珍しくなかった SIDE 咲良&……
前話で没になったシーン
(トリナ) (サクラ! 危ない!)
グイッ
(トリナ) (? やわらかい…… これはいったい……)
ムニムニ
(咲良) と、トリナ……
(トリナ) ! これが世に聞くラッキースケベ!?
(咲良) いい加減胸から手を離してよぉ!
没の理由:こんなことしてたら撃ち殺されると思って。
「なんでこの世界に、銃なんてあるわけ!?」
「いいから隠れるわよ!!」
トリナに引きずられて建物の柱の陰に隠れる。
今でも銃声は飛び交い続け、人々の悲鳴と混じってまさに地獄絵図を作り出していた。
そんな地獄を作り出している子供たちの目には一切のためらいも罪悪感も見えず、淡々と作業でもするように銃を乱射し続けている。
確かに驚いてる場合じゃなかったけれど、この世界の遠距離兵器なんてせいぜい弓矢くらいじゃない?
何で銃が出てくるの?
それも子供の懐から……
「全く、何を驚いてるのよ、銃くらい国の兵士なら持ってるでしょうに」
「そう、持ってる……ええ!?」
持ってるの!?
銃あるの!?
こんなファンタジーな世界なのに科学の生み出した兵器が存在するの?
いや、していいの!?
「何か勘違いしているようだがこの世界にも銃自体はあるよ。 ただ、そんなに広まっていないだけで」
「「うわぁ!」」
いつの間にか背後を取っていたレティシアさんである。
っていうかこの緊迫した場面でそういうことするのマジでやめてほしい。
普通の三倍は驚くから。
「銃自体はこの世界にも普通に存在しているが、確かに珍しいだろうな。 わざわざ好き好んで使う奴なんていないだろうし」
「え? でも銃があるなら正直弓とか剣よりも……」
「それよりも魔法で火の玉を飛ばしたほうが手っ取り早いし、ダメージを与えるには確実だ」
「あ」
「それに火薬を作ろうにも精度がいいのを作るのが難しいらしいし、そもそも細長い筒状の銃身を作るだけの鋳造技術も発達していない。 結果、私たちのいた世界ほど広まっていないし、まだ大砲のほうが需要があるな」
「でもそれならあの子供たちがそんな物を扱えているっていうのは……」
「優秀な指導者と随分と酔狂なパトロンがいるってことかな。 でもそれを考えるのはこの状況を脱してからだ。 ! ハリィ! ククル! こっちだ!」
見れば、向こう側、約二、三十メートルくらい離れたところに、花壇の上に盾を構え、その後ろで身を隠すハリィとククルが見えた。
銃撃を防げてこそいるようだけれど、こちらまで来るとなると厳しいか。
二人はこちらを認識すると、まずククルがこちらに飛び込んできて、次いで、盾を正面に構えながらこちらに近づいてきた。
「一体どういう育て方したらあんなことになるぞな!?」
「って言うかあの銃から弾丸出て無くない!?」
「弾丸出てないって……でも壁には弾痕が……」
「あるが弾丸自体は無いな」
「そういえば火薬のにおいもしないわ」
「それって……?」
「多分無属性魔法の一種なんじゃないかな。 あの銃も形はそれっぽいけど実際は魔法具なんだろうね」
無属性……か。
前にライラに説明されたときは四大属性だけだったからよくわかってないんだよね……
「無属性魔法はそのほかの属性の魔法のどれにも分類できないものをまとめてそう呼んでるわけなんだが、あれは多分魔力そのものを撃ち出してるんだな」
「「「「そんなことできるの?」」」」
「基本的に魔法は体内、ないし魔石か何かの魔力をソースとしてそれを変換して発動させているんだがそれとは別に魔力そのものを圧縮することで物理的な攻撃力をもたらせると聞いたことがある」
「それなら魔力を別の何かに変換するっていう過程が一個減ってるから魔法具としても複雑化させないで済む。 それこそ使用者は引き金を引くだけで撃てるようになるだろうね」
「理屈はわかったけどどうするの? このままじゃ身体を晒した瞬間に蜂の巣になるわ」
「ふむ……」
レティシアさんが身体を少しだけ出して、様子をうかがう。
