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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
夏の終わりに
112/125

シャルとクロエの休日 1

風邪をひいたことで二週も休んで申し訳ありませんでした……

 「ったく、珍しく付き合えっていうから何の用かと思えば昼間から酒かよ」


 と、不服を漏らしつつグラスを一気に空にするシャル。


 「いいじゃなぁい? たまにはこういうのもぉ。 ジュリを誘ってもこなかったんだものぉ……」


 そう言ってカクテルグラスの中にあるカラフルな酒を少しずつ味わうクロエ。


 二人が来ているのは王都のとあるバーである。

 シャルの言う通り、現在まっ昼間なのだが、酒場にはそれなりの人間がいた。

 その多くは冒険者だ。

 冒険者も大体昼型の行動をする者が多いのだが、それでもやはり夜明けまでかかってしまう仕事はある。

 で、ギルドに帰参し、いろいろ手続きしている間に陽は高くなり、打ち上げが昼に……そんなところだ。

 じゃあ、帰って寝ろや、とも思われるが冒険者という職業はどうしてか騒がなくては生きていけないものらしい。

 冒険者というのはいつ死んでもおかしくないから、今日という日を生き残れた奇跡に乾杯するため、背中を預ける仲間たちと絆を深め人間関係を円滑にするため、一応理由は様々言われているが、シャルはそれらは方便でたぶん飲みたいだけだろうと考えている。


 ちなみにバーには冒険者以外にも人間はいる。

 彼らが昼間からなぜ酒を飲んでいるのか……


 きっと仕事がないからだろう。

 ずっとか、今日偶々かは知らないが……


 かくいうシャルとクロエも休日とはいえ昼間から酒を飲んでいるのだから人のことは言えないのだが。

 

 ちなみにシャルは酒が割と強いほうである。

 結構な量を飲めるのだがあまり酔わない。

 他の人間が酒の入った器片手にバカ騒ぎするテンションに入ってくことができない。

 なので酒は苦手ではないが、飲み会は好きではない。

 もっとも≪銀色の狼≫には未成年もいるし、飲兵衛もいない。

 それに、レティシアが酒を飲まないということもあってあまりそういったことが催されることはない。

 その点でいうと、シャルにとってバーで優雅に一杯、というのはそれほど悪くはない。

 酔えはしないが大人な雰囲気でなんとも静かだ。


 入店した際子供と思われてちょっと揉めたのだが、そんなことは一々ほじくり返さないのが大人というものだ。

 どこぞのリーダーじゃあるまいし。

 そう思っていたのに。




 「かーっ!! くそ負けた負けた!!」


 「へへっ、これで掛け金総取りだ。 悪く思うなよな!」


 そんな大人な空気を壊す声が響いた。

 カウンターに座る二人の後ろで男どもが何事か賭け事をしていたようだ。


 「うるさいなぁ…… 何の騒ぎだよ?」


 シャルが眉を顰める。


 「あらぁ? あれってウォーゲームじゃなぁい?」


 「うぉーげーむ? あれか? 戦争を模したボードゲーム」


 「そうねぇ。 だいたい賭けはカードと相場が決まってるけどぉ?」


 「知性あふれる大人の遊び、なんじゃないの?」


 そもそも、賭けをして、勝った負けたで知性も大人もあったもんではないが。


 ウォーゲームとはシャルが言った通り、戦争を基にしたボードゲームである。

 将棋やチェスのように、駒ごとに役割が振られそれぞれが動きに特徴をもつ。

 駒を奪いながら最終的に将軍(ジェネラル)を取ったほうの勝ちだ。


 シャルもかつてこれをやったことがあるのだが、駒が18種類、それらの局面による変化なども合わせると42種類にもなるということを知り、その動きを覚えるので精いっぱいという有様であった。

 ルールはなんとか頭に入ったが、ゲームの戦い方まで習得できず、一勝もできずに挫折している。


 「以前はカードによる賭けが流行ってたんですがね。 トラブルも多いし何よりやかましい。 賭けをすべて禁止にしてもいいんですがね、それも気の毒だったんでまぁ……妥協点ってやつです。 これなら静かですから」


