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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
純粋なる黒と汚れた白
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プロローグ

(咲良) 新年あけましておめでとうございます! 年も変わり、「残酷で美しい異世界より」も新章開始です! 寒い日が続きますが、お話ではこれから夏本番です! なんてこった!!

 フランシス共和国の南部に位置している大都市マルセーレは古くから貿易港として栄え、現在でも国内最大の港湾都市として多くの貿易船、および人間が出入りしている。

 この世界における貿易船というとそのほとんどが帆船である。

 帆船というのは言うまでもでもなく海の上を吹く風を動力源として進むため、その運行スピードが運任せになってしまう。

 結果、いつ何時目的地に到着できるかというのが分からず、結果真夜中や早朝に到着してしまうということも普通にあり、港は24時間ずっと休むことなく騒がしいのである。

 そのため、港の警備を専門に行っている港湾警備隊もまたいつ起こるとも知れない事件や事故に備え24時間監視、巡回などを行っている。

 

 「って言っても巡回は交代制だし、問題だってそうそう起こるもんじゃない。 緊張なんてすることは無い。 真夜中の散歩くらいに思ってればいいのさ」


 「は……はい……」


 そういわれて若者は一応返事をしつつ笑顔を作って見せるが、その笑顔は引き攣っている。

 それもそのはず、この若者は湾岸警備の任についてまだ三か月、しかもこれまでは事務所での危険の全くない業務ばかり、巡回のような実戦も伴うような仕事は今日が初めてである。

 これでもこの若者は望んでこの仕事を選んだのだが、だからって緊張するか否かはまた別の話である。

 まして今は日をまたいだばかりの真夜中、暗がりで戦闘になった場合の不安ったら無い。


 「ま、今は緊張したって仕方ねぇってこったな。 じきに慣れるさ」


 そう言って彼の上司は思いっきり彼の肩を叩いた。

 上司はこの仕事に就いて今年で七年目、ベテランとは言わないが、いまさら緊張なんてするようなキャリアでもない。

 なんとかこの新人の緊張をほぐそうとしているのだが……どうやらそれは難しそうだ。


 「まぁ、今は緊張したままでいいや、歩いてりゃ緊張もしなくなるだろ、行くぞ」


 そう言って若干の不安も抱えながら巡回は始まった。

 

 

 

 巡回は港を東端から西端まで往復する道のりで、何もなければおよそ3,40分程度で終わる。

 港には多くの船が停泊しており、荷の積み下ろしが行われている。


 例えば魚や貝などの海産物、これらは鮮度命なので速やかに市場まで運ばねばならない。

 例えば地元の工芸品、これらは普通の皿と見せかけて家を一戸建てられるくらいの価値があったりするなんてことがざらにあるので扱いには細心の注意が必要だ。

 例えば奴隷、様々な理由で奴隷へとその身を落とした者たちの中にはこうして海路で市場へと流される者も多い。

 

 船や品物が多ければそれだけ人も多い、港は何時でも人であふれかえってにぎやかなことこの上ない。

 そんな人々の営みの一部を流し見つつ、何も問題は無かろうかと巡回を続けていると、後ろから声を掛けられた。


 「すまんな、明日入ってくる私の船のことでちょっと話が……」


 どうも自分たちに相談したいことがあるらしいその商人に対して


 「おう、了解……っと悪いな、ちょっと先行っててくれや」


 対応はしなければならないが、一人で事足りる、というか二人そろって行ってしまっては他のところで何か起こってしまったときに対処できない。

 なので若干不安はありつつもここは新人一人で行かせることにしたのである。

 



 「まったく……頼むから何も起こらないでくれよ……」


 自分に商人の相談事が解決できるとは思えないのであの場を上官に任せるのは当たり前だが、かといっていま何か起こったとしても一人で対処できる自信は全くない。

 だからこそ誰にでもなく祈っているわけなのだが、残念なことにその願いは誰にも聞きいられなかった。


 ガシャーン!!


 どこからか大きな音がなった。

 それも船の停まっている海側ではなく陸側から、きっと船のトラブルではないのだろう。

 音のしたと思しき場所まで駆けていく。

 自分に対処できるかは二の次で、もし誰かに何かがあったら、そんな反射にも近い正義感を胸に走っていると、建物の隙間から出てきた人間とぶつかった。


 「いてて……すいません、ちょっと急いでて……!」


 ぶつかった男性は床に倒れこんだまま動かない。

 頭でも打ってしまっただろうかと慌てて駆け寄り、その体を起こそうとする。

 

 ぬめり。

 そんな生暖かく不快な感覚を自分の手のひらから感じ取った。

 暗がりでよく見えなくてもわかる。

 これは血だ。

 おそらく自分とぶつかる前に負った傷だ。

 そしてほとんど死に体でここまで逃げてきたのだろう。

 何時でも抜けるように剣の柄に右手で触れつつ、男が来たと思われる道を引き返す。

 そして建物の間を抜け、角から反対側の道を覗く。

 怪しい者はいない、そう思って一呼吸着くと、後頭部に何か硬く冷たいものが当たる感触がした。

 

