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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
異世界迷宮探索行
55/125

夕食 SIDE 咲良&シャル

前回のあらすじ


ばよえ~ん

 「基本は緑なんだけど、スライムは色によって特徴があってね。 黄色はケガを治してくれて、薬の原料にもなるのよ」


 「へぇ~」


 一応意味があるんだねー

 こうしてみると色によって性格も出てる。

 赤は攻撃的だし、青は怖がり、紫は人懐っこいのか私にスリスリしてくる。


 「紫のは毒があるから触らないようにね」


 「かわいいと思った矢先にこれか!!」


 私は紫のスライムを放り投げた。

 そりゃ、ただ人懐っこいだけの生き物なんていなかろうけどさ。


 「まあ、触ったくらいでどうにかなるものでもないですが」


 あ、ベル復活した。

 よかったよかった。

 ずっとこのままじゃ、お荷物が二人のままだもんね。

 え?もう一人?

 私に決まってんじゃん。


 「よっしゃ、そろそろ下の階層に行くとしようか」


 ダンジョンの中は木々が生い茂っており、どこもかしこも自然な風景ばかりが目に付くのだが、どういうわけか、階層を進もうとすると間違いなく人工物にカテゴライズできるであろう階段とともに、ソレは煌々とした光を放っていた。


 「なにこれ?」


 「転移石と言ってその名の通り、ダンジョンの階層間を行き来できるものよ」

 

 「へぇ~ でもそれって好きなところに?」


 「それは無理、転移石は二つでワンセット、その石同士を行き来しかできないわ」


 「じゃあ、この石の相方は?」

 

 「ええっと、どこ?」


 「第10階層だったかと。 熟練の冒険者が早く手ごたえのある階層に行けるように設置したものです」


 設置したということはこれは人工物になるわけか。

 ん?ということは……


 「ひょっとしてこれ、誰かが作ったってこと?」


 「正確に言えば少し違います。 転移石は自然採取されるもので人工的には作られません。 ここにあるのはギルドから頼まれた冒険者が運んできたものです」


 「階層の安全が確認されたら石を置く、そんでその石を使ってとっとと上層にまで戻ってくる。 つまり現今ならこの石さえ使えば63階層まではいけるということぞな!」


 「なるほど……って言っても階層が下になれば、大変でしょ?」


 「十階層くらいなら平気かもだけど…… さすがに四十台だと私たちでも生き残るのは難しいわね」


 「そもそも転移石を使うにはその階層を縦断しなくてはならないわけですからそれなりの者でないと転移石を使うことはできないということですね」


まあ。ダンジョンの端と端だもんね


 「ほて、これ使うぞな? 行った先はここよりも数段ハードな相手が待っとるが?」


 「ノーセンキューです」


 それから私たちは第四階層まで行って、その日はそこで休むことにした。 

 一~四階層では例のイワトカゲやスライムのほかにオークやゴブリン、ダークボア(イノシシ?)やサラマンダー(サンショウウオ)それから食人植物なんかに遭遇、特に誰も負傷することなく退けることができた。

 そして夕飯時、


 「夕飯の準備とテントの設営をするわけですが……トリナさんとハリィさんはテントの方を、私と咲良さんは夕食の支度をします」


 「ベル、なんとか調子を取り戻したみたいね」


 「良かった。 ずっとあの調子だったらいろんな意味でどうしようかと思った……」


 「まぁ、あいつもそこまで子供じゃないってことぞな」


 「何を三人でこそこそと話しているのですか? とっとと準備をしてください!」


 「「「あらほらいえっさー!」」」


 


 「一応、干し肉などは持ってきましたが現地で調達できているのですからそちらを使いましょう。 特にイワトカゲの尾は保存が効きませんので」


 「えっと……どういう調理方法で?」


 「血抜きは済んでいますから普通に切って焼いて構いません。 骨とその周りのお肉はスープの出汁にします。 あとは火で炙って焼いてください。 生の状態では身体によくありませんのでしっかりと火が通るように少し切ってから焼くといいでしょう」


 斬ってから焼く……か、結構これ大きいんだよねぇ……

 とりあえず輪切りでいいかな。


「でも、これだけの量食べきれますかね?」


 「そうですね……サリアさんはレティシア様の……ほうに……」


ああ、ベルがまたダークサイドに……


「大丈夫! きっとトリナが全部食べてくれるから!」


「サクラさん…… サクラさんは……」


お? 戻って来たかな?






