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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
和歌山咲良と異世界を知ろう! 入門編
29/125

オークを退治しよう 5 SIDE 咲良

今回の話は今まで以上に酷い描写があります。

不快に感じるかもしれないのでご注意ください。

 道なりに進んだ先は行き止まりだった。

 岩の壁があるだけだが、あかりを照らせばその岩の一部が盛り上がっている。

 いや、これは

 

 「オークたちなりの隠し扉だな。 スライドさせると……」


 ズズズッという音とともに岩をずらすことができた。

 少しずつ岩が動き、先が見えるとなんとも形容しがたい匂いが漂ってきた。

 生魚のようで、血のようで、肥溜めのようで、とにかく不愉快で吐き気すら催した。

 岩を完全にどけて見えたものは、小さい部屋とそこにボロ雑巾のように放り投げられている女性たちだった。

 その中にはウィズさんもいる。


 「なに……ここ……?」


彼女たちの置かれている環境は劣悪極まりない。

いや、オークは二足歩行だけど動物だし捕虜の扱いなんて考えないか。



「シャル! なんなんだここは!? 女性たちを集めてここで何をしていた?」


ククルちゃんもこの状況の説明ができないらしい。


「さっきも少し行ったけど……オークって雄しかいないんだ。 今ならその意味わかるだろ?」


「「「!!」」」


オークには雄しかいない。

しかし、オークはその数を増やしているらしい。

ではどうやって?

雄同士で数を増やす?

違う。

答えはここにいる女性たちが示している。

もっと言えば、どんな生きものにも三大欲求はあるだろう。

当然性欲も。

そうじゃないと生きものは子孫を残せない。

わかってしまった。

ここでオークが女性たちに何をしていたのか。

そもそも何で女だけを連れ去ったのか。


「呆けてる暇ないぞ。 とりあえずこの人たちをこの部屋から出そう」


シャルさんのその一言で私たちは現実に戻った。


「ボルト、先に戻ってそいつを置いてきつつ何人か呼んできてくれ。 ここにいるやつらだけじゃ全員運ぶのに時間がかかる」


残った私たちは部屋に入って、女性たちの生死を確かめる。

幸い死人は出なかった。

けれど、これがもう少し遅かったらオークにたくさん乱暴された女性たちはもしかしたら、殺されていたかもしれない。

だから、出発前、レティシアさんたちはギルドに話を通したのでは間に合わないと言ったんだろう。


女性たちを部屋から出した後、とりあえず、床に寝かせた。

全員生きてはいるが、自力で立てる人はいなかった。

このままだと一人ずつ運ばないといけないかもしれない。

女性たちは全員げっそりとして目は虚ろだった。


「…………」


「何ですか?」


外に運んだ女性の一人がこちらを見て、口を動かした。

その内容を聞き取ろうと、耳を近づけた。


「……ころ……して…… 私を……殺して……」


その言葉にはっとした。

死にたいとすら思うほどの精神的ショックだったなんて。

そうだろう、連れ去られ、乱暴された。

それもオークという自分よりも一回りも二回りもおおきなモンスターに。

その恐怖は察するに余りある。

何か言わなければと思いつつも、何も言うことができない。

精神科医でもない私が何か言ったところで、この人たちを救えると思えなかった。


「私たちにできることはここから出して怪我を治すことだけ。 心の怪我までは治せない。 もう無理かもしれないけどな」


そう言ってシャルさんは私の肩を叩き、視線を別の方へ向けた。

視線の先にはウィズさんがいた。

彼女も無事だけどやはり精神的ショックが酷いのか蹲ったまま何も話さない。

その肩はハッキリと震えていた。


「とりあえず、緊急の怪我人は無し。 死体も無かったから全員無事だと思う」


「無事?」


「これが? 冗談だろ?」


 こと精神的ダメージはかなり深いように見える。

 まともに日常生活も送れないかもしれない。

 それでも無事といえるのだろうか?


