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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
和歌山咲良と異世界を知ろう! 入門編
32/125

幕間 ミレッジ家流曲者対処法

前話の話の使用人サイド、VS侵入者のお話です。

五話目と同じような展開なので別にいいかなと思いつつもせっかくなので。

そしてあとがきでは重大発表が!!


(レティシア) あとがきだけ先に見るなよ

 ディーナ=ミレッジ子爵の大きな屋敷の中、明かりがなく薄暗い廊下を眼鏡のメイド―——ウルル―——は早足でしかし音を立てることなく駆けていった。

 緊急事態であるとはいえ、来客中にドタドタ走り回ってそれを聞かれるなどメイドとして言語道断である。

 ミレッジ家のメイドたるものどんな状況でもエレガントに振る舞わなくてはならない。

 使用人の出来はその家の教育がどれだけ行き届いているかを如実に表す。

 自分たちの出来がその家の評価に直結するのだから、メイド長たる自分がみっともない振る舞いはできない。

 などと自戒しているうちに、屋敷の中央南側、屋根裏倉庫兼見張り部屋に到着した。

 部屋にはすでにメイド二人が待機していた。

 二人のメイド、サンドロとサンドラは双子である。

 普段の髪型は両方ポニーテールでその顔は非常に似通っている。

 しかしサンドロは右目が縦に入った刀傷により潰れているので見分けることは割と簡単である。

 逆にそれ以外で見分けることはできない。

 ちなみに性格はサンドラが非常に内気、サンドロが非常に強気と真反対である。

 それはさておき

 

 「敵は?」


 「……七人……」


 「北の裏山から三人、東西からそれぞれ二人ずつ。 身体や足の運びからして手練れじゃない、コソ泥じゃないっスか? 動きは手慣れてる経験はそれなりにありそうだけど」


 サンドラがつぶやいてサンドロが具体的に話をする。

 息があってるのかあってないのかわからないと、ウルルは常日頃思っている。

 しかし、今はそれどころではない。


 「コソ泥か。 運だけで生き残れているくせにここに来るとは図々しい奴らだな」


 「……マクミラン……」


 「ああそうだ。 マクミラン商会の事務所が強盗に会ってたな。 確か留守番二人が襲われて殺されたっつってたな。 それで味しめたんじゃね?」


 「舐められたものだ。 物足りないなら望み通り全力で相手するまで」


 ウルルは壁に取り付けられた伝声管の蓋を開けた。


 「シャンレイ、エルザ、東側を対処。 建物内に入れるな」


 「了解です」

 「イエッサー」


 「アビー、エウリア、裏山の三人をお相手しろ。 紳士的なふるまいをしていただけないなら厳しく対応すること」


 「はいはーい」

 「了解」


 「リヴァ、料理はすべてできているか?」


 「いや、デザートがまだ下準備済んだとこだ。 まして、大飯食らいが来てんだ。 料理長(シェフ)が離れるわけにはいかねぇ」


 「サリア殿なら心配いらない。 ここに来る前にすでに軽く食事をしているらしい。 サンドラたちも送るからあとはヘックスたちに任せ、西側へ向かえ」


 「あいよ」



 

 ——————————





 「いいか! こいつの命が惜しかったらその剣を置け! おかしな真似したらどうなるかわかってんな!」


 東側で賊を待ち受けていたエルザたちだったが、逆にシャンレイを人質に取られてしまった。

 いま彼女の首元にはナイフが当てられている。

 エルザも素早く反応してレイピアを抜いたのだが、人質がいる以上襲い掛かるわけにもいかず、剣を足元に置いた。


 「そうだ…… それでいい」


 賊は勝利を確信して笑みを浮かべる。


 「一つ思ったんですが……」


 人質に取られたシャンレイはそんなこと意に介さず口を開いた。

 

 「この状況ってあんまり効果的じゃないと思うんですよ? ホラ、彼女が応じないで襲い掛かってきたらどうします? 私を殺しますか? そうすると彼女には本当に枷がなくなりますね?」


 「何を言ってる? 現にあいつは剣を置いたじゃないか。 非合理でも精神攻撃は強力だ」


 「……なるほど。 やはり思った通りあなたたちはこういう手に手慣れてる。 つまり変化球の引き出ししかない。 だから女二人にすら正面からやりあおうとしない」


 「なんだと? あまり挑発すると……」


 賊の男が言い切るより先にシャンレイは首筋のナイフの刃を掴んだ。

 シャンレイの手のひらから赤い血が流れだす。

 男はナイフを彼女から離した。

 ナイフにはシャンレイの血がべっとりついており、ナイフの刃先を上に向けたため、重力に従い下に血が流れていく。

 そして血が男の手に触れたとき、その血はシュウウと煙を上げながら男の肌を焼いた。


 「ぎゃああああ!!」


 予測していなかった激痛に男は悶絶した。

 煙を上げた個所を見れば、火傷のように肌が焼き爛れていた。

 シャンレイは突然のことに混乱した男の足を払い転ばせる。

 そして男のそばに立って


 「なかなか効いたみたいですね。 お察しの通り私の血は、あらゆるものを溶かす猛毒です。 ふふふ、ククル老師をしてこんな強烈なものは見たことがないそうですよ?」


 シャンレイは笑顔で男のナイフの刃を自分の手首にあて男の顔の上に動かした。


 「フフ、世界最強クラスの毒を味わいながら死ねるなんて、案外幸せかもしれないですね」


 そういいながらシャンレイはナイフで自分の手首を切り付けた。


 「ぐあああああああ!!」 


 男は顔に大量の血を浴び、口などから体内にも侵入した猛毒に苦しみながら死んでいった。

 残されたもう一人の男は顔を真っ青にしながら動けずにいた。

 無理もないたった今死んだばかりの男の顔は焼き爛れ、顔として判別することすらできないありさまなのだから。

 

