トリナと咲良とククルの休日 4
計画性が無いせいで最終的に5000字を越す結果に。
てえへんだぁ~
12/7 少し追加しました。 後々のために。
「ね、ねぇサクラ? コイツ……止まったの?」
トリナがそう言いたくなるのも無理はない。
今の今まで殺し合いをしていた相手が急に大人しくなり、それどころか目の前で跪いたのだ。
驚くべきことだが、だからって、無力化できたとは信じがたいものである。
「止まったよ? セキュリティが解除されたからね。 よそ者がいくら入って来ようとももう攻撃はしてこないはず」
「よくパスワードわかったね。 その紙に書いてたの?」
ククルが言う紙とは咲良が二階から落ちた先で拾った研究ノートのことである。
「そうだよ。 これ自体は研究ノートの一部なんだけど、表紙の裏にパスワードが書いてあった。 きっと忘れないようにするためだね」
「研究ノート!! 大変に魅力的な響きであるけど一体何の研究なのかな!?」
「ちょちょ……近い……」
同じ研究者として惹かれるものがあったのだろうか、ククルは今までにない圧で咲良に迫る。
「物自体はそんなに珍しいものじゃないと思うよ。 それに研究成果は二人も嫌というほど見てるはずだしね」
「「もう見てる?」」
ここで見たものでそれらしいものと言えば一つしかない。
すなわち未だ目の前で跪いている少女。
「これ?」
「まぁ、半分はそうだね…… というか題材、という点に限って言えばここ以外にも見たこと自体はあるんじゃないかな?」
「回りくどい! さっさと話しなさい!!」
トリナは考えることを放棄したようだ。
「ゴーレム」
「ごーれ?」
ゴーレムというのは、岩石でできた人形のことである。
岩石と一口に言っても多種多様、その辺の花崗岩でできたものもあれば、鉄などの金属、果てにはミスリルやオリハルコンといった希少金属でできたものまである。
そしてそれらが魔石を核として自律行動する。
主に岩石地帯に現れ、人を襲うこともあり、冒険者に討伐依頼が出されることもある。
人を襲う理由は不明だが、およそ感情というものは無いようである。
一般には人の背丈を越す、大柄で怪力を誇り脅威なのだが、その一方その怪力ゆえに土木作業などに使われることもあり、人工的に身体を作り上げ、それに魔石を投入することで、人工的にゴーレムを生み出し、所有する者もいる。
ちなみに魔石は人工的に作れないのでそれは野生のゴーレムから頂戴するか、自然界にあるものを使うしかない。
「そっか、鎧を着ていたんじゃなくて肉体そのものが金属なんだ。 けれどこのゴーレム喋ったしずいぶん人間染みた動きをするようだけど、もしかしてその研究?」
ゴーレムを作るには魔法を用い、言うことを聞かせるのにもそれは同様なのだが、あまり複雑なことは命令できない。
土木作業でも繊細さを要求される仕事をさせることはない。
さらに言うと、ゴーレムはその見た目からしていかにも人形然としていて、喋ることもない。
そんな器官が無いからだ。
「正解。 正確に言うとこれはその研究の一つ。 広くゴーレムの研究をしてたんだと思う。 この子はさしずめ『人に極限まで近いゴーレム』ってところかな」
「信じられない…… 発声も驚きだけどあまりにも動きが滑らかすぎる…… そうか球体関節を使ってるんだ……でもこれだと制御がかなり複雑になってしまうはず……一体どんな魔法を使えば……」
ククルは目の前のゴーレムに興味津々のようだ。
一方、
「物騒な警備兵ね。 でもどこから出てきたの? 一通り回ったけどこんなのいなかったじゃない」
「そういえばそうだね。 ……聞いてみよっか」
咲良がゴーレムの目の前に立ち話しかける。
「あなたは普段どこにいるの? 案内してくれない?」
「カシコマリマシタ」
ゴーレムはそう応え、立ち上がり、一階へと降りていく。
「あれってついて来いってことよね……」
「「トリナ、前は任せた」」
危険は少ない。
少ないが、信用しきれないのも確かなので……
トリナ頼んだ、ということである。
さて、一階へと降りたゴーレムは迷うことない足取りで浴場へ向かっていった。
そして、壁に触れたかと思うとタイルの一枚が外れ、スイッチが現れた。
すると、浴槽の底が真ん中から左右に分かれ、階段が出現した。
「なにこれ……?」
「サン〇ーバード? あれは違うか……」
「地下に施設……床が動いて……何が何だか?」
単純に驚いているトリナ、一体どこの記憶が呼び起こされたのか?な咲良、珍しくも脳の容量が限界になったククル。
三者三様に反応を示す中、地下へと歩を進めていった。
***
屋敷の中がほぼ空だったことから予想はできていたが、地下室もほとんどもぬけの殻であった。
そう、ほとんどである。
