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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
夏の終わりに
120/125

レティシアとベルの休日 4

二つの勢力から(正確に同じ勢力の二チーム)に攻め込まれるとか気の毒過ぎる…… 日頃の行いですね。


(レティシア) 他人事ぉ~

 『ここから脱出しましょう』という兎耳の獣人の言葉はまさしく彼女たちにとって福音だった。

 彼女たちに言わせれば、ここは地獄も同然だったのだ。

 見目麗しい者はどこかへと連れていかれ、そうではないもの、特に子供などはここで下働きさせられていた。

 男たちの慰みものにならなかっただけマシともいえるが、下働きでも日常的に暴力を振るわれることはあったし、暴言を浴びることも少なくない。

 食事も貧相で住環境も最悪、休みは当然ないし、体調を崩したからって何もしてくれない。

 奴隷同然の暮らしだ。

 誰もがこの現状から抜け出したいと考えていた。

 でも自分たちにはどうすることもできない。

 抵抗できたら初めからこんなひどい目に合っていない。

 だから外に助けを求めることにした。

 憲兵、ギルド、とにかく外の誰かにいまのこの状況を伝えたかった。

 そこで選ばれたのがララだった。

 一番小さな子供なので危険なことこの上ないが、小さいがゆえに脱出がしやすく、また外に出た時に誰かに気にかけてもらえるのではないかと考えてのことだった。


 そう、彼女たちのまとめ役の女性は話した。


 「お話は概ねわかりました。 ひとまずギルドに行きましょう。 ギルド経由で憲兵に通報してもらえればまず皆さんの身の安全は保障できるかと」


 「あの……それなんですが……」


 「? 何か?」


 「実は……まだ捕らわれている人が……」


 「! それはどこですか?」


 ベルが尋ねても、皆一様に首を横に振るばかりだった。

 曰く、彼女たちは二か所に押し込まれていたらしい。

 理由は単純、二か所に入れないと収まりきらなかったからである。


 (集めた割にはこの人たちをイマイチうまく捌けていない……それに自分たちの拠点で大勢来ると思ってて敵を待ち受ける……? ララさんも簡単に逃がしていますし……ちゃんと考えているようで足りていない印象がありますね…… まさか何もかも侯爵の意向に従っていたのでしょうか……?)


 人間、指示されたことだけに従い、何も考えなければ思考力が落ちる。

 組織は生き物だと言うことはあるが、一つの生き物と違い頭が亡くなったって一応生き永らえる。

 ほかの何かが頭の代わりを務められれば、であるが。


 (どのみちこの老舗マフィアも長生きしなかったでしょうかね……)


 と、ベルは独り言ちる。

 放っていても早晩自滅したろうな……と。

 

(それは今はどうでもいいこと……問題はもう片方がどこに捕らわれているか……ですね)


