二人の一週間
(サリア) 世の中ね、興奮することいっぱいありますけど、一番興奮するのは夕飯食べるときね。
(咲良) 間違いないね。
(咲良) 夕飯できたよー
(サリア) わー、今日の晩ご飯何?
(咲良) 回鍋肉。
(サリア) 何で中華なんだよ。 一応西洋ファンタジーっていう世界観だよ! ちゃんと考えてよ。
(咲良) じゃあ、ラクレットチーズ
(サリア) アルプスの少女か。 西洋風ってそういうことじゃないでしょ、もうちょっとパンとかパスタとか使ってさ。
(咲良) パンツとかパンスト!?
(サリア) 言ってないよ。 ソレ食べるって変態でしょうよ。
(咲良) ちょっとなに言ってるかわかんない。
(サリア) 何でなに言ってるかわかんないのさ。 そんなの食う奴いないでしょ、って。
(咲良) あらすじとか言わなくていいの?
(サリア) 散々コントやった後で言うなよ。 もういいぜ。
(咲良・サリア) ありがとうございました。
ライラとククル、生まれも性格も違うが似通ってるところもある。
例えば、研究者肌で頭がよく、探求心が強いところ。
例えば、一度集中してしまえばスイッチが入るがごとく没頭し、周りが目に入らなくなること。
「で? 時間の概念すら消え失せて一睡もせず、結果身体がが本能的に危機を感じて強制的に眠ったって? 流石に呆れるよ?」
「返す言葉もない……」
「屈辱的……」
当然風呂にも入ってなかった二人は、アパートメントの一階の端にある共用風呂場にベルとサリアによって連れてこられ、頭を洗われていた。
その自分のありさまにライラは恥じ入り、ククルは悔しさを滲ませていた。
ちなみにほかの人員はこれまた共用のキッチンにて夕飯の支度をしている。
料理の腕に若干不安な者が一名ほど混じっているが、邪魔しなければ、まぁ、問題あるまい。
ちなみにこの世界には風呂は魔法で沸かせるが、シャワーは大きな浴場にしかない無い。
よってお湯で流す場合は浴槽から湯を直接すくうのである。
「よし、終わりだ。 続きは夕飯後にしよう。 空腹で湯船に入るのは危ない」
「それ以前に浴槽で気絶しそうですが」
「否定はできない。 けれど、二人が思っているよりも僕らは空腹でもない」
確かに一週間断食してたにしてはやつれていないようにも見える。
決してやつれていないわけでもないが。
「何で?」
「サクラがサンドイッチ作り置きしておいてくれてたんだ。 三日分くらいだったけれど」
「それでも三、四日ほど断食ではないですか」
「それに研究に集中していたせいでそんなにしっかり量を食べたわけじゃない。 断食だったのは一、二日ほど」
「そんな…… 食べる量も少ないのに一日断食なんて……」
サリアの顔がどんどん絶望に満ちていく。
「サリアさんの言っていることはあながち間違いではないのですが、どうにも貴女の胃のキャパが非常識なせいで大げさに聞こえてしまいますね」
「ちょっとなに言ってるのかわかんない」
「なんですかそれは? ああ、サンドウィッチだからですか」
四人が風呂場から出ると、咲良たちが夕飯の支度を済ませていた。
その一方、レティシアとトリナはというとソファーの上でちょこんと座っていた。
そこはかとなく普段よりも小さく見える。
何でそんなことになっているのか、その答えは誰でも想像できた。
「戦力としてカウントできないどころか足を引っ張ってマイナスに作用するから味見係という名の戦力外通告を受けて、いたたまれなくなりここで待機しているで正解?」
「「…………」」
二人の沈黙がククルの回答が正解であると応えていた。
それは仕方のないことである、だって事実なのだから二人が言い返せる道理はない。
しかし、そのあとのククルの一言は些か余計であった。
「大概いい大人なのに……」
ついつい本音が漏れてしまったわけだが、流石にそこまで馬鹿にされるのは二人にとっても不本意であったらしい。
この世界では国や地域によって差はあれど、十五歳を過ぎれば成人、大人扱いとなる。
「料理ができないことがそんなに情けないか? 何徹もして電池切れを起こすほうがよっぽど大人げ……あ、子供か」
売り言葉に買い言葉、ククルが点けた炎にレティシアは油を注いだ。
しかし、ククルはそれを鎮火させるどころかそこに油を通り越して爆薬を投下した。
「成人しているのに子供体型な人に言われても説得力ないし」
「そうかそうか! ようし! そこまで口が回るほど元気なら相手してやろう、表に出ろ!」
「お嬢、わが子を見つめる母親のような慈しみを持った笑顔で大人げないこと言うなよ」
シャルたちが仲裁がてら料理を持って来たので夕飯となった。
