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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
ディア・マイ・フレンド
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後始末 SIDE 咲良

これで今章はお仕舞いです。

今回は少し短かったですかね。

このあと間章を投稿して次の物語へ進んでいきます。

 あの事件から一週間後、街を歩いていると、街のあちらこちらで何時にも増してにぎやかな会話の花が咲いていた。

 しかも、話の内容はどこでも同じ。

 さる貴族が病気療養を理由に隠居、自身の子供にそのあとを譲ると発表したというのだ。

 それ自体は珍しいことではないらしい。 

 たしかに、先代が死んでから跡目を譲ったのではそのとき跡継ぎもかなり高齢である可能性がある。

 それと比べれば、自分が元気なうちに若者に跡目を譲るというのはいいことのように思える。

 跡継ぎがまだ、十四歳の少年でなければ、だけどね。

 この世界の成人は十五歳らしいから、まだ未成年ということになる。

 っていうか私成人してたんだ。

 未成年でなくても十代半ばで貴族として領主になるっていうのは荷が重いよね。

 と、よく知りもしない青年を気の毒に思いながらも、応援してたんだけど……


 「ああ、その貴族な、今回のお前のお友達が働いていた家だぞ。 隠居したっていう貴族が今回の黒幕。 責任を取って隠居したんだ」

 と、いつものようにレティシアさんにクールに教えられ私の心の中は複雑な感じになった。

 私やクロエさんを誘拐し傷つけたことは許せない。

弱い立場にいた理名を利用して犯罪の片棒を担がせたことはさらに許せない。

でも、みんな無事で責任を取ったんだからもういいんじゃないかとも思えてくるし……


「ちなみにだが、前に派閥の抗争の話をしただろ? 今回の一件もそれが大元の原因なんだが、件の伯爵が派閥にいたままなのはとても都合が悪い。 だからその責任を取って辞めさせた。 ついでにまだ幼いご子息を当主に据えて傀儡政権。 さすがは貴族様、利口なことだ」


 「なんか…… いつ、どこの世もそういう人たちのやることは変わんないんですね」


 「あっちの世界もこっちの世界も、同じ人間なんだ。 人が人である限り、考えることもやることもそう変わらん」


 「達観しすぎでしょ」


 「そうだな」


 そう言ってレティシアさんは自嘲気味な笑みを浮かべるのだった。


 「ところで私たちは今回その派閥抗争に巻き込まれたわけなんですが、今後もそのリスクはあるんでしょうか?」


 いつもいつもこんな目に遭うだなんてある意味冒険者の仕事よりも面倒くさい。

 腹芸も知略もああいう人たちには遠く及ばないから、回避も対策もできそうにないけど。

 

「ない……とは言い切れないが、可能性は低いと考えていいだろう。 もともとは貴族同士のイザコザだ。 たまたま私たちがディーナと仲良しだったから巻き込まれたがそうそうとばっちりは来るもんじゃない。 冒険者に喧嘩売ると、貴族でも黙っていないところがあるんでね」


 そういってレティシアさんはにやりと笑みを浮かべる。

 冒険者にはギルドがあり国とも独立した組織になっているので、貴族といえどもそう圧力をかけられるものじゃないらしい。


 「兎に角、この件に関して私たちが巻き込まれるような面倒ごとはあまりないと思っていい。 だから安心して会いに行くといいさ。 だから気になっていたんだろう?」


 「気づいてましたか……?」


 「いつもより楽しそうで浮かれ気味だとみんな気づいていた。 遊びに行くのはいいが一応人様の家で、あいつはそこの使用人だということは忘れないように」


 「……はい」


 なんだか親がまだ小さい自分の子に「お友達のお家に迷惑かけちゃだめよ」って諭しているようだ。

 リーダーという役割だからかもしれないけれど、子ども扱いされてるみたいなんですけど……

 そこまで私たちヤンチャじゃないよ!


「ああ、それと私の素性も言って大丈夫だ」


「素性って転生したっていう話ですかですか?」


「そうだ。 あの時ベルはレード家の家紋がメイド服についていたのを見て警戒して、みだりに情報を出さないようにしていたんだ。 もうその心配もないし、あいつも軽々しく何でも言うもんじゃないってわかったろう」

 





 「相変わらず大きな家だよねぇ……」


 二次元的な表現のできない小説の世界においてディーナさんのお屋敷を一次元で表現すると……

 ……小説って一次元か?

 まあ、いいや。

 アニメなんかでよく見る中世ヨーロッパの貴族のお屋敷。

 庭がメッチャ広くて夜な夜なパーティーをやっているようなお屋敷。

 そして、とりあえず私一人ではその敷地に入ることに三十分近くためらうようなお屋敷である。

 通行人が私を見ればお屋敷の前をウロウロしている不審者である。

 庭が広いおかげでお屋敷からここまでには結構ストロークがある。

 これでは「りーなーちゃーん! あーそーぼー!」と呼ぶことすらできない。

 いや、実際にこの年になってそんなこと言わないけどね?

 このお屋敷に用事がある人はどうしているのか。

 おそらくこの前のレティシアさんたちのようにズカズカ入ってお屋敷の前で戸を叩くに違いない。

 それができない私はたぶんこのようなお屋敷に縁のない小市民で日本人的な性格なんだろう。

 どうする? 

