ジュリとハリィの休日 1
訳あって予約投稿に間に合いませんでした。
すみません。
冒険者とは武器が必須の職業である。
魔物の討伐や護衛任務などは戦闘がほぼ確実に行われるし、そもそもそういうことをするつもりで冒険者になったみたいなところもあるだろう。
そうなると冒険者と切っても切り離せないのが鍛冶屋の存在である。
鍛冶屋はこの世界における金属の製品のほぼすべてを作成しており、包丁などの家庭製品はもちろん冒険者が使うような剣、盾、鎧などなど。
もちろん冒険者だけではなく騎士や兵士にも卸しているから、鍛冶屋の存在が多くの人にとって重要であることがわかる。
さて、話は変わって冒険者パーティー≪銀色の狼≫。
彼女たちとて武器には剣や盾、弓などを使うからやはり鍛冶屋の存在は不可欠だ。
ということでその日、ジュリとハリィは休日を使って鍛冶屋を訪れていた。
目的としては今使ってる装備のメンテナンスと消耗品の補充である。
ジュリは弓を使うのだが、矢の先端にあたる鏃は金属でできている。
しかも鏃は使用後の回収率があまり宜しくないので、定期的に補充しなければならない。
消耗品の鏃を金属で使うなど贅沢だが、その分強力でこっそりいろいろな仕掛けもしている。
その点でも金属の鏃は都合がいい。
ハリィは基本的な戦闘スタイルは徒手空拳ではあるが、パーティー内では盾役を担うこともある。
ちなみに今使っている盾は、アイタール王国にて吸血鬼と戦った折拾ったものである。
その後持ち主も見当たらなかったのでしれっとそのまま頂戴している。
当人が装備にそこまで強いこだわりを持っていないので特に性能などは頓着していない。
自分の装備なのにそれでいいのか、とは思わなくもないが、一応今回はメンテナンスに来ているからぞんざいに扱っているわけでも無いようである。
で、二人が訪ねた行きつけの鍛冶屋。
冒険者には行きつけの鍛冶屋がいる場合も多い。
「うーん…………こりゃもうダメだな」
「えーやっぱダメっすか……」
鍛冶屋ブルーノの無常な宣告にハリィは肩を落とす。
盾をメンテナンスしてもらおうと思ったら、まさかのもうこの盾は使えないよ宣言であった。
「そもそもこれ自体そんな立派な代物じゃないんだよ。 駆け出しの冒険者が使うような安いやつだ。 お前らが相手にするようなのに使うには荷が重いんだ」
「でもまだ全然使えそうっすよ? ベッコベコだけど」
「お前は硬化魔法を使えるらしいからそれで性能を上乗せできたんだろうが、本来ならもっとひしゃげてたっておかしくない。 直せるかもしれないが、ただの引き延ばしにしかならないだろうな。 悪いことは言わんから新しいのにしとけ」
「ほーい」
ブルーノの勧めに観念して、ハリィは並んでいた物の中から盾を見繕い始めた。
「そっちは鏃の補充だけでいいのか?」
「え? ああ、構わん…………それとは別に……そうだな小刀のようなものがあればもらえないか?」
「ほう? 今まで弓矢だけでいいとか言ってたじゃねぇか」
「ちょっとした心境の変化でな…… 結局我を通すという名目で自分自身を軽んじていただけなのかもしれない」
少し前にジュリは他国からやってきた少年兵たちと戦うことがあった。
そこでジュリは人を殺す覚悟を問われる、ということがあったのだが、心境の変化とはそこではない。
戦闘の際、弓が壊れ丸腰になってしまったのだ。
魔法も使えなくはないのだが、そこまで得意ではないから矢を近接武器としてしか使う以外の道はなく、覚悟云々以前の問題となってしまったのだ。
なので、サブウェポンとして小刀を買い求めることにしたのである。
本人としても、そういう合理的な理由とは別に思うところがあったようだ。
どこかで自分自身の命を軽んじていたこと、命を奪う覚悟、それらを飲み込んだうえでの自分の選択とそれに対する責任と覚悟。
で、それが小刀を買い求める動機になったらしい。
仮に弓が使えない状況でも確実に相手を仕留められるように、とどめを刺せるように、確実に命を奪えるように。
「動機のわりにやることがみみっちいっす」
「やかましい!!」
