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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
純粋なる黒と汚れた白
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反撃

(町人A) 空を見ろ! あれは何だ!


(町人B) 鳥か!?


(町人C) ドラゴンか!?


(町人)人だぁ!!




(クロエ)なんか都市伝説になっちゃいそうな予感……

 一方、未だに戦いが続く街の広場。


 「速い!? なんだあの靴!?」


 広場で銃を乱射する恐ろしき子供たち、その一人のルーカスから驚愕の声が漏れる。

 サリアが今回持ち出したいわゆるローラースケートのような靴は彼らにとって相性最悪の武器であった。

 言うまでもなく、銃は一直線の弾道を描く。

 それに対し、サリアはその靴から生み出されるスピードと、使用者であるサリア自身の身体能力のおかげで予測不能の動きをしており、捕まえることができないでいた。

 

 「ナターシャ! ロブ! 弾幕を濃くしてればこいつは懐まで入ってこれない! 近づいてこられなきゃ剣なんて怖くもなんともない!」


 ロブというのは、ルーカスたちの友人(・・)の一人だ。

 年も近く、ナターシャともどもよく遊んだり、授業(・・)を一緒に受けたりした。

 そして、

 

 「そう思うならもう少し周りにも気を配るべきじゃないのか?」


 たった今、いつの間にか距離を詰めてきたレティシアによって、炭にされた。


 「ロブ!? このぉ!!」


 ナターシャが大切な友人を殺されたその怒りのままにレティシアに銃を向けるが、


 「遅い」


 そんな感情の起伏を一切感じさせない一言とともに、引き金を引く間もないままに彼女もまた消し炭となった。

 二人の友人の死、これはルーカスにとっても望外の出来事であった。

 だから、その光景に呆然としたとしても仕方ないことだろう。


 「仲間の死で揺らいでしまうんだね。 やはり君たちまだ子供だ」


 そう憐れむサリアも決して彼らに同情するということは無く、逡巡なくルーカスの首を斬り飛ばした。


 「中々に鍛えられているようだが、やはり子供だね。 場数を踏んでいない分油断もするし、とっさのことに弱い。 レティ、畳みかけるなら今なんじゃないかな?」


 「同感だよサリア。 ずいぶんと好き勝手やってくれたみたいだからな、その分はしっかり返すとしよう」


 レティシアがそう言うと、二人は顔を一度突き合わせ、そして次なる戦いへと身を投じていった。




***




 一方、レティシアが飛び出した後の柱に隠れていた面々はというと。

 

 「だんだんあいつらの足並みが乱れてるわ。 畳みかけるなら今ね!!」


 ずっと隠れたまま向こうの攻撃をじっと耐え忍んでいたためか、フラストレーションが溜まっていたらしいトリナはもう我慢できないとばかりに飛び出して行ってしまった。


 その後姿を残った三人が見つめる。


 「やだやだ、我慢できないワンコってのは」


 年下のククルの言葉は手厳しい。


 「まあまあ、そんないけず言わないで」


 それを咲良がなだめる。


 「そんなことよりククル、お嬢が出したのいったい何ぞな?」


 ハリィが言っているのは、レティシアが出ていく前に、ククルのに言われて異次元庫から出した二つの木箱のことである。

 ハリィは見たことすらないようだが、咲良のほうはこれに見覚えがあった。


 「ねぇ。 これってパーティーに入ってすぐの頃に運ぶの手伝ったやつだよね」


 「そ、覚えてたんだ」


 あれは確か、咲良がレティシアたちと出会って一か月くらいたったころ、街に出たときにククルと偶々出会って、この木箱を運んでくれと言われていた。

その時は箱の中身が何なのかは言われなかったのだが、今回その箱を開帳することとなったわけだ。


 「それでは今週のびっくりドッキリメ」


 「それ以上はいけない……ってそれ何?」


 なにか言おうとしたククルを咲良が止める、と同時にその中身を覗き込む。

 入っていたのは大きな金属製の筒。

 

 「ククル、これ何ぞな?」


 「大砲さ。 帝国軍で使われている物をもとにイザベラに作ってもらったんだ。 軍のは大きすぎて台車に載せないとならないけど、これは抱えられるように小型化してみたんだよね。 だからこうやって肩に担いで……おっととと」


 「おっと!」


 担げるようにはしたようだが、それでも子供のククルが持つには少々重かったようで、バランスを欠いて転びそうになり、ハリィに受け止められる。


 「ククルじゃ持つのは難しそうやの。 うちに貸してみぃ?」


 そう言うと、ククルから大砲を受け取って肩に担ぐ。

 

 「「うわぁ……なんか似合う……」」


 長身のハリィだからこそ、そういう印象を抱かせるのだろうか。


 「ねぇ、ククル、これが大砲なんだとしたら砲弾は? それに火薬も詰めなきゃいけないよね?」


 「それはこっち」


 咲良の問いかけにククルはもう一つの木箱を開ける。


 「こちらも特製の砲弾。 砲弾と火薬が一体になってるからこれを筒に入れるだけで撃てるようになるよ」


 「あの時私が運んでたのもこれ?」


 「そうだよ………… あ」


 ククルも咲良の言わんとしていることを察する。


 「こんな繊細な扱いしないといけないものを……」


 珍しく咲良の声に怒りが混じる。

 それもその筈だろう。

 火薬というのはかなり厳重に扱わなければならないのだ。

 まかり間違って火に触れたら?

