サリアとライラの休日 1
話の内容的にもうちょっと待ったほうが良いかな?とも思いましたがフィクションだしいいか、と思って出しました。
休日のお供にご一読を。
≪銀色の狼≫所属の冒険者、サリア。
その実力もさることながら、彼女を巷で有名足らしめているのは、そのルックスである。
所謂中世的な顔、という奴なのだが、その切れ長で整った顔によって同業者やギルド関係者などから熱視線を送られることが多く、非常にモテる。
ただし女性に。
当人も当人でやや天然が入っているのか、全部わかっているのか女性陣を骨抜きにする言動ばかりするものだから女性人気に余計に拍車がかかる。
そして大食い。
そう大食い。
健啖家。
どのくらいかというと、初見でサリアに惚れ込んだ女子が一瞬でドン引きするレベルである。
過去か前世かで飢えで死んだんか?というレベルである。
勘違いしてはいけないのは、サリアは食えればなんでも良い、という訳でもないところである。
量も大事だが質だって大事なのだ。
そういう訳でサリアは休日、まだ見ぬ美食を追い求めて飲食店巡りをしているのである。
そんな彼女が今回向かったのは王都中心の少し外れの通り。
飲食店をはじめ、様々な商店が並ぶ繁華街でもあり、多くの人が足を運んでいた。
そんな通りの一角。
「うわ……凄いな……」
サリアが目にしたのは通りにまで伸びる行列であった。
飲食店のようだがその中はうかがい知れない。
それに、サリアもいろいろな店を訪ねたが、これほどの行列はあっただろうか。
「でもこれじゃ入れるのがいつになるのかわからないな…… ん?」
それとは対称的に隣のお店も食堂は行列もなく、むしろ隣と比べればさびれてしまいそうにも見える。
しかし、サリアは知っている。
味の良し悪しに店の外観はあまり関係なかったりするのだ。
外観が悪ければ人が立ち寄らず、引いては多くの人に知られないこともあって人気店にならないことはある。
が、そういう店に限って味は優れた隠れた名店であったりする。
勿論、単にハズレという可能性も大いにあるのでそれは料理が出てくるまでわからないが、それでこそ美食探究の醍醐味というものだ。
「良し……今日はこの店に決めた!」
サリアは隣の行列店に目もくれず、さびれた食堂へと足を踏み入れた。
***
ガラガラ……
「……っしゃい」
なんとも素っ気ない店主(と思われる)男性からの迎い入れの言葉。
坊主頭で屈強、態度と完全シンクロする厳つさ。
サリアは店主のせいで客足が遠のいているような気がしてならなかった。
いや、歓迎されているのかも怪しいが、それは置いておこう。
店の内装を見るとボロい外観とは裏腹に整っており、席やカウンターも整然としているように見える。
客は六名、半分は冒険者で男性、残りの三人は女性二人と男性一人、冒険者ではなさそうなので単純に街の住人だろうか。
サリアはとりあえずカウンターではなく、壁際の空いている席の一つに座った。
メニューはすべて壁に書かれているようで、それを眺めつつ、何を注文しようかサリアが思案していると、店主がお冷(水)を持ってやってきた。
「注文は?」
どうやら注文を聞きに来たらしい。
「そうですね……何かおススメはありますか?」
「…………とくには無い」
「え~」
何の気なしに聞いたサリアであったが、店主の素っ気なさは彼女の想像を上回っていたらしい。
「で、ではとりあえずオークのステーキでも……」
「わかった」
店主は際あの注文を聞くと、厨房へと戻っていった。
「しかし、これでは接客業としての形を成していないのでは……?」
飲食店は接客業である。
なのでいくら口下手、不愛想であったとしても客と会話をしないわけにはいかない。
それができていないようでは接客としては成立していない。
そりゃ閑古鳥も鳴こうというものだ。
「嬢ちゃん、ここは初めてかい?」
近くにいた冒険者に声をかけられる。
「はい」
「じゃあ、驚いたろう? あんな態度、客商売でしていいもんじゃない」
「同感です。 実際お昼時も近いというのに客が私を入れて七人というのは……」
「それがな、少しばかり事情が違うんだ」
「といいますと?」
