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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
第一部 ハローワールド
3/125

銀狼の仲間たち SIDE 咲良

咲良視点では

「」が日本語

『』が異世界語という形になります。

とか言って間違えて書いたりして……

信じられなかった。

まさかこの世界に私のように日本語を話せる人がいたなんて。

しかも、この人は私の為に金を払って助け出してくれた。

と、同時に疑問が浮かんだ。

この人は何者なのか。

顔を見れば間違いなく日本人ではなく、この世界の住人であるとわかる。

いや、顔が西洋風なだけで、日本で暮らしていたのか、日本語を誰かから学んだのか。

さっさと本人に聞けばいいものを、私は今のこの状況に混乱し、彼女の顔をじっと見つめるばかりで何も言葉には出せなかった。


「どうした?

私の顔に何かついてるかな?」


悪戯っぽい顔でそう言われてついついドキッとしてしまった。


「あ、いや、そういうわけではなくてですね」


「フフフ、冗談だ。

何を考えているか手に取るようにわかるよ

何から話せばいいかな?

まずは私の生い立ちから話そうか」


目の前の女性―レティシアというらしい―は、日本人で、死後、おそらく私と同じタイミングで転生したのだろうと語った。

もとは日本人でしかもここに転移ではなく、転生したとは……

しかし、そうだとすると……


「えっと、レティシアさん、でいいですよね、レティシアさんは何歳なんですか?

まさか生まれて間もないとかじゃないですよね」


「私は十六歳だ、生まれてからここに至るまでに十六年たっているわけだが、君が来たのはここ数か月だろう?

それだけのタイムラグがあったわけだな。

その理由まではさすがにわからないが」


「あの、ひょっとして、他にも日本人にも会ったことあります?」


「あるよ。

おそらくこの世界に飛ばされたのはあの時修学旅行先のホテルの庭にいたクラスのやつだ」


「クラスのやつってそれじゃあ」


この人も転生前は私のクラスメイトだったのか


「ああそうだ。

一応名乗っておこうか。

俺のかつての名前は――――――――――」


「!!」


その名前を私は知っている。

有名人だったからだ。

学業成績は学年でも上位、容姿は普通、運動神経はあまりない。




そして何より、クラスの男子からイジメを受けていた。




イジメを受けるに至った経緯は知らない。

しかし、イジメを受けていたという事実はクラスならたぶん、ほとんどの人が知っているはずだった。

そして、それを見て見ぬふりをしていた。

理由は単純で、とばっちりを受けたくなかったから。

わざわざ積極的に関わって行こうとするほどの行動力と勇気を持った人間は、私たちのクラスにはおらず、先生も知っていたのかもしれないが何もしなかった。

結果、彼のイジメは一年の間終わることはなく、二年に進級しても続いた。

そして修学旅行先のホテルでも、やはり、彼はイジメられていた。

人の目がないことをいいことに、暴力行為にまで及んでいた。

そうだ、そして彼は男子の一人に吹き飛ばされ、頭を庭の石に……


「その様子だと見ていたようだな。

俺が死んだことを……」


「あ、あの……」


「まあ、別にいい。

君がやったことではないし、私にとっては過去の話、前世の記憶だよ」


「ヘ?」


思わず間抜けな声が出てしまった。

確かに彼女(レティシア)からすれば、前世ということかもしれないが、仮にも自分が殺されたのに?


