着火
これまでのあらすじ
風邪だろうと思っていたけれど、熱が高いまま全然下がらへんやんけ。
→ 病院行ったらインフルエンザだったわwww
→ 五日間の出禁を言い渡される。
→ でも二日後には回復!!
(咲良) このお話じゃなくて作者のこれまでじゃん。
皆さまインフルエンザにも風邪にも十分気を付けてください。
六月の中旬、パリエはどこもかしこも祭りで大騒ぎとなる。
そもそもの祭りの起源は、いつの時代か、この辺りが干ばつの被害にあって多くの人が苦しんでいたとき、水を司る龍が現れ大量の水をもたらし、人々を潤した、という民間伝承からきている。
そのためこの辺りは海から離れているにも関わらず干ばつの災害にあうことがないのだと。
そして、この地に住まう我々に水の恵みをもたらしてくれた水龍に感謝し、末代までそのことを伝えていくためにこの「水龍祭り」は毎年執り行われているのだという。
いろいろ違うところはあるのだが話の大筋はどこでも大体同じである。
ちなみに、この辺りがなんで潤っているかというと、山からの雪解け水のおかげで川に絶え間なく水が流れこんでいるからで、おそらく干ばつなんてものとは無縁のはずなのだが……きっと長い歴史の中でそういう時期もあったのかもしれない。
しかしながら得てしてお祭りというのは伝承にかこつけて人々がはしゃぎたいだけだったりする。
実際、街を歩けばどこからともなく陽気な音楽が聞こえ、ピーク時には文字通り道は人で隙間なく埋め尽くされ、大賑わいとなる。
まだ始まったばかりの今でさえも、通りはいつも以上に露店が立ち並び、食い物やらお土産品やらを祭りの熱に浮かされた観光客相手に売りさばいている。
「サクラ、あっちにチキンの串焼きが売ってるわよ!」
「分かってるからトリナ引っ張らないで~」
失礼、地元の人間でも祭りの熱に浮かされるようだ。
「浮かれちゃって楽しそうだな~」
と、テンションが爆上がりな獣人の少女とそれに振り回されまくっている異世界の少女、それを達観したように見つめる12歳。
「お前もはしゃいでいいんだがな?」
「冗談」
すさまじくはしゃいでいる人を見ると相対的に自分が冷静になってしまうあれである。
「あんなふうにはしゃいで人混みの中に突っ込んでいったら迷子になりそう」
「その場合はウチを集合場所にしたらいいぞな」
レティシアとククルがハリィを見上げる。
「そうするか」
「ハリィより大きい人なかなかいないもんね。 じゃ、私もちょっと行ってくるから」
ククルも二人から離れ、人混みへと駆けて行った。
「自分もはしゃぎたかったんじゃないか…… というか、あまり勝手に行動してほしくないんだよな……」
「さっきの話か? どこまで本当かわからんが……今いないメンツも呼んでおいたほうがよかったぞな?」
「うーん…… サリアはイザベラに呼び出されて新しい武器のテスト、ライラは私用でギルドに行ってシャルはそれについて行き、ベルにはそもそも私がミレッジ家に用事を頼んでしまった。 正直戻ってこいとは言えないな」
「残るはジュリとクロエ…… あの二人って休日に何しとるぞな?」
「さてな、どこにいるかもわからん。 それよりあの三人だ。 もし何かあった場合、あの三人は揃って身を守る手段に乏しい、私も気を付けるが目を離さないようにしてくれ」
「了解ぞな!」
「じゃあ、私たちも行くか。 言ったそばからあいつらを見失っちゃたまらん。 くれぐれも人混みには気を付けて……っと!!」
言ったそばから、レティシアが道を歩く女の子とぶつかった。
「すまない。 大丈夫か?」
「はい大丈夫です」
サッと少女に手を差し伸べると、彼女はその手を取って立ち上がり、軽くポンポンと叩いて服についた土埃を払った。
次いで、道にぶちまけてしまった、大量の布地を拾い上げて同じようにほこりを払う。
「うん、その布地の山も大したこと無さそうだな。 それ全部売り物だろう?」
「はい! お祭りの時に着る伝統衣装です。 今はほとんど着る人いないですけど……」
「これは……」
レティシアがそのうちの一枚を手に取って広げてみると、彼女の、正確に言うと「彼」の見たことのある衣服のシルエットが現れた。
「なになに? どうしたの?」
レティシアが知らない子供と何かをしているのを見て、トリナたちも戻ってきた。
「咲良、これって……」
先ほどから広げている衣服を咲良にも見せるように広げて見せる。
それは咲良ももちろん見たことのあるものだった。
腰までの丈が短い羽織で、色は明るい水色、背中に書かれている文字は「祭」ではなかったが、これは間違いなく、
