盗賊を対処しよう SIDE 咲良&ククル
(咲良) トリナさんは魔法とか覚えないんですか?
(トリナ) それより剣を覚えた方がいいでしょ!!
(ライラ) 獣人族は魔法が苦手なんだ。 ほら呪文覚えたり、頭のなかでいろいろすること多いから。
(咲良) それってつまり……?
(ライラ) 獣人族は脳筋なのさ。
(トリナ) そんなことない!
(咲良) ちょっと当たってるかも……
(トリナ) ええ!?
(ベル) レティシア様!! 私は違いますからね!!
(レティシア) はいはい、わかってるから
盗賊が現れた。
という報告に商人、御者、護衛、皆少なからず動揺したり、驚いたりしたらしい。
盗賊というのは大人数のキャラバンを襲わないから、というのがその理由。
商人の数や馬車の数が多ければ当然得られるものは多いわけなのだが、その分護衛も多いからだ。
それに盗賊にそれほど実力のある者はそうそういない。
実力があればそれこそ冒険者としてやっていける。
つまり盗賊は冒険者にすらなれない程度の実力、たまに事情を抱えた元冒険者、元犯罪者なんてのもいるにはいるが本当にたまにである。
だから盗賊の戦い方は基本的に数的有利に持ち込むか、まだ経験の浅い格下の護衛のいるところを狙うのだ。
つまり、
「つまり?」
「明らかに馬車の数が多くて、護衛も相応にいるだろうところを狙うなんて意味がわからない」
「でも間違いないではないようですよ?」
そう言うのはレティシアさんの隣に音も立てずやって来たベルさんだ。
「盗賊は正面と後方から挟み撃ちするつもりです。 前方の盗賊は先頭の馬車を止め、後方の盗賊は馬に騎乗して現在接近中です。 数は前後会わせれば20から25ほど、まだ隠れているかもしれません」
「ふーん、喧嘩売ってきたわけには少ないな、何か隠し玉でもあるのか…… 現状どうなってる?」
「前方はすでに《天駆の鷲》の皆さんが何とかしています。 戦況は有利に運んでいますので問題ないでしょう。 後方はジュリさんが弓での迎撃を準備中、サリアさんたちもいますので大丈夫でしょう」
「ん? 《蒼のナントカ》ってやつらはどうした?」
《蒼の守護者》ね。
「真ん中の馬車で待機中です。 森の魔物ばかり相手にしていて盗賊相手は初めてだとか」
「誰だってみんな初めてなんだがね…… まあ、側面からの攻撃に備えるというのは間違いじゃないか」
外をよく見れば馬車は森の中の舗装された道を進んでいた。
当然、道のわきには木が生い茂っているわけだからいくらでも隠れられるわけか。
その時、私の後ろ―――つまり馬車の進行方向から見て左側―――から火の玉が現れた。
レティシアさんは見ていなかったはずなのにそれに気づいたようで腰の剣を抜き、振り返りざまに剣を振った。
剣に斬られた炎はその場で霧散した。
「へぇ…… 魔法具か、盗賊の癖に良い物持っているじゃないか。 それも奪ったものかな? 魔力さえあれば使えるからな。 つまりそれが奥の手か」
レティシアさんはつまらなそうに剣を構える。
茂みから出てきた盗賊は7~8人、全員腕輪を身に付けていた。
「一度防いだくらいでいい気になるなよ餓鬼が! 俺たちはこれまで三台の馬車を襲ってんだ!」
盗賊の一人が叫ぶ。
盗賊は皆レティシアさんを見て侮っているらしい。
そりゃ見た感じ子供だもんね。
それに私含めて今盗賊の目の前には若い女の子しかいない。
警戒しろっていうほうが難しいと思う。
火を掻き消しておいて大したことないってこともないんだけど。
「今馬車を置いて逃げだせば追わないでいてやる。 積み荷運ぶので忙しいからな、抵抗するってんなら相手をするまでだ。 まあ、その方が若い女も手に入れられてこっちとしては万々歳だがな、ギャハハ」
そう盗賊の一人が言うと、全員が下品な笑いを浮かべた。
若い女を手に入れてどうするか……さすがに私でも想像がつく。
かつての自分、その他奴隷仲間だった人たちが甚振られていたところを思い出して怒りと不快感がこみ上げる。
「新しいオモチャを手に入れて、襲撃も上手く行って、味を占めたか。 でも調子に乗りすぎたな。 先頭車両ではもう闘いになっている。 よって降伏も逃走もなしだ。 さて、生き残るのはどっちかな?」
レティシアさんが剣を構えた。
ライラちゃんも自分の背丈と同じくらいある杖を持ち、ベルさんもナイフを手に取った。
「ちょっと待った!!」
いざ闘いに入ろうかという時、トリナさんがそれを制する。
「コイツら私にやらせて!」
そんなトリナさんの提案にレティシアさんはキョトンとした。
「なんでまた? わざわざ不利を持ち込むこともないのに」
「サクラに剣術を見せてやりたいのよ! それとそっちの根暗な魔法使いにもね!」
「僕は根暗じゃない」
でも、間違いなく明るくはないと思う。
さて、トリナさんの提案というかお願いに対し、レティシアさんは少し考えてから。
「危なくなったら手を出すからな」
「そうこなくっちゃ!! 見てなさいサクラ!!」
トリナさんは左手の親指を立ててから、単身盗賊たちの中心に突っ込んでいった。
「あの、サラリと許しちゃいましたけど、一人で行かせてしまって大丈夫なんですか?」
「援護する手段ならいくらでもある。 それに、あんな盗賊相手に苦労するトリナではないさ。 ……怪我くらいするかもしれないけど」
それでいいんですか!?
