決心 SIDE 咲良
本日!ではありませんが、明後日の月曜日にめでたくこの「残酷で美しい異世界より」は連載から一年を迎えます!!
一年間もモチベーションを保ち続けてこれたのはひとえに読んでくださっている皆様のおかげです。
ありがとうございます、ありがとうございます。
ほかの作者様と比べて多いんだか少ないんだかわかりませんが、毎週土曜日を楽しみにしていらっしゃる読者様がいる限り、そして作品を楽しんでいらっしゃる読者様がいる限り頑張っていきたいと思いますので今後とも「残酷で美しい異世界より」をよろしくお願いします。
「味方の数が減ったってやることは変わんないわ。 アンタが魔法で援護して私が斬る」
「それでどうにかなるかなぁ? あのキメラいまだに無傷なんだけど……」
「それは回復したからでしょ? その前に回復できないくらいに切り刻んでしまえばいいのよ」
言うは易しだけどさぁ……
まあ、ほかに代案があるわけじゃないし、やってみるか!
「行くわよ!」
「≪カマイタチ≫!」
トリナの号令で私はまたあのキメラの足をつぶすべく、カマイタチを見舞った。
「≪か、風の波≫」
その一撃は、キメラに届く前に、キメラ自身が放った魔法によって掻き消されてしまった。
カマイタチにしろ風の波にしろ、所詮は風を操作して攻撃しているだけ、ゆえに風同士がぶつかった場合は中和されやすい。
これは風属性の魔法の練習をしていた際にライラから言われていたこと。
驚きはしなかった。
ただ、足を止められなかったことは焦った。
トリナが突っ込んでいったわけだから、キメラに自由を与えてしまってはそれが上手くいかなくなる。
「足が満足でもその程度なの!? のろま!」
でもさほど心配はいらなかったらしい。
キメラは足が八本不規則に生えているせいで飛ぶのには強いが普通に歩くにはかえって難儀してしまうらしい。
じゃあ、なんで私に援護してって言ったのさ。
私が援護しかできないからだね、気を使わせたようで申し訳ない。
「やああああああ!!」
トリナはキメラを真正面から袈裟斬りで一閃、真っ二つ……とまではいかなかったが、キメラの傷口からは赤黒く血が噴き出し、口からも吐血した。
さすがにキメラにとっても大ダメージだったらしくすぐさま後ろに飛んでトリナと距離をとった。
体からは止めどなく血が流れ、息も乱れに乱れている。
その光景に私は息をのんだ。
「いける!」
そんな確信とともにトリナは再びキメラに斬りかかる。
しかし、やっぱりそういう確信ってフラグだったりするわけで、
「≪か、かまいたち≫」
「なっ!」
傷は相当深いはずなのに、その傷は先ほどの回復スピードをも上回る速さで回復してしまい、逆に私が放ったものと同じ魔法がキメラの右手からも放たれトリナに襲い掛かった。
「避けてトリナ! ≪風の波≫」
トリナを横に逃げさせて、先ほどキメラがやったように同種の風魔法で攻撃を打ち消す。
「ちょっと! さっきまでよりも傷の治り早いでしょ!? おまけに魔法じゃなくて自己回復。 アンタの魔法も使ってるし!」
「別に私のじゃないんだけどね…… 傷の回復と言い魔法といい…… 出す攻撃出す攻撃全部対応されてる…… まるで進化だよ……」
「まさか、この短時間で私たちに対応出来るようにすごいスピードで進化してるとかないわよね……」
「普通進化って何世代も経てするもんだし、身体の適応にしたって明らかにその範疇を超えてるよね…… まさかキメラになったことで単一個体での急速な自己進化ができるようになった……?」
「サクラ、ちょっと何言ってんの? え? あっちの世界の言葉使ってる?」(※使ってません)
いや、その可能性はたぶん低い。
キメラは複数の生き物を合成することでそれぞれが持つ特性を両立した生き物を作るという試みだとベルは言ってた。
それが正しいなら上半身部分の人間と下半身の狼か何か、それからスライムの特性が現れるはず……
下半身部分の生き物には自己進化能力があった?
でもあれって哺乳類っぽいし無さそう……
それとも人間に備わっていたものが開花した?
そんな簡単に開花なんてしないよね。
もしやスライムにそんな特性が?
いや、スライムなんて色によったら特徴こそあるけど基本的には跳ねるくらいだったし……
あ、腕は生えるんだけ。
まぁ、スライムが大きくなれば形を変化させるなんてマンガじゃよくある話……
『生えてくるのよ。 人間みたいに関節とか指はハッキリしていないけれど』
『人も食い始めるとか言葉を話し出すとか……』
あぁ!!
そういうことか!
