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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
和歌山咲良と異世界を知ろう! 入門編
17/125

親睦を深めよう SIDE 咲良

(咲良) 皆さま、あまけしておでめとうございます。 昨年この小説を読んでいただいた方もそうでない方も、今年も〈ワン〉ダフルでオンリー〈ワン〉なお話を提供できればと思います……

あの、なんでみんな何も話さないんですか? 全員いるのに私しか話してないから私しかいないみたいになってますけど。 なんでそんなかわいそうな目で見るんですか? そんなに寒かったですか?


(クロエ) 今回はみんなお待ちかねのお風呂回よぉ

歓迎。  

普通に考えれば「ようこそ!」の意味だけど別の考え方では「しごいてやるぜ」的な意味にも受け取れる。

体育系だった場合後者の可能性が多分に高くなる。

しかし、私はこれまでも体育系ではないのでそう言うのに慣れていない。

なので。


「できればですね、穏便に済ませたいというか、フィジカルが貧弱というか、なのであんまり、無理っぽいことはしないでほしいというか、まず降ろしてもらいたいというか……」


私はハリィさんの肩に米俵のように担がれている。

サリアさんもいることはいるがふたりの身長差のせいで私を担げない。

っていうか担がないで。

しかも宿を出て、街の中をそのまま歩いている。

ちょっと、街の人みんな見てるから。

一応抵抗は試みるが無理そうだ。


「まあまあ、そんな悪いようにはせぇへんから」



そうかなぁ……もうこの段階で悪いようにされている気もするけど。


五分くらい歩いて行くと、どこかの建物に入っていった。

サリアさんが受付らしき人と会話を交わす。


「ここはどこなんですか、なんで目を隠すんですか、なんで服を脱がすんですか」


服を脱がされたまま、足と脇を抱えられまたどこかへ連行される。


「ちょっとちょっと何されるんですか!?」


「「そ~れ!!」」


「ぎょええええ~!!!」


ドパーン!


私は二人に放り投げられそのままお湯の中へとダイブした。


「えっほえっほ!! ここどこ? お湯? お風呂!?」


私が放り込まれたのは大浴場のようなところの湯船の中だった。

何処だろう。

異世界の銭湯かな。


「そう!! ここは大衆浴場!! 仕事終わりの街の人が疲れを癒しに来るのだ!!」


ハリィさんが両腕を腰に当てて堂々と宣言する。


「全員で風呂に入って裸の付き合いをする。 それがウチのパーティーの通貨儀式ぜよ!!」 


そうなんですか? だとしても無理やり力ずくで連行してくることなかったよね?

何? 

サプライズ?


「目隠し連行までからの湯船に投下までがワンセットだから受け入れて」


というのはククルちゃん、いつの間にか放り投げた二人とレティシアさん以外全員、湯船に入っている。

頭の上までびしょ濡れなところを見るとひょっとしてすでに湯船にいた?

そして、私が投げられた時の水しぶきでこんな感じに?