脇からツッコんできたハリィを弓を振り回し追い掛け回す。
確かに内心は立派でも、やってることは小刀を買っただけ、別に大したことではない。
「っていうかなんだ! ~っすって!」
「訛り変だっていうから直したんじゃないっすか!」
「直ってない!!」
「おいおい! 俺の工房で暴れまわらんでくれ! お前らただでさえ薄らデカいんだから!」
「「うっ……」」
店主にたしなめられて大人しくなった二人。
ジュリ身長175cmは女性としては大きい部類だし、ハリィの198cmは人間においてなかなかいないレベルの身長である。
確かに暴れまわれれば迷惑だろう。
「で? 盾は選び終わったのか?」
ブルーノが訪ねるとハリィは首をひねった。
「考えたんすけどウチって盾も使うけど、本来は前衛のステゴロで実際盾もベッコベコになったしで、いっそ殴打できるような盾がいいんではないかと」
「70年氷漬けになってた超人戦士か」
「いや、アイデアは悪くねぇ」 「
「え!?」
本気で思ってなかったハリィと、ツッコみを入れたジュリ、しかし職人のブルーノは二人とは違うものを見ていたようだ。
「盾だからな、硬さは折り紙付きだろう。 もっともそんじょそこらのすぐ凹んで使い物にならなくなるだろうがな。 本気でやろうと思うなら材料も手間も時間もかかるが」
「乗った!!」
「早いな!」
「何を言うっすかジュリ! 欲しいと思った時が買い時、装備に金の糸目はつけないっす!!」
「破産するぞ」
装備だって性能を求めれば無制限にコストがかかるのだ。
しかも今回は特に金がかかるっぽい。
「って言ってもいまは鋼鎧石しか無いからな、それでも良ければ、だが」
「何かあったんすか?」
「いやじつはな……」
と、ブルーノが歯切れが悪いながらも何か言おうとしたとき、
バタン!
奥のほうで戸が閉まる音がした。
「なんすか?」
「娘のマルタだ。 学校から帰ったんだろう。、悪いな反抗期の真っ最中で愛想が悪くて」
「気にしないさ。 反抗期なんて誰にでもある」
そう言うジュリの言葉は優しい。
彼女の実の息子は反抗期を迎えることなく、死んでしまった。
自分の息子生きていれば……
街で子供を見かける度にそう思うのも一度や二度じゃない。
「しかし、知らなかったな。 娘はおろか結婚していたことも知らなかった」
ブルーノは彼女達がいつも装備を見てもらっている鍛冶屋だ。
何度も通っている。
が、ブルーノの口から家族の話を聞いたことが無かった。
「死んだんだ。 三年前に病気で。 その頃だな、マルタとの関係が拗れたのも。 あのときはお互いにいろいろ葛藤があったからな」
「大丈夫っすよ! 家族の関係が変わる訳で無し、きっと娘さんもわかってくれるっす!」
「だといいんだがな」
と、ブルーノが深くため息をつくと、今度は正面から誰かがやってきた。
顔つきも悪く、服も派手、わかりやすいチンピラであった。
「よぉオッサン! ここ明け渡す気になったか?」
「何度来たって答えは変わらん」
チンピラのリーダーらしき男にも臆しないブルーノ。
すると、男たちはハリィたちに矛先を向ける。
「嬢ちゃんたちよぉ。 こんなところじゃなくて、最も良い鍛冶屋使えや。 何なら俺達が……いでででで!?」
男が話ながらハリィの肩に手を置いた瞬間、ハリィはその腕を掴み、捻り、男を一瞬で無力化される。
「なんか知らないっすけど、どこの鍛冶屋使うかは自分らで決めるっす」
それにジュリも続く。
「女なら脅しつければ言うことを聞くと思ったか? これでも冒険者だ。 怪我する前に失せろ」
ジュリに睨まれ、他の男たちも萎縮する。
「クソが! 覚えてやがれよ!」
そう言って、ハリィの腕を振りほどき、男は立ち去り、全員がそれに続く。
「塩撒いてやるっす!」
と意気揚々に叫ぶハリィ、その一方で
(なんだ? 自分達から来た割にあっさり帰ったぞ?)
どこか違和感を感じるジュリであった。
(ハリィ) オッサン! 塩!
(ブルーノ) あるわけないだろ。 ここにあるのは金属の粉くらいか……
(ハリィ) じゃあそれで!
(ジュリ) 何の儀式だ?




