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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
和歌山咲良と異世界を知ろう! 入門編
24/125

見張りをしよう SIDE 咲良

(咲良) あの……


(レティシア) どうした?


(咲良) その…… お花摘みしたいというか薔薇の木の伐採したいというか……


(レティシア) ああ、トイレ。 森の少し奥に行って穴を掘るんだ。


(咲良) 穴?


(レティシア) 用を足したら埋めるんだ。 そのままだと動物呼ぶかもしれないからな。


(咲良) 想像してたとはいえ、実際するとなると……


(ベル) この壷にしますか? 処分は私がやっておくので。


(咲良) どっちもヤだなぁ……


咲良の明日はどっちだ!?

その夜。


「……ラ、サクラ」


「うん……んっ……」


私はテントで寝ているところを誰かに起こされた。

目を覚ますと、目の前にいたのは、サリアさんだった。


「時間だよ。 見張りを交代してくれ。 今はジュリがいるから」


「……はい」


正直、目はまだ覚めていない。

私は強制的に頭を叩き起こし、支度をする。

テントの中には私のほかにククルちゃんと今来たサリアさんがいる。

この世界のテントは鉄骨に皮の天幕を覆ったもの。

それだけだけど意外と快適だ。

みんなを起こさないように私は静かに外に出た。


夜、こちらは寝ていても夜行性生物はむしろ活発に動く。

なので、皆が寝静まった頃、襲って来る可能性がある。

それを避けるには火を起こせばいい。

火があるだけで大概の生き物は寄ってこない。

その代わり、火の番兼テントの警備が必要になる。

これも交代制で行うのだ。

見張りは二人一組、時間をずらして交代を行う。

そして、今から私の番になったわけだ。


テントを出ればすぐ近くに焚き火が見える。

 近寄れば聞いていた通りジュリさんがいた。

 

 「サクラか…… 起きてるか?」


 「半分くらいは……」


 目は一応開くけれどまだ半開き、足取りはフラフラ、脳の稼働率は通常の七割くらいかな。


 「まあ…… いいか、何か起きるでもないだろうし」


 とりあえずジュリさんの隣に大きな薄手の布を敷いてその上に座る。

 暗いからか、目が開いてないからか、前が良く見えない。

 私は大きくあくびを一つかいて目をこする。

 うん、少しずつだけど何とか覚醒してきた。

 ジュリさんはダークエルフ、魔法に関して言えば人間よりも得意な種族らしい。

 そして、彼女の年齢はすでに三桁に乗ってるらしくいろいろと経験してるんだろう。

 何か話そうかと思ったのだけれど、話しかけることができない。

 というかこの人と会話を交わしたことがあまりない。

 彼女がダークエルフといういわゆる亜人だからか、いや、ベルさんもトリナさんも亜人だけどとっつきやすいし……

 クールで性格のきつそうな顔をしているからかもしれない。

 ダークエルフって漫画とかだと悪者っぽいイメージだからかもしれない。

 とはいえ、見た目だけで偏見を持つのも良くない、何か話題を……そうだ。


 「あの。 私さっき風属性の適性があるって言われたんですけど……」


 ジュリさんはこちらを向いてやや表情を柔らかくして、


 「そうか、魔法の適性があったか。 でも風だと日常生活で出番がないからな…… やはり戦闘向きに鍛えたほうがいいかもしれないな。 ともあれ冒険者としてやっていけそうじゃないか」


 「出番ないですか……」


 「他の三属性に比べればな、船旅では重宝すると聞いたことはあるが」


 「それでさっきシャルさんに、『風を感じる』っていうアドバイスをもらったんですけど、何のことかわからなくて」


 「ああ、アイツは天才肌だからな、教えるのが下手なんだ。 そのアドバイスも本か何かの引用だろう。 でも、中身はあながち間違いでもないぞ」


「そうなんですか?」 


でも中身って言ったってフィーリングで頑張れ的な話に思えたけど。


「風を感じるというのは風や空気の流れを感じとれ、ということだ。 まあ、実際にやった方が早いな。 ちょっと目を閉じてみろ」


私は言われるがまま目を閉じた。


「当たり前だが風は目に見えない。 だから他の三つと違って実体が掴みにくいんだ。 だが、触覚なら風を感じやすい。 肌で風を感じるとはそういうことだ。 常に風の流れを意識しろ。 身の回りの風や空気の流れを感じとり、それを御せるようになれば風属性魔法を扱い易くなる」


「でも今風なんて吹いてないですよ?」


「いや、少しだが風は吹いている。 木が揺れているからな。 少しリラックスして心体を落ち着かせてみろ。 感覚が研ぎ澄まされる。 やったことあるか? 瞑想みたいなものだ」


成る程、瞑想ならやったことある。

リラックスできて、よく眠れるようになる。

こっちに来てからはやってない。

ぐっすり寝たら怒られるような生活をしてきたからだ.