 戦略的撤退か?

 いや、まだだ、まだ終わらんよ。

 踏み入れようとするから気後れするんだ。

 助走を取って一気に走って踏み込もう。

 敷地に入ってさえしまえばあとは勢いでどうにかなる!

 その時の私はきっと頭がテンパっていたに違いない。

 結果、私は走って人様の家を訪問するという斬新な突入方法をとるのだった。

そして、


「ねぇ。アナタレティシアさんのとこの子でしょ? なにやってんの?」


庭師のアビーさんに見つかった。






「それでアビーさん大爆笑してたんだ」


「ほんとに恥ずかしいったら無いよ。 まあ、私が奇行に走ったせいでもあるんだけどね」


結局、あの後私はこの屋敷の応接間の一つに招かれ、ほどなくして理名もやってきた。

 仕事中ではあったらしいけど、抜けることを許してもらえたらしい。

 で、ここに来るまでのいきさつを聞いて大爆笑したと。

 しかし、理名よ、そういうふうに笑うからには君は平気なんだね?

 ……平気か、職場だもんね。

 あの一件のあと、捕まることはなかったものの元の職場であったレード家に戻るわけにもいかず、困っていたところ、ディーナさんが使用人として雇ってくれたらしい。

 

 「なんだか盛り上がっとるのぉ。 茶を持ってきたんじゃが要るかの?」


 「あ! すいませんシノブさん、わざわざ」


 「これしきの事構わんよ」


 「あの、シノブさん?は、理名の仕事ぶりもわかってますよね?」


 「咲良?」


 「ん? もちろん?」

 

 二人とも意味の測りかねる私の質問にきょとんとしている。


 「理名、足引っ張って大変じゃないですか?」


「何それ? この間の仕返し?」


「まあねー」


それから私たちは二人で声をあげて笑いあった。

異世界に飛ばされ何ヵ月も会えないで、会えたら会えたで裏切り裏切られて……

二人で笑いあえるなんて……

もう会うことすらかなわないんじゃないか。

そう思っていたのまたこうして会えて、そして笑いあえる……

なんて幸運なことだろうか。

私たちは笑いながら、その幸運を確かめあった。




「そう言えば、レティシアさん、だっけ? あの人も貴族なんだよね? サンドロさんが言ってた」


「ああそうだ。 その事で言ってなかったんだけどさ」


私はレティシアさんの秘密を話した。

彼女は私たちのいた世界から転生していること。

実は男であること。

そしてわたしたちのクラスメイトだったこと。

それとその名前も……

それを聞いた理名は驚いたようだけど嘘だ、と一蹴することはしなかった。

きっと信じてくれたんだと思う。


「そうだったんだ…… ねぇ、さっき言ってたサンドロさんと話してて思ったんだけどさ、何でレティシアさんは冒険者やってるの?」


「何で…… そう言えば聞いたこと無かったな…… 何で?」


レティシアさんはあまり自分のことを話さない人だ。

私もあんまり気にしてこなかった。

そもそも私は他の仲間の過去とかそういうものを聞いたことが無いし、聞きもしなかった。

それは私が仲間に興味がない、ということではないと思う。

多分。


「貴族の人が冒険者になるなんて珍しいよ」


「そんなこと無いよ。 前に一緒に仕事した人は貴族の末弟だったよ」


思い起こされるのはボルトだった。


「勿論無い訳じゃないよ。 ディーナさんだって元冒険者だし。 たださ…… サンドロさんが言ってたんだけどさ、レティシアさんのことを実家が手放すとは思えないんだってさ。 剣の腕があって魔法の実力も高い。 見た目も可愛くて頭も良い。 冒険者を選ばなくても他に進路なんていくらでもあったはずだもん。 レティシアさんってこの国の生まれじゃないらしいし、流石に海外で暮らすことを許すなんて無いと思うよ」


そう言われたらそうなのかな?

たしかにレティシアさんの目的がわからないところはある。


「じゃあ、レティシアさんって生まれた国を勝手に出たのかな? 本当なら冒険者やってる場合じゃないってこと?」


「そこまでは分かんないけど、気にならない?」


「ちょっとね」


しかし、気になったからと言って答が出る訳でもない。

二人で頭をひねっていると、


「これこれ、本人のいないところで好き勝手言うもんじゃないぞ」


と、シノブさんに言われ、そこでこの話は終わったのだった。




何とも言いがたい、モヤモヤを心のどこかに残して。

(咲良) で、結局理名って役にたってます?


(理名) あ、あれで終りじゃないんだ。


(シノブ) 助かっとるよ? 元々貴族の使用人だったこともあってなかなか仕事できるしの。 とくにウチはこのように、


ガチャ


(シャンレイ・エルザ・サンドロ) うわあ!!


(理名) うわ! みんな聞いてたの?


(シノブ) このように仕事をほっぽって聞き耳たてるやつらに比べたらどれ程立派なことか。 ホレ、とっとと仕事に戻らんか!


(シャンレイ・エルザ・サンドロ) サー、イエッサー!


(咲良) 統率はとれてるんだね。

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