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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
和歌山咲良と異世界を知ろう! 入門編
20/125

魔法を学ぼう SIDE 咲良

(ベル) 一応この世界でも綿のように伸びる生地はありますが、レティシア様の世界のものほど伸びはしません。


(咲良) つまり?


(ベル) 服はできるだけ体型に合ったものを選び、体型はあまり変わらないようにしてください。


(咲良) 私の服ってベルさんのですもんね。 早く自分の買わなきゃ。


レティシア、ククル、シャル→小さい

ハリィ、ジュリ、サリア→大きい

クロエ→まず貸さない

ライラ→胸が……


(シャル) やあライラ、ようこそ我が派閥へ

 馬車で移動するその道中、私は馬車の中にいた。

 護衛をする、と言っても旅の行程は10日以上あるわけでローテーションを組んで休みを作らないとやっていられない。

馬車の編成にも休めるように空で大きめものが数台組み込まれている。

で、いま馬車の中では私とライラちゃんとトリナさんが休んでいる。

私は戦力にならないのでずっと待機だけど。

寂しいようなホッとしたような。


「サクラ、暇だから魔法について少し教えようと思うんだけど」


「そうですね。 お願いします」


そう言って私は頭を下げた。


「確かサクラとレティのいた世界には魔法はないんだよね?」


「そうですね」


それに近いものはたくさんあったけどね。


「じゃあ、色々教える前に適正をみてみよう」  


そう言ってライラちゃんは馬車の窓を開けた。


「レティ、才覚の測りを貸して。 サクラの魔力を調べたい」


「ああ」


レティシアさんは馬車の屋根の上で見張りをしている。

ライラちゃんが右手を窓から外に出すと、その手に小さな水晶が落とされた。

水晶は白い半透明の多面体だった。

多面体だけど形は丸い。


「この水晶に魔力をこめるとその人の魔力がどのくらいか測ることができるんだ」


「魔力をこめるって、私に魔力なんてありますか?」


「この世界で魔力を全く持たない生き物はいない。 もちろん例外はあるけれど人間でそれは聞いたことがない」


「成る程……」


「さあ、早速やってみよう。 この水晶を両手で持って」


ライラちゃんに渡され水晶を持つ。

水晶だからてっきり冷たいものだとばかり思っていたけれど、水晶に触れた手のひらが温かくなり、熱が伝わって来るようだ。


「魔力の流れを感じたね? じゃあその逆をやってみて。 魔力がこめられるはずさ」


これの逆……

熱をもらうのではなく分け与えるってことかな?

手のひらの熱を水晶に渡す……

目には何も見えないけどわかる。

これが魔力をこめるということ……

すると、水晶が黄色く光り始めた。


「へぇ…… 黄色か。 結構素質あるのかもね」


「そうなんですか?」


「さっきも言ったけどこれはその人の魔力を測ることができる魔法具だ。 その人の魔力保有量に応じて光が変わる。 少ない順に紫、青、緑、黄色、橙ときて赤が一番魔力が多い」


「じゃあ私は?」


「黄色だから真ん中から上……平均よりは多いかな。 他の人より多いけど特別すごいって訳じゃないね」


「そうですか」


ちょっと残念なような。


「サクラは今いくつ?」


いくつって年齢のことだよね?


「ええと、今年?で17歳ですけど……」


「それじゃあ、これ以上の魔力の増加はないかな」


 「魔力って増えるんですか?」


「え? うん」


 当たり前のようにうなずいた。

 けっこう常識なのかな。


「魔力が発現するのが五歳から八歳くらい。 そこから大体十歳から十五歳の間で魔力が増えていくんだ。 もちろん大器晩成的に十七歳でも細く長く成長することもあるけど」


「そっかぁ」


じゃあ私も頭打ちかな。

まあ平均値くらいあるならいいかな。


「魔力のことがわかったところで魔法の行使にいきたいけれど今は移動中だから休憩の時にね」


「分かりました」




……………





休憩は昼食の時に一回挟む。

日が落ちて暗くなったら流石に危ないのでそこで止まって夕食と睡眠をとる。

勿論その時にも見張りと火の番を配置する。

で、昼食のあと、お腹を落ち着かせるために一時間位休憩する。

その時間を使い、魔法の練習をしてみる。


「とりあえず、はいこれ」


ライラちゃんから分厚い本を渡された。

装丁も立派で高そうだ。


「それは魔導書。 魔法の発動の仕方が書かれている。 それの四ページ開いて」


四ページには短い文章が箇条書きに書かれていた。


「それは魔法を発動させるための呪文。 それらを口に出して唱えることで魔法が発動させられるとされている」


されている?

あれ?

そう言えば?


