やりすぎ
普段は3000字前後を心掛けているんですが今回は4000字オーバーになっちゃいました。
みなさんはそのほうが嬉しいかもですが、長すぎるのもよくないかなとか思ったりして……
視力の良いサリアが見た以上間違いはまずないが、それでも勘違いであってほしいという一縷の望みをかけて正座させられている手段に近づいた咲良たち。
悲しいことに望みはかなわず、正座させられていたのはパーティ≪銀色の狼≫のリーダー、レティシアその人と、その仲間たち一同であった。
正座させられている一同の表情は不満げな者、反省して縮こまっている者、正座なんて意に介さず平然としている者、無表情でどう思っているかわからない者、さまざまであった。
そんなレティシアたちを見て、ジュリは大きなため息をついた。
「……一応、何があったか聞こうか?」
「これでも真面目に指導してやろうとは思っていたんだ……」
そう言い訳するように声を絞り出したレティシアが語ったいきさつというのはこういうことであった。
修練場で件の学生たちと対面したところ、案の定、というべきか教員もレティシアたちも舐め腐った態度であった。
こういう剣術や魔法を教える教員というのは、学校を出てそのまま教員となる場合よりもかつては冒険者や騎士として貴族や国に仕えていた経験のある者が多い。
スポーツの監督にその競技の経験者が多いのと同じである。
しかしながら、経験者であるのは事実だが、教員という役割に収まっている以上はケガか、年齢かはたまた伸び悩みかどの道一級の実力者ではないというのもまた事実である。
それに加えて貴族の中には冒険者という職業を見下している者も多い。
ただでさえプライドの高い貴族、その子息、子女となればその高さたるや今回の一件の経緯を聞けば察せようというものである。
つまり、自分たちが見下している冒険者や自分たちに仕えていた騎士たち、正確にはそこから一線を退いた者たちから物を教わるということ自体気に入らないという生徒は少なくない。
もちろんそのような者ばかりではなく、見下すこともなく教員に対して敬意をもって接する生徒も多いし、というかそっちが多数派なのだが、今回の新入生の代は特にひどかった。
というのも、今代の新入生は歴代でも中々どうして優秀な部類であった。
おそらく、学校に入学するまでにもいろいろなところで褒められたりしたのだろう、プライドが必要以上に高くなってしまったものだから、恐れ多くも担当教員に勝負を挑み、そして勝利してしまった。
結果、彼らをリーダーとして実技の授業をボイコットするようになってしまったのである。
で、そこにやってきたレティシアたちに対してもやっぱり彼らは高圧的に接してきた。
リーダー格は男女二人、一人はオスカーという青年で剣術に優れ、一対一で教師マルクに勝ってしまった。
もう一人がアンドレア、代々優秀な魔術師を輩出してきた貴族の家系であり、やはりマルクに勝利した。
もちろん一対一で。
そんなわけで。
「僕らはそこにいる教師マルクに勝利した。 彼から教わることなどないだろう? それともなんだ?」
「それとも何かしら? あなたたちがわたくしたちの新たな先生におなりになると?」
天狗になってた二人に対しレティシアはというと
「教師になる気は無い。 ただ一つ賭けをしようじゃないか」
「「賭け?」」
「私たちに一対一で戦ってこちらが全勝したらこちらの勝ち、不満だろうがなんだろうがおとなしくマルク先生のいうことを聞いて授業を受けてもらう。 逆に君たちが一勝でもしたら君たちの勝ちだ、授業を受けるかどうかは好きにするといい」
「おいっ、何を勝手に……?」
ここでようやく口を開いたのは学生に負けちゃって威厳をなくしてしまったマルク先生。
冒険者が指導に来るということは少し前に連絡を受けていたので知っており、事態をひとまず静観していたが、話が思いもよらぬ方向に進みだしたので慌てて口を挟むことになった。
「一勝でもしたら授業を受けなくてもよい」というのはレティシアたちはおろか、マルクの一存でも決められるものではないのである。
しかして、話はもはや彼が止められるものではなくなっていた。
「いいだろう! 受けて立ってやる!!」
喧嘩を売ってそして買った。
もはや誰にも口出しできなかった。
まず初めに学生たちの相手をすることになったのはシャルであった。
彼女は天才肌であるので物を教えるのには向かないが、面倒見は良いのでこういうのに向いている。
で、学生側の相手は剣術同士の戦いということでオスカーが相手になる……と思いきや、向かってきたのは彼ではなく、その同級生の男子であった。
身長は190近く筋骨隆々、シャルとの体格差は歴然であり、一見するとシャルが圧倒的不利に見える。
しかし、シャルはこと攻撃を受け流すということにかけてはかなりの技量を持っており、相手がスピードや膂力に任せて一辺倒に突っ込んでくるならば、それをいなすことなど朝飯前なのである。
今回などその典型で、腕力と体格差で勝負を進める相手の攻撃をすべていなしたうえで、懐に入り込み刀の刃を首元に当て、勝利した。
それなりに腕に覚えがある者ならば、かなりの実力差があったとわかるのだが、悲しくも実戦経験に乏しい学生にそれがわかるはずもなく、むしろ自分が攻め続けたせいで相手の攻撃に対する備えができていなかった、つまり油断していたが故の敗北であったと思ったらしい。