「サクラさんは目元がレティシア様に似ていますね」


あ、やべぇ。


「ちょっとしっかり!」


「よく見れば顔もレティシア様にそっくりで……」


「目元も顔も全然似てないよ! 何? レティシアさんと離れ過ぎるとレティシアさんに見えるようになってるの!? そういうフィルター?」


私は言うまでもなく日本人、対してレティシアさんは欧米風の顔立ち、似てる訳がない。

何だろ?

レティシアさんと離れると命の危機すら感じてそう見えるようになってるとか?

もはや禁断症状だね。


「うふふふふ…… レティシア様……」


 「ちょっと近づかないで!!」


怖いよ! 目がヤンデレのそれじゃん!


 その刹那、レティシアの幻影(?)に惑わされていたベルの脳天に拳が振り下ろされた。


 「何してるぞな!」


 「ハリィ…… なんかレティシアと離れていた時間が長すぎたせいで私をレティシアさんだと思い始めて……」


 「なにそれ怖い。 そのうち死ぬんじゃなかろうか」


 「それは無い……と思いたいけど……」


 死因がレティシアさんと離れたせいだなんて歴史に名を残す死因になるに違いない。

 しょうもない。


 「ハリィさん…… 貴女はレティシア様と髪型が似てますね……」


 「誰かこの髪を切ってくれ!!」


 「ああ……助けてレティシアさん……」


 勝ち目のない戦いに挑もうとしているわけでもないのに、それでもあの人を呼ばずにはいられない……情けなさすぎる。


 


 視点チェンジ 咲良⇒シャル


 「しるかっ!!」


 「どした、お嬢?」


 「くしゃみが出てしまった。 誰かが噂でもしているのか?」 

 

 十中八九下層に行った奴らだな。

 たぶんベルあたりが、お嬢と会えないんで寂しがってるとかな……そういえばウサギは寂しいと死ぬことがあるとか……いやないない。

 死因がお嬢と離れたせいだなんて歴史に名を残す死因になるに違いない。

 しょうもない。


 さて、私たちはと言えば今は夕食と野営の準備中だ。

 ジュリにクロエに私と料理のできるやつには事欠かないが、困ったことにうちには異空間すら存在しかねない胃袋を持つ奴がいる。

 しかし、サリアに関してはクロエが「足りない分の食料は自力で調達」とする旨を伝えたため、現在もアイツは第十一階層の魔物を狩りまくっている。

 食欲とは恐ろしい。

 ついでに言うとクロエは料理はできるのだがめんどくさがってやらない。

 お嬢の料理スキルは六話前でお察しだし、結果私がやるしかない。

 これでも料理は得意だぜ!

 手先が器用なんでね。

 まぁジュリは主婦歴ウン十年かという風格があるからそれには及ばないけどな。

 それにしてもうちの面子はもうちょっと女子力というものがないのかね?

 私が言えたことじゃないか。


 「よしできたぞ。 夕飯にしようじゃないか」


 「サリアが戻ってきてないぞ」


 「それもそうか…… そもそも材料を取ってきても結局調理するのは私だしな…… 自力調達させるのは失敗だったかもしれん」


 「大丈夫じゃね?」 


 「生肉でも平気よぉ」


 「案外草とかとってきたり……」


 「「「ないない」」」


 ですよねー


 それから三十分後あいつは両脇にブラックボアを抱えて戻ってきた。

 勘弁してよ……

あれ!? 夕飯だけで一話分終わっちゃったぞ!?

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