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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
ディア・マイ・フレンド
41/125

悪であるということ

前回のあらすじ


(咲良) 肉を紐で縛るってチャーシューみたいですね?


(クロエ) 誰が豚なのかしらぁ!?


(咲良) ひぃいっ!!


(理名) チャーシューは紐で細切れにならないでしょ。

 クロエの刻まれた肉体、そして足元に転がった頭。 

 咲良はそれをじっと見ていた。

 十代の女子にとってそれがどれほどショッキングで目を逸らしたくなる光景なのか、それは同じ十代女子である理名が良く分かっていた。

 自分がどれだけ身勝手で、残酷なことをしたのかも。

 しかし、そんなむごい光景を目の当たりにしても、理名は目こそ逸らしたが、気分が悪くなることも、心がおかしくなることもなかった。

 これが自分の招いた結果だからか、もしかしたら自分は人の死に対して何とも思わない人間なのかもしれない。

 咲良を助けてほしい、そう懇願すると案外簡単にそれは聞き入れられた。

 そう安堵した瞬間、こう言われた。

 

 「君の友人には指一本触れさせないように厳命しておく、但しそれ以外に関しては保障はできない」


 保障できない、と言っているが早い話が命を奪うことも視野に入っているということである。

 咲良の所属しているパーティーとの対立は聞かされていた。

 つまり、これ以上の譲歩はできないということである。

 やむを得ず、私はこの条件を飲むことになった。


 いや、やむを得ず、でもない。

 他にやりようはあった。

 計画を妨害すること、それができなくても咲良に危機を伝えることくらいはできなかったかもしれない。

 けれどそうしなかった。

 自分がとばっちりを受けたくなかった、今の暮らしを手放したくなかった。

 この世界がどれほどシビアなのかはよくわかっている。

 自分のことを知っている者がほとんどいない世界で生きていくのはかなり難しい。

 実際、理名もメイドとして雇われるまでそれはそれは苦労したもののである。

 だからこそ、理名は全てを捨ててでも他者を助けるという選択をとれなかったのである。

 唯一、咲良の身の安全だけは要求した。

 さすがに親友を斬り捨てることは出来なかった。

 これももしかしたらただ、自分は友人を守ったと思いたいだけなのかもしれない。

 だとしたら自分はどこまでも自分本位な人間だと思う。

 いや、人とは結局自分本位なのだ。

 映画でよく「私が身代わりになろう」とか「俺の命はいいから、ほかの人を助けてくれ」なんていうセリフがあるがあれは嘘だ。

 いくら耳障りの良いことを言っていても結局最後は自分を優先する。

 たとえその道が悪であったとしても。

 

 ふと、理名はこんな話をこの世界に来る前に咲良としたことを思いだした。




 「ねぇ…… この腕の…… ほどいてよ…… いつまでもクロエさん、ここに転がしておけないじゃん……」


 そう言う咲良の声は絞りすような声でしかし淡々としていた。

 顔は伏せられたまま、その表情は分からない。

 

 これまでの仲間たちの発言から察するに咲良はどうも戦力としてはカウントされていないらしい。

 抵抗した場合、命の保証はないと念押ししたことだし、拘束を解いても問題はないんじゃないと理名は判断し、縄を解くことにした。

 両腕が自由になるや否や咲良は両手でクロエの頭を大事に抱え抱きしめた。

 他でもない理名自身が招いたことではあるが、その姿は痛々しく思えた。

 しかし、そんな咲良に何も話しかけることは出来ない。

 その原因である理名自身がどんな言葉をかけることができようか。

 と迷っていると、外から山賊の一人が走りながらやって来た。

 

