影は確かに近づき
レティシアさんは日本語だったり心の中の語りでは一人称が「俺」になります。
元が男性なので。
(レティシア) ボクっ娘になればよかったかな。
(ライラ) 僕とキャラ被るからダメ。
「それで? いったい何の用だ?」
ディダを部屋に通して対面に座らせるなり、そう切り出した
「別に自分が思ってることとちゃうで。 ひとつはその帽子のモニターなんやわ。 これに関してはさっき試したから問題ないわ。 っていうかこれはついでで、本命はもう一つのほう、そうやな…………まあ、警告っていうとこか」
「警告?」
「ことの始まりは二か月前、マルセーレ港で起きた。 真夜中にそこに出入りしている商人やその使用人、警備員の人間など二十名以上が殺害された。 犯人は不明、目撃者もなく、夜が明けてから遺体がしこたまできてることに気づいた奴が警備隊の事務所に転がり込んでやっとこさわかったらしい」
「二十人以上か……それだけ殺しておいて朝まで騒ぎにならなかったのか……」
「港がデカいせいで人が一人や二人いなくなっても騒ぎになることは無いんやろな。 でもそれを差し引いてもちょっと死体が多すぎや、ウチのモンが言うには手練れの犯行ってことらしい」
「ウチのモン?」
「そらウチらかてマルセーレで取引するからな。 何で手練れかどうかわかったか、っていうのは聞かんどいてな。 それに、あんま言いたない話やけど、ウチのモンも二人やられとんねん」
「なるほどね……じゃあ、なんだ、まさか私たちにその犯人を見つけ出して来いってか?」
「まあまあ、話はそれで終わりじゃないねん」
そう言うとディダは胸の谷間から少し大きめの紙を取り出す、それはこの国の地図であった。
「どこに何を入れているんだ。 汗でしわしわになるぞ」
「嫉妬か?」
「そっち方面の成長は興味ない」
「さよか、でな、事件の起こったのがここのマルセーレ港や」
ディダがマルセーレと書かれた当たりの海岸線を指さす。
そしてその指をそのまま上へと運ぶ。
「大体この辺の軌道上で同じような事件が続けて起こっとる。 殺されたんは人から森の動物や魔物までいろいろ、せやけど犯人は同一で間違いない」
「その根拠は?」
「殺され方が全く一緒や。 直接の死因っていうなら失血死か内臓の損傷ってことになるな。 せやけど……」
その質問を待ってましたとばかりに顔をニヤつかせ、地図を指していた右の人差し指をレティシアの胸のあたりへと移す。
「殺された奴ら、全員体に穴が空いとったらしい、大した大きさや無いが、それで心臓やら頭やらに風穴がいて……それが致命傷ってことになるな。 もう察しついたやろ?」
ディダの表情は先ほどと変わらない笑顔のままだ。
しかし、その瞳を見ればその笑顔が本心ばかりではないことをレティシアは感じ取っていた。
その瞳には真実、物事の本質を見逃すまいとする意志が宿っていた。
「ああ、私を訪ねてきた理由もな」
「ほなウチが聞きたいこともわかるな?」
「…………まずサジタリウスのほうはわからん。 そもそも≪十三星≫は個人主義だからな、リーダーのジータでも把握はしてないだろ。 呼び出すくらいはできるだろうが……もっとも奴がそういうことをするとは思えんから除外でいいだろう。 それから≪十六夜月の踊り子≫はもっとありえん」
「その根拠は?」
「詳しくは言えないが……奴らの立場はある意味では私以上に厄介だからな、目立つことはしないだろう」
「ふ~ん、まあええか。 それなりの収穫があったっちゅうことで」
「収穫あったか?」
「容疑者が絞れたっちゅうことで」
「それはそうかもしれんが……というかそもそも何でお前たちが調べてる? 憲兵や国は動いていないのか?」
「動いてると思うで。 せやけど、見つけれるかどうかは謎やな。 積み荷に紛れてよその国から入ってきたんやとしたら、まずどこのモンかもわからん。 現状見つかってるのは死体だけっていう話やし、厳しいな」
「それもそうか……ましてその道のプロなら手がかりを残すこともしないだろうな」
「せやろな、けど自分ら気を付けえよ。 さっきの奴が歩んできたと思しき道、その先にあるのは……」
「…………ここか」
「せやから、気いつけよって言ったんや。 今日からこの街で何がある?」
「そうか、祭りは今日からか! 厄介だな、数日は人の出入りも多くなってしまう」
「そう言うこっちゃ、どこを言っても獲物でごった返しているうえ、混乱に乗じて逃げるのも簡単になる。 こんなおあつらえ向きの場所は無い……っちゅうかこの祭りを目指して来たんちゃうかともじつは思うとる」
「何のために?」
