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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
A Study in Silver ~銀色の研究~
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異世界の記憶 SIDE 咲良

(サリア) 世の中興奮することいっぱいありますけどね、一番興奮するのは図書館にいるときね。


(咲良) ちょっとなに言ってるかわかんない。


(サリア) なんで……え、ちょっと、え? 早くない?


図書館ではお静かに。

 さて、私たちはライラとククルについていくように言われたわけなので、そのままついて行ったのだけれど、とある部屋に二人が案内されたところでスタッフらしき人に呼び止められてしまった。


 「申し訳ありませんが、関係者以外は立ち入りということで」


 と、カエデさんともども摘み出されてしまった。

 いや、入っていないから正確には摘み出されてはいないか。

 

 「分かってはいたことですが仕方ありませんね。 控室では研究発表の最終調整が行われています。 中には極秘の技術やデータもありますから、おいそれと人を入れることはできないんですよ」


 そりゃそうか、データとかパクられたら一大事だもんね。


 「さて、どうするサリア、サクラ。 本番までは一時間半以上あるそうだが」


 一時間半か。

 ちょっと待ち時間にしては長いな。

 どこかで時間つぶしたほうがいいだろうか。


 「構内を見てまわってもいいけど……あんまり面白そうなところなさそうだよね?」


 それも一理ある。

 別に私たちここに通うわけじゃないから見学したって仕方ない面は多分にある。


 「一応、各研究室に関しては学生、学校関係者以外の立ち入りは禁止です。 それ以外の場所、教室や食堂、図書館などは自由に出入りできます」


 「食堂!」


 「図書館!」


 一応言っておくと、食堂、といったのがサリアで図書館と言ったのが私である。

 彼女がなんで食堂って言ったのか、理由はお察しである。

 

 「食堂か……昼前にこいつを連れていくと、多くの学生が昼食にありつけ無さそうだ。 却下だな」


 「そんな!」


 「行くならせめて昼飯時だな。 それで? サクラは図書館に食いついたが何か調べ物でも?」


 眼光鋭いジュリさんに見られると、なんだか責められている気がする。

 本人にその気は全くないんだろうけど。


 私はレティシアさんと話していた転移魔法というものについて話した。

 するとサリアとカグヤさんはキョトンとし、ジュリさんは難しそうに考え込んだ。


 「そうか転移魔法か……確かに糸口ということでは一番の近道かもしれないが……だが難しいだろうな」


 「確かそれも新三大なんたら問題とやらに入ってるんじゃなかったっけ? 前にライラから聞いたことがあるよ? 誰もそれ実現できてないってことだよね?」


 「いや、厳密にいうと実現不可能ではない」


 「「「え? うそ!?」」」


 カグヤさんまで驚いてしまっている。

 

 「でもジュリ、出来ているなら、難問とやらにはならないんじゃないか? というか、もっと広まっていそうなものだけれど?」


 「まあ、落ち着け。 折角だから図書館でその辺を話しつつ調べてみよう」


***


 「今から二千年ほど前、大陸は七つに分断されていたといわれている。 そしてそれぞれの大陸に、人、エルフ、ドワーフ、獣人、妖精、龍族、それから魔族。 サリアとカグヤは聞いたことくらいはあるんじゃないか?」


 「いや、私は無い。 これでも無学なものでね」


 「威張るもんじゃないですけど……ですが私は一度だけお聞きしたことがあります。 ですがそれは物語、フィクションであって断言でない、そういうたぐいの話であると認識しておりますが」


 そんなカグヤさんに対してジュリさんは首を振った。


 「半分はな。 だが……ああ、これだ『創世の物語』、この中央大陸の成り立ちが書かれている。 えてしてこういうものは事実と空想を混ぜてしまいがちだからな」

 

 そう言ってジュリさんは懐かしそうに本のページをめくる。

 その手はなんだか昔の子供のころを懐かしんでいるようだ。

 何百年前とかいう話になるだろうけど。


 「話を戻すが、これによると分断されていた大陸があるとき一つに結合し、そこで住んでいた民族同士で諍いが起こった。 いや、もはや戦争と言ったほうが正しいな」


 歴史と戦争は引き離せない。

 まして当時の人たちからすればほかの種族は異界の生物にも等しい。

 排除したくなるのかもしれないし、もし言語によるコミュニケーションが取れないなら対話なんて不可能だ。

 そりゃ戦争にもなるか……

 それがいいことだなんて決してないけどね。


 「で、その際、魔族が使ったとされる魔法のひとつが転移魔法だ。 遠くからの物資を運ぶのに使われていたといわれている」


 「だとしたらジュリ、やはり先ほどの疑問に戻るよ。 なんでそんな便利な魔法が現在にまで伝えられていない?」 


 「そもそも現在使われていない魔法があるということをジュリさんはどうやって知っているんですか?」


 「この本に書いてあるから……というのが一番の理由だが…… 少なくともこの時代にかなり大きな戦争があったというのは歴史学者の共通認識らしい。 で、彼らに言わせると魔族の動きを追うと転移魔法でも使えないと説明できないところがあるんだそうだ」