 「なんなんだよ? なんなんだよ、この屋敷はぁ!?」


 「今心配すべきは自分の心配では?」


 「へ?」


 シャンレイが笑顔で言ったことの意味を男は正しく汲み取れなかった。

 予想外の光景に冷静でなかったせいだがそれによって男はエルザに武器を拾わせかつ、攻撃される暇を与えた。

 結果男はエルザの一突きで心臓を抜かれ絶命した。

 

 「シャオシャン!! 怪我は!?」


 「平気ですよ。 魔族は怪我が治るのも早いんですよ? 知ってるでしょう?」


 エルザにシャンレイが見せた手首の傷はもう塞がっていた。

 

 「それはそうだが…… それでも自ら自分の体を傷つけるだなんて。 それが普通であっていいはずがない。 あまりやらないで欲しい」


 「ディーナ小姐といい、あなたといい、優しい人ばかりですね。 ここは」




 ―—————————




 「そぉーれぃ!!」


 すらりとした細い手足の少女のスコップによる一振りで男の体はふっ飛ばされた。

 それに追撃とばかりにスコップで体をもう一突き。

 男は絶命した。

 

 「お前…… 何モンだ?」


 残った二人のうち一人が少女に話しかける。

 時間稼ぎでも罠でも何でもない。

 純粋な疑問だった。

 大の男を吹き飛ばす力もさることながら、一切ためらうことなくとどめを刺し殺す胆力。

 その若さで相当な修羅場をくぐっているのかと思いきや、


 「ただの庭師でーす」


 ウィンクとピースサイン、さらに舌をペロッと出す様はとても愛嬌があるが、返り血を浴びているせいでかえって異質に映った。

 

 「ただの庭師!? 森に潜んでいた俺たちの後ろをとって、攻撃を全部躱して、仲間を一瞬で殺すような奴がか!?」


 「私は庭師なんだよ? この森だって私の仕事場。 変化くらい見分けられるっての」


 「……ずらかるぞ」


 「え!?」


 仲間の提案に獣人の男は驚きを隠せなかった。


 「何か嫌な予感がする。 こいつとここでやりあうのは不味い」


 獣人の男は大体において男の勘が当たることを知っている。

 なので


 「逃げろ!!」


 二人は庭師に背を向けて走り出した。

 その先に


 「逃がすと思うか?」


 黒縁メガネのメイドがいた。

 髪質とも寝癖ともつかないふわふわの髪を風で靡かせながら。

 

 「こいつならやれる! 突っ込むぞ!」


 「おう!」


 そんな二人と対峙したメイドは眼鏡を外した。


 その瞬間、二人は全身が石になったように硬直した。

 しかし意識はまだある。

 二人が意識を離すまでの数秒、その視界にとらえたのはたくさんの蛇がうねっているように靡くメイドの髪と、吸い込まれそうな光を放つ眼であった。


 「エウリアー もう眼鏡かけた?」


 「ああ、こっち向いてもいいぞ」


 「困っちゃうよねー 目があった生き物はみんな石になっちゃうなんて」


 「もう慣れたさ。 それよりさっさとこれを運んでしまおう」


 「うーん。 いちいち砕くのめんどくさいなぁ」


 「いいからやる!! 終わるまで今日は寝れないぞ!」


 「えー!!」



 ——————————




 こっそり西側から侵入した盗賊だったがあっさりその姿を見つけられてしまった。

 しかし、即座に彼らは勝てると確信する。

 相手は大柄ではあるが女、それも料理人の服を着ている。

 間違いなく非戦闘員、仲間に知らされる前に処理する。

 そう思ってとびかかると、女と目が合った。

 不敵な笑みを浮かべるその顔の頭の両脇から角が出ていた。


 「鬼人族!?」 

 

 そして女は手に持っていた松明を口に近づけフッと一息。

 すると松明から青白い炎が伸び、男たちを一気に包んだ。


 「ぎゃああああ!」


 「あんま騒ぐなよ。 聞かれるじゃねぇか」


 それから料理長――———リヴァは近くにあった伝声管に話しかける。


 「西側、終わったぞ。 死体処理してから戻る」


 「あー、こちらサンドロ、それこっちでやるからお前食堂に戻ってきて?」


 「……なんで?」


 答えは予想が付くが。


 「サリアさんがデザートのお代わりくれってさ」


 「やっぱり……」


 リヴァは角を引っ込めながらため息をつき、肩を落とすのだった。

重大発表!!


「残酷で美しい異世界より」スピンオフ、「腹黒令嬢と武闘派メイドたち」開始決定!!


(サンドロ) よっしゃあ!! 俺たちが主役だぁ!


(ウルル) 主役はお嬢様だけどな


(エウリア) 我が世の春が来た!!


(エルザ) 執事の私も混ぜてもらえるんだろうか


(ディーナ) うふふ、あまりはしゃぎすぎては駄目よ?






さて今日は何月何日でしょう?


*来週はお休みします。 これは本当。


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