「犯人はな……ただ殺すことだけを目的にしている節がある。 相手が誰だろうとお構いなし、森の魔物にしても一方的に屠っておきながら、その死体は投げっぱ、皮も肉も手つかずやったらしい」
「つまり殺すこと自体が目的な殺人鬼ってことか? 相当にタチが悪いな」
「ないな、死体が綺麗すぎる。 どっちかっていうと殺し屋の手口や、ただ殺したい奴ちゃうやろ。 さて、こっからはウチの個人的なサービスや」
するとディダが顔を近づけ、レティシアの耳元で囁く。
「もう長いこと、この辺りは平和が続いとる。 そうなったとき、困るんはどこや? これがヒント、さてさて、レティシアちゃんは答えにたどり着けるかなぁ~ っと、ほなウチはここで」
ディダが立ち上がって帰ろうとするのをレティシアが制止する。
「ディダ」
「何や?」
「さっきの質問に答えていない。 お前がこの一件を追ってるのは、なぜだ? 商売関係か? それとも」
「……好奇心少々、代表補佐としての仕事が半分、あとは…………えらく個人的な理由やな」
「私に話したのもその『個人的な理由』とやらか?」
「…………相変わらず意地が悪いわ」
それだけ言ってディダは部屋から出て行ってしまった。
「………『身内が死んで、平気なやつがいるか!!』だっけか? ……偉くなっても根っこ変わらないってことだな」
と、友人との昔の出来事を懐かしみつつ、今に頭を切り替える。
テーブルの上にはディダが置いて行った地図が広がっている。
(明らかに港からこの街を目指して北上している……そして見計らったように今日から一週間、この街はお祭りムード一色になる。 狙わない手は無いよなぁ……)
どの道大騒ぎになるなら、とっとと離れるかダンジョンにでも潜ってしまえばいい。
街で何か事件が起こっても、解決するのは衛兵やら憲兵だ。
巻き込まれたのならともかく、能動的にかかわっていく必要もない。
(問題は奴らで対処できなかった時だな)
対処できなかったら……当然冒険者たちにお鉢が回ってくる可能性は大いにある。
そうなったとき、街でも上位の実力者とされているレティシアたちにも当然話は来るだろう。
ちなみに冒険者のランクは上からS,A,B,C,D,E,F,Gとなっている。
Sランクは長いギルドの歴史を見ても十数名しかおらず、そのうち現在でもギルドに所属しているのはたったの五名である。
早い話が常識外れに強い理不尽ともいえる雲の上のさらにその上の存在ばかりで、なおかつそのうちの一人がレティシアたちのパーティーも所属しているクランの盟主セリーナである。
よって大体の冒険者がAランクを目指し、Gランクから様々な依頼をこなして切磋琢磨している。
現在レティシアたちのパーティーのランクはBである。
ソロと違い、人の出入りも多いパーティーのランク付けは少々ややこしいのだが、大体メンバーのランクの平均値だと思えばいい。
つまりパーティーとしてのランクを上げるのはソロの場合のそれよりも難しかったりする。
なお、Cランクから上を目指すには昇格試験というものを受ける必要があるのだが、≪銀色の狼≫はBランクのまま昇格試験を受けないでいる。
何故か?
Aランク以上になると国からの指名依頼が来るからである。
得てしてそういう依頼は碌なものではない、というか如何せん≪銀色の狼≫の面々にはそういう国家権力が嫌いな面子が多い。
ちなみに個人でもAランクになっている場合には指名依頼が来るのだが、所属パーティーのランクがAランク以上でなければその限りではない。
だから、レティシアたちは話が来ても断れなくはないのだが……
(俺らが昇格試験ゴネてんのギルド知ってるしな…… それに人情に訴えられると流石に断りにくいし…… かかわりになりたくないってのは通じないか)
などとレティシアが頭を悩ませていると、部屋のドアが豪快に開け放たれた。
「トリナ帰っ」
「暑いの平気になったんでしょ! お祭りに行くわよ!!」
買い物があるといって早くに出かけ、戻ってきたトリナだが、今度はレティシアたちを誘って遊びに行こうという。
「いや、今お祭りに行くとな……」
「いいから、とっとと行くわよ!」
とレティシアがそれに返事する前にワクワクしすぎて我慢できないとばかりにトリナはレティシアの首根っこをつかんで、引きずったまま、その場にいた面々とともにお祭りへと向かうのだった。
一応個人のランクも
Aランク:レティシア、クロエ、シャル
Bランク:ベル、ジュリ、ライラ、サリア
Cランク:ハリィ、トリナ
E:ククル
F:咲良
※ククルと咲良は加入して一年以上たっていないのでパーティーのランクに加味されません。