「そういえば二人はなんの研究をしてるの?」
咲良は二人が研究の発表会の準備をしているところまでは聞いているが、そもそも「何の」研究をしているのかまでは知らなかった。
「「永続発動型魔法石の人工的な生成」」
「え?」
咲良は一瞬この世界の言語を忘れちゃったのかな?と思った。
人間は理解できない単語をつらつら並べ捲し立てられるとあたかも相手が外国語をしゃべっているかのように聞こえる、あの状態である。
結果、咲良は何とも間抜けなきょとん顔を晒すことになったのである。
「わかりやすく言うとね? 魔法石って基本的に使い捨てなの。 でもそんなの勿体ないからなるべく長持ちさせたい、できるなら永続的に使えるのが望ましいよね」
「確かに、部屋の灯りに使う魔法石も二、三か月くらいで使えなくなるもんね……」
「一応、自然界に永続使用できる魔法石はある。 けれどかなり希少な物質で採集できる場所も量も限られている。 ゆえに用途も自ずと限られてしまう」
「なるほど、でも人工的に作れれば広く浸透させられるってことか……」
「「そういうこと」」
「で、その石とやらはできたのか?」
シャルの問いに二人は首を横に振る。
「今はまだ理論を組み立てている段階、実際に生成してみるのはもっと先のこと」
「それに実際問題、今はどれだけ長持ちさせられるか、っていう方向にどの研究者も動いているから道のりはかなり遠いんだと思う」
「それって『魔法工学における三大問題』のひとつじゃなかったか?」
レティシアの口からまたもや知らない単語が飛び出す。
しかし、各人の表情を見るに今度はシャルたちも知らないらしい。
「そういうのがあるらしいんだ。 新たな魔法を作り出す研究を魔法工学というんだが、その中でも実現できない、もしくは不可能とされているものだ。 大の大人が束になっても解けない難題にたった二人、それもその若さで挑もうっていうんだからすごいものじゃないか」
「もっと尊敬してもいいんだよ?」
とククルは無い胸を張るが、
「子供なのは変わんねぇよ」
とシャルに一蹴されてしまった。
「大人のわりに全然肉体的に成長してない人に言われたくないし」
「そうかそうか! よぅし!表に出ろ!」
「お前さっき私に大人げないこと言うなとか言ってなかったか?」
「もう少し静かに食事ができないの……?」
咲良の声は誰に聞かれることもなく、ただ空気の振動となってどこかへ消えてしまった。
***
その夜、入浴を済ませ、部屋に戻ろうと二階へ続く階段を上ると、二階の廊下の柵にもたれかかっているレティシアがいた。
「サクラかもう休むのか?」
「あ、はい…… おやすみなさぁ~い……」
やはり咲良はどうもレティシアと会話するときは気後れしてしまうようである。
「そうだ、夕食のときの話なんだがな、お前が異世界に戻る方法のヒントくらいはあるかもしれん」
「え! うそ! あるの!?」
「落ち着け。 実はあのとき私が言ってた『魔法工学における三大問題』のなかに転移魔法に関するものがある。 異世界まで行くような代物ではないがまぁ、一番近いんじゃないか?」
「でも、難問扱いされてるってことはまだ、使える人なんていないんじゃないですか?」
「だろうな、まだ短距離の無機物の移動しかできないと聞いた。 異世界に行くなんて遥か先かもしれない。 だが私だって又聞きしたものを話しているに過ぎないし、詳しいことはわからないから調べてみたらどうだ。 もしかしたら専門家の意見も聞けるかもしれない」
「なるほど…… もしかしたら研究の進歩があるかもしれないですしね」
「そういうことだ。 全員で行くことになったとはいえ、全員で発表を聞く必要もない。 いろいろと調べる時間はあるだろう。 まぁ、問題が問題だけに期待し過ぎるのもよくないとは思うが」
「ですね。 そういえばその発表ってどこであるんですか?」
「ボードゥ魔法工科大学、この国の南西部にある。 ここから馬車で半月くらいかな」
「また遠いなぁ……」
(咲良) ん? 馬車移動で半月かかるって二章でここに来る時より遠いんですか?
(レティシア) いや、あの時の道程のほうが遠いぞ?
(咲良) え? じゃあ、何で?
(レティシア) 馬車なんだから人間よりは早く着くだろうって思ってたら、あれ人の歩行速度と変わらんらしいな。 だから、本来なら一か月はかかってたはずなんだ。 どうも作者は早馬の速度を調べたらしい。
(咲良) 休まずに馬車を全速力で引く馬とかやばすぎるんですけど。
(レティシア) そうか! そういう馬車に乗っていたことにしたらいいんじゃないか!?
(咲良) 乗ってる私たちも大変ですよ。




