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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
異世界迷宮探索行
60/125

正体 2

(レティシア) レッサーパンダはジャイアントパンダより先に発見され当時はパンダと呼ばれていたらしいがジャイアントパンダの方が有名になるにつれて「小さい」という意味のレッサーが頭に付けられたらしい。 なお、レッサーは蔑称なので言う際は注意するように。


(咲良) 作者は堂々とレッサーって言ってたよね。

 それからヴェルナーは何度かダンジョンに潜った。

 それは、単純に魔物を狩るとかいう目的ではなく、テアの遺体、それが無理でも遺品を何か見つけられないか、という思いのものであった。

 しかし、彼が見つけたものは遺体でなければ、当然遺品などでもなかった。

 ある意味では一番彼が見つけたかったものであり、一番見つけたくなかったものだともいえた。


 ソレ(・・)はヴェルナーの後姿をとらえると襲い掛かった。

 見たこともない敵であったが、この時のヴェルナーの選択は様子見でも撤退でもなく、真正面からの迎撃だった。

 正体不明の相手には些か褒められたものではないが、この時の彼は恋人を失ったショックゆえに投げやりになっていたのだろう。

 そんな状態でキメラに勝てるはずもなく、簡単に攻撃をいなされ、吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。

 そしてキメラが止めとばかりに眼前に迫ったとき、互いが初めて顔を見合わせた。

 なぜ今までわからなかったのか。

 いや、あんなに様変わりしていてはわかるはずもないだろうが、このキメラは明らかにテアだった。

 テアが生きていた。

 ただし人とは異なる異形の姿で。

 一方、キメラとなってしまったテアはといえばヴェルナーのことを認識しているのかしていないのか、振り上げた手をおろして、どこかへと消えていった。


 「若手の冒険者が行方不明になったって噂が立ち始めたのはそれからすぐ後だ。 テアと無関係だって考えるほうが無理だろ? きっとあいつが自分を殺そうとしたあの三人に復讐しようとしてるんだと思った。 でも、もう正気じゃなくなって若手っぽい冒険者を手当たり次第に襲ってるんだと思った」


 「そのことはギルドには?」


 咲良の問いにヴェルナーは言葉を発さずただ首を横に振った。

 その真意をベルが代弁する。


 「相手の素性が分かればいくらか対処のしようはあります。 経験のある者の前には表れないというのは厄介ですが、ある程度出現ポイントにあたりがつくなら探せないことはありません」


 「じゃあなんで言わなかったんですか?」


 「ギルドがこの件を公表しなかったのは犯人が冒険者であったからだと考えたからに他ありません。 ギルドが冒険者を御せないというのは些か格好が悪いですからね。 そもそもギルドと国は折り合いが悪いんです。 ギルドが冒険者を御せないとしたら優秀な戦力を常に欲している国の付け入る隙となります」


 「あれ? レティシアさんそんなこと言ってたっけ?」


 「あえて言わなかったのですよ。 人の往来で国のことをとやかく言うのは少々危険ですから。 さて、話を戻しますが、犯人が冒険者ではなくそれどころか人でもないキメラだとなれば、ギルドは堂々と討伐依頼を出せます。 それは貴方にとってよろしくなかった」


 「あたりまえだろ。 こんなことになったって俺が愛した女なんだ。 お前はさっき人ではないといったが、俺にとってはまだあの時と同じテアはテアであることに変わりはないんだ。 正気じゃない、ほとんど獣と変わりない状態だったとしてもな」


 「それで、貴方はダンジョンにあまり人を入れないようにしつつ、彼女をもとに戻す方法でも探していたのでしょうか?」


 「………… 入ってくれないに越したことはないが、入ったとしてもその後を追えばテアに会えるかもしれないと思った。 今回初めてうまくいったわけだが、戦場に入った時にお前らはテアを殺す気だって思ったよ。 もう止められないと。 利用するような真似をして悪かった」


 「キメラをもとに戻す方法というのはかなり高等技術のようです。 できる人間を探すのは難しいでしょう。 それに戻したとしても、彼女(・・)は下半身まるごとなくなっています。 どの道生きられなかったと思います。 もっと言うならダンジョンは内部の魔物は外に出られないようになっています。 彼女に出る気がなかった(・・・・・・・・)のか出られなかった(・・・・・・・)のか、それはわかりませんが」


 「わかってるよ、わかってたさ! 希望がないなんてことは! でも……諦めきらなかったんだよ……」 

 

 結論から言えば、この場合ベルの考えが正しい(・・・)し、ヴェルナーの予測もまた正しい(・・・)

 テアが生きて帰ってくる可能性はゼロに等しい。

 しかし、正しさばかりがこの世のすべてではないから悩ましい。 

 

 「それに……どの道殺すことになるんだとしたら、俺の手でやりたかった。 …………でも実際に手を下す踏ん切りもつかず、ついたとしても勝ち目が薄いかどうか…… 結局、先延ばしにして徒に犠牲者を増やすだけだったな……」


 「……トリナ、このキメラ、上半身と下半身をきれいに切断できたりしない?」


 「もう死んでるだろうしできると思うけど…… どうするの? 死体刻む趣味なんかあったっけ?」


 「そんなんじゃないよ。 切り離せれば、フェンリルの死骸とそのフェンリルと戦って相打ちになって果てた女冒険者ってことになるんじゃない?」


 「レッサーフェンリルと戦って相討ちというのは冒険者としては十分に自慢できる立派な戦果でしょうね。 自慢する人がこの世にいないというのが残念ですが」


 「きっとテアさんをみんなたたえるだろうね。 キメラなった人間なんて珍しいみたいだし研究素材として回収されるんじゃない? きっと人として扱われることなんてないんじゃないかなぁ?」


