レティシアとベルの休日 3
(ハリィ) 先週なんかディスられた気が……?
(ジュリ) 気のせいだろ?
ララたち多くの人間がぼろ雑巾のように働かされているリヨン・ファミリーの拠点と思われる屋敷。
見た目にはよくある町のはずれにある大き目の屋敷ではあるが、その内部ではいろんな意味でよからぬことが行われているようだ。
そんな屋敷の正門を見張っているのは大柄で見るからにガラの悪そうな男一人。
「なんかすごい既視感が……? 『≪ 前へ』を三回押すと……」
「レティシア様それ以上は」
「うん?」
「いえ、なんでもありません。 それよりも如何しますか? 一人くらいならどうにもできるでしょうが……」
「正面から突っ込むやつがどこにいる? 別に戦いに来たわけじゃないんだ。 一々相手なんてしてられない、裏からだ」
今回はマフィアの壊滅を狙うのではなく、とらわれている人の救出である。
それにレティシアの戦い方は主に火属性の技を使うもの、屋内においては向かないだろう。
思いっきり火属性の魔法や技を放って彼らに被害が及べば目も当てられない。
よってまず無理ではあろうが戦闘は避けたい。
交渉?
できたら苦労しない。
二人は守りの薄そうな裏手に回ることにした。
***
案の定、というべきか裏手に人の気配はなく、そもそも裏門なんてないので守りに人員を割いていないのだろうと二人は考えた。
もちろん二人のように裏からコソ泥がごとく侵入してくるやつらもいるから、あまり褒められたものではないのだが二人からすれば好都合でもあった。
周囲に人がいないことを確認した二人は屋敷の外壁を超え、敷地への侵入に成功する。
「ララによれば彼らは仕事以外は暗い所に押し込まれている……だったか」
「おそらく地下でしょうか?」
「かも知れないな」
二人は屋敷の裏口と思しき場所を見つけ近づいた。
カギは掛かっていたものの、ベルが針金を使って少し弄ると簡単に開いた。
もちろんマネしてはいけない。
ついで屋敷に入るとベルはウサ耳をピクピク動かした。
「廊下の向こうから足音が聞こえます。 数は二名、このままだと鉢合わせです」
「それさえわかれば十分だ」
レティシアは剣を抜き廊下の曲がり角に沿って立った。
音がどんどん近づき、やがてレティシアのいる角を曲がりかけたところで、
「ふっ!!」
短く息を吐き、レティシアは
剣の腹でやってきた男の片方の鳩尾を思いっきり殴った。
「ガッ!?」
そして止めとばかりに手刀で首を叩き、気絶させた。
そしてもう一人のほうはベルが首筋にナイフを立てて、行動を封じ込める。
レティシアはその男に歩み寄る。
「悪いな、質問に答えてさえくれれば無体に扱うことはしない。 正確に言えば首が胴と離れることはないということだ。 協力してくれるか?」
そう言うと、男は首を何度も縦に振った。
そりゃそうだろう、男はその首に金属特有の冷たさを感じているのだから。
「お前たちファミリーは他所から違法に買った人間を無許可に働かせているな。 それも相当な劣悪な環境で」
「え、なんでそれを……」
「聞いてるのはこっちだ。 ……だがその反応を見るに正解のようだ。 どこにいる?」
「それは……」
と、一瞬抵抗しようとしたものの、首筋の金属がより強く押し当てられて男は観念した。
「西側との渡し廊下にある階段から地下に行ける。 そいつらはそこだ!」
「よろしい、ではもう少し眠っていてくれたまえ」
そう言うとベルが男を眠らせ、先ほどレティシアがはっ倒した男とともに手足と口を封じて外に放っておき、自分たちは先へと進んだ。
……で
***
「まぁ……そうなるな」
十数分後、レティシアとベルは男たち数十人に取り囲まれていた。
入り口で男を二人熨した後、ベルの耳に足音が全然引っかからなかった。
もちろんベルの聴力は大変優秀なのではあるが、それでも無敵ではなく、小さな物音まで一々拾うことはできない。
それを差し引いても静かだったのでおかしいとは思っていたのだが、詰まる所全員一か所に集まって待ち受けていたのだ。