***
視点チェンジ 咲良→ククル
先頭の馬車、一番初めに盗賊と出くわしたところ。
一応、盗賊からの投降勧告はあった。
これに応じるか否かは護衛対象、今回は商人のアルフォンソとかいうオジさんが決めること。
この人は投降すべきか少し迷ってた。
投降すれば生存率は上がる。
ただし、向こうが初めから皆殺しする気なら生存率は初めからゼロということになる。
「戦ったとして勝てますか?」
アルフォンソさんが私たちに聞いてくる。
それに対しクロエは「余裕よぉ」と強気に解答。
「問題ない」と返したのは、天駆の鷹だか鷲だかのリーダー、名前は興味ないので忘れた。
若い方(私よりは年上だけど)のパーティーは静観。
ちなみにここには私、クロエ、ハリィのほか≪天駆の鷲≫のリーダーとほか二人、≪蒼守護者≫のリーダーと魔術師の二人がいる。
さて、勝算が高いことをうけてアルフォンソさんは盗賊の迎撃を決めた。
まず、経験、実力ともに備えた≪天駆の鷲≫の先頭付近担当の三人が飛び出し盗賊を倒していく。
クロエやハリィもいるけれど、二人は彼らが倒された時に備えている。
尤も、その心配は無さそうだけれど。
「いやぁ、圧倒的過ぎてウチらひまやの∽」
「あんなのに苦労するなんてあり得ないでしょぉ」
実際、盗賊側は圧倒され一方的にその数を減らしている。
こりゃ私たちの出番はないかな。
……ところでだ。
「何で私はハリィに抱きしめられてるの?」
「うん? 何かあった時のためにぜよ。 流れ弾でも来れば危ないき。」
それはいいけどさ……
後ろから抱きしめられるとさ。
乗ってるんだよね。
コイツのデカイ乳が!!
何?
嫌がらせ?
重いんですけど!?
何詰まってる訳?
首が痛くなるわ!!
腕をあげて押し上げる。
あ、柔らかすぎず固くない……
気持ちいいかも……
……………………
「あの……ククル?」
ハリィの困惑した声で正気に戻った。
「終わったのか?」
ボルトとかって言うもうひとつのパーティーのリーダーが顔を出した。
馬車の中から外を覗く私たちに対し、奴らは先頭馬車の後ろにいた。
「もう終わったわよぉ。 怖がってないで出てきなさいな」
「な!! 怖がってなんかいない! 確かに人を殺したことはまだないが、悪人と戦うことを怖がりはしない! 殺しも経験を積めば慣れるさ!」
「別に慣れなくていいのに」
そう言うクロエの顔は少し曇っているように見えた。
「おい、終わったぞ」
≪天駆の鷲≫のリーダーが戻ってきた。
「怪我はないですか? 一応治療の心得はありますが」
盗賊は勿論全滅、こちら側の死人はゼロ。
目に見える怪我はなさそうだが服には血がついている。
返り血か本人のものか。
「問題は無さそうだ。 多少怪我はしているがポーションなどで十分対応できる」
ポーションとは怪我を治せる液体の薬のこと。
性能によって階級分けされている。
怪我がないなら何より。
治療出来なくて残念な気もするけど。
「あの……ククル? そろそろ手を胸から離してくれんか?」
あ、まだ離してなかったっけ?
ごく自然な感じでずっと触ってたのか。
(ククル) というわけで、今回は視点を変えて、私視点の話も入ってるよ! レティやほかのひとを差し置いてね!
(レティシア) 視点を変えるのは今回限りかもしれないし。
(クロエ) アンタ視点の話はこれで最後かもよぉ?
(ククル) みんな意地悪だぁ(泣)!!




