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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
和歌山咲良と異世界を知ろう! 入門編
30/125

貴族に会おう SIDE 咲良

(咲良) こんなサブタイトル付けたくせに今回会えませんでした。 作者の計画性のなさをこの場を借りてお詫びします。 いろいろ詰め込みすぎてこんなことになるというね……

 オークに連れ去られていた女性たちはみんな村に戻った。

 心に受けた傷はすぐに治せるものではなく、こればっかりは私たちでもどうすることもできない。

 家族、友人、村の仲間、そういった人たちと触れ合っていく中で少しずつ癒えてくれることを願うしかない。

 村に戻ったころには日暮れも近く、その日はその村で一泊することになった。

 村の人たちからお礼をしたいという申し出があったが、みんなこれを固辞した。

 襲撃を受けて壊滅しかけた村にそんな余裕はないはずだし、それがあるなら村の復興に回すべきだと思う。

 なので村の中の屋根のある建物を借りてそこで夜を過ごした。


 できることなら村の復興のお手伝いをしたいところだが、そもそも私たちは商人の荷物の搬送の護衛をしている。

 その任務を投げ出すわけにはいかないし、商人の人たちも荷物の運搬を遅らせるわけにはいかないから、翌朝、出発することになった。


 村を出発してから二日後、隊商はアイタール王国のマイランに到着した。

 本来予定にはなかった行程だが、依頼主である商人としては護衛にもともと契約に含まれなかった仕事をさせたわけなので、それをギルドに報告する必要があった。

 そもそも、冒険者に依頼を出したいときは、どういう内容であろうともまず、ギルドを通じて行わなければならない。

 それはギルドが依頼内容から難易度を判断し、適切なランクの冒険者に割り振るためであり、また、後々報酬などのことで揉めてしまうこともあるからである。

 しかし、今回は連れ去られた女性たちのこともあって急を要した。

 なのでギルドへの報告を後回しにしたのである。

 だから、今回改めてギルドへの報告を行ったのである。

 

 ギルドへの報告後、私たちはオークの討伐分の報酬を受け取った。

 報酬は私たち三人と≪蒼き守護者≫で半分ずつに折半した。

 そこで≪蒼き守護者≫とは別れることになった。

 まともに戦えるのは一人しかいないうえ、心に傷を負ったままのウィズさんを連れまわすのはよくない。

 この世界に精神科医やカウンセラーはいないので結局自力で乗り越えるしかない。

 できるだけ早いうちに腰を落ち着かせてあげるほうがいいということだ。

 ボルト君も相当渋ったが最終的には了承した。

 

 「自分では役に立たないと思ったから」


 らしい。




 町を出て目的地に着くまでに三日、その間、二回ほど魔物と出くわした。

 一回目はジャイアントニュートというとても大きなヤモリだった。

 5,6メートルの巨体が道を塞いでいたのだけれど滑った巨体の両生類というのは気持ち悪い。

 こちらとしては刺激しないで静観してもいいけれど、向こうがこちらを認識すると襲ってきたのでレティシアさんが剣の一振りで黒焦げにした。

 結果ジャイアントニュートの毒が採取できなかったククルちゃんが立腹した。

 レティシアさん貴女の判断は間違ってないですよ。

 面倒だからって謝らなくてもいいです。


 二回目はゴブリンの群れ。

 耳が大きく、背は低い、その顔は邪悪な笑みを浮かべているようだった。

 三十体以上が現れ隊商を囲んだ。

 火や簡単な道具を使うあたり、肉弾戦ばかりのオークより頭はいいようだが、それでもこのメンバーが苦戦するような相手でもなかった。

 その証拠に私も一人で三体をゴブリンを倒すことができた。

 使ったのは風魔法による攻撃の初歩である≪カマイタチ≫だけれど十分通用するらしい。

 生き物を殺すのはいい気分じゃないけれど、それ以上にやっとパーティーに貢献できたことがうれしかったのも確かだった。


 


 そして隊商はフランシス王国王都パリエへと到着した。


 「皆さま、ここまでの長旅お疲れさまでした。 いろいろと予定外のことはありましたが、各商会の従業員全員が無傷で生き残れたこと、ひとえに皆様のおかげでございます」 

 

 そういってアルフォンソさんは頭を深く下げた。

 

 「それでは報酬のほうをお渡ししたいと思いますので各パーティーのリーダーの方はギルドまでついてきていただけますか?」


 ギルドで諸々の手続きを済ませて、その場で解散ということになった。

 

「じゃあな、小っちゃなお嬢ちゃん」


 シルヴァさんがレティシアさんの頭をポンポンと撫でた。

 女子が一度は男子にやってもらいたいこと第二位!!(私個人の主観)