「でもみんなこの間……」


吸血鬼との戦いで呪文なんて言ってなかった。

言葉が理解できる今なら分かる。


「呪文は言うことで魔法が発動されるけれどもその上のテクニックとして魔法の名前だけ言う『詠唱省略』とか一切口に出さないで発動できる『無詠唱』がある。 それとこれは他言無用なんだけどね?」


そう言ってライラちゃんは私を手招きし、小声で話しだした。


「魔法の行使は呪文によってなされるというのが学校で教えられる方法。 でもこれは少し正しくない」


「正しくない? じゃあどうすれば?」


「大事なことは魔法によって何をしたいかをイメージすること。 例えば水を作りたいとか、燃やしたい、みたいに」


「は、はぁ……?」


それって当たり前なんじゃないかな?


「例えばさっきの水を作りたいという魔法。 サクラなら知ってると思うけど、空気中に水分が沢山あるよね?」


「ですね。 学校で習いました」


「その空気中の水分を集めて水を作り出すということをイメージすれば水は集まりやすいし作りやすい。 そしてそのことを知っている者はほとんどいない。 空気中に水分があるなんて誰も考えないんだ」


 ファンタジーにありがちな話だよね。

 魔法があるから科学的に発展しないっていう世界。


 「で、さっきの水を作る魔法なんだけど、その知識がないばかりに普通の人は回り道してるんだ。 まあ、魔法自体は簡単だし大人になればこれくらい詠唱省略でできるようになるんだけどね」 


 「じゃあ、さっきの呪文は何の意味が?」


 「そうだね…… 見てもらったほうが早いかな」


 そう言うとライラちゃんは両手の手のひらを近づけ上にし、目を閉じた。

 すると、両手のひらに収まるくらいの水球が現れた。

 

 「あれ? あまり驚かないね? 前いた世界に魔法ないんでしょ?」


 「奴隷時代に見たことあります……」


 「そうか、じゃあこれはとりあえず置いておく」


 ライラちゃんはわきに置いてあったコップにその水を移した。

 飲むように置いてあった物だ。

 

 「呪文を詠唱してみる。 『水の聖霊よ、わが魔力を糧とし我に水の祝福を与えたまえ』」


 同じように水が手のひらに集まった。

 そして先ほどと同じようにコップに注ぐ。

 

 「二つのコップ比べてみて。 呪文を唱えたほうが少しだけ水の量が多い。 それに少しだけど発動スピードも速い」


 「つまり、呪文を唱えたほうがスピードと威力が上がる?」


 「そういうこと。 呪文はあくまで補助。 それに初めて使う魔法はやはり呪文を詠唱しないと発動は難しい。 まして威力の高いものや複雑なものはいくら原理を理解しても無詠唱は難しい。 詠唱省略や無詠唱に必要なのは慣れと経験、それから魔力の保有量が関わってくる。 サクラも僕らと行動を共にするなら得意魔法の無詠唱は修得したほうがいい」


 「そうですね…… 頑張ります」


 大丈夫かな、結構難しそうだけど。


 「そんな小難しいことしないで剣術覚えたらいいじゃない! 勉強しないでいいし!」

 

トリナさんという人は体育会系というか考えて何かするということが苦手な節がある。

剣術が楽かどうかは知らないが、私は正直体育会系のノリは苦手である。

それに剣術というものにも乗り気じゃない。

剣を振るうということはつまり、命を奪うということ。

いや、それはどんな方法でも冒険者になればそうなんだろうけど。

自分の手にその感覚が伝わることに恐怖心がある。

我ながらズルい人間だと思う。


「とりあえず私の剣持ってみて」


でも逃げられはしないらしい。

私は剣の柄を両手で掴んで持ち上げた。

軽々と振ってたからそう思わなかったけど意外と重い。


「ええ∽」


トリナさんが何かがっかりした顔をした。


「サクラ、その剣で何回も思い切り振れるかい?」


トリナさんに代わりライラちゃんが聞いてきた。

全力でこの剣を振るとすると、私の腕力では多分数回が限度だろう。

成る程、これじゃ実戦で使うまでに時間がかかる。

がっかりされるわけだ。

私としては安心したけど。


「あんた竹刀で素振り一日300回!!」


「無理だよ」


「無理ですよ!」


「成せばなる!!」


「魔法のほうが習得が早い。 僕らは剣士は足りているし魔法を覚えさせるべき」


効率はそっちのほうが良さそう。

でもトリナさんも引かない。


「剣のほうがかっこいい!!」


そんな理由?


「意味がわからない。 剣を習得する正当な理由とは言えないと思う。」


ライラちゃんも結構言うなぁ。

表情から読み取れないけどムキになってる?

私がどう収めようかと考えていると


「盗賊だー!!」


馬車の中にまで声が響いた。

すると、トリナさんは待ってましたと言わんばかりに私から剣を受け取り馬車の扉を開け、外へ飛び出した。

(咲良) 馬車に乗ると振動で揺れますね。


(ライラ) 道路は舗装されてないからね。


(咲良) この状況だと水を飲むのも一苦労ですね。


(ライラ) そんなことしなくても魔法で水を作ってそれを操作して……


(咲良) 水のほうから口元に?


(ライラ)魔法を応用すればこんなこともできるんだ。


(咲良) (すごいんだけど宴会芸っぽいと思ったのは黙っておこう……)

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