 この砲弾は火薬を固めているような代物なのだから、当然大爆発である。

 火花、煙草、熱、おまけにこの世界では魔法で何もないところから火をおこすこともできるのだから、いくらでも火種はある。

 そんなものを咲良に運ばせたのだ、中身を言わずに。


 「だって中身教えたら絶対サクラ嫌だって言うと思ったし」


 そう言ってククルは唇を尖らせる。


 「そりゃそうでしょうよ」

 

 「まあ、この際ええやないか。 それで? この弾を筒に入れたらええんか?


 「うん。 よいしょっと、この弾を入れて、それで引き金を引けば発射されるよ。 結構反動大きいと思うから気を付けてね」


 「「思うから?」」


 まだ実戦で使ったことないんだよ、今回が初めて。

 革命を起こすかただの粗大ごみになるか……戦果を期待してるよ。


 「おかしい……味方からも圧力が……」


 後ろから謎の圧力を受けながら、ハリィはその引き金を引いた。



  

***




 ドカーン!


 とすさまじい音が周囲に響き渡る。 


 「おうおう、随分派手にやってんなぁ」


 そうシャルは他人事のように呟きながら、瓦礫の山から離れる。

 自分に向かって倒壊してきた矢倉を破壊したはいいものの、それを構成していた材木などは消えるわけではないので、結果、シャルは瓦礫の山に埋もれそうになったのである。

 

 「っつうかさっきまでいた奴もいなくなってるしさ……」


 さっきまで相手をしていたはずの少女(ハウル)の姿がどこにも見当たらない。

 

 「流石に巻き込まれたってことは無いはずだけど……増援に行ったのか?」


 そう思案を巡らせるシャルを物陰から狙う影が一つ。


 「キースの仇!」


 それは先ほどシャルが斬ったキースやどこかへ消えたハウルよりも少し年齢の低そうな……それこそ広場のルーカスくらいの年齢の少年だった。

 キースがシャルの手にかかるさまを見ていたのだろう。

 こうしてシャルを確実に屠れる隙を伺っていたのだった。

 しかし、この少年がキースの仇を取ることは残念ながら叶わない。

 

 「やああああああ!!」


 脇から現れたトリナに切り伏せられたからである。

 

 「あれ? トリナってお嬢たちの近くにいたんじゃなかったっけ?」


 「あの辺二人で足りそうなのよ。 ククルもなんかいじってたし、咲良もいるしね。 で、私はがれきに埋まってるかもしれない貴女を助けに来てみたってわけ」


 「ほう、そりゃ優しいこって。 でも大丈夫そうだな、大したケガもない。 狙撃手も全部始末付けたら私も広場に戻るとするよ」


 「今無理に急いで行く必要もないと思うけど」


 「ありゃ、もう決着ついてたか?」


 「そうじゃないけど、レティが言ってたのよ。 向こうは損害が多くなったら撤退を始めるはずだって」


 「そなの?」


 「貴女さっき狙撃手全部倒したらって言ったけど、そもそもそんな奴らもういないわよ」


 「そういやそうみたいだな」


 シャルがあたりを見渡すが、やはりそんな姿は見えない。

 まだ半分近く残っていたはずだが。


 「退いたのよ。 ただの殺し屋と違って引き際が分かってるのね。 広場もじき撤退戦に移り始めるはずだからそうなったら深追いしなくてもいいって言ってたわ」


 「頭が回る上に統率も取れてるってか、まるで軍隊だな」


 「でもまだ子供よ、不意の状況に対する反応は弱いから付け入る隙はある……それに」


 「それに?」


 「増援が来たみたいね。 たくさん足音が聞こえるわ」


 そう言ってトリナが耳をそば立たせる。


 「それってどっちの?」


 「両方よ。 味方のは……ミレッジ家の奴らね、エルザたちかしら? どの道味方の数が増えれば押し切れる」


 「足音だけでよくわかるな…… で、両方ってのは?」


 「別方向からも聞こえるのよ。 足音が軽いから多分子供」


 「十中八九アイツらだな、撤退支援ってやつか。 なるほどまた一戦交えるよりも準備して戦ったほうがお互いのためってことか」


 「そういうこと、どの道またやりあうことになるんでしょうから」

 

 「違いないね。 じゃあ、行きますか。 もう終わりが近いとはいえ流石に行かないわけにはいかないし」


 「そうね」


 二人が広場に向かって歩き出す、すると若い女性の勇ましい声が聞こえてきた。

(シャル) で? 何で足音だけでミレッジ家の人間ってわかったわけ?


(トリナ) レティがミレッジ家にも手紙送ったのよ。 ベルが行ってたでしょ? で、もしかしたらあそこも狙われるかもしれないから残るようにって。


(シャル) なるほどね…… お嬢が襲われてるのにあいつが来なかったのはそれでか。 血の涙とかながしてそ。


***


(理名) うわぁぁぁぁ! ベルさんが穴という穴から血を!


(クララ) メディィィィィィック!! 

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