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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
夏の終わりに
117/125

レティシアとベルの休日 1

*時系列的にはハリィとジュリが鍛冶屋に来るより前になります。

 フランシス王国の王都パリエ。

 王都というだけあって国内でも最も栄えた都市であるのだが、やはり光があれば影もあるわけで……

 

 「はぁ………… はぁ…………」


 その少女は走っていた。

 建物と建物の間、日もろくすっぽ差さないところを少女は走っていた。

 できる限り急ぎながら、息を切らして、けれども誰にも見つからないように。

 時折、感じる人の気配に怯え、立ち止まりながらも。




***




 ところ変わって、ここはパリエ中心街にある喫茶店。

 紅茶、ケーキ、軽食、幅広いメニューを取り揃え、庶民向けに設定された価格でもってそこそこの人気を誇るお店であった。

 そこに、買い物を終えたレティシアとベルは居た。


 「でも良かったのか? 買い物に来たとはいえ私の用事ばかり、ベルは何もなかったのか?」


 「とんでも御座いません。 レティシア様のご用事についていけるだけで、そしてお手伝いさせていただけるだけで十分です」


 「ああ、うん……そう?」


 つまるところ一緒にいられるだけで十分、ということで、おおむねいつもの回答であった。

 若干面食らったレティシアではあるが、慣れたものでもある。

 とはいえ、本人が望んでいるとはいえ、自分の用事ばかり付き合わせてばかりも申し訳ないから、こうしてお茶を奢ったのである。


 「さて、ずっと居座るのも良くないし行こうか。 帰りにブルーノの鍛冶屋に寄っていきたいんだが」


 「はい、お供します」


 ブルーノとはパーティー≪銀色の狼≫の御用達の鍛冶屋である。

 せっかく外出したので自分たちの装備を見てもらおうというのである。




 彼の工房までは普通に行けば遠いのだが、いろいろ裏道を通れば割と早くつける、ということで脇道や建物の隙間を通って工房へ向かった二人。

 そしてもう少しで工房に付くだろうというところで、先を歩いていたレティシアが角を曲がろうとするところで、


 「きゃっ!」


 「おっと!」


 レティシアが出合い頭に誰かにぶつかり、レティシアは体勢を崩しそうになりながらぶつかった相手の背に手を回し、受け止める。


 「すまない、大丈夫か?」


 接触したのはどうやらまだ幼い子供の少女のようだった。

 なお、言うまでもないことだが、レティシアのほうが背は高い。


 さて、レティシアのことや、自分が彼女にぶつかったことを認識した少女はレティシアの顔を見るなり、『ひぃっ』と顔をひきつらせた。

 

 「え?」


 そんな顔をされるようなことをレティシアはした覚えがないし、そもそも自分は彼女と初対面のはずであった。


 (初対面だよな……忘れてるわけじゃないよな……)


 若干自信がない様だ。




 「いたぞ!」


 少女が走ってきた方向から男5、6人が走ってやってくる。

 全員同じような黒っぽい服装をしており、制服か何かなのだろうか。

 見たところ普通の人間、むしろ紳士的にも格好だけなら見えなくもないが、少女が異様に男たちに怯えており、尋常ならざる状況と感じ取れる。

 あれだけ怯えていたレティシアの背に隠れるくらいには。


 「失礼……どこのどなたとは存じませんが……お嬢さんの後ろに隠れてらっしゃる子供は、私共の店から逃げ出した者でしてね……申し訳ありませんがこちらにお渡しいただけませんか?」


 あくまでも紳士的にレティシアたちに接する男たちであるが、有無を言わさず幼い少女を渡せ、という要求には警戒心を抱かずにいられない。


 「渡せ……とは言いますが一体この子とはどういう関係ですか? ずいぶん怯えているようですし、こちらとしてはハイどうぞ、とは言えない状況なのですが?」


 言外に怪しすぎるから渡せねぇよ、と言ったつもりなのだが、男たちはそれを汲み取っているのかいないのか、「ああ」と言ってからこう続けた。


 「実はですね、それ(・・)が前に手痛い失敗をしましてね、そのお仕置きをしたのですがそれで怯えられているようなのですよ」


 男はあくまでも人畜無害そうに、答えた。

 しかし、だ。


 「お断りします」


 レティシアははっきりと拒絶の意を示した。

 その反応に男たちが硬くなり、やや眉が吊り上がる。


 「応じていただけない……と?」


 「できないな。 少なくとも幼気な少女を『それ』呼ばわりする奴は信用できない。 奴隷じゃあるまいし。 単純に嫌がる子供を相手に明け渡すというのも気に入らないが…… そもそも武器を隠し持ってる時点で油断ならないしな。 目的はどっちの口封じだ? この子か私たちか?」


 単に逃げ出した子供を追いかけ、捕まえるだけであれば武装の必要はない。

 子供の足なんて高が知れているし、大人が探し出し、追いつくのはおそらく簡単だ。

 とっ捕まえるのはもっと楽だ。

 子供の腕力で大人を振り切れるはずがない。

 ではなぜ武装しているのか?