「これ半被じゃない?」
「お前もそう思うよなぁ?」
「でもなんで?」
「伝統的な祭りの衣装なんだそうだ。 昔からある物らしいが……これは偶然なんだろうか?」
日本においては武士や職人が斬ることの多かった半被だが、それが世界でも有名かと言われればそんなことは無いものである。
それが中世ヨーロッパに時代背景の似ているこの国に古くから存在している……何とも不思議なことである。
とはいえ、それを疑問に思うのは咲良とレティシアだけであるからして、
「あの~それお買いになるんですか?」
例えば少女からすれば、客かどうか判断できかねる人間が商品を振り回して何やら思案しているのだ、言ってしまえば迷惑だろう。
「おっと失礼、せっかくだから一着いただこうかな。 いくらかな?」
「小銅貨五枚です」
小銅貨一枚で大体百円前後である。
つまりこの半被は大体五百円ということになる。
レティシアは異次元庫から小銅貨を払って半被を受け取り、羽織ってみる。
「…………」
「「「…………」」」
みんな黙ってしまった。
それもその筈、半被のサイズに対してレティシアの身体が小さく、袖がブカブカになってしまっている。
それがよくない状況であると、皆はわかっているが、今日出会ったばかりの少女にそれが分かるわけがなく、
「ごめんなさい、大人用だと小さかったみたい。 えっと、子供用は……」
「これでいい」
「え? でも……」
「これでいい」
「そ、そうですか……?」
***
さて、彼女たちはいま、街のカフェテリアのようなところに来ている。
ここに来るまでにいろいろと見て回ったので、休憩と昼食を兼ねているのだ。
半ば意地になってサイズの大きいものを買ってしまったレティシアだが、それを着ていては「見栄を張って大きめのサイズを買いました」と言っているようなものであるので、袖を通さず、上に羽織るだけにした。
「それ気に入ってるぞな? サイズが合わなかったのに?」
「……そうだな。 いろいろ思うところはあるが悪くは無い。 こんなことでも一応善行を積んだと思えば、腹も立たないさ」
「「「「善行?」」」」
「普通なら学校に通っていると思われる少女が、お祭りだというのに、いやお祭りだからなのか大量の衣服をもってそれを売り歩いている。 その理由は何なのかわからないが……ま、いろいろ苦労してるんだろう。 この服一枚の稼ぎでどうにかなるとも思えないが……まったく無いよりはな」
「そっか……ふつうお祭りってなったらここにいる子供たちみたいに楽しく遊びに行くもんだよね」
「そういうお前もさして年は変わらんだろう? ここにいる子供たちと……」
そう言うと、レティシアはあたりを見回して、少し険しい顔をした。
「どうかしたぞな?」
「子供しかいない……」
「「「え?」」」
「確かに……」
四人もあたりを見回してみるが、その目に映るのは街の風景とそこに住まう人々。
確かに子供が多いが、別に大人が一切いないわけではないし、不自然ではない……はずだが、唯一トリナは何かを感じ取り、毛を逆立て、耳を絶え間なく動かしている。
「何でかわかんないけど……殺気のようなものを感じるわ…… どこから?」
「子供が一人でいること自体は珍しくもないが……それが全員で、親らしき姿がないというのは不自然だ…… だが一体何が起こって……?」
ゴーンゴーン!!
唐突に街に響く大きな鐘の音、それは街に正午を知らせる合図であった。
そしてそれは全く別の合図でもあった。
親の姿の見えない子供たち、彼らは皆一様に鐘の音がトリガーであったかのように懐から何かを取り出した。
彼らの小さい手にも収まるようなグリップ、機械的なボディ、そこから伸びる丸い口、その無機質な見た目は恐ろしく、冷たさを感じさせる。
それは咲良でも知っている物であり、そしてこの世界に存在しないはずだと思っている物でもあった。
「何で……?」
「! サクラ!」
咲良が呆けたままでいると、トリナによって強引に引き倒される、それとほぼ同時に破裂音が咲良の耳に届いた。
それも複数、空気を破裂させるような音が幾度となく響き、咲良の恐怖心をあおる。
「何で?」
「どうかしたサクラ!?」
「なんでこの世界に、銃なんてあるわけ!?」
(咲良) 小銅貨が100円くらいなら普通の銅貨は?
(レティシア) 500円くらいかな?
(咲良) ってことは、私は銅貨2000枚で買われたんだから2000×500で……100万円!?
(レティシア) 奴隷を買うってのも安くないよなぁ……
(咲良) えっと……靴とか舐めたほうが……?
(レティシア) 落ち着け。