「彼らに関して言えば、思うところがないわけではない。

が、それを君に言っても仕方ないからね」


思うところがないわけじゃない――――――


じゃあ、この人が何を思っているのか……

かつてのクラスメイトに何を言いたいのか、何をしたいのか。

私はなんだか怖くなって聞くことができなかった。




***




屋敷からレティシアさんたちが泊まっているという宿までは意外と距離があり、しかも夜遅くで移動手段が捕まえられないとのことで歩きになってしまった。

結果、かなり遅くに宿に着くことになり、私はそれはそれは疲れていた。

そんな時間だからか宿の中にも殆ど人はおらず、すでに休んだらしい

レティシアさんは宿の店番の人と二、三言話すと階段で三階に上がっていった。

三階の右手の一番奥の部屋―――広かったので多分会議室とか?―――の扉をレティシアさんはノックもしないで開けた。


『やあやあ、みんなこんな夜遅くまで起こしたままで悪かったね』


部屋には七人の女のひとがいたが、レティシアさんの言葉に反応しない。

それもそのはず、皆私を見ている。

何だこいつは、とか思っているに違いない。

レティシアさんが彼女たちに何かを話している。

多分、先ほどの顛末と、私のことを……

彼女たちは話を聞くと、とても驚いて、珍しいものでも見るような視線をこちらに向けてきた。

あんまりジロジロ見られるの好きじゃないからやめてほしい。


「さて、一応私のパーティーのメンバーも紹介しておこうか。

一番右が獣族のベル。

見ての通り兎だね。

亜人族を見たのは初めてかな?」


初めて見た。

顔や身体は人間の女性、というか少女そのものだが、頭の上には兎の耳が生えている。

ふわふわのロングヘア―で見えないが、顔の脇には人間の耳が生えていないのだろうか。

日本ならコスプレと思われる見た目もここでは普通にあるのか……


「その隣のハリィとシャル人族だ。

歳は君と同じくらい」


ハリィはギャル風に盛られた紺色の髪をしているが、不思議とあまりチャラそうに見えない。

シャルは目の細い金髪のショートヘア―で、前髪をピンでとめておでこを出していた。


「ジュリは見ての通りのダークエルフだ。

アニメとかで見たことあるだろう?」


聞いたことはある。

黒い肌ととがった耳、なんとなく露出の多い服着ているイメージがあったけどこの人はそうでもないらしい。

出てるところは出てるけど。


「で、その隣がサリアで小さいのがククル、どっちも人族だ。

ああククルに小さいとか言うなよ、ムッとするから」

言葉わかんないから大丈夫です。

サリアさんは割と長身で百七十近いと思う。

首筋までのショートヘア―でスラッとした立ち姿は美人を通り越してもはやイケメンだった。

ククルは小学生並みの身長で、ジト目でこちらを見ている。

私そんなに珍しいですか?

珍しいか。


「ゴスロリがクロエで、その隣がライラ、この二人は日本語がわかる。

私より頭がいいんだ」


クロエは銀色ロングのストレートヘアーでゴスロリを着ている。

テーブルの上で足を組んで蠱惑的な笑みを浮かべている。

ライラは行ってしまえば地味なショートヘア―の少女。

無表情で、羽織っている薄手のコートが白衣に見えなくもない。


「最後がトリナ、狼の獣族だ。

犬じゃないぞ」


トリナの頭には犬のようなケモ耳が生えてるし、ふわふわな尻尾も見える。

あわよくば触らせてもらえるだろうか。


「さて、面通しも済んだところで、とりあえず今日は休もう。

今後については明日また相談するということで。

じゃあ、解散」


怒涛の一日がやっと終わった。

なんだかあれよあれよという間にここまで来てしまった。

これまでの日々は夢なのか、いや、背中の鞭で叩かれた痛みが現実だと教えている。

数か月たってもなお現実と夢の境目が見えないような気がした。


と、呆けていると、服の裾を誰かに引っ張られた。

引っ張ったのはククルさんだった。

上目遣いでこちらを見ている。


「ククルが、あなたは今日寝る場所がないのではないかと聞いている」


ライラちゃんが日本語に訳してくれた。

殆ど違和感がないくらい流暢に日本語を話している。

さて、寝床がないかと聞かれたが、多分そうだろう。

というか、奴隷時代も寝床はなかった。

夜を過ごした地下の小部屋では薄いボロボロの毛布一枚だけで寒さと恐怖に震えて過ごしてきた。


「別になくても毛布と場所さえあれば平気ですよ、あ借りられないかな……」


宿代も払えないので贅沢は言うまい。

寒さはしのげそうなので毛布一枚で事足りるだろう。


『ニホンジンという人種に興味がある。

話をさせてもらえるなら毛布と言わず、枕とお布団を提供しよう。

どうかな?』


「―――と言ってる。

正直僕も興味はある。

どうだろう?」


一応レティシアさんのほうも見てみる。

彼女は、ベルさんとシャルちゃんと話をしていた。

私は少し考えてから……


「お願いします」


二人の提案に乗ることにした。


話といってもそんなたいそうな話ではなく、私の日常生活、休日の過ごし方を中心として、サブカルチャー、好きだったものや食べ物など、確かにこの世界では珍しいかもしれない。


「レティシアも教えてはくれるが、彼女は勉学以外のことをあまりしてこなかったらしい。

視点も男性のそれなので、女性の視点でも話を聞きたかった」


確かにあの容姿で忘れそうだが心は男なのだから女子としてはやはり女子から話を聞きたかったのかもしれない。

しかし、もう夜遅く、続きはまた明日として今日は眠ることにした。






「私たちは小柄だから二人でも足りる。

あなた一人でそのベッドを使って構わない」


「ほんっっっとうにありがとうございます。

久しぶりのベッドでうれしいですんですけど、なんだか申し訳ない気がして」


「そんな大げさなことじゃない。

確かに一般人の観点からすれば多少立派ではあるが、かといって気にするほど豪勢でもない、あなたはもう奴隷ではないのだし気にせず寝ていい」


と、そんな問答がライラちゃんとあった。

ベッドが立派なのもそうだが二人で一つのベッドを使わせることが申し訳なかった。

しかし、恐縮している自分を見ると、なんだか奴隷としての教育が徹底されている気がして若干悲しくなった。


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