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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
間章 2
34/125

幕間の小話

各物語の間のお話です。

書きたかったけれど、都合上カットした話など、三話続けてお楽しみください。

「君の名は?」




 キャラバンに向かう途中、かつての奴隷仲間だった人と別れてすぐ


 「結局コボってなんなんですか?」


 「……」


 「……」


 シャルさんもライラちゃんも黙ってしまった。


 「え? なに?」


 私変なこと聞いたわけじゃないよね?


 「どうするシャル?」


 「うーん…… 聞きたい?」


 あまり話すのは気が引けるらしい。

 知らない方が幸せとかそういうことだろうか。

 

 「そうやって濁されたらかえって気になるでしょう? なんなんですか? 言ったら不味いんですか?」


 「そうじゃないけど……」


 「まあいいだろライラ、あの女奴隷がいい奴とも限らないって知ったとこだし」


 ああ、やっぱり悪い意味なんだ。


 「コボっていうのはコボルドの略称のことなんだ。 コボルドっていうのは小さな魔物の一種なんだけど………… コボルドって自分より上位の相手……高位魔族とか吸血鬼とかに取り入って食料とかを分けてもらう代わりに奴らの下っ端になるんだ。 雑用とか戦闘兵とか。 しかもコボルドはしょっちゅう味方に付く相手を変える。 いなくなったと思ったら敵対する相手のところにいたなんてザラらしい。 まあ使う方も捨て駒くらいにしか扱わないらしいけど」


 思ったより評判がよろしくないぞ。

 私はこの世界の言葉がわかってなかったから、向こうとしても言ってることが理解されないから、それをいいことに蔑称で呼んでたんだろうとは思っていたけど。

 でも、さすがに私が小さい魔物に見えたなんてことはないだろうから、たぶんコボルドみたいとか、似てるそんなところからつけたものだろう。


 「で、ひとをコボルド呼ばわりするときってのはさ……偉い人とかに取り入るとか、八方美人な蝙蝠みたいなやつって意味なんだけど……」


 「そんなことしたかな?」


 偉い人とは元主人であったあの男のこと。

 別に取り入ろうとした覚えは……


 「本人の意思じゃなくて周りがどう思ったかだよ。 あの男が一方的にお前を気に入ったのかもしれないし、お前だけ扱いが他と違ったのかもしれないし、不興を買いたくなくてへらへらしてただけでも色目使ってるって見えなくもないしな」


 「女ってこわい……」


 「どのみち関係ないことさ。 あの女と会えるかどうかもわからないし、あったところでちょっと一緒にいただけの他人さ。 そしてその時の記憶は記憶の片隅に追いやっていい」


 そりゃ友達なわけでもないし、仲良かったわけでもなかったけど、

 自分がどう思われてるか全然わからなかったなぁ。

 

 笑顔の裏に何があるかわからない。

 肝に銘じておこう。




「君との距離」


 サリアさんが鉄拳を食らったあと、朝食をとった。

 それから出発までしばらく時間があったので、運動がてら屋敷を回ってみることにした。 

 しばらく歩いていると、きれいな花の咲いている庭が見えた。

 私は花に関しては詳しくないし、そもそも異世界なのでこちらの世界と同じ花があるとも思えない……

 と思っていたんだけど、


 「バラがある…… それも青い」


 見たことのない花もたくさんあるけれど見たこともある花も少なくない。

 じっくり見れば見るほどバラに見えてくる。

 けれど、なんでこの世界にバラが?

 それ以前に青いバラってあるんだっけ?

 たしか、元いた世界では青いバラといいつつ紫色にするのが精いっぱいだった気がするけど……


 「青薔薇がそんなに珍しい?」


 「うわあ!」


 急に後ろから声をかけられて驚いて声を上げてしまった。

 この世界の人は後ろから不意打ちがデフォルトなのか。

 

 「ああ、ごめんごめん。 驚かせちゃったね」


 後ろに立っていたのは黒髪ポニーテールの女性、年は私と同じくらいだと思うけれど、すらっとしてアイドルかモデルさんみたい。

 なんだけど、麦藁帽に肩には手ぬぐい、猫車には小石がしこたま積まれている。

 農業系アイドル?

 島開拓するの?


 「私はアビー=パメリアン。 アビーでいいよ? ああ、それとあっちにいるのがエウリアね! よろしく!」


 「あっち?」


 アビーさんの視線の先、建物の陰から覗く顔があった。

 そのエウリアなる人物はこちらと目があったことがわかると、歩み寄ってきてアビーさんの耳を引っ張って寄せ、耳打ちした。


 (おい! その小石が元々何なのか忘れてないだろうな!)


 (大丈夫でしょ。 だいぶ細かいし、意識してみなきゃわかんないって。 むしろ変な態度取った方が変だと思われるよ?)


 (そうか?)


 「あ、あの?」


 二人でこそこそ何を話しているんだろう?