「おやっさんが言うにはな? この店はこの場所に十五年あるっていうんだ。 しかもおやっさんが一代目、つまり店を開いたってことだ。 どういうことかわかるよな?」
「ほう?」
おやっさんというのは店主のことだろう
どういうことも何も額面通り、そういうことだろう。
細々とやっていくにしても、ある程度の客足が無ければならない。
例えば常連客とか。
「ここの店は確かに店主の愛想はない、だから一元は入りにくいんだが、入ったら常連になる確率がとても高い。 かくいう俺もそうだ。 なんでかと言われたらここの料理の味が格段に良いからだ。 何度も足を運びたくなる。 値段だってリーズナブルだから足も運びやすいし、おやっさんだってぶっきらぼうで口下手だが話してみりゃ気のいいやつだってわかる。 その最初のハードルが高いだけで」
「成程」
こういう町の大衆食堂は遠方からの来客よりも地元の人間のそれによって経営が成り立っている。
例えば仕事をしている人の昼食、冒険者の夕食。
偶の外食というよりも気軽に立ち寄れる金額と、いい意味での素朴な料理。
きっと地元に長く愛され、多くの常連を抱えているからこそ今日までやってこれたのだろう。
とすると、わからないことが一つ。
「しかし、それにしては客足が少なくありませんか?」
確かに今は昼時というには早い、が誰もが昼時に昼食にありつけるわけではないのだ。
それこそ冒険者ならいつ何時食事のタイミングになるかわからないから、変なタイミングでやってきたりもする。
そういったことを考えると、やはり客が少ない。
先ほど聞いた評価と客の数が一致しない気がするのだ。
「それはな……アンタも見たろ? 隣の店」
「あ~」
つまり常連客を取られたのだ。
あの行列だ、この店の常連もだいぶ流れていると見るべきだろう。
「しかしそれは死活問題なのでは」
客足が減れば当然経営だって苦しくなるのだ。
「そう思うよなぁ……? けどおやっさんそれを言ったらよう?」
「別に構わないって言ったんだ。 ずっと繁盛できる店なんてありゃしねぇ。 どっちの店のほうがいいか選ぶのは客の自由だろう? 新参に常連取られるなんざこの商売じゃよくあることだ。 ま、そこまで焦ることもないのかもしれねぇが。 ほらよ、ステーキお待ち」
どうやら店主は客たちの思っているほど焦ってもいないようだ。
であるならば、これ以上突っ込んだ話もできない。
運ばれてきた料理が冷めるのも嫌なので、サリアは話を切り上げ、ナイフとフォークを手に取った。
オークのステーキは焼き立てということもあり、肉汁が染み出してパチパチと音を立て、立ち上る湯気はステーキの上に掛かっているソースの香ばしい匂いを染み込ませて、鼻孔をくすぐる。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚以外の感覚でも食欲を刺激してきた。
「……恐ろしいな……」
食べる前からこれで、実際口にしてしまったらどうなるだろう。
そんな恐怖と、それでも食べないではいられない欲求の間で揺れ動きながら、それでもサリアはフォークに刺したオーク肉を口に運んだ。
その瞬間
「…………!!」
サリアは言葉を失くした。
美味しい。
美味しいのだ。
だがそんな陳腐な一言で片づけるには忍びない、しかし他の言葉で表すだけの語彙力がサリアにも作者にもない。
人間、本当に美味しいものを口にすると案外口数が少なくなるものだ。
舌が感じとる多幸感をひとつ残らず全身で味わうためだろう。
他の動作なんてしてられないのだ。
料理がオークのステーキというのも恐ろしい。
普通のオーク肉は硬く人間が食えたものではない。
しかしこれはどうだ?
ちゃんと食すことができる、それどころか美味だ。
その事実だけでこの料理人の腕がどれ程のものかわかろうというものだ。
はっきり言ってこんな寂れた食堂にいるような人間ではない。
なぜこれほどの腕を持っていながらこんな食堂に?
サリアがそう聞こうとしたとき、食堂のドアが開かれた。
客が来たのだろうか?
サリアはそう思ったがどうやら違うらしい。
店主の顔が客に向けるそれとはまったく異なっていたからだ。
(ライラ) サリアと……誰の休日って?
(サリア) その辺のクレームは作者にお願いしまーす。