 レティシアの言う通り、少女が逃げ出していることが、もっと言えば彼女の存在自体あまり外に出したくないのかもしれない。

 なので、捕まらないようであれば本人を殺してしまうか、もしかしたら目撃者ごと消そうとしているのかもしれない。

 そんな相手に応じる交渉の余地なんてレティシアたちにはないのである。


 男たちはそのレティシアの意志を察し、譲り渡す気もないと悟ったところで態度を強硬に変える。


 「ふぅ……馬鹿な奴らだ。 中途半端に頭が回ると余計な苦労を負わされる。 そこまで頭が回るならわざわざ首を突っ込むこともないだろうに…… まぁどのみちお前らにも死んでもらうわけだが」


 「それはどうだろうなぁ?」


 レティシアがそう言って、少女の後ろに回り、その耳をふさぎ、目を瞑るように言う。


 「何……? それはいったいどういう意味だ?」


 「貴方がたはここで終わりという意味ですよ」


 男がその声を聴いたのは自分の真横であった。

 そして視界にその目立つ兎耳を捕らえるころには、男は首を掻き切られ、血を流しながら倒れこむ。

 そこからは一瞬のことだった、誰も悲鳴を上げることなく男たちの死体が出来上がった。


 ベルはずっとレティシアのそばに控えていた。

 そして、男たちの殺意を感じ取ると普通に歩いた(・・・・・・)

 例によってベルの存在も、それが近づくことを全員が認識していながらも、それに対する警戒心、こちらに近づくことへの違和感を彼らは持つことができなかった。

 結果、真正面からの暗殺という、矛盾した状況が出来上がったのである。




***




 「さて、この辺でいいか」


 いくらなんでも死体と血の海の中で話をするわけにもいかず、そこから離れたところで話を聞くことにした。

 なお、死体はそのまんまである……………………のはいろいろ宜しくないので、憲兵に匿名の通報をする形で処理を丸投げしている。

 一人くらい残しておけば……とも思ったがベルは頭に血が上っていたし、レティシアも止めなかったのだから誰も責められない。


 「とりあえず名前は? なんて呼んだらいい?」


 「…………ララ」


 「ふむ……では君はなぜ奴らから逃げていた? そもそもなぜ奴らのもとにいる?」


 「?」


 ララは首を傾げた。

 見たところ十歳、それにも満たなそうな少女に難しい言い回しや矢継ぎ早の質問は厳しい様だ。


 「あーそうだな……あの男たちのところに来たあたりから教えてくれ」


 それからララが思い出したり、レティシアとベルが彼女の言葉で表せない話を汲み取ったり、やや時間をかけながらそれでも根気よく聞き続けることでララと男たちの関係や背景がわかり始めた。

 


 

 どうやらララは田舎の農村に暮らしていたようだが口減らしで親に売られたらしい。

 だが、ララには奴隷の首輪がつけられていない。

 ララ曰く、『そんなものをつけられた記憶がない』ということから、おそらく奴隷とは異なる人身売買のされ方をしたということなのだろう。

 違法である。

 彼女の仕事は掃除や草むしり、皿洗いなどの雑用だったようだが、8歳(本人の言)にはそれも難しく、何か失敗をするたびに怒鳴り散らされたり、制裁というか暴力を受けていたようである。

 もはや奴隷がごとき扱い、というか賃金もなし、休みもほとんどなしな生活だったようだから実際奴隷と同じように思っていたのだろう。

 奴隷でもないのに奴隷と同じ扱い、いやそれ以上に劣悪な扱いをしているから良い訳が利かないレベルで違法である。

 追ってきた男たちが武装までしていたのはこれを隠したかったからかもしれない。

 で、ララが来てから二か月後、仲間たちの間で助けを外に求めようという話になったようだ。

 とはいえ彼らは屋敷に軟禁状態、抜け出すのも一苦労であった。

 そんななかで選ばれたのがララだったようだ。

 幼い少女にとんだ重責を背負わせたものだが、小柄で見つかりにくく、新参だから気づかれにくい、そんなところだろうとレティシアは推察している。

 

 とおおむね話を聞き終えたところで、レティシアはララの視線がずいぶん熱烈なものになっているのに気づいた。

 これまでの経緯から察するに……


 「おねがいします……わたしたちをたすけてください」

(ベル) 新たなライバルの予感!?


(レティシア) 気のせいだ

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