出会いか再会か
早速ポイント入ったようで、とてもうれしいです。
伯爵家の長女レティシア=ルーセーブルには他とは違う……何というか特徴というか能力があった。
そんな大それたものではないが、前世の記憶がそのまま引き継がれているのである。
彼女がこの世に生を受ける前、彼女は男性で、高校生であった。
本人はそれに生まれた瞬間に自覚していたものだから、自分の置かれている状況がわからず、困惑し、泣かなかったのでたいそう心配された。
それから五年後、自分のいる世界のことがわかるにつれて、自分はひょっとして漫画やラノベよろしく異世界に転生したのではないか、と考えるようになった。
であるならば生まれ変わる前に、神様的な人物から何らかの説明が欲しかったところである。
ちなみにこのころ彼女は本人の知らないところで天才と陰で噂されるようになっていた。
彼、だったころは高校生であったので、当然、もっとハイレベルな勉強をしており、五歳児が学ぶことなど簡単すぎたのである。
さて、剣と魔法の世界において、彼女は生まれ持った才能か、かつての知識や記憶か、誰かの横槍か、その両方で才能を示した。
流石にこのころになると本人も自分は、この方面ではひょっとして天才なんじゃないかと思い始めるが、それでも決して驕ることなく、研鑽をつづけた。
これには、彼が送ってきた人生が関係しているのだが、ここでは置いておこう。
何の未練もないかと言われれば嘘になるが、戻れるものでもないし、ここで新しい人生を送ることを決めた。
そんな努力を続けた八年後、レティシアは大陸でもかなり大手の冒険者のクランに入り、彼女も弱冠十五歳にして自身がリーダーを務めるパーティーを率いるようになった。
尤も本人の精神年齢は三十歳を過ぎているのだが。
冒険者とは、森や洞窟など人の立入らない場所に入り、素材の採集、ゴブリンやオークなどのいわゆるモンスターの討伐、要人や商人の移動の護衛など多岐にわたる傭兵のような職業である。
この世界では十歳になれば誰でもなれて、うまくいけば一攫千金も狙える。
その手軽さ故、田舎の村人から貴族の末弟までその背景はいろいろである。
一方で死亡率も高く、殺し合いも多い鉄火場なので、貴族など上流階級からは忌避されていることも多い。
そんな世界にレティシアが入ったのである。
しかし、彼女は小さい。
悲しいかな、身長はあまり伸びなかったようである。
彼女はきっと勉強や魔法の研究なんかで夜更かしをしたせいだと思っている。
兎に角そんな彼女は男が多い冒険者の中で馬鹿にされまくり、喧嘩を売られまくり、それを返り討ちにしまくり、そしてここまで戦果を挙げ、大手クラン―複数のパーティーの集合体―である、《戦女神の瞳》にスカウトされ、レティシアや自身が率いるパーティー《銀色の狼》は、新進気鋭のパーティーとしてその力を振るっていくことになる。
さて、レティシアは今、イリス王国のとある港町、そこで幅を利かせている商人、アズール=ライネルの屋敷に来ていた。
彼からの依頼は、北方で購入した大量の商品の護衛。
急ぎの品があったため、多少危険を犯してでも近道をしなくてはならず、今回、《銀色の狼》に依頼を出したわけである。
とはいっても、戦闘力のない商人なら命がけでも、並以上の冒険者ならさして苦労もない道のりであった。
そんな、面倒でもない依頼であったが、当の本人アズール氏は相当感謝しているようで、何か依頼料とは別に報奨を渡したいと申し出てきた。
そこで、直々に指名を受けたリーダーでもあるレティシアは、屋敷に赴いたのである。
「さて、レティシア殿。
此度の商品輸送の護衛、まことにありがとうございます」
「いえ、我々は依頼を完遂したまで、つまり仕事をしただけなのですよ。
あなたが、その商品を売るようにね」
「そうですか、しかし、無事に商品が届いたおかげで更なる利益が見込め、さらに我がライネル家は発展していくことでしょう。
そのお礼をしたいのです。
今後とも、お願いしたいですしね」
(ああ、今のうちに唾付けときたいってことか)
戦果を挙げ、有名になれば依頼料も高くなる。
お得意様になれば多少の融通は……きくかもしれない。
それを決めるのはレティシアではないが。
つまり、この商人は彼女のパーティーが有名になると踏んだのだ。
(それ自体はうれしい評価として受け取ってもいいけど……それだけか?)
