そんな彼女に与えられたのは死では無く、尻への強烈な蹴りだった。


 「がっ……!」


 「何を自分で好き勝手に処遇を決めようとしているのです? 生殺与奪の権利は私の手の中、あなたが口出すことではありませんよ」


 それから少女は跪き、シスターの頭を頭巾ごと握って顔を持ち上げた。


 「本音を申し上げれば今すぐこの場で殺したいところではあるのです。 しかしながら、お嬢様に弓を引く相手なぞ自ら「殺せ」と懇願するほどに痛めつけながら殺し、その死体をこの世で最も残酷な晒し方をしたとしてもなお許されません。 ですからせめて、私の殺意が和らぐようなお話でもなさってくださいませ」 


 そういうと獣人の少女―――ベルは床にシスターの頭を思いっきりたたきつけその意識を奪う。


「ああ、心配なさらなくても、魔女裁判をかけるまでもなく恐怖を感じることなく、神の御言葉を語るように滑らかにお話ができるようにご協力致しますので」


 その言葉にシスターが反応することはなく、そのままベルによって引きずられながらどこかへと連れていかれるのだった。




***




 再び戻って広場、遠くのほうで上がった信号弾を見たからか、子供たちは懐から煙球を取り出して一斉に放った。


 「サクラ! 風でこの煙取っ払えるか?」


 「はい!」


 レティシアの指示で風を巻き起こし煙を消し飛ばすが、そのころには広場にまだ大勢いた子供たちは蜘蛛の子を散らすように消えていた。


 「全員いなくなったわね。 追う?」


 そんなトリナの問いかけにレティシアは首を横に振る。


 「やめておこう。 相手のほうが射程は長いんだ、追いかけたらこっちが不利になるかもしれない。 ところでエルザ、ベルはどうした?」


 「道中、気になる視線があったとかで別れました。 些か残念そうではありましたが」


 「怪しい奴を見つけて何が残念なんだ?」


 と、レティシアが首を横に捻る様を見てエルザは苦笑いを浮かべる。

 実際のところは「些か」なんてものではなかったのだ。

 気付いたまでは良かったのだが、いざ行くとなったらレティシアに会うまでの時間が延びるわけでやはり嫌そうな顔をした。

 結局ヘックスに尻を叩かれ行ったわけだが、最後の最後まで快く、ではなかったことは間違いない。


 「とりあえず態勢を立て直すとしよう。 全滅していない以上どうせあいつらはまたやってくる」


 というレティシアの提案に対してエルザが待ったをかける。


 「その件について、なのですが、現在我が屋敷にディダ様がいらっしゃっています」


 その名が出たとたんにレティシアの顔が思いっきり渋いものになる。


 「…………何で?」


 「さ、さぁ…… ですがこの一件に関することなのは間違いないかと……」


 「ふーん…… まあいい、それじゃあ後でお邪魔させてもらうとするよ」 




***




 で、あの後にベルとも合流し、皆でミレッジ家に向かうことになった。

 しかし、その中にクロエとジュリの姿は無かった。

 二人で話したいことでもあるんだろう、そうレティシアが言ったので、二人を探すことはしなかった。


 と、そんなこんなで二人を除いたの面子で屋敷に向かい、応接間に行ってみれば、案の定、というべきかそいつは待っていた。

 ついでにディーナも。


 「どうも~、やっぱり自分ら巻き込まれたなぁ? ようそうやってトラブルばっかり引き寄せるわ」


 「トラブルを招きやすいことについては否定しないでおく、だがディダ、お前は端から私たちを巻き込ませる気だったよな?」


 「まぁ……否定はせんわ。 正直言うと、衛兵じゃ相手にならんと思っとったからな、ぜひとも参加してほしかったところではある」


 「そう言うってことは敵の正体もおおむね分かってるんだな?」


 「まぁな、この際やから全部言うてまうけどな。 少し前にウチの会社にある商品を買わへんか?って話が来たんやわ。 まぁ早い話が仲介やれってことやな」


 「その商品とは」


 ディーナが聞くと待ってましたとばかりのしたり顔になる。


 「人や」


 「それって人身売買じゃ!?」


 「この世界じゃ珍しくないぞ、奴隷だっているんだからな」


 レティシアに言われて咲良もそれはそうかと理解する。

 そうは言っても元ははそんなことと無縁の世界の住人であるし、咲良自身が奴隷の身の上であったこともあって、納得はできそうもなかったが。

  

 「本題に戻すぞ、ここにきてただの奴隷の売買の話ってわけでもないんだろう?」


 「せやな、ところでレティシアよ、さっき自分と会うた時にした話覚えとるか?」


 「平和が続くと困るのはどこか? だったか?」


 「それやそれ。 自分はまだわかってへんみたいやな、こっちのお嬢様はどうや?」


 そう話を振られたディーナは顎に手を当て少し考えると、すぐに答えを出した。


 「平和が続くと困るということは、戦争で利を得ていたということ。 武器商人とかかしら?」


 「おお! 流石、貴族のお嬢様はその辺わかってるなぁ? レティシアよ」


 「私も一応貴族令嬢だ……」


 「碌すっぽ貴族の勉強して来うへんかったやつがよう言うわ。 でな? 今回話を持ってきたのはその武器商人のひとつや。 名前は出せへんからなんか違う名前にしとこか。 ええっと……」


 「ブラック○ーストがいいと思います!」


 咲良がそう主張すると、一同は首を傾げ、レティシアのみ呆れた顔をする。


 「なんだお前? 口から火が吹けるようになりたいのか?」


 「膝からミサイルがいいです」


 「何で!?」


 「ちょいちょい! 勝手に話もりあげんといてや!」


 「「あ、ごめん」」


 「それで? どうして武器商人なんかが人身売買なんてするのです?」


 ディーナが話を本筋へと戻す。


 「そもそも武器商人は国が戦争しなきゃ儲けることはできん。 その点で言うとこの辺は平和なことこの上ない。 段々経営が苦しくなったんやろな。 東じゃまだ紛争は続いとるがこう言うのは信用第一、新参者に入る余地は無いってこっちゃ」


 「で? その会社の起死回生策が畑違いの人身売買か?」


 「これがな? あながち畑違いでもないねん」


 「?」


 全員の頭の上に?マークが浮かぶ。

 

 「奴らが売り出したんはな……いわゆる少年兵や」

(トリナ) 火を噴ける人間なんているの!?


(ライラ) 興味深い。


(咲良) 正確に言うとサイボーグだから人とは違うような違わないような……


(ライラ) あとはどんな人が?


(咲良) 空飛んだり……


(トリナ) クロエならできるじゃない。


(咲良) 何をされても傷つかない強靭な肉体とパワーを持ってたり……


(ハリィ) 呼んだぞな?


(咲良) とんでもなく目と耳が良くて遠くのことがわかったり……


(ベル) 耳なら私もかなり自信がありますが?


(サリア) 眼は私かな?


(咲良) もう! 何が地球舐めんなファンタジーさ! 全部どうにかなりそうじゃん!


(レティシア) (加速装置とか全身武器とか超能力の話すればいいのに……)

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