 しかしシルヴァさんは三十台とはいえ髭のおじさん、どちらかというと親子に見える。

 それにレティシアさんは心は男子、おまけに背の小ささをイジったとなれば。

 

 「あ゛ぁ!?」


 「おお、おっかねぇ、冗談だよ。 またな次仕事で会う時まで全員生き残ってろよ」


 「「「当然!!」」」


 否定する人は誰もいなかった。


 「さてお嬢あたしたちはどうする?」


 「戻ってくるまでに思ったより時間がかかったからな…… 各自自由行動でもいいぞ?」


 「じゃあ私先にラボに戻ってるから。 どうせあそこに寄ってくんでしょ?」


 といってククルちゃんと別れ


 「私もここで失礼するよ。 とりあえず明日の朝、アパートでいいかな?」


 とジュリさんも離れて


 「僕もちょっと用事があるから。 夕飯前には合流できると思う」


 と、ライラちゃんとも離れ。

 そして、サリアさんはふらりと食事処の多いらしい繁華街に向かっていき、いつの間にかクロエさんは姿を消していた。


 「じゃああとのメンバーは私についてくるということで。 サリアとライラはあとで合流するだろうからいいだろう」


 そう言って歩き出したレティシアさんの後を付いていくと、大きなお屋敷の前についた。

 所謂貴族が住んでいそうな豪邸。

 それに比例して門から屋敷までの長いストロークをレティシアさんたちは臆することなく歩いていく。

 いや、


 「トリナさんなんで私の後ろに?」


 「アンタも平気なの!? こんな豪邸前にして気後れしないほうがどうかしてるでしょ!?」


 「わかりますよ。 なんか豪華な家の中にはいるだけで肩肘張って緊張しちゃうときあるし」


 かくいう私も敷地を跨げないでいる。

 私はここ初めてだし。

 侵入者ってことで狙撃されたりしないかな?

 

 「そこで何しとるんだ?」


 「「うわぁ!!」」


 いつの間にか後ろにメイド服の少女が立っていた。

 背は小さく、ショートボブで何となくこの世界の人にしては顔が……

 なんか東洋系っぽい。

 気のせい?


 「トキ!? いつの間に!?」


 「じゃあな、小っちゃなお嬢ちゃんのくだりから」


 「「思ったより数十行前!!」


 「誰か私の背のことを言ったか?」


 「うわ! 戻ってきた!」


 「変なトコで地獄耳発揮すんなよ、お嬢」

 

 シャルさんとハリィさんは息を切らし、ベルさんはいつもの澄まし顔で戻ってきた。

 戻ってきたレティシアさんの顔を見るなり、トキと呼ばれたメイドさんはスカートの裾を摘まんで、


 「お待ちしておりました。 ≪銀色の狼≫の皆さま、主人がお待ちです。 ところであなたは?」


 トキさんが私の方を見た。

 私はここに来たの初めてだもんね。


 「新顔だ。 詳しい話は中でする」


 「左様ですか。 ではこちらへどうぞ」


 トキさんはみんなの先頭を歩き出した。

 

 「あの、ここって誰の屋敷なんですか?」


 とりあえずまだ後ろに隠れているトリナさんに聞いてみる。

 トリナさんはまだ緊張しているけれど、同時に尾行(といってもいいと思う)に気づけなかったことが悔しかったらしい。

 耳はいいからね。


 「ここにはジーナ=ミレッジという貴族が住んでるわ。 階級は子爵。 地元で領主をしてるミレッジ辺境伯と王都の橋渡しをしてる」


 「へー」


 貴族の階級は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵だから下から二番目?

 あんまり偉くないって言ったら失礼かな?

 辺境伯ってのはなんだろう?


 「十六歳で王都の貴族の爺どもと渡り合い、自らも起業して成功を収め、それによって爵位もらう。 とんでもない切れ者だってみんな言ってるわ。 あなたも会えばビックリするわよ」


 弱冠十六歳で……

 トリナさんの評価を聞くにすごい頭のよさそうな人みたいだ。

 私の脳内には、若い青年貴族が腹黒い意地の悪そうな笑顔を向けている姿がイメージされた。

(サリア) 頭を撫でられるのが男子にやってもらいたいことねぇ。 あとはどんなのがあるの?


(咲良) 顎クイや袖クルとかありますけど…… やっぱり鉄板は壁ドンですかね


(サリア) それなら知ってる。 ちょっと壁に立って。


(咲良) え? 私女の人にされるの? でもサリアさん格好いいし。 っていうか顔近い……


(サリア) フンッ!!


ドゴォオオオオ!!


(サリア) こんなので本当にドキドキする?


(咲良) しますとも! 命の危機を感じ取りましたから!!


お約束。

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