合獣
前回のあらすじ
ベルは勘のいい子供が嫌いらしい。
(咲良) いや、そこじゃなくない?
(トリナ) もっといいシーンあったでしょ!?
(咲良) 自分で言うのもどうだろう。
*予約投降し忘れたので手動で投稿しました。
キメラ、またの名を合獣と呼ばれるそれは、この世界においては実は珍しいことではない。
咲良が生きていた世界でもよくある話ではあるのだが、ラバやレオポンのように両親が異なる生き物と言うのはやはりこの世界にも存在するし、それ等はキメラとして分類される。
しかしながら、実際に一般的にキメラがそう呼ばれることはあまりない。
と言うのもキメラと呼ばれるものにはもう一つの生物がいるからである。
それはラバのように親同士の交配を介することなく作られる魔物や動物が合成された生き物である。
この場合、自然現象によって誕生するということはほぼなく、大体の場合、人為的な作為が働いている。
というか、過去に積極的にキメラを生み出し、軍事利用しようとする国はたくさんおり、しっかりと学問として体系化されているのである。
しかし、生き物の命を弄ぶ可能性があるうえ、完全に制御できる保証がない生物に関する学問ゆえに、軍事利用の機会も減り、それに伴ってこの分野を志す者もかなり減っており、今ではほとんど廃れていると言っていい。
何より問題とされたのは、キメラの合成元が生き物であれば何でもいいため、人間すらも糧とできること、それに伴い、獣に人間の知性を持たせ制御するべく、何人もの命が犠牲となり人と獣のそのどっちともつかない容姿、生き方の狭間で苦しめられたという事実であった。
ゆえに現在、どの国にいてもキメラの合成に人間を用いることを法で禁止しているし、それ以外の生き物に関してもいくらかの制約が設けられている。
さて、それを踏まえて咲良達の目の前に現れたキメラだが、見た目の通り明らかに人間が混じっている。
当然法に背いている違反行為である。
「相手の能力もろくにわからない相手、四人ではいささか心もとないですかね」
「コイツは戦力にカウントできるの?」
「では3.5人で」
「.5ってなんすか.5って」
「≪ろ、ろック、ジャベりん≫」
「「「「!?」」」」
キメラが魔法を発動させた。
放ったのは土属性の魔法、≪ロックジャベリン≫。
ランクとしては初歩なのだが、先が鋭利でほかの属性のそれと比べて土属性は質量がある分、かなり攻撃性が高い。
初っ端から手加減なしである。
しかしながらそれ自体は対処できなくもない。
あの土塊の矢はまっすぐにしか飛ばないから反応はできる。
「詠唱したうえ魔法が使えるなんて聞いてないぞな!」
「思ったよりも人間に近いキメラなのかもしれませんね。 もっとも、知能の高さに理性が追いついていないようですが」
会話が成立し無さそうではあるが一応しゃべっているし、ある程度の知能はあるかもしれない。
しかし初対面の相手に殺す気で喧嘩を吹っかけるほどの凶暴性を見るに明らかに話が通じ無さそうな相手である。
人間の部分があるとはいえ、相手の力量がわからない以上手加減をしては自分たちの首を絞める結果にしかならないのだから、それこそ殺す気で向かっていくほかない。
「相手がベラベラ喋ろうが魔法使おうがこっちと敵対する気が満々な以上そんなの関係ないわ。 いつも通り戦うだけよ。 咲良、援護して。 三人で突っ込むから」
「了解!」
ハリィは硬化魔法による盾兼ワンパン、トリナは魔法が使えない、ベルは魔法はこの中では一番使えるのだが、それでも直接的な攻撃力を持つものは不得意だし、ナイフを使っての接近戦が得意である。
つまり、この四人の中で遠距離からの魔法攻撃ができるのは咲良だけと言うことである。
咲良としても自分の魔法があのキメラに有効な攻撃となりえるのか、自信はなかったがほかに咲良に求められていることができる者はおらず、覚悟を決めた。
「≪カマイタチ≫!!」
目に見えない風の刃が土を巻き上げながらキメラに襲い掛かる。
いつぞやオーク相手に放った魔法である。
詠唱を省略しても威力を損なわなくなったし、もともとの威力も上がっている。
今回は食料にならなそうな相手であったし、今回は隙を作るのではなく、本気も本気殺すつもりで魔法を放った。
しかし、
ブシッ!
