翌朝 SIDE 咲良
「う~ん、眩しい……」
窓から差し込む陽の光で目を覚ます。
! まずい!
早く仕事に行かないと……ん?
身体が動かない。
それもそのはず、何を隠そう私は今、美少女二人に両腕をがっちりホールドされてるからね。
二人の少女、ライラとククルの寝顔を見て、昨日の出来事を思い出した。
私は、高校のクラスメイト(の生まれ変わり)、により奴隷として虐げられていた日々から解放されたんだ。
そう考えると、一先ず安心感を得られ、深いため息をつく。
でも、早いとこ起きて腕を離してほしい。
「はぁぁい、ネボスケども、とっとと起きなさぁい」
猫なで声でしかも日本語の言葉が聞こえたものだから反射的にそちらのほうを向く。
「あらぁ、もう起きてたのぉ。
じゃあ、早いとこ来なさいよぉ」
黒い服に銀髪の女性、名前は確かクロエさんだったか。
「今ちょっと動けなくて」
クロエさんは私たちの様子を見て察したらしく。
「全く世話が焼けるわねぇ」
と言って両脇の二人を放り投げた。
『とっととお・き・ろ?』
『うう……』
『むぅ』
放り投げた先がもう一つのベッドだったとはいえふつう投げるか?
怒らせたらおっかない人なのかもしれない。
クロエさんと、まだ寝ぼけているっぽい二人と一緒に部屋を出、階段を降りるとテーブルの一角にレティシアさんたちがいた。
「やあ、おはよう、昨日は眠れたかな?」
「ええ、それはもう、何か月ぶりかの熟睡でしたよ」
肩をすくめて冗談交じりで言った風だが実際、熟睡はあまりできていなかった。
私を飼っていた男はそれほど恐ろしかったのである。
「それは何より、さあ早く朝食をすませるといい」
「はあ……」
そう言われてもメニューはあるが当然異世界語なので読めない。
「……一応、おすすめはオークのステーキとある」
隣のライラちゃんが教えてくれた。
目が半分開いてないから、まだ覚醒してないと見える。
まあ、目も開いてない人よりはましだろうけど。
「オークってあのなんか豚みたいなの?」
「うん、日本にはいないと聞いていたがもしかしているの?」
「いや、いないよ。
フィクションで見たことあるだけ」
「ああ、そんなことリーダーも言ってたっけ」
「でも、オークって食べられるんだ」
「うん、森の害獣や魔獣なんかは駆除して食料にすることも多い。
オークは豚肉に近いが、脂身が少なく、噛みごたえはあるから結構人気。
ただ、朝から食べるのはお勧めしない」
あさからステーキは重いもんねぇ……
とりあえず、朝食として一般的だという、パンとサラダとスープにすることにした。
その朝食の最中、
『レティシアさんですか?
郵便を預かっています』
店に入ってきた男性がレティシアさんに封筒を渡す。
レティシアさんは透かして中身を見ようとするが、無理だったようで、封筒を破って手紙を出した。
『おや、ライネル家ご当主からの手紙じゃないか』
「なんて?」
レティシアさんが異世界語で話すので、ライラちゃんに通訳してもらう
「あなたが前いたところの当主からの手紙らしい」
『それで手紙にはなんと?』
ベルが顔を強張らせつつ尋ねる。
『咲良の所有権をお渡ししたいので本日の正午屋敷に来てほしいと』
「私まだ、あの人の物なんですね」
その事実になんだか悲しくなる
「正確にはリーダーの所有物となってはいる。
ただ、書面上のやり取り、正式な奴隷契約はまだだったのでそれをしておきたいということだと思われる」
『昨日の今日で、ほんとにそれだけ?』
『私もトリナにさんせー、ソレは口実で絶対、昨日の仕返し来るよ。
昨日のうちに全部済ませてあっちの入る余地作らなきゃよかったのに』
『言ってくれるなシャル。
そうしたらしたで面倒なことになってたさ。
あの場は早く帰って正解だよ』
『で? どうするの?
やっぱカチコミ?』
カチコミってヤクザかよ。
この犬少女は随分血の気が多いなー。
あ、狼か。
それじゃ仕方ない
「とりあえず君には来てもらわなくてはいけないな。
嫌な記憶ばかりの場所ではあるが」
「はい」
『レティシア様、何人で伺いますか?
