オークを退治しよう 4 SIDE 咲良
(咲良) オーク編まだ終わらなかったー!! 引っ張りすぎましたー!! 次回こそ終わらせまーす!! ハイテンションじゃなきゃやってらんなーい!!
(シャル) お前が? 作者が?
「なんでオークは若い女性ばかりを狙ったのだろうね」
ふとククルちゃんがそんな疑問を口にした。
確かに村を襲ったとき連れ去ったのは若い女性ばかり、今回も偶然かもしれないがウィズさんとエイダさんだけが連れ去られた。(エイダさんは未遂)
なぜか?
「餌が欲しかったとか?」
私は答えを知らない。
なのでとりあえず予想を提示してみた。
「それなら男子だってよさそうじゃないか。 村の若い男衆は連れ去られていない。 若い女性のみを狙ったと考えたほうが自然だよ」
「あのさぁ…… 本当にお前ら知らないの? カマトトじゃなくて?」
シャルさんが振り向いてこちらに問いかけた。
その表情は少し険しいようにも見える。
「知らないから聞いてるんじゃないか」
「ボルト……だっけ? お前も?」
「わからない。 聞いたことないぞ」
「私も……わからない……」
背負われているエイダさんも答えた。
意識は戻ったがやはり消耗している。
「私もわからな」
「だろうな」
食い気味で言われた。
そりゃそうだろうけど。
そしてシャルさんは
「いま知らなくても、これからわかるさ。 自分の目で確かめてみることだ」
と、答えを濁すのだった。
たぶん答えは酷いものなんだろう。
空気の流れから考えるにこの先は行き止まりなのだと思う。
さっきのような横穴もない。
そして、エイダさんを連れ去ったオークはこの道を通っている。
この先にオークがいるのは間違いないし、もしかしたら連れ去られた女性たちもいるかもしれない。
全員生きていてくれればいいが。
洞窟を進んだ先は崖になっていた。
崖の縁から下をこっそり覗けばオークが二十体ほど集まっていた。
ウィズさんや連れ去られた女性たちの姿は見えない。
「うん、オークが全部集まってる。 狙うなら今がチャンスかな?」
シャルさんが重畳とばかりにつぶやいた。
「なんで全部集まってるんだ? 見張りを放ってすらいないのか?」
ボルト君たちにしろ私たちにしろ道中オークと出会った。
それは巣内に侵入した者たちを探すためのいわば巡回係だったから、ということらしい。
それに対し今はすべてのオークがここにいるという。
実際、私たちをみすみすここまで侵入させてしまっている。
「仲間が殺されたからさ。 侵入者は警戒するに値するって評価したんだな。 で、対策を話し合っている。 仲間内でのコミュニケーションは取れるんだ。 見ろよ、あそこに玉座っぽいのあるだろう?」
確かに、石でできたと思われる玉座があった。
その玉座にふてぶてしくオークが座っている。
他のオークと違い、頭頂部に赤い毛を生やしたオーク。
その個体だけは他と何か違うのだろう。
「オークは個人活動する場合と蟻や蜂のように一体のボスを中心として群れで行動する場合がある。 今回は後者。 ちなみにオークには雄しかいない。 あそこにいるのもすべて雄のオーク」
「知っているけどそれが何? どのみちあれだけの数を相手にするのはさすがに厳しいと思うけど」
ククルちゃんはやや浮かない表情。
「そこはホラ、君たちに手伝ってもらってさ。 ね?」
「「へ?」」
…………
「じゃあ、準備いいか?」
そういってシャルさんは首に下げていたゴーグルを装着した。
いわゆるプール用のゴーグルではなく、バイクとかに乗るときの全体を覆うバイザーみたいなやつ。
ゴムなんて立派なものはないので、後ろでひもで縛る。
「こちらも所望のものは用意できた。 でも初めて作って試してはいないから効果のほどは不明」
そういってククルちゃんは薬包紙で包んだ粉を見せた。
「よし、じゃあ始めるぞ」
シャルさんの号令でククルちゃんは薬包紙を広げる。
そして私とシャルさんを残して後ろに下がった。
「上手くいきますように。 『火の聖霊よ、わが魔力を糧とし我に火の祝福を与えたまえ』!!」
詠唱とともに手のひらに火の玉が現れる。
すかさずそれを粉末に近づける。
火自体は案の定すぐに消えてしまったが、何とか粉末に火が燃え移った。
引火した粉末からは紫色の煙が立つ。
「これをあそこに?」
「そういうこと」
