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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
A Study in Silver ~銀色の研究~
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学び舎

(サリア) 世の中興奮することいっぱいありますけどね、一番興奮するのは授業中だね。


(咲良) 間違いないね。




(咲良) 気を付け、礼。 起立。


(サリア) 立ってなかったのかよ。


(咲良) 着席。


(サリア) 何もしないのかよ。 ただ立たせて座らせるって、なんの時間だったんだよ。


(咲良) 私語を慎め、出席番号17番!


(サリア) なんか囚人みたい。 やめてくんない、なんかヤダわ、番号で呼ばれんの。


(咲良) 今日はバレーボールをするぞ!


(サリア) 体育だったのかよ! なんだ起立、だの着席だの、要らないじゃんか。 もういいぜ。 


(咲良・サリア) ありがとうございました。

 この世界の教育制度としてはまず初等教育として六歳から六年初等学校に通い、そのあと中等教育として三年ある。

 教育制度こそあるものの、義務ではなくあくまで奨励なのでそもそも閉鎖的で近くに学校自体がない農村部やその日の暮らしに精一杯なスラムの子供たちが通うことはあまりない。

 ちなみに学費は国もちである。

 ここで将来の国に仕える優秀な人材を育てるのだ。

 この国では十五歳が成人とされており、それは中等学校の卒業と重なり、そのあとは働きに出るか、大学に通う。

 大学というのはそのまま咲良たちのいた世界の大学とほとんど似ており、大体自分の学びたいことを学ぶことができる。

 違うとすれば卒業までに二年しかないことと実は中等学校卒業前に飛び級として入学できることくらいか。

 中央大陸には大学はそれなりの数あるが、中でも指折りとされている学校が三校あり在籍生徒人数、教員の数と質、その教える内容は他の追随を許さない。

 一校目がブリッデン=アイランド連合王国の中央本島南部にあるフォックス大学である。

 歴史、法律、経営学などの学科が強く有名であるが、それ以外の分野も他と比べれば十分すぎるほどの教育を行っており、歴代の卒業生には王族や大貴族も多いほか、諸外国からも積極的に留学を受け入れているのも特徴的である。


 次が、ゲルーマニ帝国のベイアン軍学校である。

 その名の通り軍人、中でも将校を育てるための学校である。

 いわゆる防衛大学校に近く、魔法や剣などの戦闘訓練を積極的に行っているが、魔法などの研究も盛んでそれ目的で入学するものも少なくない。

 卒業後は自国の軍に入隊することにはなっているが、それは強制ではなく、そのまま入隊する者もいれば、拒否しどこかに就職する者、自国や自分の領地に戻る者も多い。

 これは貴族の子息が領地を治めるにあたって有事の際に自ら前線に出て戦うこともあるため、その訓練が目的であるとされているからである。


 最後がボードゥ魔法工科大学。

 魔法の教育と研究を強みにしいている大学である。

 理工学系の大学をイメージしてみればそれが近い。

 こと魔法関連に関しては大陸屈指の有名校であり、日夜様々な魔法を作り出したり、極めたりするべく学生も研究者も切磋琢磨している学校である。


 で、彼女たちは二週間かけてフランシス王国はボードゥ魔法工科大学へと到着、門の前に立っていた。


 「ここ本当に学校? まるで城じゃない」


 トリナはその学校の外観にあっけにとられている。


 「城っていうより教会じゃなぁい?」


 「いやどっちかっていうとお屋敷みたいぞな」 


 「学校だってば」


 クロエにしろハリィにしろやはり学校とは思えないらしい。

 しかし、ククルの言う通り、ここは学校である。

 建物の外壁は今しがた塗ったばかりのような白さで古めかしさを感じさせず、屋根や壁のデザインも建物というより彫刻のような芸術であるように見える。


 「どこの大学だって同じさ。 町全体の外観から浮かないように外観にデザインを施す。 まして学校のような大きな建物は目立つだろうからな」

 

 なんで学校の前でこんな無駄話しているかというと、実はライラたちは今回この大学から招待状を受け取っており、それを守衛に見せたところ、すぐ建物の中に引っ込んでしまったからである。

 流石に守衛のいない間にズカズカ敷地に入るわけにもいかないのでここで待ちぼうけというわけだ。

 

 「失敗したな。 こんなことならセッターに一報入れておくんだった」


 「なぁに? あいつここにいたわけぇ?」


 「セッターって? ……あれ?」


 咲良には聞いたことのない名前だった、はずだった。

 はずなのだが、「セッター」という語感というか響きに覚えがある。


 (バレーのセッター……じゃないな、聞き覚えがあるのは単語だけだ。 多分、この世界にきて言葉が通じない頃に聞いたんだ。 だから単語だけ拾って聞き覚えがあるとかないとかそういう話になるんだ……)


 《セッターめ、説明下手だなアイツ》


 「ああ!!」


 「どうしたのよ急に叫びだして!」


 トリナは狼の獣人なので常人より音に少々敏感である。


 「聞いたことある。 セリーナって人とレティシアさんが会話してたとき」


 「アンタって随分昔のこと覚えてるのね」


 「感心してるけどトリナ、確かその出来事は数か月前じゃなかったっけ?」


 「そだっけ?」


 セッターという人物は咲良がまさにレティシアたちと出会ったばかりのころ、レティシアたちがセリーナとテレビ電話のようなものと会話したときに名前が挙がった。

 うまくアイテムを使いこなせなかったらしいセリーナは恨めしそうに「セッター」なる人物の名を呼んでいた。


 (そうだ、この世界の言葉を覚えてあの時の会話の中身が分かって…… それで、セッターって誰だ? って思ったんだ)

