表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
和歌山咲良と異世界を知ろう! 入門編
31/125

貴族に会おう2 (食事編) SIDE 咲良

前回のあらすじ

 

レティシアがここぞとばかりにチビをいじられた。

 屋敷の大きな戸を開けると、だだっ広い広間が現れ、そのほぼ中央をらせん階段が昇り竜のように二階へと延びていた。

 その階段を上り、二階の長い廊下を進んでいった突き当りの部屋。

 トキさんはその扉をノックして


 「ディーナ様、レティシア様達がいらっしゃいました」


 「どうぞ」


 部屋の中からの返答を受けてトキさんが部屋の扉を開ける。

 部屋にいたのは女性が二人。

 一人はトキさんと同じメイド。

 銀縁の眼鏡をかけた黒髪で何とも仕事のできそうな人だ。

 よって、もう一人がディーナ=ミレッジ子爵になるんだろう。

 レティシアさんやクロエさんのと同じ銀髪でふわふわな髪質と相まって、とても優しそうな顔をしている、トリナさんから聞いたイメージとは少し違う。

 そして一番目を引くのは、彼女の姿。

 彼女は車イスに乗っている。

 それとは別に何か違和感が……

 

 「いらっしゃい皆さん。 今回の遠征はやけに時間がかかりましたね、レティシアさん?」


 「手紙で書いていた通りだ。 いろいろとイレギュラーなことがあった。 だが、頼まれていたものは手に入った。 まあ、それは後でな」


 「フフフ、楽しみですね。 新しいお仲間を招き入れたとのことでしたが、その方はこちらに?」


 「ああ、咲良」


 レティシアさんが私を手招きした。

 それにしても貴族の人というからもっと厳しくて頭の固い人を想像していた。

 だからと言って、貴族のディーナさんが敬語なのにレティシアさんがタメ口というのは良いのだろうか。

 二人の関係性がなせる業か。

 などと考えながら私はディーナさんの前まで歩み寄る。

 

 「ええっと和歌山咲良です。 よろしくお願いします」


 「ディーナ=ミレッジです。 よろしくねサクラさん」

  

 ディーナさんが両手を伸ばしてきた。

 反射的にその手を取ると、私の手を握ってきた。

 

 「手にタコができていますね。 剣士ですか?」


 「いえ、メインは魔法です。 このタコは体を鍛えるために素振りを」


 「そうでしたか」


 ここで私は彼女に抱いていた謎の違和感の正体に気づいた。

 会話していても目が合わない。

 ずっといた私にレティシアさんが話すまで気づけなかった。

 彼女はたぶん……


 「あの、気に障ったら申し訳ないんですけど…… ディーナさんって目が……」


 「! よく気づきましたね。 その通りです。 昔いろいろありまして」


 目が見えなくて車いす。

 日本で暮らすとしたら相当大変だろうと私でもわかる。

 まして、中世ヨーロッパくらいの文化レベルのこの世界では……

 

 「お前が気に病むことじゃない」


 レティシアさんが私の肩をたたきながら言った。

 

 「気を使わせてしまったようですね…… それはそうとみなさんお疲れでしょう? 今日はここに泊って行かれませんか? 夕飯もご馳走しますよ?」


 「それはいいんだが…… 皆にここで落ち合うように話をしてしまったんだ。 夕食と言うとサリアも来ることになるぞ?」


 その瞬間そばに控えていたトキさんとメガネのメイドさんに緊張が走った、気がした。

 

 「それはそれは…… 望むところでしょう」


 と言うディーナさんの笑顔も若干引き攣って見えた。




 夕飯まではまだ数時間ある。

 なのでそれまでは各自部屋で休んでほしいとのことだった。

 私としても初めての町では迷子になるだろうし、何よりゆっくり腰を落ち着かせて休みたかった。

 というわけで私は部屋にあった大きなベッドにダイブした。

 

 「ふわぁああ…… 何日ぶりのベッドだろ…… すごい落ち着く…… このまま寝れる……」


 そしてそのまま夢の中に落ち……


 「寝る前にちょっといいですか?」


 れませんでした。


 「うわああああ!!」


 別に疚しいことは一切してないけどつい反射で飛び起きてしまった。

 

 「そんなに驚かなくても…… お風呂の準備が出来てました。 皆さま向かわれましたのでいかがかと思ったのですが……」


 「それとこちらはお着換えです。 皆さまお召し物が汚れていたので洗濯させていただくことになりました」


 部屋を訪ねてきたのはメイドさんと執事さん。

 メイドさんはシャルさんや、レティシアさん並みに背が小さく長い髪をツインテールにしていた。

 もう一人の執事さんは背が高く一見すると男性のようだが、その大きな胸が違うということを主張していた。

 

 「わかりました。 私もお風呂に行きます。 あと着替えですけど、ここにあるので……」


 さすがに女子として着替えがないのは頂けなかったので隊商の荷物の中から買わせてもらった。

 冒険者らしいラフな格好で。


 「……」


 執事さんが黙ってしまった。

 

「それも同じくらい汚れているようなので洗濯ですね。 ということでお風呂から上がったらこちらを着てください」


 メイドさんは遠慮しない。

 わかってたし仕方なかったけれど女子としてはそういうことを言われるのはショックですよ。


「シャンファ…… それはどうかな……」


 「おっと…… エルザさんの言う通りですね。 失言でした」


 シャンファさんが謝罪して頭を下げたので、それを制止し、着替えを両方渡し代わりの着替えを受け取った。

 それから大浴場へと案内された。

 

