部屋を借りよう SIDE 咲良
今回で第二章は終わりです。
思ったより長くなっちゃいましたね。
とりあえず来週からは番外編みたいなのを数話投稿してから三章に入ろうかと思っています。
翌朝、太陽の光に目を覚ますと目の前の光景に驚いた。
いっそ引くほど豪華な部屋、それに肩を並べるくらい豪華な天蓋付きベッド。
家具一つとってもすさまじく高そうで、レースカーテンのフリフリさといったらまさにお嬢様の部屋……
そうか、お嬢様の部屋(正確には来客用寝室)か。
コンコン
「サクラさま? まだ寝てらっしゃいますか?」
いまの状況を頭のなかで整理していると、扉を誰かがノックしてきた。
というか、ずっとノックしていてその音で目が覚めたのかな?
「サクラ様? そろそろ起きていただかないとドア蹴破りますよ? エルザさんが」
「えぇ!? 私かい!?」
「起きます! というか起きてます!!」
っていうか二人ともこの家の使用人でしょ?
そんなこと言っていいの?
あくまでも穏便に部屋に入ってきてもらい、洗濯してもらった服を受け取る。
早いところ自分の服を買ってベルさんに返さないと。
「今何時くらいですか? もしかして朝ごはん近いとか?」
「ああ、ええっと…… 朝食は…… もう少し後になりそうですよ?」
「?」
二人の回答の歯切れが悪い。
なんで?
その答えは応接間にて判明した。
一瞬処刑場か何かかと思った。
まず、サリアさんが床に全力で土下座をしている。
この世界でも土下座は最高礼……
「ほんっとにすいませんでした!!」
否、最大級の謝罪らしい。
なにしたの?
一方サリアさんが謝罪している相手は小さな女の子だった。
金髪のショートボブ、背はシャルさんたちくらい。
その両手は自身と同じくらいの大きさの金槌(工業用のスレッジハンマー?)の柄が握られていて今にも振り下ろしかねない。
それをハリィともう一人背の高い女性が彼女を羽交い絞めにして踏みとどまらせている。
こんな状況では確かに朝食どころではない。
「あの……これって一体?」
近くにいたシャルさんにとりあえず状況を聞くことにする。
「ああ…… あのチビッコいの……イザベラっていうんだけどさ、あいつがサリアの義手義足の手入れしてんのね? で、サリアがぶっ壊して帰ってきたもんだから怒り心頭でさ…… いやはや、どうしたもんだか……」
確かにサリアさんの義足、特に右足は吸血鬼との戦いで損傷して直せないでいる。
それは単純に修理できる人がパーティー内にも町にもいなかったせい。
だから、日常生活においても歩こうとすれば引きずるくらいで、もちろん戦えない。
だから今日まで手付かずだったんだけど……昨日お風呂で言っていたのはこのことだったのか。
お説教にすらならなかったか。
シャルさんの口ぶりからすると、場をどう収めるべきか困っているんだろうけど……顔が楽しそうなのは気のせいかな。
「イザベラ! それで殴ったらサリアが死んでしまうきに!!」
「そうです、こんなことでイザベラが人殺しになる必要はありません」
二人の説得が効いたのかイザベラちゃんは金槌の柄を手から離した。
そしていまだ土下座状態のサリアさんの元まで歩み寄る。
サリアさんが顔を見上げたので、彼女を見下ろす自分と目が合う。
そしてイザベラちゃんはにっこりと微笑み、
「修正してやるぅ!!」
サリアさんに鉄拳制裁をお見舞いした。
朝食後私たちはディーナさんの屋敷を出た。
サリアの義足もしっかり直してくれたらしい。
タダじゃなかったけど。
「サリア、全然顔の赤み引かないな」
「まだ痛い…… まさかライラの言ったとおりになるなんて」
「僕のせいじゃないけど…… なんかごめん」
「いや…… ライラのせいじゃないけどさ」
そういう彼女の右頬は真っ赤である。
虫歯?って感じ。
もしくはラッキースケベな主人公が受けた制裁?
