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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
夏の終わりに
116/125

ジュリとハリィの休日 3

今日は時間通り!

今日は時間通り!

  鍛冶屋ブルーノの娘を連れ去ったリヨン・ファミリーの拠点と思われる屋敷。

 見た目にはよくある町のはずれにある大き目の屋敷ではあるが、その内部ではいろんな意味でよからぬことが行われているようだ。

 そんな屋敷の正門を見張っているのは大柄で見るからにガラの悪そうな男一人。

 ハリィはその男の目の前までごく自然な足取りで近づく。

 そして


 「あん? 誰だアンタ? ここがどこかわかって…… あべしっ!」


 世紀末のチンピラのごとき断末魔を上げ男はハリィの一撃をモロに顔面に受け、卒倒した。

 

 「うわぁ……」


 そんな光景を離れたところから見ていたジュリはむしろ男のほうを同情しそうになっていた。


 (死んでなければいいが…… いや別に死んだら死んだで……? いやいやそれも良い訳がない)


 ちょっと不届きなことを考えそうになった思考を振り切り、屋敷までの距離を詰める。

 ハリィから近くのクリアリングが済んだ合図が出たからだ。


 ジュリが近づくと、ハリィは男の衣服を検めていた。

 正門のカギがないか調べていたのだ。


 「う~ん。 やっぱり持ってないっすね」


 「こんな風に倒されたら一大事だからな。 中の人間にしか開けられないんだろう」


 そう言いながら、ジュリは矢を一本矢筒から抜き、次いで縄も取り出した。

 縄を矢の先にしっかり結ぶ。

 ハリィも見たことのない結び方で、ふつうは結んでも矢、つまり棒に結んだところで結んだ輪がスルスルと動くものだ。

 それがこの結び方では微動だにしない。

 ちょっとした感動をハリィは味わった。


 その間にジュリは縄で結んだ矢を弓でつがえ、上空に放つ。

 正確には少し斜め方向に放たれた矢は門を超え反対側、すなわち屋敷の敷地内、その内の木の根付近に刺さった。

 数回縄を引いてみるが、矢が抜ける様子はない。


 「錨のように返しがついた鏃を使った。 そう簡単には抜けないはずだからこれで登って入っていけるはずだ」


 「流石っす!」


 かくして二人は、門を開けることなく敵のアジトに侵入せしめることに成功したのだった。


 したのだが……


 「あ!? なんだテメェら!?」


 敷地内に二人が入った瞬間に見つかってしまった。

 しかも門番のように無力化させるよりも先に大声を挙げられたので、二人の侵入がファミリーの全員が知ることとなってしまったのだ。


 こうして二人に対して、十数人の男(全員町のチンピラのようではあるが)による包囲網が完成してしまった。

 もっとも二人もただ囲まれていたわけでもない。


 「二、三十人かもっといるものと思っていたが……意外に戦闘要員は少ないらしい」


 「少ないならそれでよし! こいつら全滅させれば捜索が楽っす!」


 普通に考えれば各個撃破を狙うものだが、この二人に関しては一気に事を進めるつもりだった。

 その理由はいろいろのではあるが。


 「相手はたった二人なんだ! やっちまえ!!」


 と男たちが襲い掛かる。


 しかしだ、男たちは町のチンピラ、引いてはマフィアなのではある。

 確かにマフィアの中でもかなり凶悪な部類に入るようであるが、何か強力な武器や技能があるわけではない。

 魔法は使えないし、戦闘方法は殴る、蹴るなどのステゴロが主である。

 もちろん一般市民からすればそれでも厄介この上ないのだが、冒険者、ましてやこの二人の敵ではないのである。


 ハリィも盾がメンテ中のため殴るしかできないが、得意な硬化魔法で拳は破壊力が増しているし、攻撃も受け付けない。

 少なくともチンピラ相手では傷もつけられないようだ。


 万が一……があるかどうかもわからないが、ジュリが自分にも襲ってくる敵を捌きつつ、弓矢で援護していく。

