ジュリとハリィの休日 2
また間に合わなかったよ……ゴメンネ
「あいつら誰だ? わかりやすく町のチンピラだったが?」
ジュリがそう聞くと、ブルーノはああ、と面倒くさそうに口を開いた。
「この鍛冶屋を譲れとさ。 最初の頃は穏やかな奴が金をしこたま持ってきたんだが、断り続けたら今度は嫌がらせして追い出すようになった」
「「嫌がらせ?」」
「鍛冶屋だって材料がなきゃ、鉱石がなきゃ何も作れねぇ。 奴らギルドから卸す分を買い占めやがった。 ほかにも手を出して断られたんだろうさ。 きっとこの辺の鍛冶屋全員俺と同じ目に合ってる。 それにあんな奴らが来りゃ客足もなくなる。 俺らが商売できなくなりゃ、どのみちあいつらが総取りだ」
「なんでそんなことするんすかね?」
「考えられるのは商売の独占だ。 鍛冶屋がいなければ人間、生活は苦しくなる。 しかしブルーノ、お前よく断らなかったな。 大金が積まれたうえ、脅迫まがいのことまでさせられて」
「チンピラもそうだが初めの金を持ってきたほうもきな臭え。 こんなところに大金持ってくるなんざ、ろくな奴じゃねぇし、金だって真っ当なもんかどうか」
自分の利や将来を考えればいくらでもうまいやり方があるはずだ。
しかし、ブルーノはそうしていない。
そこにあるのは正義感、というよりも人の生活を支えているという鍛冶屋としての矜持であった。
「その辺はしっかり考えているようだが、商売はどうするんだ?」
「そうっすよ! っていうかウチの盾は!?」
「鋼鎧石はまだあるから問題ない。 あとは……冒険者に依頼するしかないな。 金はかかるが」
鍛冶屋が素材を入手する方法は三つある。
冒険者ギルドから買う場合、商店から買う場合と、そして直接冒険者に入手してもらう方法がある。
ブルーノの言う通り、ギルドから買い付けたほうが安いのだが、これには理由がある。
ギルドが常時、採集任務として出している依頼だからである。
鉱石などもそうだが、薬草や食料となる肉は無くなって困ることはあっても、要らなくなることは絶対にない。
だから期限を設けずいつでも持ってきてね、という訳だ。
その手の仕事は戦闘を伴わないから、新人の冒険者が行う仕事、として認知されている。
新人であるし、簡単な仕事であるから報酬も低め、そのため卸値も安い。
というか、ギルドも世のため人のために冒険者を抱え、仕事を振っているわけであるから卸すときにそれらの素材たちにもそこまで高い値を付けることはしない。
商店から買い付ける場合は、結局のところ冒険者が入手することには変わらないのだが、商人も商売であるから値は張る。
入手してくる冒険者も新人とは限らないからなおさらだ。
新人では入手困難なレアものが欲しいならともかく、すぐにでも手に入るようなものの仕入れ先としてはあまりいい手段ではない。
最後に直接冒険者に依頼する場合。
商人という仲介業者がいない分、値は張らない。
が、わざわざ一人のためにさして難しくもない依頼を受けてくれるかどうか。
『そんな依頼新人に言えや』と言われるのが関の山だ。
「こちらもさすがに素材採集はな……それ以前にあのチンピラどもを何とかしないと長くできないぞ?」
ブルーノの鍛冶屋はそこまで儲かっているわけではない。
というか、鍛冶屋自体、実はそこまで儲かるような職業ではないのだ。
なので、現状はよくても早晩、鍛冶屋としての職を維持できなくなるのは目に見えているのだ。
「そん時はそん時さ。 さ、鏃はそこにある盾は……そうだな二日もらおうか」
と、ブルーノが言うので、二人は鍛冶屋を後にすることにした。
***
「でも、いいんすかね? あのままじゃ鍛冶屋つぶれちゃうっすよ?」
「それは困るが……だからって相手の思うがままというのも良くないし、これはブルーノの信条の問題だ。 私たちにはどうすることもできんさ」
冒険者にとって武器の性能は大切で、また使いやすさ、手への馴染み、というのも大切だ。
だから、冒険者には行きつけの鍛冶屋というものがあるのである。
それがなくなるのは少々困る事態なのだ。
「それに娘さんのことも………… あれ? ジュリ、アイツって……」
鍛冶屋を出てすぐ、建物の裏から出てくる男をハリィは見つけた。
