サリアとライラの休日 4
今章は次回で完結です。
「いらっしゃいませ、お嬢様方」
見るからに美形で中性的な女性がそう持て成すと、うら若き女性たちはきゃーきゃーと黄色い声を上げる。
持て成しているのはサリアである。
昨晩、理名はこの食堂に客を呼び込むための方策をいくつか出したのだが、その中に女性層の獲得があった。
理名が居た世界でも女性層の取り込みは飲食業界に限らず、様々な分野で重要視されている。
それに対し、この世界では女性が外食をする機会というのは少ない。
男性に誘われる場合は例外だが、
ただでさえ薄暗くおおよそ女性が来るようなところではなかったこの食堂ではやはり客層は男性が九割九分を占めていた。
女性もいなかったわけではなかったが、常連が数人、新規も月に一人か二人いたかどうかくらいだ。
外観は掃除してどうにかなったがもう一つの問題は店主である。
ぶっきらぼうなのに加えて、厳つい顔のこともあり、接客には少々難がある。
と言うことで、代わりに接客する側に回ったのがサリアである。
そのルックスに加え本人はナチュラルにやっていることのようだが一挙手一投足が女性受けするものだから、すでに幾人もの女性客を虜にしていた。
勿論今日限定であることを伝えるのは忘れない。
そもそも冒険者なので毎度毎度働いていると思われるわけにもいかない。
しかし、それが却ってレア感を出して、今日だけならばとリピーターも生み出していた。
一応サリアがいなくなった後も似たようなルックスの店員を雇えないか、根回しをしている。
さて、それ以外にも客を呼び込む方法はいくつか用意してある。
「シチューパン包みお待たせしました」
一方のライラ、彼女が店の前で売り出してるのはビーフシチューをパンで包んで揚げたものである。
いうなればカレーパンのビーフシチューバージョンである。
これは店での食事というよりもテイクアウトを目的に売り出している。
理名が高校時代に帰り道で買い食いしていたのを思い出して売り出したものだ。
どの世界でも働きに出ている人の昼食は自炊と外食の二択しかない。
多いのはどちらかといえば自炊。
経済的でわざわざ外に出なくてもいいから楽なのである。
そこにテイクアウトという概念を持ち込む。
経済的な面を除けば外食を面倒に感じる理由は、店に足を運び、場合によっては並んで席に着き、注文をして待って、食事して会計……
兎に角、ランチというには少々面倒くさい、というか待ちが長い。
それに対しテイクアウト制はそもそも店に入る必要はなく、店頭で受け取ればそれだけで事足りる。
料理もパンであるからある程度は長持ちするので作り置きできる。
さらに店に客を入れる必要がないから食堂に入れない人が多く作ることがなくなる。
はずだったのだが。
「こんなに人きます?」
想像以上の客足にこの騒ぎの仕掛人ともいえる大和理名は戸惑いを隠せない。
「回転率を上げるために行列を作らないようにしていたけれど正直予想以上。 好奇心半分、隣から流れてきた客半分。 あとはサリア効果か。 なるほどイケメンは偉大」
「それサリアさんに言ったら複雑な顔しますね」
「けれどこのままではよくない。 客をさばけなくなれば客足が遠のくかも。 テーブルに置いてけぼりの客もいる」
それではほかの飲食店と変わらない。
いや昼時に客を待たせてしまうのはよくあることではあるのだが、そもそもフロアを未経験者のサリア一人にやらせている結果、無理が出てきたということだろう。
「やはり人員を増やすべきか……」
「おおう? こりゃなんの行列かと思えばライラ、新しい商売はじめたんか?」
テイクアウトの列を無視して話しかけてきたのは同じパーティーメンバーのシャルだった。
「シャル! ちょうどいいところに……酒臭い、酔ってる?」
「ちょっとバーでね。 そんなに飲んでないし頭はしっかりしてるよ。 酔いがさめる出来事もあったしね」
「それは何より」
ライラはシャルの両手を強く握りしめる。
「シャルの妙に器用で物覚えもいい能力を見込んでお願いが!」
「なんだろう? 若干ディスられたうえ面倒に巻き込まれる気がする。 嫌だって言ったら?」
「協力感謝。 みなさん、仕込みをするので少しお待ちを……」
「ねぇ、話聞いてる?」
「その恰好はよくないから着替えようか。 酒酔いも解毒しよう」
「おいこっち見ろ。 クロエ何処だ? いない!? 逃げやがったな!?」
そんな一切成立していない会話を繰り広げながら二人は店の奥へと引っ込んでいった。
