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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
第一部 ハローワールド
12/125

誰かじゃなくて SIDE 咲良

吸血鬼との戦闘が開始されてすぐ、私たちは襲われた女性たちのもとに向かった。

女性は大量に出血していたがかろうじて息はあるらしく、二人はすぐに治療を始める。

治療といってもライラちゃんが傷口を布で押さえ、ククルちゃんが手に光を集めてそれを女性にあてる。


「これも魔法ですか?」


「うん、これは回復魔法。 負傷したところを治すことができる」


あると思った。

異世界だもんね。

治療が進んでいるが、私にできることがあるわけもなく、視線を吸血鬼との闘いに向けた。

吸血鬼と言えばどんな話でも大概強くて、人間が叶う相手ではないはずだけれど、実際のところはむしろ、ハリィさんたちのほうが優勢らしい。


「勝手なイメージですけど吸血鬼のほうが強いと思ってました」


「うん、当人は真祖だって言ってたけれど、多分、中級くらいじゃないかな?」


「真祖? 中級?」


「吸血鬼のランクのこと。 真祖とは最初期に誕生した吸血鬼とその一族のことで彼らに勝てる存在はこの世にはそうそういない。

ちなみに中級だと身体能力は高いが、魔法があまり使えないし、実力のある人間なら勝てる。

今回の相手はそれだと思われるので、サリア達でも勝てると思う」


女性の傷はふさがったようで、まだ目を覚まさないが、助かったらしい。


『とりあえずこれで大丈夫。 多分輸血は必要だけどとりあえず安静にしておこう』


「運ぶから足を持ってほしい」


「あ、はい」


二人が上半身を持ち上げ、私が足を持ち上げる。

とりあえず、この場所から離れ安全な場所へと運ぶ。

その最中、憲兵隊とあったので女性を預ける。


『とりあえずこれで大丈夫だね』


『どうする? 合流する?』


『もう勝ってたりして』


その時、私たち三人の目の前に何かが飛んできた。

それは脇の家屋に突っ込んで土煙をあげた。

よく見てみればそれは


『トリナ!!』


ククルちゃんが叫んだ。

そりゃそうだろう、何せ飛んできたのはトリナさんだった。


『しくった…… ドーピングするなんて聞いてない……』


『ドーピング!? 急に強くなったって!?』


『でも足が速くて腕っ節が強いだけならどうにでもなる』


トリナさんは起き上がって、先の欠けてる剣を持ってまだ戦おうとする。

でも、トリナさんの左腕は変な方向を向いてしまっている。


「トリナさん!! 右腕変な方向向いてる!」


『今なんて言った?』


ああ、トリナさんと私じゃ、会話できないんだった。


『腕か変な方向に曲がってるって。 戦闘は無理だ』


『ここにいて。 応急処置でどうにかできる怪我じゃない。 あとは任せよう』


『……』


トリナさんはその場に座り込んだ。

ククルちゃんが治療を開始する。


うっ!

驚いて気にならなかったけど、怪我は複雑骨折レベル。

見ていて痛々しすぎる。


しばらくすると、サリアさんもやってきた。


『何!? サリアやられちゃったの?』


『ああ、右足を潰された。 これじゃ、足手まといにしかならない』


四人いたはずが一気に半分の二人になってしまった。

勝てるのだろうか、そんな不安が私の頭をよぎった。


「別に今すぐ勝つ必要はない。

本命は別にあるから、今は時間稼ぎさえできればいい」


どうもわかりやすく顔に出てしまっていたらしい。

本命がある……

その意味は私にもわからないが、とりあえず安心しろということなんだろうか。

でも実際二人がもうやられてしまっている訳で、時間稼ぎすらできないように思える。

そしてその予感は当たってしまった。


ハリィさんも戦闘不能になり、シャルさんも負傷、増援に来てくれた人たちもほとんど相手にならなかった。

尤もこちらはほとんど戦力にはならないだろうというのがサリアさんの評価。

どうしよう…………


『まずいな…… やっぱり私出るよ』


『無茶だサリア。 歩くことだってままならないのに』


このままじゃみんな死んでしまうかもしれない。


『じゃあどうする? トリナは戦えそうか?』


『勿論よ!』


『いや無理だから』


誰か……


『僕が何とかするよ』


『『『絶対無理』』』


『全員声をそろえて言わなくてもいいじゃないか!』


誰かじゃない……

私はこうやって誰かを頼ってしか生きてこれなかった。

だから今、自分一人では何もできず、何も決められないでいる。

自分で決めなくちゃ、自分で行動を起こさなくちゃ……


『サクラ!?』


『えっ!? 何!?』


「今前に出ては危ない!!」


ライラちゃんの静止を聞き流しながら私は走り出した。


『……行っちゃった』


途中、地面に刺さっていた斧を引き抜いた。

抜くのも簡単だし、片手で持てた。

多分あの中の冒険者が使っていたんだろう。


吸血鬼の後姿を目でとらえる。

吸血鬼はシャルさんにゆっくり近寄っていく。

とりあえず、こっちに気づいてはいないみたい……

この時の私のテンションはなんかおかしかった。

アドレナリン出まくりというか、無我の境地というか、種が割れたというか。

だから、吸血鬼相手にどうにかしようとか思ったし、触ったこともない凶器を持って、相手に放り投げた。


ザン!!