つまり実力差などそれほどなかったと。
シャル曰く、一応訓練なのだし、プライドの高そうなやつだからと花を持たせたらしいのだが、それは失敗であったと言わざるを得ない。
続いてトリナが相手をすることになったのだが、対戦相手というのがいわゆるナルシストで開口一番トリナを口説きだした。
ちなみにトリナはそういう軟派な男が大嫌いである。
そんななかで始まった戦いは意外にもトリナが押される展開となった。
トリナの剣は払われ、あとは敗北を受け入れるばかり……のはずだったのだが、丸腰となったトリナは自身の足で相手の急所、つまり股間を蹴り上げ、さらに握りこぶしで相手の顔面をぶん殴ってしまった。
ナルシシスト、当然自身の顔にも自信があったのだろうが、その自信は文字通りトリナに打ち砕かれてしまった。
さて、この場合の勝者というのはどちらになるのだろうか。
トリナは相手をKOしたが、それが己の手足というのは些か反則な気もしないではない。
結局勝敗が有耶無耶なまま心に大きな傷を負った学生一名と男子生徒を謎の恐怖に包みつつ、試合は次に進んだ。
三試合目に出てきたのはリーダーの一人、アンドレアであった。
若干怪しいとはいえ事実上の二連敗を受けて本命が動いたわけだ。
対するは≪銀色の狼≫の煽り女王ことクロエ。
「あらぁ? もう貴女が出てきちゃうのぉ? どうせ三タテされるんだから引っ込んでなさいよぉ。 そのほうが恥もかかないし、威厳も保たれるのよぉ? そんなこともわからないのかしらぁ? 貴族のお嬢ちゃぁん?」
出会いがしらのクロエのジャブにのけぞりそうになるのを気力で耐えるアンドレア。
プライドが高く、自身の能力にも自信がある彼女にとってお嬢ちゃん呼ばわりは侮辱以外のなんでもなかった。
「ご心配なく。 三連敗なんてことにはなり得ませんし、負けないのですから威厳を無くすはずもありません。 お気になさらなくても大丈夫ですわ。 お・ば・さ・ま?」
流石は名門貴族の令嬢、しっかりとカウンターをかましてきた。
それが火に油を注ぐ結果となったわけなのだが。
「……つまりクロエが加減も何もせずに暴れまわったわけか」
「加減はしてたよ。 実際、すさまじい威力の魔法をクロエが放っても彼女は傷のひとつもつかなかった。 しかし、クロエの一方的かつケガするギリギリのラインの攻撃から逃げまどっていたからまったく生きた心地がしなかっただろうな」
一瞬でも気を抜けば殺されるかもしれない。
そんな恐怖心に晒されながら戦うなんて常人では、ましてや実戦経験のない若者には不可能だ。
結果アンドレアはクロエの一方的な攻撃から逃げるだけで精いっぱいになり、そして足をもつれさせ、転び、そこで死を覚悟したのだろう、気の毒に失禁して気を失ってしまった。
もしかしたらずっとトラウマになってしまうかもしれない。
「……道理で修練場がボロボロだと思った」
咲良が視線を横の修練場にやれば、いたるところに破壊の跡が見て取れる。
「それはアタシのせいだけじゃないわよぉ」
「え? じゃあ、誰が?」
黙りこくったレティシアの代わりにシャルが答えた。
「実はそのあと、オスカーってやつが前に出てきてね…… 流石に全敗じゃプライドもへったくれもないからな、リーダー同士で戦わせろって言ってきたんだ。 だいぶ上から目線だったけどね」
流石に自分たちとの実力差が分かっただろうにそれでも挑んでくるその意気やよし、と前に出たレティシア。
するとどうもオスカーが驚いた顔を浮かべている。
そしてこう言い放った、いや言い放ってしまった。
「う……嘘だろ? こんな子供が?」
と。
「彼は地獄の門を開けてしまったのであった―――」
「気の毒に……」
挑んだのはオスカーのほうだが、その後の展開が容易に想像できてサリアはついオスカーのほうを憐れんでしまった。
「で、多くの若者にトラウマを植え付けたうえ修練場も派手に壊したので揃って反省させられてるってわけ。 ひでぇ話だよなぁ、私は真面目にやったぞ」
「ウチとベルは戦ってすらおらんぞな」
「流石にやりすぎたな、マルクとやらも気の毒に。 まあ、生徒はいうことを聞くようになるかもしれないが……」
トラウマで何もできなくなる、ということにならなければだが。
下手すると修練場に行くのすら嫌がるようにならなければいいが、とジュリは内心ため息をついた。
「それで? マルク先生とやらはどこに?」
「さあな私たちに正座してろと言ったっきりどこかへ行った」
大方、今回の一件の後始末でもしているのだろう。
今回の一件はそこそこ大きな貴族の子息子女が絡んでいるだけに特に大きくなる可能性がある。
マルクもずっと気が休まらない日々がまだ続くわけだ。
「で、これからどうする? お前たちのことはマルク先生が戻ってくるまで放置でいいのか?」
「なんで正座させっぱなしなんだよ」
『それも少々気の毒な話だねぇ、いいだろう! 私の権限で君たちを開放することにしようじゃないか!』
急に聞こえたこの場の誰のものでもない声、その主はあろうことか、修練場の地面から生えてきた花から聞こえてきた。
主人公パーティーがtwitterを始めたようです。
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