 恐る恐る振り向いてみるとそこには…………




***




 その日の咲良の朝の目覚めはすさまじく最悪であった。

 何故かというと、


 「あっっっつい!!」


 部屋の空気が一切循環しなかったせいで部屋の温度が上がり、かつ淀んでいる。

 一切動かないでいるのに身体から汗が出て、そのせいで体に服が張り付き不快なことこの上ない。

 取り急ぎ部屋の窓を開けて外の空気を取り込み、部屋の空気を入れ替える。

 外は部屋ほど暑くなっておらず、直ぐに涼しい風が流れ込み部屋の中の淀んだ空気をかき混ぜていく。

 当然だがこの世界にクーラーなどあろうはずもなく、涼を取るには窓や入り口のドアを開けるくらいしか方法は無い。

 

 (かといって夜中に窓を開けっぱなしっていうのも憚られるんだよねぇ……難しいところだなあ。 せめて網戸みたいなのがあれば……)


 着替えをしながらそんなことを考え、部屋を出る。

 すると廊下に誰かが倒れこんでいる、ふんわりとした白銀の髪と、白磁のような白い肌……


 「ってレティシアさんじゃん! 大丈夫ですか!」


 「あ、暑い……」


 「しっかりしてください!」


 「暑さにやられて伸びてるだけだよ。 レティ暑さに弱いんだ」


 どこからかひょっこり現れたククルが口を挟む。


 「でもこのままじゃ体調悪くするぞな。水風呂にでも浸けたほうがええんやないか?」


 いつの間にかハリィもいる。


 「水風呂って……そこまでしなくても、外は涼しいから、出してあげるだけでもいいんじゃない?」


 風がそれなりに強く、それだけでも涼しく感じられたのは先ほど体験済みである。


 「「それもそうか」」


***


 案の定、というべきなのか割とすぐにレティシアは回復した。


 「ここの部屋、悪くは無いんだが空調が乏しいのは考え物だな」


 「まあ、昨日帰ってきたばっかりで、こんなに暑くなるとは考えとらんかったしの」


 「ま、いつも通り慣れだよ慣れ」


(そっか、三人はこの世界に生きて長いんだからそりゃ慣れっこだよね……)


 「やっぱり駄目だ~」


 レティシアがまたぐったりしてしまった。


 「いや、ダメなんかーい!!」


 「ほんとに水風呂に入れてしまうか?」


 「そんなことせんでも、これで一発やろ」


 ハリィばりになまった話し方とともにどこからか伸びてきた手が、レティシアに帽子をかぶせる。

 そこに立っていたのは、咲良の知らない顔の女性だった。

 年齢は咲良と変わらないくらい、茶色い髪をポニーテールにしていて活発なスポーツ女子をイメージさせる。

 

 「お、なんだか快適になった気がする」


 ただハンチング帽子をかぶせただけなのに、レティシアの変化は劇的だった。

 あれだけ暑いと顔にを赤く上気させ、汗を滴らせていたというのにケロッと平然としたいつもの顔に戻っている。


 「その帽子、ちょっと変わった魔法具でな、かぶると夏場でも涼しく感じるようになるんよ。 実際体内の魔力に干渉して温度を下げるとかなんとか……業者がなんて言うてたか忘れたわ。 使い心地はどうや?」


 「ふむ、悪くない」


 「さよか。 ほな、本格的に売り出してみるか、ちょうどこれから暑くなるし、売れるかも知れへんな」


 「だが、これの製造コストはどれくらいかかってる? 見栄っ張りが多い貴族連中はこういう帽子なんてまず買わん。 となると一般庶民となるが彼らが買えるだけの価格設定ができるのか?」


 「ま、そこはうちが何とかするわ。 これでも商人やし」


 「ねぇ、二人とも、この人だれ?」


 「ああ、この人はね……」


 「なんや、見ない顔か思うたら新顔か?」


 「まぁな」


 「ふ~ん。 うちはディダ=リーガン、リーガン商会のフランシス支部の代表補佐やっとる。 ご入用の際はうちの店でよろしく」


 「商人の人……レティシアさんたちが贔屓にしてるんですか?」


 「いや、そういうわけではないが、昔ちょっとな」


 「なに言うてんの、学生時代からのマブダチやんけ!」


 そう言うとディダはレティシアの肩にもたれかかり、彼女の頬を指でうりうりとつつき始めた。


 (レティシアさんにこの距離感で行く人初めて見たな…………)


 「あ、そやそや、レティシアちょっとええか?」


 なんだ?というレティシアの問いかけに応えないまま、ディダはレティシアを伴って、部屋へと引っ込んでしまった。


 「なんだろうね? レティに帽子あげる代わりにただ働きさせる気とか?」


 「そりゃないと思うが……でもアイツ商魂逞しいからのぉ……サクラ、何しとるぞな?」


 咲良は部屋のドアに耳をくっつけている。


 「ドア越しに声が聞こえないかと思って」


 「確かに! どれどれ…………全然聞こえない」


 「分からんぞな」


 「ダメか~」

(ハリィ) (新キャラは方言女子……!! ウチとかぶってる!!)


(ククル) 関西弁だと作者も調べやすいだろうしねぇ……案外彼女のほうが出しやすかったり……


(ハリィ) そんな生々しい話やめろぉ(泣)!!

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