 かくして、優に二十人は超えていただろう一団は物の数分で全滅した。

 先を急ぐ二人はとっとと屋敷の中へと歩を進めていく。


 「なんか拍子抜けっすね。 凶悪って聞いてたからもっと手ごわいと思ってたんすけど……」


 「あれほどの死体を積み上げて拍子抜けとは言ってくれるじゃあないか!! それならば我々が相手だ!」


 「「「とぉ!!」」」


 屋敷の玄関の真正面にあるらせん階段、その頂上に見える三つの影。

 その影は一斉に飛び出し、華麗なジャンプと転回を決める。


 「レッド・イーグル!」


 「ブルー・シャーク!」


 「イエロー・パンサー!」


 「「「我らリヨンファミリー七人衆!!」」」


 ドカーン!


 ポーズを決めた三人の後ろで爆発音とともにカラフルな煙が派手に上がった。

 その一部始終を見ていた二人は口元を抑え、驚きと困惑、そして恐怖に顔をゆがめる。

 

 「「だ……ダサい!」」


 三人の力に慄いたわけではなく、恐怖すら感じるダサさであった、ということらしい。


 「あの爆発は魔法? 戦いの前に武器を無意味に浪費したうえ、転回して体力まで無駄に……? 正気の沙汰とは思えない!」


 「っていうか七人衆って言っておきながら三人しかいないってどういうことっすか? 数も数えられないんすか?」


 「うるさい! こっちだって事情があるんだ!」


 「ほかの四人は別のやつらの相手をしている!」


 「それに貴様らなど三人で十分! いくぞ!」


 三人そろってまた性懲りもなく飛び上がり、そのまま二人へと飛びかかっていった




***




 「なかなかやるな……」


 「我らの連携攻撃を躱し反撃に出るとは……」


 「貴様らを強者と認めよう……先に進むといい……」


 


 「「…………」」


 そう言い残して、ハリィとジュリの前に三人は倒れ伏した。

 その表情は悔しくも、どこか満ち足りているように見えた。

 しかし、三人より強者と評された二人はというと、


 「「よわっ!!」」


 先ほどとはまた別の驚きを味わうこととなった。

 散々大立ち回った割にはちっとも手ごわくなかったのである。


 「ふっ……敗者に残された道は勝者の礎に」


 「いいから攫われた娘の居場所を吐け」


 何やら満足げに語る男の一人に、自分の世界に入らせないとばかりにマルタの居場所を聞き出した。




***




 「赤鷲言うところによるとこの下の牢にいるらしいんすけど……」


 「赤鷲? そんなだったか?」


 「赤鷲と青鮫と黄豹っすよ?」


 「なんか三将軍みたいだからやめとけ。 あそこまで強くない」


 能天気に話す二人は地下へと足を進めていた。

 隠してもいない、堂々とした地下階段であった。


 「酷いな……全員攫われた娘たちか……?」


 「だと思うんすけど……なんか違和感が……?」


 確かに地下牢には多くの少女たちがおり、皆一様に暗い表情をしている。

 彼女たちがその後どうなるか……推して知るべしだろう。


 「……いないな……」


 「全員助けちゃえば問題ないんじゃないっすか?」


 「それは困るな」


 後ろから二人のものではない男の声が聞こえた。

 振り向くと、鋭い眼をした男が立っていた。

 これまでの小物とは違う、大物、といった雰囲気を全身にみなぎらせている。


 そしてその隣にいるのは……


 「「マルタ!」」


 目的の少女が男のそばに立っていた。

 ばつが悪そうに二人から顔を背けて。


 「随分いい度胸しているじゃないか? わかってて連れてきたんだろうに、どういうつもりだ?」


 「少々行き違いがあったようなのでね。 実を言うと彼女は自分の意志でここに来たのですよ」


 「「何!?」」


 確かにマルタは男に捕らえられているわけでも無さそうだが、かといって逃げ出すようでもない。


 「彼の工房は我々が手を出す前から経営が苦しかったようでね。 まあ、儲けをさほど重視してなかったからなんだが。 で、彼女は自分の身を売ることで工房を助けようとしたようなのだよ。 泣かせる親子愛で……」