 「なんだ? 騒がしい」


 親玉は煩わしそうに顔を顰めるが、走って来た子分はそんなこと気にせず息をゼーゼー言わせながら報告し始める。


 「奴らが来た。 見張りはほとんどやられて中に入られた!」


 「ほう、意外と早かったな。 喜べ、お仲間が助けに来てくれたみたいだぞ?」


 言うまでもなくお仲間とは咲良のパーティーのメンバーのことである。


 「丁度いい、その首をあいつらに……」


 と、親玉の話を遮るように、凄まじい爆発音と爆風が山賊たちのアジトである洞窟の穴を駆け抜けた。

 部屋の中にそれに巻き込まれたのであろう、山賊たちが転がって来た。

 次いで姿を現したのはこの場にあまりにも不釣り合いな可憐な少女だった。

 柔らかそうな銀色の髪に陶器が如き白い肌、服装は少年のようにボーイッシュだが、それを差し引いても十分に美少女であると言えるだろう。

 しかし、理名はその少女が見たままの少女ではないことをすぐに悟る。

 小さく細い右腕にはとても彼女が持てなさそうな大剣が握られ、その刀身は激しく燃え盛り、薄暗い洞窟内を煌々と照らした。

 

 「まったく、また捕らわれたのか? よくよくそんな不遇な目に遭うな。 なんでだ? ヒロイン補正か?」


 たくさんの山賊の男たちに囲まれるという、女子にとって恐ろしい状況にも関わらず、口から出た言葉は能天気なことこの上ない。

 尤も単身乗り込んできて、雑魚とはいえ数人の男を相手どって圧倒したのだから、余裕な態度も取れようというものである。


 「お前がレティシアだな?」


 「そうだとも。 『仲間を助けたければ一人で来い』などという、ずいぶん上から目線な招待状、どうもありがとう」


 理名は咲良とクロエに一服盛った後、山賊たちに馬車で二人を運んでもらった。

 山賊が二人を馬車に乗せている最中、理名は彼女たちの仲間に向けてメッセージ書き、前もって預かっていた伝書鳩を使って送った。

 内容は先ほど彼女が言った通り、どうやらそれに従い一人で来たようだった。


 「招待客だからって少々勝手しすぎだな、大人しくしてもらおうか、その剣を置け!」


 同時に親玉の≪踊る蛇≫が咲良の首に巻き付く。


 「ちょっと! シドーさん! 咲良には!」


 「黙ってろ!!」


 親玉―――シドーは理名に平手打ち見舞い、黙らせる。

 

 「なるほど、それでクロエを細切れにしたわけか。 さすがは貴族の子飼い、なかなかいいものをお持ちだ。 ああそれから、サクラのご友人、あまりそういう奴らを信じすぎないことだ。 貴族の命令だなんだといっても、すべてバレなければいいで済ませるんだからな」


 レティシアはため息交じりにそう言いながら、剣を地面に突き刺した。

 


 「置いたぞ、その首に巻き付けているセンスのないものを解け」


 「いいだろう、拘束しろ」


 シドーの号令で控えていた山賊二名がレティシアを肩から押さえつける。

 それを確信すると咲良に巻き付いていた≪踊る蛇≫がほどかれる。


 「おまえにも一応、封印錠をつけさせてもらう。 もっともお前の魔法の力はその剣ありきみたいだがな」


 そういうとシドーは先ほどまでクロエを拘束していた封印錠を拾い上げた。

 そして男はそこで気づく。

 遺体がない。

 いや、クロエの遺体は細切れの肉片になっているはずなので、頭くらいしか遺体として残ってはいない。

 しかし、錠の周りには肉片の一つもなく血だまりばかりである。

 なぜだ?

 間違いなくあの女は≪踊る蛇≫で細切れにした。

 ではその肉片はどこに?

 記憶をたどり、頭を回転させる代わりにシドーの動きが止まった。

 そんな彼の体を後ろから羽交い絞めにする者があった。

 腕は細いが力は強い、簡単に抜け出せなかった。

 いったい誰が?

 まだ自由な首を回せば、レティシアはまだ押さえつけられたまま、咲良もいる。

 理名や子分たちはかなり驚いているようである。

 そして視界の端に羽交い絞めにしている者の姿を捉えると、そいつは首がなかった。

 驚くものがいるのも道理である。

 首から下しか無いものが動けようはずもない。

 しかし、この首なしの全裸の女の身体は確かにシドーの動きを封じている。

 

 「な、なんで……?」


 誰もが思った疑問、しかし、状況は目まぐるしく変化する。

 今まで仲間の死に気落ちしていたはずの咲良は急に顔を上げると、持っていたクロエの頭を放り投げる。

 そして、


 「≪舞い上がれ! つむじ風!≫」

 

