彼女たちの休日
エピローグ的な話です。
入店早々敗北宣言をかました男はオリヴィエといい、隣の店および王都に展開している同名店のすべてを管理している男であった。
なんでそんな男がここに来て、頭を下げたのかというと彼が一方的にこちらの食堂と張り合っていたからである。
当初の目的はあくまでも食堂の維持存続、別に勝とうが負けようが関係は無い。
とはいえ、隣同士であるから客の取り合いは避けられない。
オリヴィエも店に行って隣に行列ができているのを見て、それを宣戦布告と受け取ったらしい。
自分の店と戦うために何か手を打ち、その結果行列が生み出されたのだろうと。
「で、一方的に勝負を吹っ掛けられたと思い、おまけに負けたとも思い、敗北宣言しに来たと」
「はい、我が『リストランテ』に並び立つ店がまさかこんなところに立とうとは」
脇で成り行きを見ていたお嬢さん―――クラエス―――はそこに付け加える。
「四号店、つまり隣の店を出店するにあたり、オリヴィエはこの店の料理を味わい、そして嫉妬したそうです。 その嫉妬から来る対抗心によって出店、このようなことになりました。 つまりこの男の半ば独断だったようです。 もっとも、この国での出店計画はオリヴィエに一任されていたので、申し奉りさえすれど、父がそこに口を出すことはないのでしょう」
クラエスはこの一件に父が噛んでいると思ったようだが、そんなことは無くただの勘繰りすぎであったようだ。
「けれど本当に負けなのですか? 夕飯時になってそちらの店の客の入りはまだまだ衰えなさそうですが……」
サリアがそう言って隣に目を配る。
営業終了したこちらと違い、隣の「リストランテ」にはまだ客が入っている。
競っていたというなら、間違いなくあちらの勝ちだ。
しかし、オリヴィエは首を横に振る。
「そういう問題ではありません。 この規模の食堂があれだけの客を新たに呼び戻すのがどれだけ難解か…… そこに至るまでのアイデアも私には及びつかないものでした」
「はは……」
苦笑いで視線をそらした理名。
及びもつくまい、だって異世界の文化なのだから。
「という訳で、いろいろお騒がせしたことによる謝罪に参った次第でございます」
クラエスがそう結ぶ。
「謝罪……って言われてもなぁ…… 別に何かされたと思っちゃいねぇしなぁ……」
店主からすれば、隣にも同業店ができただけのことだ。
これが例えば店内で迷惑行為を働いたり、客に迷惑をかけるようなことをしたというなら憤慨のしようもあるだろうが、そんな話は聞かない。
なのでその旨を伝えたうえで謝罪も受け取るだけで話は終わりであると、二人に告げる。
「あの……いいんですか? このままでは隣にまだあの店が……」
結局「リストランテ」が隣にはまだ居座り続けることになる。
今日は過去最高の売り上げを記録したが、今後もそうなるとは限らない。
「ま、常連も増えたし何とかなるだろう。 人ひとりくらいは雇う余裕もできたしな」
愛想のいい人間が接客すれば人も集まるだろう、と店主は気楽に語る。
「案外どうにかなるもんだよ。 伊達にここで三十年近く店をやってねぇ」
「そういうものですか…… 大店を経営する我々にはなかなかない考えですが……まぁ考え方はそれぞれということで。 しかし隣同士客を取り合うことには変わりありません。 明日からはライバル同士ということで、またよろしくお願いしますね」
クラエスは深くお辞儀をし、オリヴィエを連れ立って帰っていった。
話から察するに店主を引き抜く気も無くなったということだろう。
「ライバル……なぁ、そんなつもりなかったんだが……」
結局ライバル認定された。
店主からすると逆に面倒な気もしていた。
自分より何倍も大きいお隣さんから気にされるとかえってしんどいものだ。
「ああ言われたのですから簡単には閉められなくなりましたね。 まずはレシピを完全にものにすることですかね?」
サリアがそう言うと、店主は首を横に振る。
「完璧なんかなりゃしねぇよ。 新しいやつも前から出してたやつも完璧にはならねぇ。 常に精進していかねぇとな」
「それは失礼」
バタン
と再び食堂の戸が開いた。
「おや、サクラにトリナ……それにククルも…… 君ら今までどこにいたんだい? まさかダンジョンじゃないよね?」
「「「夏の終わりに肝試し?」」」
「昼から?」
「太陽が昇ってたって暗い場所はいくらでもあるのよ!」
昼からやったっていいじゃない!と怒るトリナ。
彼女は空腹である。
「幽霊見つけられるかと思ったんだけどな……残念」
まだちょっぴり口惜しそうなククル。
しかし、件の屋敷には間違いなく幽霊の類いはいない。
「とりあえず夕飯にしようかとここに来たんです。 トリナが馴染みのある匂いするからって……」
「そりゃするわよね。 毎日ほとんど嗅いでるんだから」
「お腹がすいた状態で匂いをたどったらここに来て、ついでに匂いの正体は私たち……? なんか怖いな」
まさかもしもの時には自分たちを食料に……なんてことをレティシアは考え、さすがにそれは無いかとそれを振り払う。
「と・に・か・く! 私たちはお腹が減ってるの!」
「でももう閉まっちゃったよ? 食材ももう無いし」
「何で!?」
「何でって……」
そもそも食材がもう無いから閉めたのだ。
しかし、それに待ったをかけたのは店主であった。
「まぁ、料理の良し悪しに拘らなきゃ何とかなるだろ。 まかないだからあんま立派なもんは出せないから贅沢言うなよ。 働いてくれた礼じゃねぇが、お前らの分も出してやる。 食うだろ?」
「もちろん頂きますとも!」
そう言って勢いよく立ち上がるサリア。
「お前は少し遠慮しろ!!」
そして全員から総ツッコミを受けるのだった。
一番働いたはずなのに……
「大食いは損だなぁ……」
そんな嘆きが食堂に響き渡った。
次章は現在準備中。
ストック無いのでちょっと待っててね。