「皆さん体験済みですか?」


「いや? 本格的に始まったのはライラが来たときか?」


ジュリさんが頭を傾けて思い出す。


「あの時は大変だった」


そう言ってライラちゃんが顔をお湯に沈める。


「そりゃいきなり担がれて目隠しされてお風呂に放り出されればね……」


大変だよねぇ……


「……ぷはっ いや、そうじゃなくて」


「え?」


「まだ終わってないわよぉ」


「むしろこれからが本番です」


悪戯っぽい笑みを浮かべるクロエさんとすまし顔のベルさん。

まだ何かあるというのか。


「それは一体……」


「一緒に風呂に入って一方的に体を洗われる。 さあ! 皆の衆かかれぃ!!」


サリアさんの合図で一斉に私の身体を洗いにかかる。


『ひぃいいいいい!! 痛い痛い! アハハハハ! くすぐったい! ちょっとドコ触ってんですか!』


かくして私は力いっぱい背中をこすられ、頭をもみくちゃに洗われ、思いっきり揉まれた。

ついつい日本語でしゃべってしまう。

いやいや、揉みしだくのはただの変態行為でしょ。


「ちょっと誰ですか? 胸触ったの!? セクハラでしょ? ないの? 異世界にそういうの?」


「揉みしだいたのは私だよ……」


「……誰?」


私が名前を忘れたわけじゃない。

前髪で目のあたりが隠れてしまって誰だかわからないのだ。


「私だよ!!」


そう言うと目の前の少女は前髪を上げた。

細い目、おでこが出ている髪型、つまりこの人は。


「シャルさんだったんですね」


「わからないわよねぇ?」


「普段前髪降ろしてないきに」


二人のコメントは無視してシャルさんは話を続ける。


「そんなことはどうでもいい!!」


「随分、荒ぶってるな」


「はっ! ジュリ、お前にはわかるまい、持てる者と持たざる者の差が!」


「持ってるって何をですか?」


なんでかわからないけど敵意を向けられている気がする。


「ん!!」


シャルさんは私を、正確には私の胸のあたりを指さした。

つまり。


「大きいか大きくないかってことですか?」


「そう、そうなんだ…… お前はこっち側の人間だと思ってたのに……」


そんな勝手に思われても……

なんか泣きそうじゃないですか。


「これって私が悪いんですかね?」


「違うよ。 ただの僻み。 ヤダヤダ、胸が小さい人は心も狭くて」


そう言ってククルちゃんが両手を上げつつ首を横に振る


「お前もそんなに変わんないだろ12歳!!」


「そう! 私はまだ12歳なので未来があります。 伸びしろですね!」


「そ、そんな……」


シャルさんは雷にでも打たれたかのような絶望の表情を浮かべた。

そして、そのまま後ろに倒れ込み湯船にダイブした。


「とりあえず身体も洗ったことだしもう一回湯船に入ったら?」


サリアさんに言われてもう一回湯船に入ってみることにした。

さっき放り込まれた時はすぐに体を洗うために出されたから、ゆっくりできなかった。


「ふぅう……」


湯船に足を入れ、肩まで浸かる。


「痛っ!」


「どうした? ハリィが背中擦りすぎた?」


「え? ウチ? スマン!」


「いや、そうではなくて…… その…… 身体のキズが染みて……」


実は私の身体は傷だらけだ。

というのも、私がこの世界に来てからレティシアさんと出会うまで、奴隷として飼われていた。

その時のご主人様は、奴隷を苛めるのが大好きというそれはそれは素敵な趣味をお持ちの人だった。

そんな私は夜な夜なご主人様から鞭を振るわれ、蝋で肌を焼かれ、首輪を鎖でつながれたうえ引きずりまわされる日々を過ごしていた。


「負ってからかなり時間のたっている傷も多い。 僕やククルでも完全に治すのは難しいと思う」


あの時の記憶なんて早く忘れたいのに体の傷の痛みや体に染みついた癖がそれを許さない。

まるで私とあの男とのつながりを強固なものにしているようだった。


「今はどうでもいずれ薄れるわよ。 キズも、記憶も」


隣にいたトリナさんに励まされた。

トリナさんのふわふわな尻尾はお湯を吸って幾分スリムになっていた。


「そう……ですね」


確かに他の記憶で上書きされていけば薄れていくかも……しれない。


「ぷはー まあ、お嬢といたら飽きないし、昔のことなんて忘れるくらいの濃い経験できるかもな」


「あ、復活した。 もう少し沈んでればいいのに」


「ほーう! そんだけ頭が良くて人間の肺呼吸で水中にいられる時間を知らないのか12歳!!」


「あの、お嬢って?」


「ああ、レティシアのことだよ、 あたしとベルとハリィは小さいころからアイツに仕えてたんだわ」


「と言いつつレティシア様をお嬢だのアイツだのと呼ぶのはやめていただきたい」


「そう言えばレティシアさんいないですね」


「アンタってあいつのこと何も知らないわけぇ? アイツあんな見た目でも中身は男なのよぉ」


そうか、転生しているから見た目は女性でも中身というか精神は男の人なんだ。


「じゃあいつも?」


「アイツは一緒の風呂には入らんの」


へぇ……

男の人なら合法的に女子とお風呂に入れるなら入りそうなのに。

偏見かな?


「一回くらい男性としての欲を出してお風呂に一緒に入ってくださってもいいのに。 その暁には背中を流したり頭を洗って差し上げたり……」


ベルさんが欲を出した。

この人のレティシアさんへの想いはすさまじい。

こういう人がいるから身の危険を感じて行かないのかもしれない。


「あの…… 素朴な疑問なんですけど、みなさんレティシアさんの転生云々の話信じてるんですか?」


「と言いますと?」


「レティシアさんって顔は明らかにこっちの世界っぽいじゃないですか? しかも転生ってことはこの世界に生まれてきてるんですよね? 過去に同じ例はなさそうだし、私たちはまだつい最近までこの世界に現れていないから証人もいない。 異世界転移も信じられなさそうなのに、生まれ変わりとか言われても正直信じられないんじゃないかと思って。 嘘だとか思わなかったんですか?」


「私はどれだけ荒唐無稽な話でもレティシア様が仰るならば信じます」


と、ベルさんが即答した。

受け入れ方凄いな。


「こいつはともかく、お嬢ってさ。 小っちゃいころから変に大人みたいだったんだよ。 達観してるっていうか、大人でも知らないこと知ってるし」


まあ……元は高校生だからね。


「そのうえニコリともしないうえ冗談も言わないヤツだったからの。 いきなり生まれ変わったと言われてもなんかそうなんかな、と思っていしまったぜよ」


つまり、あのまんま成長してるのか。

随分可愛くない子供だったろう。


「僕らも正直半信半疑だったんだけど、いろいろとこの世界のモノではない知識を出されたら信じるしかなかったよ」


うんうんと頷きライラちゃんに同意する一同だった。


「結局、信じるかどうかは自分の目と直感を頼るしかない。 私たちが信じたのは……レティシアという人間への信用から……だな」


ジュリさんの一言でその話は終わりとなり、話題は別のものへと変わっていった。

信用……私はレティシアさんという人間を信じることができるのだろうか。


大きい……ベル、ハリィ、ジュリ、咲良

普通……クロエ、トリナ、サリア

小さい……レティシア、ライラ

無い……シャル、ククル


(シャル) 何の話かって? わかってんだろ!? これ以上私にむなしい思いをさせないでくれ!(泣)

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