斧は見事に相手に届き、刺さった。

それでも吸血鬼は死なないし、何もなかったようにこちらを振り向いた。

そこで私は我に返った。

いろいろな話で吸血鬼は出てくるが、どれもなかなか簡単に死んではくれない。

私ごときが放った斧で死ぬくらいなら、ここまでの事態になってない。


『なンだ女…… こんナもノで死ぬト思っタのか……?』


吸血鬼が一気に距離を詰めて私の目の前に現れる。

私の首根っこを掴んで地面に押し付けた。


『コんナものデは時間稼ぎ二もなラない…… お前も私ノ命の糧二しテやろウ』


私は思わず目を閉じた。

何を言ってるか相変わらずわからない。

でもきっと私はここで死ぬのだろう。

それでも私は……


『いや、時間稼ぎになったさ』


首を掴んでいた手が離れた。

咳込みながら目を開けると、そこにはレティシアさんがいた。

右手に持つ剣からは赤い炎が燃えている。

その隣にはクロエさんが大きな鎌を持ち黒い羽を羽ばたかせて宙に浮いている。

吸血鬼は上下真っ二つになり、さらに、黒く焦げていた。


「ご苦労咲良。 あとは下がっていていい」


「へ?」


返事をする前に後ろから抱き上げられ、次いでお姫様抱っこされた。

視線を上に向けるとベルさんだった。

一気に跳躍して吸血鬼との距離を離した。

流石うさぎさん。


『きっと何言ってるかわからないでしょうが、一応感謝しておきます。 ありがとう。』


「ムゴ…… フガ……」


返事しようにもベルさんにしっかり抱きかかえられているせいで返事できない。

この人も出ているところは出てる……

うっわーやわらかー。


『全く、クスリでドーピングなんて。

吸血鬼はもうちょっと紳士淑女的でエレガントだと聞いてたんだけどな』


『どうせセリーナの話でしょう? あてにならないわよぉ

案外、泥臭くて汚らしかったりしてぇ』


『貴様ラぁ!!』


何か逆上した吸血鬼はすぐに上半身が腕を使って下半身へと飛ぶ。

上半身と下半身がつながり、二人に向かって走り出した。


『その辺の犬のほうが速いわよぉ!』


クロエさんが鎌で吸血鬼の左の脇のあたりから右下を一気に切り裂いた。


『無駄だァ!! どれダけ切り裂こウとモ直ぐに再生スる!!』


『させないわよぉ

重力監獄(シュヴェアクラフトゲフェンニクス)!!』


吸血鬼は上半身と下半身とが分かれたままでそのまま地面に叩きつけられた。


『《地獄の(ヘルファイア)》』


レティシアさんが剣で縦に空を切る。

空を切られた斬撃がそのまま炎となって吸血鬼に襲い掛かり、吸血鬼は炎に焼かれた。


『さっきより威力は上だけど…… 生きてるだろう? 吸血鬼みたいな何か?』


『当然ダ! キサマラニコロサレルコトゼッタイニナドナイィ!!』


吸血鬼が上半身だけになりながらも、起き上がる。

身体は焼かれ、所どころ骨も見える。


『別に殺せなくてもいいさ。 私もクロエもただの時間稼ぎなのだから』


『ナニヲ…… ッ!!』


吸血鬼の胸に矢が刺さっていた。

矢が飛んできただろう方向を見るとジュリさんが弓を持って構えていた。


『な、なんでこれが……』


『言ったろ? 本命があるって。

確かにお前は私たちじゃ殺せない。

でも封じて眠らせることはできる』


吸血鬼に刺さった矢を中心にして銀色が広がり全身が銀色に覆われ凍ったように動かなくなった。


「お、終わったの?」


(レティシア) お前の必殺技というか魔法あれ何語?


(クロエ) ドイツ語らしいわよぉ 作者もカッコつけたかったのねぇ


(ベル) 一応異世界と言えども言語が違うこともあるということで


(クロエ) 私、人族じゃないしぃ


(レティシア) サラッと重要なこと言わない


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