「でもすごかったよね。 かなり気合入った一撃だったし、というかあんな大きな金槌を振り回せるなんて」
「ああ、イザベラさんはドワーフなのです。 魔法があまり使えないのですがその代わり手先が器用で腕っぷしも強いと言われています」
「そんな種族だからか職人気質な奴が多くてな。 ライラ、この袋に氷入れろ」
「うん」
「とりあえずこれで冷やしておけ」
レティシアさんから氷の入れた麻袋を受け取りサリアは右頬にあてる。
ドワーフといえば武器とか防具を作っているイメージがある。
サリアの義手や義足を作っているんだとしたら、そりゃ壊されたら怒るよね。
職人気質な人って頑固で怒りやすそうだし。
さて、私たちが向かった先は大きな建物。
といってもミレッジさん家のお屋敷ほどではない。
その中間あたり。
三階建てでドアがたくさんついている。
これは所謂……
「ここはアパートメント『アビタシオン』。 要はアパートだ。 私たちの世界にもあっただろう? ここに私たちのほとんどか住んでるんだ」
「ほとんど?」
「ジュリは町はずれの借家、ククルとライラは個人の稼ぎがあるからラボ兼住居をハウスシェアしている。 クロエはそもそもプライベートを一切見せない奴だからわからん。 で、だ」
レティシアさんは私の右肩に触れて、
「お前はもちろん今晩の宿がない。 だから、ここの部屋借りとけ」
「え? いや、いいけど」
確かに寝泊まりするところはないからその提案は助かるけれど……
これまで私の生き方みたいなのにはほぼ無関心だったのにここにきて命令形になるとは、どういうこと?
裏がありそうな気がするのは気のせい?
「ちなみに家賃は銀貨三枚、敷金礼金が銀貨一枚」
うーん、安いのか高いのか判断できないな。
というか敷金礼金あるんだ。
ん?礼金って確か……
「礼金って仲介手数料だよね?」
「そうだな」
「この場合の仲介者って誰?」
「それはここの管理人だとも。 同じクランに所属しているんだが、いろいろ手広くやっていてな。 これもその一環」
「冒険者が大家を……」
まあ、冒険者は収入が不安定になりがちらしいしね。
家賃は固定収入になるからいいよね。
「しかし、家賃収入がなければ当然アパートは維持できない。 我々は自分の住処を守るため入居者を増やさなければならんのだ」
既に六人住んでれば家賃収入は十分でしょ。
とも言いたいが、収入は多いに越したこともないか。
私としても家があれば助かるし。
「じゃあ私もここに住むことにします。 ええっと契約は?」
「契約関連はそれ専門の住宅ギルドで斡旋しています。 とりあえず家賃諸々経費は払ってきましたのであとで返してくださいね」
そういってベルさんは鍵を取り出した。
いつの間に契約に行ってたんだ。
「ベル、部屋番号は?」
「217ですね。 とりあえず行きましょう」
階段を上り二階の217号室に入る。
部屋の大きさは四畳半くらい。
畳ないけどたぶんそれくらい。
部屋にはベッドがあった。
窓は大きいし日当たりは悪くなさそう。
埃っぽいのはずっと空室だったからだよね。
「家具はおいおいそろえていくといい。 私たちは全員二階にいるから。 ああそれと、ここは割と壁が厚いほうだがそれでも音には注意しておけ」
なるほどアパートなんかで騒音トラブルはよく聞くよね気をつけておこう。
「わかりました。 あんまり暴れまわることもないでしょうけど」
「いや、隣がトリナの部屋なんだ。 お前はともかくトリナは騒ぐかもしれん」
あ、そっちですか。
「あと、ここは地下もあってだな。 そこにもさっきの奴とは別のパーティーが住んでいてな。 あんまり関わらない方がいいぞ」
「それはどうして?」
「荒っぽい連中なのさ」
「荒っぽい?」
「気性が荒いのですよ。 口より先に手が出ます」
「口車に乗せられていいように遊ばれたり」
「油断してると食われるかもしれんのぉ」
地下に住んでる人たちって何者?
それから各々自分の部屋に戻っていった。
窓を開けると空気が入り込み埃を巻き上げた。
しばらくこうしておいておこう。
私はベットの上にドサッと仰向けになった。
異世界にきてしばらく。
家が手に入った。
職も持って収入も得た。
学生時代よりよっぽど自立している。
いや、そうせざるを得ないんだけど。
でもそれらのほとんどが誰かから与えられたものだ。
自分で何かを得たわけではない。
この世界は残酷だ。
ついさっきまで仲良く話していた人が急にいなくなる。
死だって私のいた世界よりよっぽど身近にある。
そして私はこの世界のことをあまりにも知らない。
まずは世界を知ることから始めよう。
この世界で生きていくために。
まず手始めに……
(レティシア) さーて、来週の『残酷で美しい異世界より』は?
(咲良) 咲良です。 先日入居したアパートの壁がドンドンという音で目が覚めました。 どうもトリナさんが寝相が悪くて壁をたたいてたみたいなんです。 ワンちゃんって寝相おとなしいと思ってたのになー さて次回は
唸れ! 夢を掴んだ必殺パンチ
少女が見た流星
月は出ているか?
の三本です。
(レティシア) 来週も見てくださいね。 ジャンケンポン!(グー) うふふふふ
(咲良) さすがにこれは駄目なんじゃないですか?
(レティシア) 怒られたら謝ろう