 「ああ、何でもない。 今日の仕事のこと」


 「アビー! お客様相手にその口の利き方は……」


 「ああ、いいですよ? フランクに話してもらって」


 「だよね!! やっぱり堅苦しい関係って疲れるよね! ただ畏まればいいってわけでもひでぶっ」


 「お前は緩すぎだ!!」


 エウリアさんが持っていたスコップでアビーさんをぶん殴った!

 ちょっとアビーさん死んじゃうんじゃ……


 「でも実際どうよ?」


 あ、生きてた。

 

 「サクラちゃんだっけ? パーティーの仲間にもさん付け敬語でしょ? そういうのってなんか距離感じるもんだよ?」


 う…… そういわれるとそんな気もする。

 敬語を使うと、人間関係で軋轢は生まれにくそうだけど、明確に人との間に線引きがされる気もする。

 でも、一応パーティーの中じゃ一番新入りだし……

 年下のライラちゃんとククルちゃんにはフランクにできるけど……

 あとはみんな実力も経験も圧倒的だし……

 

 「ドクターククルを見てごらんよ。 あの若さであの尊大な態度! そこに痺れるあこがれるぅ、ってね」


 彼女は彼女でやや特殊な気がしないでもないけど、案外気にするほどでもない気がしてきた。

 しれっとタメ口利いてれば気づかれないんじゃなかろうか。


 「そうですね! やってみます!!」


 「「言ったそばから敬語」」


 言葉、むずかしい。


 


 お土産にと青いバラの花を何輪かもらい、それをもって屋敷の廊下を歩いていると、


 「おや、それって庭のバラ?」


 「うん。 庭師のアビーって人にもらったんだ。 サリアもいる?」


 「おなかの膨れないものはいらないよ。 ……どうしたの?」


 「敬語は距離感を感じさせるというアドバイスをもらいまして」


 「へぇ…… いいんじゃない。 私たち、敬われるほど立派でもないしね」


 よしよし、いける。

 この調子でみんなともフランクに会話を……


 「おや? 二人ともどうした?」


 「あ、レティシア……さん」


 「レティは無理かぁ」


 「?」




「変わらないもの、変わったもの」


 パーティーメンバーが入浴中のころ、ディーナの執務室に来客があった。


 「あら、レティシアさん」


 「約束のものだディーナ」


 ディーナの机の上にドン、と布に包まれた瓶が置かれた。

 中身は酒である。

 アイタールへの仕事の折にディーナから土産として頼まれていたものである。

 すると彼女は嬉々とした表情で、

 

 「あら、うれしいわ。 ウルル、グラスを持ってきてちょうだい」


 「今飲む気か?」


 「ええ、せっかく買ってきてもらったものだもの。 試してみないと」


 (お前が飲みたいだけじゃないのか?)


 ほどなくしてウルルが持ってきた小さめのグラスに酒が注がれる。

 そしてウルルがディーナにグラスを持たせると、彼女はグラスの酒を一気に飲み干した。


 「……結構強い酒だったんだがな……」


 レティシアが買ってきたのは所謂火酒と呼ばれるようなアルコールの強い蒸留酒である。

 ブランデーと言われればわかりやすいかもしれない。

 香りを楽しみつつチビチビと楽しむものである……、というか一気に飲んだら卒倒しかねないレベルである。


 「うわばみだとは思っていたがこれほどとは」


 「残念でしたね、これくらいでは私を落とせませんよ?」


 あなたもいかが?

 と勧められたが、レティシアはこれを固辞した。

 レティシア個人としても酒は好まないし、そもそも彼女の体、アルコールに弱いようなのだ。

 こんな強い酒を飲んだ日にはそれこそ一口で卒倒ものである。


 「残念だわ。 せっかくいいお酒をもらっても一緒に飲んでくれる相手がなかなかいないなんて」


 「お前と渡り合える奴なんてそうそういるか」


 そういってレティシアは苦笑いを浮かべながら首を竦めるのだった。


 「変わりましたね」


 「そうか?」


 「ええ、まだ私がパーティーにいたころはそれこそ狂犬みたいだったもの。 誰も信じず、向かってくるものは全て敵、常に戦場にいるような肩肘の張り方だったでしょう?」


 「『銀色の狼』に偽りなしじゃないか」


 「あそこまでのものはあなただけよ」


 「そうか? ……確かに変わったのかもしれんが、変わらないものもあるぞ」


 そういってレティシアは親指で自分の胸を指さした。

 

 「あなたの生き方の根底にあるもの…… それが何なのかわからないけれど、ずっと貫いていけるなんて恵まれてるわ」


 「……そうかもしれんな」


 レティシアもディーナ自身もまさか自分が貴族になるだなんて思ってもみなかった。

 ずっと冒険者としてやっていけると疑わなかった。

 しかし、この体では……それも叶うまい。

 だからこそ強くあこがれる。

 幾度となく絶望の淵に突き落とされようとも、それでもなお立ち続けている彼女に、この感情はきっと……

 いや、やめておこう、彼女に申し訳が立たない。

 彼女の方がずっとレティシアのことを思っているのだから。


 (うふふ…… この感情は……きっとこれからも変わらないかしらね……)

あと何話か幕間のような番外編のような話が続きます。

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