 「物資がとんでもなく早く運ばれてきたんですかね? 『一晩で食料があんなに増えてる!』とか」


 「さあな…… ただ、なぜこの魔法が伝えられていないのかと聞かれればそれは私にもわからんな。 時代が変わったといったって平和な世でも使えそうな魔法だから伝わらなかったのには理由があるんだろう。一子相伝の魔法だったものが後継者がいなくなって魔法を発動させられるものがいなくなったか、もしかしたら禁術として封印したのかもしれない」


 「禁術って……だとしたら」


 「今の研究者がやってることは、先祖の想いを無視……いや踏みにじってるってことになるな。 相当に罪深い」


 「「「うわぁ……」」」


 「ちなみになんだが、レティシアの使っている異次元庫、あれは転移魔法の一種であるといっている学者もいる」


 「レティのが? あれはでも転移してないじゃないか」


 「私も詳しくはわからんかったんだが……異次元庫は実際に荷物として運ぶという過程を経ないで、物を全く別の場所に運ぶことができる。 転移魔法は時間的には一瞬になってしまうが、労力なく物を運ぶという意味では近いものがある、ということなんだそうだ」


 確かに、異次元庫にしろ転移魔法にしろ仕事、つまりエネルギーの消費は起こっていないはずだ。

 いや、魔法で起こる事象を物理学で考えてよいのだろうか……?

 でも、とりあえず物の運搬に使えるという点では確かに近しい点はありそうだ。


 キーンコーンカーンコーン

 キーンコーンカーンコーン

 キーンコーンカーンコーン

 キーンコーンカーン


 「もうすぐ始まりますね。 会場に行きましょうか、みなさん」


 「一個だけなくて気持ち悪くないの!?」


***


 会場はやはりというべきか公会堂のようなイベントホールで、座席が扇状に広がっている。

 とりあえず私たちは座席がちょうど四つ空いて並んでいる座席に座った。


 「レティシアさんたち……まだ来てないんですかね?」


 「うーん、居たら結構目立つ集団だからなぁ、まだ修練場から戻ってきてないのかも」


 「じき来るだろう、始まるぞ」


 ホールの照明が落ちて発表会が始まった。

 会にはいろいろなところから集まった研究者やその卵がいて、自分の研究、自分が人生を賭けてきたものを皆に知らしめていた。

 

 しかし、私がそれについて語ることはできない。

 だって私は……すぐに眠ってしまったのだから―――――


***


 「やあ、ククル、ライラ、なかなかいい発表だったと思うよ。 ねえ、サクラ」


 「うん! 私、感動しちゃって……」


 「「よだれのあと」」


 ダメか。

 私たちは発表の終わった二人にジト目で見られつつ、口元をぬぐった。

 ジュリさんに至ってはあきれてため息までつかれてしまった。


 「ところでレティたちは? 僕らがステージから見渡した限りいなかったけど?」


 「そういえばそうだな…… まだ修練場にいるのかもしれないな。 行ってみるか」


 修練場は私たちの今いるホールから南西側にある体育館に併設されているらしい。

 私たちはそこに向かって渡り廊下を歩いていた。

 

 「かつてはコロシアムとして使われていたものを改装して使っている。 だから結構広い」


 「へぇ……」


 「ちょうどこの窓から見えるよ……あれ?」


 窓を除いたライラがなんとも間抜けな声を上げた。

 なかなかに珍しい。


 「どうしたんだい?」


 「いや……レティシア達らしき一団が修練場で正座させられている……ように見えた。 気のせいかもしれない」


 「ええ!? ど、どれ?」


 サリアが眼鏡をはずしライラが見たらしいあたりの見てみる。

 そしてすぐさまその表情は凍った。


 「本当だ…… みんな正座させられてる……」

(咲良) バカだと思った? これでも理系クラスだよ!!

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