「広場には十人ほどの少年少女が憲兵や冒険者と交戦中……それとは別に屋根の上に狙撃手もいるな……連携は抜群、押してるのは子供らのほうか……」
そうつぶやくと、レティシアさんは懐から紙を数枚取り出して何かを書き始めた。
そして書き終わるとそれをトリナ以外のみんなに配って、
「これで何か動物……鳥がいいな、鳥を折ってくれ。 ああ、咲良、鶴でもいいぞ」
「は? 何でこんなタイミングで……」
「ほい」
「え!?」
ククルが折った小鳥はそのまま飛び立ってどこかへと行ってしまった。
「ええ…… 魔法ってなんでもありだな……」
「現状遠距離戦のできる者がいない。 だから、これで増援を呼ぶことにしようじゃないか」
***
翻って現在銃を乱射し死体をどんどん生み出している子供たち。
子供たちはみんな十歳前後で身なりは良し、よくいる中流家庭の子供たちといった具合か。
街によくいる子供らが急に人殺しに化けるのだからたまったものではない。
しかし、当の本人たちからしてみれば、特に不自然なことでもない、というかそれ以外のことを知らない。
そんな彼らの中の一人、広場の中心にいる一人に目を向けてみよう。
「うーん……憲兵隊やら冒険者やらがいるから今度の仕事は大変だってシスターが言ってたんだけどなぁ」
少年の口からは命をやり取りをしているとは思えない言動ばかり出てくる。
実際問題、危ない目に一切あっていないのでそういうことになるのだが。
そんな余裕をかました態度をしていると、近くにいた少女が彼に話しかける。
彼女もまた銃を抱えていた。
「あんまりよそ見してちゃだめよルーカス、マザーも言ってたでしょ? お仕事には集中して取り組みなさいって。 いっつもそうやって……」
「うるさいぞナターシャ! お前だっていつも……」
それはよく学校なんかで見られる男女の言い合いのようであった。
ナターシャと呼ばれた少女がルーカスと呼んだ少年を諫めてこそいるが、一方では一切の躊躇もなく人を殺しているわけなので、やはりまともではないのだろう。
そんな二人の前に走っている途中で転倒し、そのまま逃げれないでいる少年が目に入った。
無慈悲にも二人は揃ってその少年に照準をそろえる。
たとえ彼が自分たちと同世代だとしてもそんなことは知ったことではないのだろう。
そして少年に二人の凶弾が届かんとしていたその時、
「≪アイスウォール!≫」
氷の壁が少年の前に現れ、その身を守り砕け散った。
死を覚悟し、そして未だ死なないで呆けたままの少年を黒い影が抱きかかえ、飛び去って行った。
その影を狙撃手たちが狙うも動きが速く仕留められなかった。
いったい何事かと誰もが引き金から指を話すが、その間にも二人に対して剣が飛んできた。
ルーカスがそれに反応し撃ち落とす。
「意外と頭は回るじゃないか。 ただ殺すためだけに育てられたんじゃないらしい」
剣を投げたのは金髪碧眼の女だった。
髪が短く、男のように見えなくもない。
その後ろから随分と背の低い女も現れる。
「油断すんなよサリア、相手は大層な飛び道具持ってんだ。 素手じゃ旗色が悪いぞ」
「分かってるよシャル、あまり剣を使うのは得意じゃないんだけどね」
そういうと金髪の女はその辺に転がっていた、憲兵隊の死体から剣を二振り拝借し両手に持って構える。
「ライラはけが人の面倒を見終わったらサリアの援護、クロエはアタシと上のガキどもの相手だ。 ジュリはお嬢たちのフォローに回れ」
一番小さいくせに偉そうに指図するのはなぜなんだろうと思いつつもこいつらは油断ならない相手だとルーカスは本能で悟った。
「そうか……これがシスターの言ってた手ごわい相手なんだね…… こりゃニックたちにも来てもらわないとな……」
そう言ってルーカスは舌なめずりをした。
今のこの状況が楽しくて楽しくて仕方ないとでも言わんばかりに。
(シャル) なんかサラッと失礼なこと言われなかった?
(サリア) 気のせい気のせい。




