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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
異世界迷宮探索行
53/125

連携

(レティシア) そういえばあの男の名前知ってる奴いるか?


(一同)…………


(レティシア) まあ、いいか、別に一緒に行動するわけでもないし。

 当たり前のことだが、くじ引きというからには何らかの作為がなければ誰が何をひくかを選ぶことはできない。

 ゆえにどんな結果をもたらすかはまさに神のみぞ知るとなるわけだ。

 しかし、


 (この結果はヤバすぎる……)


 そうハリィは内心毒づいた。

 くじ引きの結果はこうだ。


 上層を目指す五人・・・・・・レティシア、シャル、クロエ、サリア、ジュリ

 下層を目指す四人・・・・・・咲良、ハリィ、トリナ、ベル


 何がヤバいって下層の面子だ。

 戦力とカウントできるか怪しい咲良、後先考えず突っ込んでいくトリナ、ハリィ自身も腕っぷしに自信はあるが、我流で無茶苦茶だし、どちらかというと盾役だ。

 ベルに至ってはおそらく彼女が一番役に立ちそうもない。

 なにせ、レティシアと別れてしまったのだ。

 よって彼女の戦闘力は半減……は言い過ぎかもしれないが、精神的にはかなりよろしくない状態なのだろう。

 最後尾を歩く彼女は聞き取れないほどの小声でずっと何か言ってるし、なんとなく負のオーラを感じて寒気がする。

 

 「トリナさんこれは?」


 「クンクン…… それも駄目ね、毒が入ってるわ」


 咲良とトリナはそんな負のオーラを感じ取ることなく、キノコやら薬草やらを集めている。

 ダンジョンには有用な薬草や食用のキノコなどが多数自生している。

 これらはギルドに持っていけば換金してくれるので冒険者の収入減になる。

 しかも、ダンジョン内の植物は生育が恐ろしく早く、乱獲しても一日もすれば収穫できるくらいに育つので絶滅の心配がないので、冒険者の食いっぱぐれが少ない。

 一方、人間に益があるものもあれば当然害になるものもある。

 いわゆる毒草、毒キノコがそれに当たり、ククルのような毒使いでもなければ需要がない。

 いろいろ扱いも難しいので今回は採集しないでおくことにした。

 その分類は鼻が利くトリナがやってくれる。

 匂いを嗅げば毒かそうでないかわかるのだそうだ。


 (そういえばトリュフの探知を犬にさせるって聞いたことがあったな)


 と、咲良は元いた世界での知識を呼び起こしていた。

 戦闘になれば自分にできることは途端に少なくなるので、こういう場面で役に立とうと、知識をいろいろ呼び起こしつつ、採集に勤しんでいるのだ。


 「こういう落ち葉がたまってる場所に…… あった!」


 「あんたって見つけるのだけはうまいのね」


 「だけって何、だけって」


 「半分は毒だし。 もうちょっとちゃんと見なさいよ。 こういうのって色が派手なのが毒って言うでしょ?」


 「それって迷信なんだよ。 見ただけじゃ毒かどうか見分けられない。 見分けるにはデータを全部頭に入れるか、もしくは」

 

 そう言って咲良はとったキノコをトリナの顔に近づけた。

 彼女の判定は


 「これも毒!!」


 咲良はがっくり項垂れるのだった……


 パキ


 そのとき頭上で音が鳴った。

 枯れ木が割れるような乾いた音だった。

 反射的に二人が頭を上にあげれば、眼前にいたのは三メートルはありそうなオオトカゲだった。

 木の上にいたのだろうか、下でキノコと薬草狩りに勤しんでいたこちらに気づいたようで降りてきたようだ。

 全身を堅そうな灰色の鱗で覆い、どこを見ているかわからない独特の縦長の目で私たちを見下ろしている。


 (コモドドラゴンのこと、コドモドラゴンと間違えて覚えてたことあったなぁ…… しかし、コドモドラゴンとはこれ如何に。 ドラゴンの上に子供が乗っているのかな?)


 きっとでんでん太鼓を持ってるに違いない。

 なんでこんな支離滅裂なことを考えてるかというと、つまり彼女は混乱しているのだ。

 早い話が現実逃避である。

 こんな至近距離に大きな生き物が、それも爬虫類がいるなど、年頃の娘には恐怖にしかならない。

 まして、咲良は都会っ子なので爬虫類や両生類と触れ合った記憶など、ろくすっぽ無い。

 結果、咲良は気の毒にも混乱と恐怖から意識を遠くの彼方へと放り投げそうになった。


 「しっかりしなさい!!」


 「あべし! ひでぶ! な、なに?」


 「しっかりしなさいよ! 飲まれたら死ぬわよ!!」


 トリナがどうも咲良の意識をこっちに引き戻してくれたらしい。

 両頬に感じるジンジンとした痛みはきっと彼女が引っ叩いたことによるものだろう。

 

 「でも往復にする意味あります!? 片方でよくない!?」


 「うるさい! いいから集中しなさい!」


 なんとも納得しかねるが、トリナの発言も一理あるので、この件はひとまず頭の片隅に追いやることにする。

 

 「私が首を切り落とすから隙を作って頂戴!」


 「す、隙!?」


 (隙を作れってどうしたら? ……隙、好き、すき 恋の呪○はスキト○メキス…… いやいや古い古い! 要はトリナさんから意識を逸らせればいいんだよね……なら!)