そうであったとしても、商人がここまでの金をかけるとは思えない。
何か裏があると踏んでいた。
尤も、実はパーティー内では結論が出ているのだが。
「入るぞ!」
バタンと扉を大きく開け放ったのはアズールの息子、ジャーロであった。
この男に関しては碌な噂を聞かない。
親の金と力でいろいろ好き勝手。
ガラの悪い連中とつるんでいるだの、飲食店でクレームを入れて暴れただの気に入らないヤツの店をどうやったか潰して、街から追い出しただの。
特に奴隷をいたぶるというサディスト的な一面は街で知らない者はいないし、誰も彼に近づかない。
ライネル家でも最大の汚点。
しかし、アズールの息子は彼しかいない。
実際は兄と弟はいたらしいか果たしてどこに行ったのか。
なので、アズールとしてもいろいろ商人としての教育をしているらしい。
「全く、この俺に荷運びをさせるとはな」
「商品を扱うのは商人にとっての初歩だ。
というか運んだのはお前じゃなくてそこの奴隷だろう」
そんな親子の会話にレティシアが口をはさんだ。
「珍しい顔立ちですね。
生まれはどこでしょう?」
「え、いやぁ、えぇと、それが……」
アズールが答えず口籠っていると、ジャーロが答える。
「知らん! 言葉が通じんのだ。
会話もできやしないが、なかなかいい声で鳴くのでな、可愛がってやっているのだ。
お前もそれなりにいい顔をしているな。
強い女が鳴くというのも悪くない。
どうだ?
お前も私に…… え?」
ジャーロの説明もそこそこに彼には一瞥もくれず、奴隷のもとに、歩み寄る。
『君は日本人だな?
何故奴隷なんてやっている?』
「「え?」」
ライネル親子はレティシアが何を言っているのかわからなかった。
それもそのはず、日本語を聞いたことなどないからである。
しかし、
『好きでなったんじゃない……
森の中に突然放り出されて……
何もわからないままここに連れてこられて……』
「ふむ」
「あ、あの…… そこの娘とはどういう……」
「同郷の顔なじみです。
彼女は無理やりここに連れてこられたと言っています
これがどういうことかわかりますね?」
「!!」
この国というかこの世界において、奴隷に何をしても基本的に罰せられることはない。
小間使いをするもよし、性的な目的で乱暴してもいい。
むしろそういう一般の人間ではできないことの為に奴隷は売買される。
勿論、ジャーロのように甚振っても、その結果死んだとしても問題はない。
ただし、両者合意の上であれば、であるが。
人間を奴隷として売る場合は原則、本人の了承を取らなければならない。
それがなければ拉致、監禁、立派な犯罪である。
商人は信用が命、流石にジャーロが捕まれば親としても庇えないし、商売に間違いなく影響する。
流石にこのことはジャーロとしてもわかったらしい。
「それはこの女の戯言だ!
そんな証拠がどこにある!」
「う~ん。
きっと証拠はないでしょうね……」
「へ?」
意外にもレティシアはあっさり引き下がった。
ジャーロはつい間抜けな声を出してしまった。
「じゃあ、私がこの奴隷を買いましょう。
いくらですか?」
「金貨い……二枚だ」
それは高級な奴隷でも相場の倍近い値段だった。
流石にこれなら断るだろうと思ってのことである。
「なるほど、では銅貨なら二千枚くらいですかね。
ハイどうぞ」
何処からか巾着袋を取り出し無造作に放り投げる。
ジャーロが中を見るとおびただしい量の銅貨が入っていた。
まさかこれだけの金額をポンと出せると思わず、初めから断るべきだったと後悔した。
この女に少し飽きてきたので売ってもいいかなと心のどこかで思っていた。
ジャーロが何も言わないでいると、
「おや?
足りませんでしたか?
ではもう一袋」
同じ量の銅貨の入った巾着袋が放り投げられる。
つまり、レティシアはこう言っているのだ。
値段を吊り上げるだけ無駄だ、と。
「わ、わかりました。
お売りいたします。
いいなジャーロ!」
「え!? あ、ああ」
「では、成立ですね」
そう言うとレティシアは咲良の手を握り帰ろうとした。
「お、お待ちを。
こちらの品はもっていかれないのですか?」
「そんな。
彼女を買い受けたうえさらに品物をいただくわけには参りません。
ああ、我々への依頼は今後もギルドにお願いしますよ。
勿論適正価格で。
ではこれで」
そう言ってレティシアは戦利品の奴隷とともに帰って行った。
視点が結構うろうろしますのでややこしいかもです。
できるだけわかりやすいようにしたいですが。