 そうマスターが語った。


 「そこの嬢ちゃんたちよぉ…… 高嶺の花気取ってねぇでこっちに来たらどうよ? 今なら俺が手取り足取り教えてやるぜ?」


 「ハハハッ!! 一勝もできないからって嬢ちゃんたちから巻き上げようなんて甘えよ! 嬢ちゃんたちだってお前よりちっとはマシにできるさ!」


 そんな時に後ろから聞こえる男たちの絡んでくる声。


 「これなら…… なんだって?」


 「そういう日もあります」


 シャルの視線からマスターはさっと顔を逸らす。

 一方のクロエはというと、何を思ったか席を立ち男たちのほうへと向かった。


 「そこまで言うならぁ……教えてもらっちゃおうかしらぁ? 初めてだからぁ……優しく……ね?」


 なんとも蠱惑的な微笑で男たちをあっという間に魅了したクロエ。

 そんな彼女をシャルは冷たい目で見ていた。


 (嘘である! この女初めてどころかパーティーのメンバー相手にボロ勝ちしまくって誰も相手してくれないのである! ……なんてな。 カモる気満々じゃん)


 その十数分後シャルの予想通り、シャルは男から手ほどきを受けるどころか圧勝してさらに男の財布を寒いものにした。




***




 一時間後、クロエの周りには金、銀、銅の硬貨がしこたま積まれており、さらにはまだ秋口であるというのになんとも寒そうな表情の男たちがクロエと対していた。

 もっとも、男たちにクロエとやりあう気力などあるまいが、


 「クッソォオオオ! こんだけいても誰もこいつに課長ないなんて!」


 「粋がってた俺達全員笑い者じゃねぇか!」


 「くどいようだけど静かかここ?」


 騒ぎ立てる男たちをみてシャルがふたたびマスターに訪ねるが回答は同じだ。


「こういう日もあります」


 (しっかし予想できたとはいえここまで圧勝するなんてな…… いや、冒険者にしちゃあの男どももよくやったほうか)

 

 冒険者というのは頭が切れなければやっていけない。

 いや、やっていけないことはないのだが、常に命の危険と隣り合わせであるから考えなしに行動する奴は上に行けないし早死にする。

 もちろん学がある、というのとはまた別であるが。


 そもそも、粗暴で学が無さそうではあるがウォーゲームの難解なルールを理解している時点で頭が悪いとは言えないのである。


 「っていうかそこのお前! ちっさいの! なにカウンターで一人高みの見物決めてんじゃねぇぞ!」


 「絡むなよ、っていうかお前ら文無しじゃん。 大丈夫なの?」


 「「「うっ……」」」


 まさか全財産スッたということはあるまいが、さすがにこれ以上の金を賭けて負けてしまえば生活にも支障が出るレベルである。

 冒険者はその辺の線引きはしっかりしているものである。

 だからどれだけ悔しく、腸が煮えくり返る思いをしようとも結局は退くしかないのだ。


 「あら残念ねぇ。 もう一戦くらいやりたい気分だったのに誰もいないのねぇ?」


 「おい、あんまり煽ってやるなよ。 もういいだろ、いこうぜ」


 「ちょっと待て」


 二人を男が呼び止めた。

 男はこの喧騒から一歩引いてゲームに興じることなく壁際で一人酒を楽しんでいた。


 なので興味がないのだろうとクロエは思っていたのだが……


 「なんだよお前、さっき俺らが話しかけたときは無視してたじゃねぇか」


 と、冒険者の男が再び絡むが壁際の男、略して壁男はそれも無視してテーブルについた。


 「ルールはハンデなし、1ターンは3分他のルールは全部適用でどうだ?」


 「いいわよぉ。 やってあげようじゃなぁい? アンタ名前は?」


 「エドワ……エドでいい」


 壁男ことエドわ慣れた手つきで駒を配置する。

 そしてクロエもそれに倣って配置し始める。


 「先手はそちらで構わない。 始めよう」


 「へぇ…………」


 エドの先手を譲る、という発言に少なからず表情が変わる。


 というのもターン制のゲームにおいては先手を取る、というのはそのゲームを有利に運ぶことができるからだ。

 その先手を譲った、ということは「ハンデをくれてやる」と言ってるようなものなのである。


 それがエドなる人物の強者ゆえの余裕なのか、盤外戦術的な煽りなのか、何の考えもないのか……


 それはすぐにわかるところである。

(シャル) いや、私もその気になればたぶん覚えられるし。 あのチンピラみたいな冒険者どもよりもルールを覚えられない阿呆なわけじゃないからな!?

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