パフ・セッター
後半辺りかなり小難しい話となっちゃいました。
「いや、ここはこうじゃね?」なんてご意見、ご指摘がありましたら、ぜひ教えていただければと思います。
スパン!
勢いの良い風切り音とともに喋る花はトリナの一太刀に両断された。
だというのに
『ちょっと酷くない? 瞬殺は流石に傷ついちゃうわよ?』
また地面から生えてきてそして再びこちらに口をきいてきた。
「やああああああ!」
「「ストップストップ!!」」
またトリナが斬りかかりそうになったところをシャルとハリィで何とか制止する。
「随分とのんびりなうえに目立つ登場じゃないか、セッター」
そういいながらレティシアが人差し指で花をつんつんとつつく。
「ふふふ…… 久しぶりね、みんな」
つんつんつん
「まず、私の代わりに学生たちの相手をしてくれたことは感謝するわ」
つんつんつんつん
「少しばかりやりすぎた感はあったけれども、あの子たちにはいい薬でしょうし」
つんつんつんつんつん
「ククルちゃんとライラちゃんも発表お疲れさま、なかなか良かったと思うわ」
つんつんつんつんつんつん
「けれど少し考察が…………ちょっと、やめて、その、お花、私の……んっ、分身だから……」
つんつんつんつんつんつんつん
「感覚が共有されちゃうのおおおぉぉぉ!! らめぇぇぇぇぇ!」
「レティ、虐めすぎ」
サリアがレティシアの脳天に手刀をかました。
***
「セッターはドリアードと呼ばれる魔族の一族の一人でな。 ドリアードは見た目は人間とそんなに大きく変わらないんだが植物の性質も持っているんだ」
「植物の性質って?」
「物を食わない代わりに光合成するところとかな。 水と日光と二酸化炭素さえあればいいんだ」
「へえ……経済的」
「一日に何十リットルとかいう水が必要だからな、経済的ってことは無いんじゃないか」
「長距離移動とか特に大変よねぇ」
レティシアたちはあの後どうにか平静を取り戻したセッター(の生やした花)より、招待を受けて彼女の研究室に向かっていた。
研究室があるのは修練場の北東の方角にある研究C棟の三階、最上階である。
建物としては最も新しく、セッターのいる東側の角部屋に至っては天窓がついており常に陽の光が注ぐという、なんとなく薄暗いイメージのある研究室にあるまじき(?)内装をしているとのことであった。
ことであった、というのは案内を受けている、エリーから聞いた内容だからである。
エリーは研究室のドアの前まで来ると、ドアを二度コンコン、とノックした。
「先生、レティシア様たちをお連れしました。」
「どうぞ」
エリーが扉を開くとセッターがレティシアたちを待っていた。
ドリアードと呼ばれる植物の特徴の併せ持つ種族ではあるのだが、その見た目は人間とそれほど大きく変わっていない。
髪の毛と瞳が緑色であること、古代ギリシャ人のような露出の多い身体に蔦のようなものが絡みついていることくらいか。
服装も相俟って、大人の色気を感じさせる女性である。
「みんないらっしゃい。 いろいろ疲れたでしょう? フィラ、お茶を入れて頂戴」
「ほいほーい」
「フィラ! そんな言い方!」
エリーにたしなめられてもフィラというエルフの少女はそれを聞き入れることのないまま奥の部屋へと引っ込んでしまった。
「苦労しますね、お互いに」
「ベルさん……わかっていただけますか!?」
「え、ええ…… はい、もちろんです……」
エリーの瞳がだんだん潤んでくる。
ベルもベルでレティシアのことをお嬢と呼ぶハリィとシャルの二人のことを少々苦々しく思っていたのだ。
何せ二人は元とはいえレティシアに仕えていたのだから。
だからと言って泣きそうになるほどでもなく、瞳を潤ませるほど生真面目に思い悩んでいるエリーに若干引いてしまってもいた。
(きっとほかにもいろいろ苦労なさっているのでしょうね)
と思うことで自分を納得させることにした。
「エリー、わたしは呼び名なんて気にしないわ。 さ、みんな座って頂戴な」
セッターに促され、一同が長テーブルにつくと、ちょうどフィーがお茶を運んできた。