***
「煮込みハンバーグお待ちしましたぁ!!」
時間は正午12時、飲食店がとてつもなく忙しくなる時間帯である。
それは午前中の比ではなく、サリアもシャルも店内をせわしなく動き回る。
シャルなどもはや自棄であった。
ライラにとって誤算は二つ。
まず店内がそれほど大きいわけではないことであった。
所詮は町の大衆食堂、キャパシティは高が知れている。
精々二十人入ればいいほうなのだ。
利益とか客を呼び込むことに注視した結果その辺をすっかり忘れるという失策を犯していたのである。
「……まぁ、売り上げ勝負をしているわけでもないし……もう少し加減するべきだったかな?」
とはいえライラにしてもこの客の入りは計算外であった。
これが二つ目の誤算。
早い話、店がやっているだけの人数が入れば目的は達成される。
出される料理は一級品のお墨付き(サリアの)。
一度口に運ばれれば常連になってくれる……可能性もあった。
そうして新たに常連が増えてくれればそれで良し。
隣に流れていった客も戻ってきてくれれば言うことなしであった。
「まぁ……人気になって悪いことは無いけど」
客が増える分には構うまい。
この調子で一人で切り盛りできるかどうか怪しいが。
「ライラ! ホール二人でも回せない! どうしよう!?」
どうやら無理のようである。
時間がたてば客も落ち着くだろうが、それを待っても居られないようだ。
「人を増やす? でも今からは……」
さすがに人手を集める伝手は無い。
そんな時。
「何なんすかこれ?」
「どのみちこれじゃ、いつ店に入れるかわからん。 行こう」
「!? 今の声は!?」
ザシャ!
言うが早いかサリアは勢いよく店を飛び出していった。
その先にいたのは。
「サリア?」
「はぁはぁ…… みんな……丁度良いところに!」
こうして被害……協力者が増えていくのだった。
***
「サーモンをバターかなんかで揚げたやつお待ちっす!」
「ムニエルだ! っていうかそれ別に揚げてるわけじゃないぞ!」
店内を駆けまわる人間が増えた。
レティシアとハリィである。
ちなみにジュリとベルは裏方、主に調理を担当している。
手先が器用なので料理に関しても戦力として計算できるからである。
と言うか他の二人が不得手すぎる。
とはいえ、うまく人員を割り振ることができたのも確かなので、悪いことでもないが。
「フロアの方々、そろそろ材料が無くなります」
「おや、そうか……じゃあ、誰かに買ってきてもらおうか……」
いや、自分が行こうかな?なんてサリアが考えていると、ベルがその思考を遮る。
「いいえ、もうすぐ昼食時も終わりますし、とりあえずは打ち止めにするそうです。 今並んでいる方々には申し訳ないですが」
「え?」
***
午後二時、遅めのランチに来た人もいなくなり、食堂は一時間前とは打って変わって静かなものだ。
とはいえ、ピーク外の飲食店なんてこのようなものだ。
でないと夜の分の仕込みもろくにできない。
「ただ客を入れれば良いってわけでもないのさ」
「いや、まぁ、助かりましたけどね。 私たちも」
ずっと働きづめだったサリアの疲労たるや凄まじいものがあった。
隣の店もピークが過ぎたようではあるが、それでもまだ客が入っているようだ。
とはいえ、繰り返すようではあるが隣の店と争っているわけではない。
客が確保できればそれでいいのだ。
「料理を気に入ってくれる人が意外にも多かった。 この分なら常連も結構増えると思う」
いつも無表情なライラの表情が得意げになった……気がした。
「ねぇ、それよりぃ、わたしお腹減っちゃったぁ。 何か無いのぉ?」
「お前ずっとどこにいたんだよ? こっち大変だったんだぞ?」
どこからか現れたクロエに恨みがましい視線を向けるシャルはなまじ器用であるばっかりに馬車馬のように働くことになった。
誰に言われたわけでもないのに。
「じゃあ、なんか作るか。 まかないで言いならな」
そう言って店主が厨房に引っ込もうとすると、食堂のドアが開いた。
「すまんがもう営業終了……ん?」
現れたのは昨日やってきたお嬢様、中年男性……
男性は店主を見据えると……
「参りましたぁ!!」
五体投地で謝罪した。
それを受けて店主は
「……誰?」
首をかしげるばかりだった。
(シャル) で結局どこにいたの?
(クロエ) その辺をブラブラとぉ? こっそり変装して食堂にも来たわよぉ?
(シャル) 手伝えや!!




