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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
第一部 ハローワールド
7/125

ライネル邸にて 前編

(咲良)昨日は歩きだったのに何で今日は馬車なんですか?


(レティシア)相手に「来ましたよ」と大っぴらに知らせてるんだ。

      相手もそれがわかったほうが準備とかの都合がいいだろう?


(咲良)そうかな? 

ライネル邸は、いわゆる金持ちが建てるような趣味の悪い屋敷ではなく、規模こそ大きいものの、装飾はやや控えめな屋敷である。

これは、現当主、アズーロ=ライネルの先代が割と見栄より実を取る性格だったからで、装飾に金を使うなら屋敷内の設備や、商売にそれを回すべきだと考えていたからである。

そんな屋敷に入り、五人は家令に応接間に案内された。

その途中、奴隷の使用人と何人かすれ違い、彼女たちを見て驚きの視線を向けたり、睨みつけたりする者たちもいた。

応接間は昨晩、レティシアが通されたところではなく、食事を行えるような長テーブルのある、広い部屋だった。


「旦那様を呼んでまいりますので少々お待ちください」


レティシアたちが席に着くと、そう言って家令は部屋から出ていった。

それから数分後、アズーロが息子のジャーロを伴い応接間へと入ってきた。


「お待たせしてしまって申し訳ない」


別にそんなに待ってないし、何よりもっと気になることがあった。

息子ジャーロの顔、正確には右頬が大きく腫れていた。

きっと殴られたのだろう。

何故が知らないし、知りたくもないが。

使用人は殴れないから、多分、父親のアズールが。

そのせいか、ジャーロは随分機嫌が悪いようで憮然とした表情をしていた。

ともかく、ライネル親子も席に着くと、まずアズーロが口を開いた。


「この度は何度も足を運んでいただくこととなり、申し訳ない」


「いえ、こちらとしても本来踏むべき手順を省いてしまったのです。

むしろ、こちらこそ申し訳ない」


両者ともに笑顔であるが、それが逆に不気味に見えなくもない。


「それでは、まずは今回の目的を済ませてしまいましょうか」


(目的も何もこっちにそれ以外の用事はないんだがな)


家令からレティシアに一枚の書面が渡される。

それは和歌山咲良の奴隷契約書だった。

契約書には日本語で『和歌山咲良』とある。

そこに至る経緯が違法だろうとなかろうと、契約が成立してしまえば、奴隷になってしまう。


『一応聞いておこう。

言葉が通じないはずなのに、君はどういう経緯でコレに署名した?』


『わかってませんでしたけど、とりあえずこれに似た紙と羽ペンみたいなの渡されたんです。

で、この空欄に何か書けって言われたのはなんとなくわかりました。

なので名前なのではないかと。

首元に剣を当てられながら言われたので、抵抗出来ませんでした』


確かに、契約書に名前を書くことで奴隷契約は成立する。

成立後は契約書自体が奴隷を従わせるための枷となり、所有者の裁量一つで別個に取り付けた首輪を通し苦痛を与えられるようになる。

これは魔法の類で逆に言えば、書面のやり取りのみで奴隷の所有権の譲渡ができてしまう。

ちなみに、この契約書は所有者がいるが、魔法としての発動は奴隷本人である。

これは、意思に反して無理やり奴隷となるのを防ぐためである。

だから、書いた本人が自分の名前である認識すれば何語だろうが奴隷としての契約は成立する。


(なまじ勘が良かったばかりに奴隷になってしまったか、適当なこと書いてれば……

いや契約がなされなければ殺されていた可能性も?

どのみち連れ去られた時点で詰んでいたか)


心の中で咲良のことを気の毒に思いつつ、ペンを走らせる。

名前を書き終わったところで契約書と、咲良の首輪が光る。

しかし、咲良としては何も感じなかった。


『終わったんですか?』


『ああ、これで、彼らが君に首輪を通して何かすることはできない』


「さて、やるべきことが終わったところで、そう言えば少々興味深い話を聞いたのですが、今朝がた皆さんの泊まってらっしゃる宿の近くで死体が上がったとか……

いやはや夜盗とは物騒ですな。

街を代表して謝罪したい」


「いえいえ、問題ありませんよ?

その死体こそが夜盗です。

ちょっかいをかけてきたので、返り討ちにしたまでですが」


「おお! 流石は新進気鋭のパーティー《銀色の狼》その実力に疑いの余地はないらしい」


「いえいえ、そんな ハハハ」


「ハッハッハ」


双方ともに笑顔なのになんだか寒気がする。

これは、この場にいたアズールとレティシア以外全員が思ったことである。


『どんな話をしてるんですか?』


唯一話についていけない咲良がライラに尋ねる。


『掻い摘んで話すと、あちらのアズーロ氏が

「昨晩の襲撃は私たちだ。 ただし、証拠はないから騒ぐだけ無駄だ」

と言って、それにリーダーが

「それなら全員始末したので騒ぐ気はないが、あなたたちのことはとっくに気づいていた。 我々をあまり馬鹿にするな」

と返し、

アズーロ氏が

「偉そうなことを言うなよ若造が」

と返した。

といったところ』


「そう言えば、噂と言えば私のほうでも面白い話を聞きましたよ?