 「≪風の波(ウィンドウェーブ)≫!」


 風の波とは彼女の得意属性である風魔法の一つで、威力はあまりないが風が広範囲にかつ、塵などを巻き上げつつ吹き抜けるのである。

 咲良が狙ったのは目潰し。

 目に塵が入ってイワトカゲの身動きが取れなくなることを狙ったのである。

 ところで、であるのだが、一部の動物には瞬膜と呼ばれる器官がある。

 塵などが目に入ってしまわないように、瞼とは別に反射的に目を覆うことのできる薄い膜である。

 爬虫類にもこれは存在しており、目にゴミが入って……というシチュエーションは起こりにくい。

 しかし、咲良もそのことは知識として知っていた。

 いつぞや流行りに乗っかってフクロウカフェなるものを訪れたとき、フクロウにもあるそれに気づき、調べたことがあるのだ。

 つまり、イワトカゲにもそれがあるであろうことは想定内。

 それにもし目潰しできなくとも、イワトカゲは目を閉じるし、そもそも塵を巻き込んだ風というだけで視界は悪くなる。

 十分な隙だ。


 「やああああああああ!!」


 大きな叫び声とともにトリナはイワトカゲに切りかかり、その首を両断する。

 切り口から赤黒い鮮血が飛び出し、残された身体は脳からの指令から引き離され、その場に四肢を投げ出し、絶命した。


 「フフン! どんなもんよ!!」


 トリナは咲良の方に顔を向けて、剣を右手で上に掲げた。

 勝利のポーズを決めたというところだろうか。

 どう?すごいでしょ?

 そんな感情が思いっきり顔に出ている。

 

 そんな彼女の後ろで蠢く影が咲良の目に映った。


 「! トリナ! 後ろ!!」


 「!!」


 振り向いたトリナがとらえたのは、先ほど仕留めたものよりもさらに一回り大きなイワトカゲ。

 どこかに隠れていたのか、二人が見逃していたのか、そんなことはどうでもよく、問題は近くにいるトリナが剣を構えていないことだ。

 おまけに腕を上げているということはわき腹が無防備であるということであり、攻撃を撃ち込まれる最大の隙である。

 

 「≪ウィンドバレット≫!」


 風でできた弾丸がトリナの脇をすり抜けて三発撃ち込まれた。

 堅い皮膚の前にほぼ無意味な攻撃だが、トリナが抜け出す隙は作りだすことができ、彼女は一旦脇へと逃れる。

 しかし、イワトカゲはそんな彼女を見逃さなかった。

 すさまじいスピードで尻尾をふり、彼女に襲い掛かる。

 トリナも剣を構え防御するが、それも無意味に等しい。

 というのも、イワトカゲの尻尾の威力はすさまじく、その気になれば岩をも破壊できる。

 当然剣なんかでは防げない。

 決死の覚悟であった、のだが、その尻尾が彼女に届く前に、それをがっちりつかんだ者がいた。

 

 「全く、番いがいるかもしれん可能性を忘れるとは……うちのことを阿呆呼ばわりできんぞな」


 一応言っておくと、イワトカゲが振るっている尻尾を途中で掴むということは、そのすさまじい衝撃をその身に受けるということに他ならない。

 にもかかわらず、ハリィは全くダメージを受けていないかのようにピンピンしている。

 そして、そのままイワトカゲを遠くへと放り投げた。


 「おっりゃああああ!!」


 飛ばされたトカゲはそのまま地面に叩きつけられて動かなくなった。

 イワトカゲの重量はそのサイズに比例してかなりのものであると思われる。


 「ひゃああああ…… 豪快……」


 咲良はと言えば目の前で起こった光景に呆気にとられ、放心していた。

 トリナもトリナでハリィの至極まっとうな指摘に悔しそうな顔をするのだった。

 ハリィは咲良の言葉をほめ言葉と受け取り、上機嫌になって満面の笑みとともに右手で彼女に向けて勝利のVサインを見せるのだった。

 ちなみにトリナにああ言っておいて、現在隙だらけのハリィではあるが、その体の頑丈さゆえに襲撃されてもダメージを負わないという自信があるので問題ないのである。

くじ引きの結果を受けて、いろいろと暗躍しようとしたものがいたのは言うまでもない。


9/8追記 感想をユーザー様限定から無制限にしました。 一応弁明しておくなら、今までもずっと無制限だと思ってました。 そんなわけで感想、評価はいつでも受け付けているので皆さま是非ともよろしくお願いします。


*来週はお休みします。

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