 「だったら戦いの中で死んだ冒険者らしい終わりだったことにしたほうがいい……ってか」


 「まぁ、らしいかどうかは知らないですけど。 愛する人が死んでもなおご無体に扱われるよりかはマシじゃないかと。 こんなこと言っちゃ怒るかもしれないけど、ダンジョン内で失った最愛の人の遺体をその腕に抱きかかえながら帰還した冒険者っていう中々インパクトもあって人の心を胸打つストーリーだから」

 

 「……俺がこいつを…… 俺にそんな資格があるんだろうか」


 「は?」


 「助けることもできず自分の愛する人を化け物にし、もとに戻す方法も見つけられず、かといって楽にしてやる踏ん切りもつかないで人任せ。 俺にテアを愛する資格はあるんだろうか?」


 「そんなん知りません」


 「ええ……」


 (((ええ……)))


 ヴェルナーの魂を吐き出したかのような独白、それを咲良はいとも簡単にいなしてしまった。

 それにはヴェルナーのみならずベルたちも内心驚いていた。


 「テアさんは貴方と顔を突き合わせたときに攻撃をやめて姿を消したんですよね? 仕留める寸前で矛を収めるなんて理性の無い生き物のすることとも思えません。 少なくともその時はまだキメラではなくテアさんだったんじゃないですか? そして自分を置いて行った貴方に手を出さなかった。 彼女の意思を知る方法なんてすでにありませんが……察することはできますよね、私たちなんかよりもあなたのほうが」




***




 その日は大きな戦闘があったこともあって、三階層先にしか進めず、そこで休むことになった。

 忘れかけているが彼女たちは修行目的でダンジョンに潜っているのである。

 例のギルドからの非公式のお願いはあくまでもついでである。

 その夜のテントにはトリナと咲良が並んで眠っていた。

 さらにトリナの隣にはベルの寝袋があって、その隣にハリィが眠っている。

 ベルは現在見張り兼火の番をしている。


 「ねぇサクラ」


 「なに?」


 ハリィが爆睡している横で二人は未だに眠れないでいた。


 「あのオッサンが連れて戻っていった……テアって言ったっけ? その人の意識があってわざとあのオッサンを殺さなかったって……ホントに思ってる?」


 トリナの勘でしかないがキメラになった瞬間よりテアには理性らしきものは無かったのではないかと思っている。

 キメラになってから段々人らしき部分が消えていくものでもなさそうだ、というのがその根拠ではあるが、キメラのことをそんなに詳しく知らないトリナは断言もできない。

 だから咲良の考えも否定はできないわけなのだが……


 「思ってないよ?」


 「思ってないの!?」


 「しーっ」


 繰り返すが隣ではハリィが眠っている。


 「あのキメラ、言葉は話してたけどだいぶ知能レベルが低そうだったんだよね…… 会話もできてないっぽいし…… 手をおろしたのも動物的な危機回避本能だったりして」


 「なにそれ? どういうこと?」


 「生き物の生存本能的に戦っちゃいけない相手ってのが判ってるんだよ。 わざわざ死にに行くなんてことするはずも無いからね。 上半身がテアさんだったことを察すると彼女が敵わない相手かな。 多分ヴェルナーさんの方が実力は上なんだろうね」


「だから、あのオッサンの動きが鈍ったっぽい時に逃げたって? まさか若手ばっか襲ってたのも、単純に勝てそうな相手だったから?」


「ま、全部私の予想だけどね。 案外、私のでっち上げの方が正解だったりするかもね」


「で? あんたは嘘だと判ってる上であんなこと言ったわけ?」


「死人に口無し、正しいかどうかは誰にもわからないよ。 それにあのまま放っておいたらヴェルナーさん、テアさんの後を追いそうだったんだもん」


「それは……私もちょっと思ったけど」


ヴェルナーはテアを失ってからどうもテアのためだけに生きているかのように見えた。

テアが元に戻れば一番良いが、それがかなり厳しいことはヴェルナー自身判っていそうだし、後は手を下す踏ん切りをつけるばかりの状態だった。

それが出来ないから、うだうだしていたわけだが。

さて、テアが居なくなった場合ヴェルナーはどうするか。

一番厄介なのはヴェルナーが自害する場合で、二人にはその可能性が高いように見えたのだ。


「嘘かもしれないけど、どうせ否定する人もいないんだし別に良いんじゃない? 何もない善より、意味のある偽善だよ」


咲良はそれから大きく欠伸を一つして寝返りを打ってトリナに背を向けるのだった。

(ハリィ) いやぁ、今回も激しい戦いだったぞな。


(トリナ) でも勝ったわよ! 私たちが負けるわけないんだから!


(咲良) ダンジョンで起こった事件も解決できたし、万々歳だね!


(ベル) 何終わった感出してるんですか? 修行や採集が主目的なのですから、まだダンジョンから出ませんよ?


(ハリィ・トリナ・咲良) ダメかぁ~


(ベル)いけると思ったのですか?


この章、後一回で終わるんですけどね。

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