風を操作して煙を崖の下、オークがたまっているところまで運ぶ。
煙が立ったということは空気より軽いということ、当然下に行くことは普通ならないが、魔法で操作すれば多少の物理法則は捻じ曲げられる。
オークたちのもとに至った煙はそのままその場所にとどまり、充満する。
すると、オークに異変が現れた。
オークたちが目を擦り始めた。
やがて、激痛でも走ったかのように目を押さえて痛がり始めた。
「成功だな」
そういってシャルさんはククルちゃんのほうを見て親指を立てた。
いわゆるサムズアップ。
私の世界では肯定にも侮蔑にもなるが、この場合は当然肯定、成功の意味である。
元いた世界と意外と共通なこともあるらしい。
さて、あの煙、ひいては粉末の正体は……詳しくは知らないが、催涙成分を持ったものらしい。
煙が目の粘膜と反応して目に痒み、激痛をもたらす。
対策はもちろん目を保護すること、例えばゴーグルなどで煙が目に触れないようにするとか。
製作者曰く、もっと強力なものにしたかったが手持ちの材料ではこれが限界とのこと、本当に末恐ろしい子である。
「よっしゃサクラ、あとは私が何とかするから下がっていいぞ」
そういって、シャルさんは崖を飛び降りた。
その後を私と気になってやって来たククルちゃんが目で追い、崖の下を覗いた。
シャルさんは既に地面に着地しており、目の痛みに悶絶するオークに向かって走り出していた。
謎の煙でパニックになっているオークたちの中で、近場のオークから斬り捨てていく。
刀から水が迸り、オークの赤黒い血が噴き出すさなかをシャルさんは踊るように駆け抜けていく。
返り血もほとんどついてないように見える。
そして、ボスと目されるオークの元までたどり着くと一気にその頭まで飛び上がり
「そのモヒカン、全然似合ってないな」
一太刀でボスのオークの首を刎ねてしまった。
その一部始終を見ていた私たちは、
「すごい…… もうオークの親玉を倒した……!」
「しかも返り血がついてない。 ずいぶん余裕らしいね。 っていうかふざけてるの?」
ククルちゃんはあきれ返っていたが、私はむしろすごいと思う。
今は残りのオークの始末をしているけれど、時たまこっちを見て手を振ってくる。
完全に遊んでいる。
「ここまで来るとオークがかわいそうな気がしてきた」
「まあ、目が痛くてもがいてたら殺されたんだからね」
「そうだよね。 なんかこっちまで目が痒くなって来た」
「あ、それ私も。 ああ!!……ヤバイ!!」
ククルちゃんが大声を上げた。
同時に私も気づいた。
例の紫色の煙は空気より軽い。
なので、煙は昇ってくる。
つまり、
「急いで水で顔洗って。 目がやられる!」
オークを全滅させると、シャルさんが戻って来た。
さっきは飛び降りたけれど、一応階段のように段々に削られている岩場はある。
オークたちもこれを使ったのだと思う。
「……何で泣いてんの?」
「「聞かないで」」
幸い直ぐに水で流したことで目にダメージは負わなかった。
でもやはり目が煙に触れたので痛みはあった。
そんな私たちの状況を察してか、シャルさんが
「だから離れてろって言ったのに」
「別にあの煙のせいじゃないですから」
「あまりに感動して泣いただけだし」
「何その意地」
シャルさんはため息をついてから地面を指差した。
「まあ何でもいいや。 捕まった女の人たちは居なかった。
けど、崖の下の広間に道があった。 ここの真下だ。 その先にいるんじゃないかな?」
「じゃあ行こう。 怪我人がいるかもしれない」
ククルちゃんがキリッと話し歩きだした。
涙目なうえ目の回りが赤いから格好はつかないけど。
「怪我だけならいいんだけどなぁ」
と、シャルさんが誰に言うでもなく呟いた。
心配なことなんてないと思うけど……
(シャル) まったく、自分で目に刺激があるって言ったんだから目はしっかり守っておけよ。
(ククル) そっちこそ目だけ守ってて平気なの?
(シャル) へ?
(ククル) 実はさっきの薬品、目だけじゃなくて鼻にも刺激がくるんだ。 どう? 鼻がムズムズしてこない?
(シャル) 確かにそういえば…… なんかくしゃみでそう。
(ククル) あ、今回使ったのそれじゃない。
(シャル) え?
(ククル) だからそんな成分入ってないよ。 どうしたの? 急にくしゃみ出そうとか。
(咲良) 悪い子だなぁ…… さっきの仕返し?