この町のさる有力商人のお抱えの冒険者、つまり護衛が盗賊に殺されたとか。

大変でしょうな、代わりを見つけるのは。

何せその商人とその息子は権力に物を言わせたやり方をするものだから、皆から敬遠されている。

それに、その商人の運ぶ積み荷は少々表に出せないものも多いとか、そう簡単に新しい人間に任せられませんな」


「ハハ、ところで、皆さまは今後パーティーをどのようにされるおつもりで?」


「どのように、とは?」


「あなたたちは全員女性、そしてそのほとんどがまだ若い。

だからこそ将来が楽しみなのでしょうが、私の意見とすれば、いずれ終わりが来ます。

仲間の死は勿論、結婚によって離脱する者が現れるかもしれない。

年を喰えば体力も落ちて引退なんてこともありうる。

そうなってしまった時の為に、今のうちにどこかに根を張っておく準備をするというのも悪くないかと。

例えば、どこかの有力者の護衛……とかね

そう言う意味では貴女が先ほど仰っていた商人などいいのでは?」


「フフッ、フフフ」


レティシアが急に笑い始めた。


「失礼、流石に限界だったもので。

申し訳ない。

随分と余裕をかましているようですが、あなたがたにはその余裕がありますかな。

いや、ないはずだ。

我々の返答次第ではいろいろと困った事態になるはずなのだから」


レティシアのこの発言は聞きようによっては挑発のようでもあるのだが、アズーロは表情を全く崩さなかった。


ゴーン! ゴーン! ゴーン!


それは正午を知らせる鐘だった。

この町ではどこにいてもこの音が聞こえる。

ちなみにこの世界でも時計は十二時間、もしくは二十四時間で表記される。

さて、その鐘が鳴り終わると、俄かに応接間の前の廊下が騒がしくなってきた。


「お待ちください! いったい何の権限があって!」


バタン! 

と大きな音を立てて、七、八人の人間が入って来て、テーブルを正確にはライネル親子を取り囲む。

彼らは皆、黒いパンツに白いシャツ、緑色のベレー帽を被っていた。


「おお、これはこれは憲兵隊の皆さま、こんなにたくさん集まってなんの事件ですかな?」


憲兵隊とは日本で言うところの警察官のような組織である。

仕事は勿論、街の治安維持である。


「アズーロ=ライネル殿。

貴殿には違法薬物をはじめとした、取引禁止の品物の納入並びに販売、輸出の容疑がかかっています。

詰所までご同行願います」


「私に容疑をかけるからには納得できるだけの証拠があるのですね?」


「当然です。

こちらをご覧ください。」


そう言って前に出たのはククルだった。

その右手には小さなガラスの小瓶が握られている。

中には白い粉が入っていた。


「こちらに見覚えは?」


「さて、塩ですかな?

今回の取り引きした品にはありませんでしたが」


アズーロはあくまでも動じない。

息子のほうは動揺していると顔に書いているというのに。

そんな落ち着き払った態度に臆することなく、十二歳の少女は白衣のような白いコートの内ポケットから透明な液体の入ったアンプルを取り出し、話を続ける。


「こちらの液体、透明でわからないでしょうがいわゆる検査薬です。

ある特定の物質のみに反応し赤くなる」


そう言うと、ククルはアンプルの液体を粉の入った瓶に注いだ。

すると瓶に入った液体は赤く変色した。


「これでこの粉が塩でも砂糖でもなく、キキリクの花の成分を含んでいることが証明されました・

判ってるでしょうがこの成分を含んでいるものは、毒性が強いうえ、依存性がとても高いので、何であろうと取引は禁止です」


ちなみに、キキリクには精神を高揚させる効果がある。

早い話、麻薬のような成分を含んでいるのである。

そんな訳で取引を禁止しているのだが、やはり裏では高値で取引されてしまっているのが現状なのである。


「しかし、積み荷の中身ならあなた方も確認しているはずでは?」


確かに中身を確認していた。

万が一にも届くはずだったものがありませんでした、では一大事である。

そして、その中に件の代物はなかった。

その答えはサリアが持っていた。


「お嬢の読み通りでした。

荷物を積んでいた荷車の内二台が二重底になっていました。

中は例のモノが入った麻袋が敷きつめられていました」


「……だそうですよ?

流石に逃げ切れないのでは?」


 白状するなら今のうち、そういうレティシアに対し、アズーロはただ黙っていた。

(咲良)時計は世界共通なんですね


(レティシア)うん、ちなみに一日は24時間、一年は12か月365日、一分60秒など時間の刻み方は前の世界と共通だ


(咲良)それはどうして?


(レティシア)古代エジプト人は月を見てカレンダーを決めたらしい。

それによると月の満ち欠けは30日で一周し12回経ると一年なんだとか。

実はこの世界にも月に似た衛星がある。

この世界の古代人もきっとそれを見てカレンダーを決めたんじゃないか?

      

(ライラ)カレンダーの決め方は万事適当というわけじゃない。

日にちに整合性が取れるように合理的、論理的に決められている。

理に適っているなら、状況が同じ場面では異世界でも適用できる。 


(咲良)なんか小学生とかが読む科学雑誌みたい。

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