 大浴場にはすでにベルさんたちがいてサリアさんとライラちゃんも合流していた。

 

 「いやあ、生き返るのぉ、お嬢も来ればええのに」

 

 ハリィさんの言う通りやっぱりレティシアさんは来ていない。


 「皆さんが入り終わったら来ますよ。 一人で」


 そういうベルさんの言葉の端々に悔しさ滲み出ている気がする。

 気のせいか。

 

 「そういえばサリアさん。 明日の午前中にイザベルさんがいらっしゃるように手配なさったそうですよ?」


 「そうか…… 今回は右足を完全に壊しちゃったからなぁ…… 一時間お説教かな……」


 「ウチは二時間くらい行くと思うが?」


「僕は金槌で殴られるに一票」


 「それって私死んでないかな!? 殺されるの!?」


 「「「うん」」」


 イザベラさんとは恐ろしい人らしい。

 サリアさんは顔を真っ青にしつつ、重い悩みができて深いため息をついた。



 お風呂から上がり、二人から渡された着替えに着替えるとそのまま食堂に案内された。

 上座にはディーナさんが座り、その右横にレティシアさんが座っていた。

 私たちも席に着こうとして、周りにいたメイドさんやら執事さんやらに椅子をひかれた。

 ちなみに執事といっているが全員女性である。


 「何か?」


 「いえいえ!」


 人生史上類を見ない扱いに戸惑い、思考が止まってしまった。

 なんだか恥ずかしかったのでそそくさと席に着く。

 出された料理は屋敷と同様に立派なもの。

 詳しくはわからないけど高級料理店のコース料理みたいだ。

 ナイフとフォークもしっかり皿の両脇に並んでいる。

 こういうお金持ちや貴族のお食事にお呼ばれした場合、やはり招かれた側にもそれなりのマナーが求められるものである。 

 当然私はテーブルマナーなんて知らない。

 そもそも日本のJKが知ってる方がおかしい……と思う。

 しかし、私はこういう時の乗り切り方を知っている。

 秘技・隣の人の真似をする!

 駅で切符を買ってから電車に乗るまでの流れ、お葬式のお焼香、テーブルマナーだって例外じゃない。

 そう思って右隣を見ると、


 (フォークが右やったか? ううん、わからん。 いっそ手掴みではいかんのだろうか?)


 (いっそフォークをこれに刺して一口で…… 頑張ればできなくはないが……)


 (なんでナイフを食事に使うのよ! ナイフなんて武器じゃない! 食事なんて手で食べられないともしもの時大変だし、別にできなくても大丈夫……)


 見るんじゃなかった。

 思えばあの三人(サリアさんたち)は脳筋タイプだからこういうの苦手か……


 じゃあ向かい側(レティシアさん)はどうだ?

 というかレティシアさんを見れば正解なんじゃないか?


 「あまり人の食事をまじまじと見るものじゃないよサクラ」


 「あ、わかりました?」


 「あまりマナーを気になさらなくても平気ですよ。なかなか覚えてくれないあの方たち(三馬鹿)もいるのですから」


 そういうディーナさんの笑顔はかわいかったが何か含みがあった気がした。


 (((何かすさまじく失礼なことを言われた気が)))


 気にしなくていいなら、とりあえず申し訳程度に覚えていたフランス料理のマナーでいいか。


 と、食事をとっているとベルさんの兎耳がピクンと反応した。


 「ディーナ様、レティシア様、招かれざる客がいらっしゃったようですが?」


 そばに控えていた獣耳のメイドさんもトリナさんも耳をぴくぴくさせて状況を探っている。 


 「害虫駆除ね! 任せなさい!! 私が……」


 「トリナさん」


 意気揚々と席を立ったトリナさんをディーナさんは淡々としつつも強い口調で制する。


 「食事中に席を立つなんてお行儀が悪いですよ」


 「いやでも」


 「食事中に席を立つなんてお行儀が悪いですよ」


 「っていうかアンタさっきマナーとか別にいいって」


 「食事中に席を立つなんてお行儀が悪いですよ」


 「うう……」


 録音されたかのように繰り返されるディーナさんの一言。

 トリナさんはついに折れて席に着いた。


 「本当にいいのか?」


 レティシアさんもディーナさんを横目に見て問いかける。


 「問題なく。 お客様くらい使用人で対応できなくてどうします? ウルルを行かせましたし平気でしょう」


 いつの間にか常にディーナさんのそばにいたメガネのメイドさんがいなくなっていた。

 全然気が付かなかった。


 それからしばらくして、

 ディーナさんの謎の気迫に押され、座ったままそわそわしていたトリナさんがおとなしくなった。


 その姿が見えないはずのディーナさんは


 「ね? 大丈夫だったでしょう?」


 そういってグラスのワインを口につけるのだった。

(シャル) ライラ、ギルドに行ったんだろう? あたらしい情報はあったか?


(ライラ) 無いよ。 そんな簡単に見つかると思ってない。


(シャル) でもさ、ちょっとは期待してんだろ? 何もなくてしんどくないか? 


(ライラ) もう四年だ。 四年間、森の中の一枚の葉を探してきた。 僕も自分がこんなに諦めが悪いと思わなかったよ。


(シャル) ……諦めんなよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