キメラのもとに届いた風の刃、確かに命中した。
したのはしたのだが、どうにも咲良には手ごたえが感じられなかった。
威力不足でダメージが与えられなかったというより、威力がだんだんと減衰していった感覚……
この感覚、実は咲良には覚えがある、何せついさっきまで同じような感覚を味わっていたのだから。
「みんな気を付けて! ソイツ、スライムで覆われてるのか何なのか、威力が削がれた!」
その咲良の警告にキメラに向かって走っていた三人はその足を止めた。
「なるほど、身体にまとわりついていたのはスライムだったのですね。 確かにスライムをキメラの元にできないなどと言う話は聞いたことがありませんでしたね」
「スライムって一応雑魚モンスターだから、それでキメラ作ろうなんて思わないでしょ?」
「ですが、スライムの身体は半固体状ですので物理攻撃は減衰してしまいます。 ですが、それはあくまでもボディだけの話のようですが」
スライムに覆われていないらしい足は咲良の攻撃でしっかりダメージを受けてはいた。
しかし、もとは人間のキメラ、回復魔法ですぐさま足を治してしまった。
とりあえず三人は一旦咲良のいる位置まで下がり岩陰に隠れた。
ケガが回復したら反撃するだろうし、相手の状態がわかったので、倒し方を考えるのだ。
「と言っても何か特別なやり方をしようと言うのではありません。 下半身はしっかり攻撃が通るようですので、先ほどと同じようにサクラさんに一時的ではありますが足を封じてもらいます。 反撃に対する防御はわたしかハリィさんのどちらかが、トリナさんと残ったもう一人でとどめです。 スライムで攻撃が減衰しますからしっかり踏み込んで斬るなり殴るなりしてください」
ベルの提案に三人はうなずき、一斉に岩陰から飛び出した。
手筈通り、まずは咲良がカマイタチを発生させる。
人間にしてはやはり知能が落ちてしまっているのか先ほどと同じような攻撃を繰り出しても避けることも、防御の動きをすることもせず、四人の思惑通りに足に深い傷跡が幾重にも刻まれた。
少し引っかかるのはダメージに対して全く痛がりもたじろぎもしないことだが、それについて考えている暇などない。
キメラは三人の人間が自分に近づいていることを認識すると、回復することはせず≪ロックジャベリン≫を生み出し、三人に狙いを定め放とうとした。
その少し前に、
「虚ろなる姿」
ベルがキメラに掛けた魔法、これにより放たれた石の槍は誰もいない明後日の方向に飛んで行った。
ベルが得意としているのは精神魔法。
その名の通り、生き物の視覚などの精神、神経系に直接影響し、幻影を見せる、自分の姿を悟らせない、そんな不意打ちや暗殺に適した魔法を得意としているのだ。
今回のものは、相手の感覚を狂わせ、本来、攻撃しようとしている者の狙いを本人も知らないうちに狂わせることで攻撃を食らわないにするものである。
割と初見殺しの技で手練れならすぐさま修正するのだが、キメラには十分であると言える。
そうしてキメラとの距離を詰めると、まずはトリナが切りかかる。
彼女の剣がキメラに入ると、そこからグジュグジュとなんとも言い難い音を立て、血のようにスライムの半固体の物質が地に落ちる。
「気持わるっ!」
そんなことを言っている間に、ベルとハリィはキメラの後ろに回り込んだ。
(やはり後ろへの反応は鈍いですね)
(吹っ飛ばせる!)
ハリィが右ストレートで、ベルが回し蹴りでそれぞれキメラに一撃を浴びせる。
案の定、キメラは十数メートル吹っ飛ばされた。
そして、それに追撃をかけようとする一同。
未知の相手ではあったが何とか倒しきれそうだ、皆がそう思った。
得てしてそういう時には上手くいかないものである。
ハリィとベルは真後ろからの殺気を感じ取った。
二人が振り向くと、ちょうど眼前に何かが横凪に振るわれているところであった。
その攻撃をしてきた主は、今までも相手してきたイワトカゲである。
珍しくはない相手ではある。
普通のそれより一回り大きいことを除けば、であるが。
一方で、トリナはキメラに近づいていた。
「トリナ! 倒したの?」
そこに咲良が近寄る。
「わからないわ、見てみないと……いや」
目の前にあのキメラが現れた。
それもほぼ無傷で。
「うそでしょ?」
あれだけ吹っ飛んだのだから死んでないまでも負傷してしかるべきじゃないのか、と思った咲良である。
どうやらこのキメラ、思ったより倒すのに難儀しそうである。
「参ったわね、あっちはあっちで忙しそうだし……」
「どうしよう?」
「決まってるでしょ?。 私たち二人で何とかするのよ」
(咲良) ベルって思ったよりけり技とか得意なんだ……
(ベル) 一応獣人ですので、身体能力には自信があります。 まぁ、思いっきり蹴り飛ばすなど足癖悪いというか、行儀悪いというか……
***
(サリア) なんかディスられた気がするぞ?
(シャル) どうせ向こうの奴らだろ?
(ジュリ) なんでみんなそんなに通じ合えているんだ!?