「一応聞くけど、いつから襲撃に感づいてた? まさか私たちが入ってきたとき……ってことはないよな?」
侵入に対するにしては準備が良すぎる。
もっと前もってされていたものだろう。
とするといつレティシアたちの襲来を予見していたのか。
その疑問にレティシアを高くから見下ろす若い男が答える。
「実はあのガキを探させてたやつらにはな? 見つかろうが見つかるまいが時間が来れば合図をするように言っておいたってわけよ。 でも時間になってもその気配はねぇ…… で、俺はやられちまったと思ったわけよ。 そうすりゃ餓鬼もきっとどこかに全部ペラペラ喋っちまうだろうしな…… そうなりゃここにも攻めてくると思ったんだが…… まさか一人だけとは思わなかったな」
「こちらも予想外だよ。 ここまで頭が悪いやつだとはな……」
「ああ!?」
「ああ、お前のことじゃない。 お前はそこそこの立場なのかもしれんが知性のかけらも感じない。 ブレーンがいるんだろう? まさかここまで頭が悪いと思わなかったがな」
「てめぇ……随分言ってくれるじゃねぇか! 大人数だからって悪いなんて思わねぇぞ! お前らやっちまえ!」
「そうか? こちらは悪いと思うがな。 練習台にしてしまうんだからな」
そう呟いたレティシアは剣を握り、自身の身の回りに火を纏わせる。
一斉に飛び掛かったせいで、何人もの男がその炎に巻き込まれた。
「ふむ……思ったより悪くない。 守りにしか使えないが、こういう込み入った場所でも使えそうだ」
黒焦げになった男たちに囲まれたレティシアは冷静に自分の技を評した。
「後は名前か……炎を身に纏っているから、さしずめ『炎鎧纏』とでも名付けるか」
炎鎧纏。
自らの身の回りに炎を纏うことで攻撃を防ぎ、敵の接近も許さない。
相手が何もしなければ無意味だが、屋内のように狭い空間でも使える使い勝手の良さも売りである。
なお、実際は身に纏った場合はレティシア自身も焼かれるので、炎とレティシアの間には多少空間がある。
レティシアの通常攻撃の炎では、屋敷焼きかねない。
普通ならそれでも良いが、救出を依頼されている以上彼らに被害が及ぶ可能性は排除したいのだ。
「さて……次は誰だ?」
***
レティシアが男たちを焼き、その包囲に綻びが生じ始める様を柱の影から見ている男が二人。
組織の中でも下っ端の二人はゆっくりその場から離れた。
「アニキ! 逃げてどうすんの!? このままじゃ」
「落ち着け。 あの女は方々で仕入れて来た奴らを助け来たんだろう?」
「みたいだけど、それが?」
「頭使えよ、助けに来たってことはだ、あの女はあいつらに手が出せねぇ。 人質にできるってことだよ」
これ以上好き勝手すれば命は無いぞ!といえば、レティシアは身動きが取れなくなると踏んだのだ。
「え~なんか悪人みたいな卑怯な手段だなぁ。 ホントにやるのアニキ?」
「俺達は悪人だろうが! このままじゃ全員丸焼きだ! 俺はこんなところじゃ終われねぇ! 生き残るためならなんだってやってやる!」
男は弟分を連れ、地下向かった。
その部屋には下働きの女たちが大勢おり、男は彼女たちをゆっくり見渡し、一人連れて行こうとする。
しかし、その途中、女に手を伸ばす前に二人は意識を手放したのだ。
女たちは男二人の後ろから現れた兎耳の女性を見て驚いた。
彼女が二人を倒したのか?と。
「ふむ、あの場から離れたのでもしや、と思いましたが当たりでしたね」
ベルはこっそり、レティシアの側を離れた。
こうして人質を取りに行く可能性をレティシアとともに考え、前もって決めていたのだが、これがうまく行った。
「皆さまはララと言う女の子はご存知ですか?」
ララ、と言う名前を聞いた途端、女性たちから声が上がる。
その反応でもって肯定と受け取ったベルは彼女たちに告げた。
「彼女の依頼で助けにまいりました。 皆様、ここから脱出しましょう」
※七人衆の残りの四人は最初のレティシアの一撃でやられています。 ちなみにファンタス○ィック4的なトンデモ集団を予定してました。