「すぅ―――――」


 少し深く呼吸してみると風が肌を撫でるように吹いた。

 びっくりして目を開ける。

 

 「感じたか?」

 

 「はい!」


 「生物は五感で物事を感じ取る。 その中でも視覚の占める割合は大きい。 だから視認できない物事は認識しにくい。 でもそれがなければ、他の四感で補おうとする。 今みたいにな」


 そう言ってジュリさんは微笑んだ。


 「……私、ジュリさんのこと誤解してたかもしれないです。 ジュリさんってもっと怖い人なのかと思ってました」 

 

 「え? なんで?」


 グサッ! 1HIT!


 「なんか話しかけるなオーラ出てたし」


 「ええ!?」


 グサッ! 2HIT!


 「黒いマントとか黒い服とか…… 正直怖そうで……」


 「ええ……」


 グサッ! 3HIT!


 「身長差のせいかもしれないけど、なんか睨まれている気がして。 私がいることあんまりよく思ってないのかと……」 


 「そんな!!」


 グササッ!! クリティカルダメージ!! ノックアウト!!


 ジュリさんは顔を伏せてしまった。

 言いすぎてしまったな……

 

 「あ、あの……」


 「一応弁解するとな…… 私のマントの裏には矢か取り付けられているんだ。 矢筒だけだと弾切れになるから…… それに決して睨みつけたこともないし、君を嫌ったこともないんだ……」


 これはいけない。

 ジュリさんがダークサイドに堕ちてしまう。

 ダークエルフがダークサイドとはそれも妙な話だけど。


 「そうですよね! いやー、私ってばひどい被害妄想を! いや昔からの癖で!」


 「昔からそうなんだ。 村の子供には怖がれるし、街の子供にもよく泣かれるし……」


 ああ、闇堕ち待った無し。

 心なしか彼女の周りだけ湿ってる気が……


 「言ったでしょ? 誤解してたって。 いまジュリさんのこと怖いなんて思ってませんから。 頼れる大人だと思ってますから!」


 「そうか!?」


 あ、復活した。




 閑話休題



 「と、いう訳だ。 しばらくの間瞑想して風の変化を感じ取って見ろ。 風魔法を御せるようになるぞ。 ……いずれ」


 「いずれ…… はい、やってみます」 


 すぅ―――――


 だんだんと空気の流れを肌で感じ取れるようになってきた。

 風魔法とは多分、風と言いつつ空気を操る魔法だ。

例えば今、風は私の背中から前に吹いている。

四属性の魔法の初歩は属性に即したものの塊を作ること。

後ろからやって来る風を集め、塊にする。

今、私の右手のひらに空気の塊がある。

うん、わかる。

それに無詠唱もできた。


「すごいものだな。 もう無詠唱を使えるのか?」


「そうみたいです……」


私、は目を開けた。

そこは森林じゃなかった。

忘れもしない、ここはあの屋敷……

私が連れ去られたあの……どうして……?


「無詠唱が使えるとは優秀だ。 私のためにその力を振るってもらおう」


目の前にいたのはあの男。

なんで?


「なんであなたが…… こんなところに?」


「ほう…… 遂に我らの言葉がわかるようになったか。 他所の国の言葉で啼かれても楽しみが半減するからな」


「違う!! 私はもうあなたの奴隷じゃない!!」


「何を言っている? 奴隷の証ならばお前の首にあるじゃないか」


「え!? なんで?」


首に触れて見ると確かにあった。 忌ま忌ましいあの奴隷の証が。


そんな、解放されたと思ったのに……


「そんなものは夢だ。 貴様はここから永久に出られない」


「そんな…… 嫌だ。 嫌だ…………」




「ていっ!」


「くはっ!!」


「大丈夫ですか?」


私はベルさんにもたれかかっていた。

ジュリさんが脇で心配そうに見ている。

私の手は汗でグッショリ濡れている。


「大丈夫そうですね。 急にうなされ出したようです」


そうだったんだ。

頬をつねると痛みがあった。


「良かった。 あっちが夢だった……」


「悪い夢を見たようだな。 サクラ、今日はもう寝ろ。 見張りは私とベルでやっておく」


「そんな! もう大丈夫です!」


「そうは見えませんね。 汗だくな上顔色も酷いです。 もう休んだほうが良いかと」


ベルさんに支えられ立ち上がる。

まだ少しクラクラする。

結局二人の申し出を受けてテントに戻ることにした。


道中、目を閉じて風を操ってみる。

うん、できてる。

これは夢じゃなかったらしい。

(咲良) 痛たた…… 背中が痛い? 変な姿勢になったかな?


(ベル) ああ、先程起こすために背中をどついてしまいました。 痛いですか?


(咲良) なんでそんな起こし方を?


(ベル) 良くある方法だと思いますが? 違いましたか?


(ジュリ) いや、間違いじゃないと思うが。


(咲良) 異世界の起こし方のクセがすごい。

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