 「フンッ!!」


 男が言い終わるよりも先にハリィの手が出た。

 男は何度も地面を転がり、気を失った。


 「何が親子愛っすか。 自分たちが唆したくせに!」


 「全くだ。 手を差しのべたつもりか」


 ハリィに同意したジュリは顔をマルタにも向ける。


 「だが君も軽率だ。 どういう話があったのか知らないが、約束をこいつらが守るとも限らないんだ」


 と非難されたマルタは罰が悪そうに顔を背け言った。


 「しようが無いじゃないですか。 父親あんなだし…… でも……」


 「母親との約束、だからか?」


 「!?」


 『何でそれを?』そんな表情がマルタから読み取れた。


 「ブルーノから聞いた。 母親が死ぬ直前に約束したんだろ? 夫婦で一から作り上げた工房、それ守ってほしいと。 ブルーノもちゃっかり裏で聞いていたらしい」


 「わかっているなら何で!? 経営もちゃんとしている訳でもない! ずっと火の車で綱渡り! いままで工房が持ってるのが奇跡よ! 約束を果たすつもりがあるの!?」


 マルタは言うべき相手を間違えている。

 本来は本人に言うべきことであり、ジュリには聞く義理も答える義理も無い。

 が、ジュリは優しい声音でマルタに語りかける。


 「お前の言うことは正しい。 方法にこだわらなければいくらでも儲けは出せるだろうな。 それだけの腕はある。 でもそうしない。何故かと言われればそれが鍛冶屋としての矜持としか言いようはないが」


 「だからその矜持って!? 何でそこまでして?」


 「鍛冶屋って言うのはな、剣とか盾とか、戦ったり人を傷つけうるものばかり扱っているんだ。 家で使うナイフもあるが、刃物には違い無いからな。 剣を魂だとか誇りだとか言う奴もいるが、結局どれだけもっともらしい言葉を並べ立てようとも武器には変わらん。 だから彼らが作り、売るものは命を奪うものなんだ。 だから軽々しくなってはいけない。 鍛冶屋もその覚悟を一つ一つ込めるべきというのがブルーノの矜持なんだそうだ。 だから売る相手も選ぶし、量産もあまりしない。 気軽に買えるようにもしない。 経営が苦しくなったとしてもな。 そして、そんな不器用な男を君の母親は惚れ込んだ」


 「お母さんが?」


 「そして君のためでもある。 君に胸を張って向き合えるように、恥ずかしくない父親であれるように。 ブルーノは不器用だからな、もう少しじっくり話し合うべきだ。 いつまでも一緒にいれるとは限らないのだから」


 「……………」


 マルタは何も言わず、下を向き考え出した。

 自分なりに整理をつけようとしているのだろう。


 「クソが……お前ら……このままじゃ済まさねぇからな!」


 「ありゃ、思いの他早く起きちゃったっすね。 めんどくさいっす」


 どうやら男は目を覚ますと状況を認識、自分が放っておかれたのが腹に据えかねたらしい。


 「お前ら許さねぇ。 商品だなんだ知ったことか! 全員後悔」


 ゴン!


 「させてやる……」


 鈍い音とともに男の声は勢いを無くしていき、再び気絶した。

 どうやら後ろから殴られたらしい。

 そして殴った人物は


 「お嬢!?」


 「レティ!?」


 見間違えようの無い、美しい銀髪の美少女。


 「ジュリにハリィ? 何でここに?」


 彼女たちのパーティーリーダー、レティシアであった。

(ハリィ) 1たす2たす?


(ジュリ) 3バカ




来週はお休みします。

書くの遅れてすみませんでした。(1/27)

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