「さっきのチンピラだな…… まだ残っていたのか?」
一方の男は二人を見つけると、焦って走り去っていった。
「なんだあいつ…………」
「…………ジュリ……ブルーノの家って鍛冶屋の近くっすよね?」
工房と自宅は別の建物だ。
とはいえ徒歩一分もかからない近所にある。
何やら嫌な予感がした二人は顔を見合わせて走っていった。
***
嫌な予感というのは当たるもので、ブルーノのもとに戻り、自宅に案内されれば玄関の戸には張り紙が一枚。
『これは報いだ。 リヨン・ファミリーを侮るなかれ』
「マルタ……!」
ブルーノは娘を絞りだすような声で呼び、地面に右手を叩き付けた。
「よく誰にも気づかれずに誘拐できたっすね?」
「薬で眠らせれば誰にも気づかれんさ。 まだ人通りの多い時間でもないしな。 さて、ブルーノどうする? 相手は強硬手段に出たんだ。 奴らは本気だぞ? 工房売ってしまうか?」
ジュリはそう聞くが、答えはおおむね予測できてる。
というか、その問いかけ自体、本気でしているものではない。
「それは駄目だ! 二人とも! 金ならいくらでも払う! ずっとお前たちの仕事はロハで引き受けてもいい! だからマルタを救い出してくれ!」
「…………これでも休暇中でな。 勝手に仕事すると仲間たちに角が立つ」
「そんな…………」
ジュリの無情な話にブルーノは絶望する。
が、
「でもま、盾一つタダでくれるなら受けてもいいんじゃないっすか?」
「そうだな、私も鏃をいくらかタダで譲ってもらおうか。 私たちは鍛冶屋の仕事の間に迷子になった娘を探しに行くだけ」
そう言って二人は顔を見合わせる。
それを見たブルーノはその意図を察し、再びうつむいた。
「心配するな、助け出すついでにリヨンなんて不相応な名前つける奴らは、我々狼が食い散らかしてやる」
「ジュリやる気っすね。 ま、ウチもだけど」
彼らの行い、主に材料の買い占めは道理としては外れたものではあったが、それ自体は一応法に触れないものであった。
しかし、脅迫からの誘拐はやりすぎ、というか犯罪行為である。
その被害に顔見知りがあったとなれば放っておくこともない。
夕飯前に帰れればいいが、などと能天気極まりないことを言いながら、二人は歩き出していった。
「あ、そういえばおっちゃんにちょっと聞きたいんすけど……」
「「あれぇ!?」」
否、まだ歩き出してはいなかった。
***
それから二時間後、夕飯前に……とか言っていたが、本当に夕飯前に戻れるか心配になってくる時間となった。
なぜかというと、二人はそもそもリヨン・ファミリーの拠点はおろか、そもそもどういった組織なのかもわかっていなかったからなのだ。
「リヨン・ファミリーは~、昔からあるギャングで~、規模は小さいんですけど裏では結構力を持ってたんです~。 手広くシノギもやってて~ あんまり表で目立つことしてなかったんですけどね~ でも最近何かの拍子に聞いたような~」
なんともおっとりとしたギルド職員のせいで時間がかかってしまったが、どうも昔からあるギャングのようだが、最近目立つ行為をし始めたようだ。
その辺の事情も話そうとはしてくれたのだが、おそらく自分たちには関係ないだろうし、時間ももったいなかったので割愛した。
とりあえず拠点と思しき場所を聞き出し、そこに向かった。
***
「さて、見るからにチンピラ、といった奴らが見張りにいるが……どうする? 裏に回ったほうが……」
と、ジュリが提案するが、彼女が言い終わるよりも先に
「なんの! 時間もないし真正面から行くっす!!」
「…………だと思った……」
ややジュリはあきれ気味だが、『まあ、そう言うよね』とも思っていた。
「じゃあ正面突破するか。 援護するから好きに……いや、なるべく目立たないように頼む」
「了解!」
その話を聞いてか聞かずか……ハリィは真正面から全速力で突っ込んでいった。
目立たない……などとは縁遠いやり方で。
(ジュリ) 彼があそこまで意固地になったのはな……君のためなんだよ。
(マルタ) 私のため……?
(ジュリ) そう。 お前たち親子はもう少し話し合うべきだな。 何時が別れになるか……わからないのだから……