 その咲良の声に呼応して、洞窟内だというのに風が巻き起こる。

 砂と一緒に舞い上がったそれはシドーと理名の視界を奪う。

 その隙に首なしの女はシドーを咲良は理名の身体を押さえつけた。


 それを確認すると、レティシアは地面に突き刺さったままの剣の柄を右手で握り、


 「≪この世の終わりを見せつけろ、汝等の存在を世に知らしめるために!  地獄の門(デーモンゲート)!≫」


 その呪文で、剣の先から地面がひび割れ、その隙間から炎があふれ出した。

 子分の山賊はその隙間に落ち、炎に体を焼かれるのだった。

 レティシアの周りは何の変化もなく、ひび割れが咲良たちへ届くこともなかった。

 疑いようもなく、形勢逆転である。

 シドーの≪踊る蛇≫もレティシアが取り上げた。

 

 「さて、せっかくだからその錠はお前につけようか、もっとも、お前の力はこれ(踊る蛇)ありきのようだがな」


 シドーにしてみればとんだブーメランである。

 それをこんな少女に言われたのだから腸が煮えくり返ろうという物だ。


 「ああ、サクラもご苦労、よく感情を表に出さず我慢した」


 「驚きましたよ。 生首が急に瞬きし始めるんですから、我ながらよく声を上げなかったと思います」


 「瞬き?」


 その声の主は理名である。

 彼女はてっきり咲良が気落ちしていると思っていた。

 しかし、実際はその逆、逆転のチャンスをずっと狙っていたのだ。

 表情を読まれないよう、ずっと顔を伏せて。

 ちなみに咲良が顔を伏せていたのはそれだけではない。


 「ちょっと~、いつまで私の頭放っておく気ぃ?」


 「「あ」」


 咲良が放り投げて転がったままのクロエの頭を拾い上げる。

 先ほどまで放っておけないだのとのたまわっていたのに、である。


 「っていうか体動かせるんなら自分で回収してくださいよ」 


 咲良はそういいながら、首なしの身体に頭を渡す。

 そしてクロエの頭が上に乗ると、切断線が消え、首と胴体は一つになった。

 全裸のままで。


 「あれだけバラバラになったのよぉ? もとに戻るのも大変なのに、そのうえこいつを押さえつけるなんてぇ…… もう疲れちゃったぁ」


 「はいはい、ごくろうさま、ベル、シャル、もう出てきてもいいぞ」


 そういうと二人が暗がりの陰から姿を現した。

 これには咲良も驚きである。


 「ずっと、いたんですか?」


 「ええ、レティシア様が汚らしい男に押さえつけられている時もずっと……」


 ((((メッチャ怒ってるぅ……))))


 誰もがそう思った。


 「汚ねぇぞ! 一人で来いって言っただろ!」


 シドーがレティシアたちに抗議する。

 負け犬の遠吠えもいいところだ。


 「悪いが、お前たちとの約束を守る義理もないんでね。 別に正々堂々と戦おう、なんて高潔な精神もないし、確実に勝利するために保険を掛けるのは当然じゃないか。 バレなければいいのさ。 ちなみにここから逃げようとすると、出入り口にトリナとライラが待っているので、そのつもりで。 ああそれから、ミレッジ邸に行った奴らもジュリとハリィが対処済みだ。 まあ二人の援護もなく解決したかもしれないが。 そういうわけだ、お前たちのたくらみは全て失敗だ。 ミレッジ邸でお仲間がお待ちだ」


 レティシアさんの言葉を聞いたシドーはがっくりと項垂れるのだった。


残っているのは……

レティシアについてこなかった人たち


ジュリ……ディーナの屋敷に向かい、山賊の仲間を討伐。

ハリィ……同上

しかし、二人が到着したときにはすでに使用人が始末済みであり、二人は夕食をご馳走になるだけだった。 情けなさ過ぎたとのちに二人は語る。


サリア……夕食中のため、欠席。 食事中に席を立つのは行儀悪いよね。


ククル……もう寝た。 だってまだ十二歳だもの。

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