 

 「セッターは私たちが所属しているクランの別のパーティーのリーダーだ。 といっても冒険者稼業は部下に任せて本人は研究ばかりしているがな。 つまり立場上私とは対等ってことになるな」


 「いえいえ、≪白銀の戦姫≫と並び称されるほど立派ではないよぅ、と博士は申しております。」


 「「「うわぁ!!」」」


 いつの間にか二人の少女が彼女らの背後を取っていた。


 「全然気づかんかったぞな……」


 「足音が全然聞き取れなかった……」


 「この世界の人って人の背後を取って驚かすのが好きなの!?」


 「ちょっとぉ、あんたたちのせいでこの世界の常識が誤って伝わりそうなんだけどぉ?」


 「貴女が例の…… 驚かせてしまったようで申し訳ありません。 私の名前はエリー、こっちはカグヤ。 わたくしたちはパフ・セッター様の助手兼生徒兼部下兼研究対象兼恋人です。」


 「あいつ自分の生徒に手を出したのか?」

 

 「恋人ではないです! 勘違いなさらないでくださいレティシアさん!」


 「まあ、どっちでもいいさ。 で? 何でお前たちが?」


 「守衛さんから学校のスタッフに話が行ってまして。 まぁ、当然事務方が案内とかすることになるんでしょうけど、そこに先生が捻じ込んで私たちが案内役するように取り計らった訳です」


 「正直案内なんて誰でもいい。 ずっと門の前で話しているわけにもいかないし、さっさと行こう」


 「あー、それなんですけどね。 ちょっと皆さんにお願いが。」


 「……だと思ったよ。 なんだ?」

 

 「わが校では、というかどこの学校でも魔法と剣術の実技科目があります。」


 「知ってる」


 「ああ、レティシアさんは学校に通ってらしたんでしたっけ? なら話は早いです。 先日、その実技科目の模擬戦で教員が生徒に惨敗しました。」


 「冗談だろ? 実技の教員なんてそれなりの実力がないとなれないんだぞ? それが学生のひよっこに負けた?」


 「残念ながら事実です。 で、案の定、学生は先生を舐め腐るようになりました。 だから実力者じゃないとなれない職なんですけどね? この学校には貴族の子息や魔術師希望の学生が多く、頭が良かったり、プライドが高かったりで、そもそも剣術とか軽んじてるんですよね。」


 「まあ、軽んじてなかったらなかったで学生に負けるようなやつに教えを請いたくはないが」


 「ですよねぇ。 で、そこで皆さんに学生をシメ…………授業に真剣に取り組んでもらえるようにしてもらえたらと。」


 「いいだろう。 そういうプライドの高い奴らの鼻をへし折るのは嫌いじゃない」


 「そうですか! いやぁ、レティシア様ならそう言って……」


 「ところでだ」


 「はい?」


 「どうもこの話、かなり内密にしたがっているのはなんでだ?」


 「「ぎくり」」


 デモンストレーションでもするのか模擬戦をするのかはわからないが、正式に授業として行うなら学校側が依頼すればいいことである。

 にもかかわらず、こうして強引に案内役を捻じ込む形で引き受けているところを見るに、もしかしたら学校はこれに関知していない、つまり、彼女らの独断ということになる。

 二人は回答にやや窮していたが、すぐに観念しカグヤが口を開いた。


 「……最初は先生がこの役目になるはずでした。 先生も一応冒険者ですから」


 「……ごねたのか?」


 二人は恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうに頷いた。


 「先生は基本的に汗をかく労働がお嫌いです。 だから大学に所属することにしたのにこれでは話が違うと。 なので、《銀色の狼》の皆々様がいらっしゃると聞いてそのお話を皆様にお流しすることにしたのです」


 「大丈夫なのか? 大学に話を通さないで何かあったら……まあ、無いだろうが、勝手に話を進めたら大学側も困るんじゃないか?」


 「はい。 前もって話を通しておいたのでは大学側も了承なさらないでしょう。 それにレティシア様達に連絡を取ろうにも文では時間的な余裕がなく厳しいでしょうし。 ですので呼んでしまってからその場で話をして大学側ももう話をしてしまったから、と受け入れざるを得ない状況にしようと」


 「なんて奴だ……」


 さしものレティシアも苦笑いである。


 「別にいいじゃない、ガキンチョの相手なんて余裕よ!」


 「そうだな、ベル、ハリィ、シャル、トリナ、クロエ、ついてこい。 あとはライラとククルについていけ。 じゃあ、解散」


 「またばらけたぞな」


 「十一人そろって何かやるのは何時かしらねぇ?」

(シャル) 手紙って……そんなことしなくたって例の水晶で連絡取れるんじゃね?


(レティシア) あいつあれ持ってないぞ。


(シャル) なんでだよ!? セッター(アイツ)が作ったんじゃないの!?


(レティシア) 仕事で忙しい時に連絡が来てその対応に時間を割かなきゃならんのが嫌らしい。


(咲良) 携帯持つのに向いてないタイプだ。

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