 「私の領分は病気と怪我。 心の病まで扱わないし興味もない」


 ククルちゃんの突き放した言葉にシャルさんはため息をついた。


 「今からそんなんで、お前の将来が心配だよ」


 





それから、とりあえず、全員を洞窟の外に出した。

 全員茫然自失ではあったが歩いてはくれたので、その肩を貸してあげた。

 それから一時間ほどしてベルさんたち女性陣数人が荷馬車をもってやってきた。


 「なんか……ずいぶん準備よくないですか?」


 「実際、準備してたので。 女性たちがかなりの数生きていると考えられた訳ですし、そうなったらこれくらいは必要でしょう?」


「お前たちわかってて俺たちだけで行かせたのか!?」


抗議の声を上げたのはボルト君だった。

自分たちだけ知らなかったもんね。


「逆にお尋ねしますが、知らなかったのですか? 意気揚々と討伐に行くと仰っていたので急いで救助しなければと思っていたのだとばかり思っていました」


 さも不思議そうに聞くベルさんの表情は冷たい。


 「意地が悪いなぁ……」


 これにはサリアさんも苦笑い。

 

 「違う! 本当ならこんなはずじゃなかった!!」


 ボルト君は声を荒らげるが、ベルさんはそれに動じることなく、


 「ではどんな筈だったのでしょう? 自分たちだけでオークを壊滅させ、おいていった三人には『まったく遅いなぁ、全然修行が足りないぞ』とか自慢げに言うつもりだったのでしょうか?」


 ボルト君は唇をかみしめた。

 結果論とはいえ私たち、とくにシャルさんから距離をとったのは失策だったといえるだろう。

 なんでそんな選択したかといえばおそらく自分たちだけで対処したいという功名心、意地のため。

 そのせいで死人まで出してしまったのだから。

 

 「おそらく、あの二人に関してはほぼ再起は不可能でしょう。 片腕では日常生活をどう送るか考えなければならないですし、冒険者云々という話ではありません。 心のほうに関してはそのうち回復するかもしれませんが、冒険者をやっていればいつかフラッシュバックします。 お二方ともあのまま引退したほうがいいかと」


 「そんな……俺たちはこれからだって言ったばっかりなのに……」


「一旗揚げよう町に出てくる冒険者が意外と溢れないには何故だと思いますか?」


「え? ええっと……」


 「冒険者のうち4割近くが二年以内にパーティー解散、死亡などで活動不能になっています。 そして年を追うごとにその確率は上がります。 つまりこの世界では若い冒険者が早死に,早くに引退するなんて珍しくありません。 あなた方に起こった出来事もありふれたよくある話です。 町で吟遊詩人が何百回と歌ってきたような、ね」


ベルさんの話を聞くに、冒険者として活躍できる人なんてほんの一握りなんだろう。

それこそプロスポーツ選手のように一年先がわからなくなるような。

スポーツ選手と違うのは冒険者の場合、失敗が命の危機に直結すること。

今回のことも選択を誤らなければ全員無事に帰って来れたかもしれなかった。

 そういうことでいえば、彼らに降りかかった災難は自業自得ともいえる。

 ボルト君は顔を伏せたまま何も言わず体を震わせるばかり。

 彼が今後どういう人生を歩むかはわからない。

 しかし彼は今後、冒険者として、何よりパーティーのリーダーとしていろいろなものを背負うことになるのだと思う。

 喪った仲間のこと、傷ついた仲間のこと、自分の力不足。

 そのすべてを今まさに痛感しているところなのだと思う。

 

 そして、私も他人事ではないと思う。

 私は別にパーティーは率いてはいないけれど、現状間違いなく足手まといになるのは私だ。

 それでも、自分一人が被害をこうむるならともかく、ほかの誰かに迷惑をかけるようなことがあってはならない。

 ではどういう人間が足手まといとなるか。

 答えは単純で、実力のない人間。

 能力もない、経験も浅い、深い知識があるわけでもない、そういうひと。

 つまり私だ。

 私は間違いなくパーティーにとって足手まといになる。

 もう既になってるかもしれない。

 頑張ろうと思った。

 魔法を覚えて、いろいろ勉強して、足手まといにならないように。


 「ベルさん、私頑張ります。 みんなの足手まといにならないように」


 「私個人としてはレティシア様が困らなければいいので、そのほかの人にどれだけ迷惑かけてもかまいませんが」


 人の決意表明をなんだと……

アイタール国内における冒険者


冒険者の人数 17,934人


昨年度の死亡者数 2293人

昨年度の引退者数 3089人 (負傷などによるものも含む)


冒険者の二年以内の死亡、引退の割合 38.8%

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