「で、セッター、私たちはここで悠長に茶なんて飲んでていいのか? 修練場での後始末とかは?」
「その辺は何とかなるでしょう。 あそこでも言ったけれど、彼らにはいい薬になったはずだわ。 自分たちが池の中のお魚だったとわかれば真面目に授業にも取り組んでくれるでしょうし。 ま、先生はまだしばらく頭を悩ませる日々が続くんでしょうけど。 でもそれはこちらが関知することではないわ、だって向こうから言ってきたことだもの」
「精神的にフルボッコにするなんてのはかなり想定外だったと思うがな」
そう言ってジト目で送るジュリの視線に対してやりすぎた自覚のある者は顔をそらした。
顔をそらさないあたりクロエはやりすぎだと思っていないということだろうか。
「それでも別に気が狂ったなんて子はいなかったようだし大丈夫でしょう。 だからこの話はおしまい。 それより……」
話題を早々に切り上げると、セッターは咲良へと視線と身体を向ける。
そして右手を彼女の顔へと伸ばす。
「こことは国も地域も異なるまったく異なる世界からやってきたまさに異世界の住人……しかもその第一号。 興味がそそられないなんてことがある?」
咲良に向けるセッターの視線は何とも妖艶で咲良は目を離すことができず……
「って、なんか身体に絡まってる!? なにこれ!? 蔦!?」
「ちっ!」
「何しようとしてたのこの人!?」
「第一、異世界の人間の第一号はサクラじゃなくてお嬢だろ?」
そうシャルが何の気なしに放った一言の威力は絶大だった。
レティシアとベルは恨みがましそうにシャルを見つめ、セッターは照準を咲良からレティシアに移す。
「あ、貴女も、異世界人……?」
「あ、やべ」
シャルも気づいた。
自分が何を言ってしまったのか。
それから一時間かけてセッターをなだめつつ、諸々の事情を話すこととなった。
***
「へぇ…… 死んだはずなのに精神だけがここにね……」
「それだけならここが死後の世界ってことで説明もつけられないでもないが、そのあとに咲良たちが転生することなくこの世界にやって来てる。 この世界が前にいた世界とどういう関係なのかさっぱりわからん」
「そうね…… この世界を歩き続けたら貴方たちのいた土地にたどり着くってことでもないんでしょうし」
レティシアが腕を組み、セッターが頭をひねり出しつつ話していると、そこに咲良も入ってくる。
「っていうか地球は全土がマッピングされてるから未開の土地なってないんでしょ? 少なくとも同じ惑星ってことは無いんじゃ?」
「私もそう思う……というかそもそも同じ銀河系とか宇宙とかそういう概念でもないんじゃないか?」
「というと?」
咲良が続きを聞こうとしたところでククルも割って入ってきた。
「ちょっと待った。 その『ちきゅう』とか『うちゅう』っていうのはなに?」
「何ってそれは…… あれ? ひょっとしてこの世界って天文学無いの!?」
「てんもん……?」
「いや、星や太陽の動きで日時を予測しているから無いわけじゃない。 だが、あくまで経験則に基づく予測だけで、惑星や宇宙といった発想までは至ってないのかもしれない」
「そっか…… それで? 宇宙とかいう概念じゃないっていうのは……? まさか多元宇宙論とか持ち出す気ですか?」
「私たちの住む宇宙の外にも他の宇宙があるって話か? あれは検証を含まない理論でしかない。 そもそも別の宇宙が存在するとしても物理法則が捻じ曲がることは無いはずだ。 この世界に存在する魔法は明らかにエネルギーや物理法則を無視している」
「そっか…… じゃあ、もっと根本的に違う世界ってことなのかな……?」
「なぁ、トリナ、お嬢とサクラが何話してるか解るか?」
「分かるわけないでしょ。 っていうかサクラってもしかして頭いい?」
「何で私バカだと思われてたんでしょうねぇ!?」
(サリア) あれ? この難しい話続くっぽい?
(シャル) マジかよ。
(ハリィ) Zzz……
(サリア) うわ、寝てる。
(フィー) Zzz……
(サリア・シャル) お前も寝てるんかい。