「いつまで一人でモノローグなんてやってんのよ!」
「ぶへぇ!!」
一人で考えてると後ろから蹴りが入った。
「わかったよ! トリナ!」
「何が!? ひょっとしてあいつの倒し方!?」
「ううん。 もしかしたらスライムはこの世界で一番最強の生き物になるかもしれないっていう話」
「は? なにそれ? 何をどうしたらどういう発想になるわけ!? スライムよ!? 新米の冒険者だって倒せるわ。 っていうかこっち。 キメラが攻撃して来るかもしれない」
トリナに連れられ岩陰に隠れる。
「で? スライムがどうしたって?」
「四話前に話してたでしょ? スライムに腕が生えたとかしゃべるようになったとか」
「ああ、あれ……」
「でも実際それってありえないことなんだよ。 昆虫のような変態ならいざ知らず、環境などへの適応のために自己進化する生き物なんて見たことない。 まして、しゃべるようになるという知能の急激な向上なんて。 スライムなんて見るからに単細胞生物っぽいのにそれが多細胞生物であるかのように変化したってことだよ」
「え? なに? どういうこと?」
「例えば人間は赤ちゃんのうちは口がきけないけど、大人になればできるようになる。 でも犬だったら何年経とうとも言葉を話すことはないよね」
「そうね」
「あのキメラも同じだよ。 傷の回復スピードがダメージを受けるたびに上がってる。 魔法は人間の部分で対応できたんだとしても、自己回復は自分の意志じゃできないからね」
「は、はぁ……」
なんともわかってるんだかわかってないんだか曖昧な返事……いや、たぶんわかってないな。
「つまりね、スライムの異常ともいえる進化スピードがあのキメラにも受け継がれてる」
「!」
「スライムならまだいいよ。 多少大きくなったって倒せるし、でもあのキメラは違う。 スライムなんかより倒すのは当然難儀するし、もしかしたらスライムよりも進化スピードは速いかもしれない」
「つまり中途半端な攻撃じゃ却ってあいつを強くしてこっちの首を絞めるってわけね」
「おや、意外と理解が早い」
「馬鹿にしてんの!?」
「滅相もない。 たぶんだけど即死させられるくらいの攻撃がベストなんだと思う」
「っていわれてもねぇ…… 何かアイデアはある? あいつの息の根を止める方法」
レティシアさんの炎なら一瞬でキメラを焼き尽くせたかもしれない。
ライラの氷ならきっとキメラの活動を止められたのかもしれない。
いやだめだ。
二人ともここにはいない。
私たちでやるしかないんだ。
何か……何かないのかな……
キメラの息の根を止める方法……
息、の根?
………………!!
「サクラ! もしかして思いついた?」
「…………と思うけど……」
思いついたかもしれない。
けれどそれをどうやって実行する?
たぶん倒し方は思いついた、と思う。
けれどそこに至るまでにどうしたらいいかがわからない。
いや、それもわかっている。
ただ決心がつかないだけだ。
私が思いついた作戦はこの場では私しかできない。
けれども……
私にできるのだろうか?
「もう! 煮え切らないわねぇ!! 思いついたならあとは実行するのみでしょ!」
「いやそうだけどさ…… もし失敗したら……」
「それは失敗したときに考えればいいのよ! いちいち迷ってんじゃないわよ! いいから教えなさい! あいつを倒す方法ってやつを!」
「……わかった。 トリナにはキメラの動きを封じてほしい。 手足を切り落として動けなくして、魔法も打ちにくくさせて。 あとは私がやってみる」
「わかったわ!」
トリナは頼もしく頷き、岩陰から飛び出した。
キメラはその姿をとらえるや否や。
「≪ろ、ろっく≫」
「遅い!!」
キメラの魔法の発動と同時にまず両手を切り落とし、次いで足も数本切り落とした。
足がなくなったせいでキメラの動きは明らかに鈍くなる。
やっぱり、傷の回復ほど素早く手足は生えてこない。
当然だ。
傷を防ぐのは自然治癒でできるが、手足の切断をつなげたり、生やしたりはそれとはわけが違う。
そう思っていたのに。
「腕が生え……」
「サクラ!!」
正確には腕が生えたわけじゃない、キメラの胴体を覆っていたスライムが腕を生やしたのだ。
人間の腕と違って、スライムがそのまま腕を伸ばしたようなものだ。
そしてその腕はそのまま眼前へと迫り……
「≪氷の柱≫!」
突如地面から現れた氷の柱に捕縛された。
魔法を発動した主は、今まさにこちらに走ってくる、顔もよく知らない男の冒険者だった。
「いや、知らないってことはないだろう!? ダンジョンの入り口でウサギの子と話してたじゃないか」
「ああ……」
「いいからサクラ! 早くやりなさい!」
「はい!」
私は魔法の発動に意識を集中させる。
もしかしたら、この世界にはない魔法かもしれない。
そんなオリジナル魔法を今ここでぶっつけ本番で発動させようとしているのだ。
まず、空気を操作してキメラの周りに空気のドームを作る。
そしてその内側、キメラの周りの空気をドームの外へと出して、ドーム内、キメラの呼吸する空気を抜いて真空にしていく。
キメラはダメージに対して息を切らした。
つまり呼吸している。
であれば呼吸する空気さえ抜いてしまえば死に至ると思われる。
下手するとそれすら克服する可能性はあるものの、それは死ぬのが先か克服するのが先かの時間との勝負だろう。
つまり一種の賭けだ。
うまくいくように祈っていると、キメラは力なくだらんとその体を崩した。
一応、ただ意識を失っただけの可能性があるから、真空状態のまましばらく置いておく。
そしてその間もキメラが目覚めることはなかった。
どうやら私はその賭けに勝ったらしい。
「ふぅ……」
「お疲れ、サクラ」
「うまくいってよかった……」
私は全身の期からが抜ける感じがした。
「なんぞ? もう終わったぞな?」
「急ぐこともありませんでしたね。 お二人とも、お見事でした」
岩トカゲを倒したらしい二人は少なからずけがを負ったらしいが、それでも勝利はしたらしい。
まぁ、大きかったとはいえイワトカゲだったしね。
「やるなぁ、お嬢ちゃんたち、あんなタチの悪いキメラを二人で倒すなんてさ……」
「「誰(ぞな・ですか)?」」
あぁ、やっぱりね。
このお話を作るにあたっていろいろ調べて論理的に考えてこうなるんじゃね?と思って、執筆はしました。
とはいえ、一応理系とはいえ、専門分野ではないのでどこかしら間違ってる可能性もありますので、その辺は指摘していただければなと思っています。