 ベルは内心かなり頭を悩ませていた。

 今目の前にいる彼女たちを放っておくわけにはいかない、しかしまだ捕らわれている人たちも無視はできないし、レティシアのことも気になる。

 少なくともレティシアが遅れを取るということはないのだろうが、だから気にならないかどうかは別問題である。


 「難しい……ですね」




***




 そんなベルの悩みを他所に、レティシアは屋敷の中を走っていた。


 先ほどまで彼女を取り囲んでいた男たちは、その数を半分ほどに減らしたところで残りの半分も蜘蛛の子を散らすように逃走していた。

 ファミリーだなんだと言っても自分の命を優先する考え方は間違いではないし、レティシアも一々逃げ出した奴らを追ったりはしなかった。

 ただし例外が一人。

 レティシアに初めに声をかけた、高みの見物を決めていたあの男である。

 偉そうな割に、一切戦闘に絡んでくる様子がなく、ずっと見ているばかり。

 もしや『偉そう』ではなくマジで『偉い』のではないか、とあたりを付けたのである。


 「成る程……お前が十三代目ねぇ……」


 そしてそれはビンゴであった。

 どうやら先代が早逝し、若くしてマフィアのトップの座に就いたらしいこの男。

 しかし、それまでずっと遊び呆けるばかりでそれらしいことを一度もしたこともない。

 なので侯爵など貴族とのコネを存分に使ってここまでやってきたようだ。


 「でも侯爵が死んで、息子も処刑。 他の貴族もお前に構う暇が無くなり一人で無い頭で考え始めた、と。 侯爵が死んで面倒ごとが減ったかと思ったが、そうでも無いらしい」


 「ま、待ってくれ!」


 「ん?」


 「確かに俺はマフィアのボスだ。 でも俺はただのお飾りで運営とかは弟がやっててな……」


 どうもレティシアが圧倒的に実力が上と悟り、下手に出ることにしたようだ。

 揉み手でもしそうな勢いである。


 「………………んで?」


 だからと言ってレティシアが目の前の男に優しくする道理なんてないのである。


 「まさか弟がやったとこだから責任が無いなんて言わないよな? お前はトップなんだから」


 「う…………」


 哀れ……否、自業自得ではあるが、マフィアのトップが少女、自分よりも圧倒的に体格で劣る相手に凄まれ、ついでにこってり絞られるのであった。


 その際に聞き出したララの仲間たちが押し込まれている場所の位置。

 どうやら二か所あるようだが、レティシアはとりあえずそのうちの一つに向かって走った。

 おそらくベルも二か所のどちらかに向かっているのだろうが、それがどちらなのかレティシアにはわからない。

 とりあえず、ベルと合流できればそれでよし、できない場合は各個に捕らわれている人々を救出すればいいのである。


 と、レティシアが走っていると、角から人影を捕らえた。

 一人は鋭い眼をした男だった。

そしてもう一人、男に首根っこを捕まっている少女。


 「おや……来たのはこちらの(・・・・)方だったか……」


 「こっち?」


 「おやお気になさらず、それはこちらの話なのでね…… ところでどうする? このまま彼女ともに私を焼き尽くすかね?」


 「端からそんな思いっきり炎を出す気はないが……それで、この場をしのいだとしてどうする? このまま逃げおおせると思うか? 無理だろう?」


 「命さえあればどうにでもなるものだよ。 私はあの馬鹿兄とは違うのでね。 うまく立ち回って見せるさ」


 「ファミリーの運営で立ち回れてないじゃないか」


 「煩い! とにかく、そこを動くなよ! お前だけを相手するわけにもいかないんだ!」


 そう言って、男は少女を伴って、どこかへ消えていった。


 「動くなと言って、自分が目を離してもそのままでいると思っているんだろうか? やはり一歩……いや二歩も三歩も足りてないな」


 少し間をおいて、レティシアも男を追い始めた。




***




 男が行ったと思しき道を進んでいくと、地下に続く階段があった。

 おそらくここはララが助け出してほしいと言っていた人たちがいるところなのだろう。

 そこに男が居ようがいまいが、目的は達成される。


 (人質だったあの娘も気にになるが……こっちが優先だ)


 レティシアは階段を降りて行った。

 そしてもう少しで階段も降り終わろうという時であった。


 ドゴォ!


 そんな大きな音とともに、さっきの男が吹っ飛んできた。

 レティシアがもう少し早ければ衝突しているところだった。


(え~!? 何で!?)


 よくわからないままに階段を下りていくと、奥のほうからも話し声が聞こえる。

 それも、非常に耳なじみのある声が……


 が、レティシアがその声の主に声をかける前に、目の前の男が起き上がった。


 「クソが……お前ら……このままじゃ済まさねぇからな!」


 先ほどまでとは打って変わってずいぶん余裕がない様子。

 頭に血が上っているのだろう。

 真後ろにいるレティシアに気づかないのだから。

 

 「はぁ……」


 それは呆れに近い溜息だった。

 隙だらけ、というか後ろを取られたらもう好きにしてくれ、といったところである。

 仮にもマフィアのボスだろうに。

 レティシアはちょっと気の毒とも思いつつ剣を振りかぶった。


 「お前ら許さねぇ。 商品だなんだ知ったことか! 全員後悔」


 そして男の脳天に剣の腹を叩き付ける。

 流石に死にはしないだろうが、それでも男は意識を失って倒れこんだ。

 端から見れば滑稽だろう。

 後ろの敵に気付かずに殴られて気を失ったのだから。

 一方のレティシアは、ぶっ倒した男はスルーし、階段下の人々に話しかける。

 その顔を見ると、やはりか……という感情とともに、少々の驚きを覚える。

 その人物もまたレティシアの顔を見てとても驚いたようだ。


 「お嬢!?」


 「レティ!?」


 「ジュリにハリィ? 何でここに?」




***




 「じゃあ、何だ? レティとベルも私たちと同じ相手を追ってたというのか?」


 「そうなるな……」


 「…………はぁ……」


 ジュリとレティシアは互いに顔を見合わせ溜息一つ。

 マフィアを壊滅できた、という点で言えば何の問題もないのだが……お互い知らないで別のところから攻め入っていたと思うと間抜けな気がしてならないのだ。


 「別にいいじゃないっすか! 敵は壊滅、全員無事に救出! 百点満点っす!」


 「まぁ、そうなんだけどな」


 助け出された人々はギルドを通じて憲兵に身柄を明け渡された。

 ギルドが間に入っているから国が余計な手を出すことも無い、と思う。


 ハリィの言った通り、百点満点の成果であると言えるだろう。


 「それじゃ帰るか。 夕飯、二人も来るだろう?」


 「ああ」


 「奢りっすか!?」


 「そんな訳無いだろう。 ベル!」


 「お供致します」


 いままで憲兵にマフィアの中の生き残りを明け渡し、いろいろ対応していたベルも戻り、四人は街へと歩き出した。


 そして、


 「なんだこの行列……」


 ジュリがそう呟いて呆気に取られている視線の先には店とその出口をも出て伸びる行列があった。

 それだけなら良い。

 良いというか、珍しいほどでも無い。


 問題なのは、それが二列あること。

 隣同士の店舗が揃って行列を作り出しているのだ。


 「何なんすかこれ?」


 「どのみちこれじゃ、いつ店に入れるかわからん。 行こう」


 そうレティシアが言うので、三人もそれに続いたが、その途中、ベルはその兎耳に聞き捨てならない声を拾い上げた。


 「どうした?」


 「レティシア様……今……」


 ザシャ!


 ベルが言い切る前に四人の前に歩み出た。


 「サリア?」


 「はぁはぁ…… みんな……丁度良いところ!」

(サリア) 食とは生きるための行為である。 しかし、人を確実に幸福にさせる。 生物の営み以上の価値を持っているのだ。


(ライラ) 何のこっちゃ?

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