流石に全員では多いと思いますが』
『そうだな、ベルとハリィとライラは私についてこい。
ライラは彼女の通訳だ』
『かしこまりました』
『任せるぜよ!』
『了解』「だそうだ、レティはきっと会談で忙しいだろうから私が通訳するから」
「はい、お願いします」
『サリアとククルは商工ギルドに行ってくれ。
調べてほしいことがある』
『はい。 ……ククル、起きてるか?』
『……うん』
ダメじゃないかな。
『他四人は、やって欲しいことがある』
レティシアはシャル、トリナ、ジュリ、クロエを手招きで呼び、ヒソヒソ声で何かを話し出した。
「何の話?」
「さぁ……」
「……あの、昨日の仕返しって、私の?」
「それじゃない、昨日あなたが寝た後、何者かの奇襲にあった。
多分、ライネル家、あなたのいたところの関係者だろう」
「え!? なにサラッと重要なこと言ってんですか?」
「大したことない。
すぐに撃退できた。
寝不足にはなったけど」
『……ということだ、よろしく頼む』
『へ~い』
『はーい』
『承知した』
『りょうかぁーい』
『よし、それじゃあ最後に……』
最後に?
何だろう
「君の名は?」
前前前世……じゃなくて前世で知ってたんじゃないの?
***
屋敷までの移動は馬車だった。
昨日は夜遅かったから、移動手段確保できなかったんだったか。
馬車は私の隣にハリィという人、向かいにライラ、レティシアが座り、ベルは馬車の上に座っている。
五人だとちょっと狭いもんね。
それにしても、やっと解放されたと思っていたら、まさか戻らなくてはいけないなんて……
勿論あの男の持ち物ではなくなったわけだけど、あの顔を見ると、昨日までの奴隷時代の記憶がよみがえってきそうで、憂鬱になる。
それに昨日の襲撃。
手荒なことになったらヤだなぁ……
「はぁ……」
「どうした?」
「なんかいろいろ不安になっちゃって。
襲撃されたとかいうし、怖いんですよ?」
『なんか知らんが、心配せんでもええよ?
うち、体の丈夫さなら自信あるけん、もしもの時には盾にでもすればいいぜよ』
「って言ってる」
「はぁ……」
話の内容は頼もしいが、肩をバシバシ叩くのやめてほしい。
「じゃあ、お願いします。
でも、そのせいで怪我っていうのも嫌なので、自分の身も大事にしてくださいね」
『おう! 任せえ!』
ゴン!
勢いよく立ち上がったものだから天井に頭を打ち付けてしまった。
天井が低いわけじゃない。
ハリィさんはそれはそれは背が高いのだ。
パーティーの中は勿論のこと、その辺の男よりも大きい。
にも、関わらず顔やヘアスタイルはギャルみたいなキャピキャピしたものだから、なんともアンバランスである。
「あの…… つかぬことをお聞きしますが、ハリィさんの身長って、どのくらいですか?」
「百九十じゃきかないよね?」
「背伸びしてつま先立ちすれば二メートルは行くな」
『何の話しとるんじゃー
ニホンゴは全然わからんー』
『お前の身長って何センチ?』
レティシアさん聞いちゃったみたい。
身長がコンプレックスの人もいるんですよ。
『百九十四……くらいかの』
『『「デケェ……」』』
ついわたしも言っちゃった。
「おや……ついたみたいだ……」
窓を見ると、おおきな屋敷が見えた。
なんか話しているうちに到着してしまったらしい。
私にとってできるなら忘れたくても忘れられないであろうこの屋敷に。
「ああ、そうだ」
馬車から出たところでレティシアさんが振り向いた。
「屋敷に入ったらできるだけ私かライラの指示に従ってくれ。
何があってもな。
そうすれば、とりあえず君に怪我を負わせるようなことはしない」
実に頼もしいセリフだが、何があっても―――か、結局何かあるんだろな。
クロエ「あんたらなんでそんなに寝起き悪いわけぇ?」
ライラ「昨日の夜の戦いで寝不足で」
ククル「私も」
ライラ「いや、その時もう寝てたでしょう?」
ククル「まあ、サクラの話が盛り上がったからなのと、きっと彼女の腕が心地よかったせいだな」
咲良 「腕が心地いいとか初めて言われました」