完全ではない。
「すごい……これはゴーレムの腕……本当に人形の球体関節みたいだ…… この魔方陣は何だろう? 見たこともない」
ククルは静かではあるが内心大興奮のようで独り言が止まらない。
「なるほど、ずっと地下にいたから私たちも気付かなかったわけね。 表のはただの寝泊まりする場所だったってわけね」
「カモフラージュも兼ねてたのかもよ? すくなくとも屋敷の中を探るだけじゃ、裏側には気付きようもない」
と、トリナと咲良が話していると、ゴーレム少女が一冊のノートを持ってきた。
「「これは?」」
「博士より託されました。 次にここに来た方にお渡しするように」
「ナイス! 研究ノートは宝の山!」
トリナがブン捕って読み始めてしまった。
「「……なんかめっちゃ流暢な話し方になってない?」」
今までのゴーレム少女の話し方は抑揚のない感情を一切感じられないものだった。
それがどうだろう、いまは機械的な声色はするものの、かなり人間に近い流暢な話し方をしているではないか。
「禁則事項でしたので。 地上ではあくまでもゴーレムとしてふるまうように、と博士から仰せつかっていましたので」
「ゴーレムとしてってじゃあ、あなたは今何なのよ?」
「人間だよ」
トリナの疑問に答えたのは咲良だった。
「人間って……」
「もちろん本当は違うよ。 でも、考えてごらん? 流暢な話し方、滑らかな動きをする手足。 ついでに言うとかなりの思考力もありそうだよね…… それらが極められれば行きつく先は……」
「人間というのは早急だと思うな。 結局ボディはゴーレムのままなんだし……ただね、それを本気でやろうとした人間はいるんだよ。 これによるとね」
これ、とはゴーレム少女が出したノートのことである。
「中身を要約して話すと、これはある研究者の研究ノートだよ。 研究内容はさっき言った通り、ゴーレムを人間に近づける研究。 ただ上手くはいかなかったみたいだね。 最後には変な方向に話が進んでる」
「何? 研究のしすぎで頭がおかしくなったとか?」
「…………………」
「え? ほんとに?」
トリナの言ったことは冗談だったのだが、どうやらそうとも言い切れないらしい。
「周りの研究者から変な目で見られるようになったみたい。 だんだん不気味なものを見るような目になったって書いてある」
「何でよ? どんどん人間っぽくなるならむしろ逆なんじゃないの?」
「不気味の谷……」
咲良がそう呟いた。
「人形や絵画なんかがどんどんリアルになって人間っぽく見えるにつれて、嫌悪感を感じるようになる、って聞いたことがある……」
「そうなの……? 私は特に感じないけど……」
「私も……」
「谷って言われる由縁はね、人間に近づけば不気味さを感じていくけれど、人間に近づくとまた好意的になっていくところなんだよ。 印象が落ちてからまた上がっていくの」
「ノートにはそのあたりのことは書いてない…… でも研究自体は続いてる。 他者からの評価がなくなってる」
「ドクターはそのころ、研究室内でも孤立されていました」
「うわ喋った!?」
なぜか驚くトリナだが、いままでずっと喋っている。
「研究室で何があったのか教えてくれる?」
「畏まりました、サクラ様。 研究者の方々は先ほどの不気味さを、自らの手で人間を生み出そうとすることへの本能的な嫌悪感からくるものと考えたようです。 ですので、ドクターの研究を止めさせようとするもの、研究所を去るもの…… 結果ドクターだけがここに残りました。 そのころ研究所の設立にかかわった王国が侵略により滅亡。 秘密裡に作られたこの研究所もまた数人の記憶に残るだけとなり、歴史の表舞台に出ることはなくなりました」
「でもドクターは研究をつづけた?」
「はい。 最後の瞬間まで」
そう言うと、ゴーレム少女は歩き出し、壁を横にスライドさせた。
そこにあった物、正確に言えば、そこにいた人に三人は息を呑んだ。
「これがドクター……?」
誰かが言った。
先ほどまで話題に上っていたドクターはそこにいたのだ。
一体どれほどの年月か。
目の前のゴーレム少女にしかその存在を知られないまま、永遠に眠り続けていたのだ。
皮と肉を失ってもなお。
最後の最後まで研究に腐心しながら。
「どうしてここまで…… 研究者ってこんなに執念深いの!?」
トリナがククルに問う。
「否定はしないけれど…… でもよほど執心する理由があるはずだよ」
「娘さんを助けるため……かな?」
口をはさんだのは咲良だった。
その手には遺体のそばにあったまたしてもノート。
「っていうか日記かな。 詳しくは書いてないけど研究の結実が娘さんを救うことになったみたい」
「よくわからないけど……その娘さんはどうなったの?」
「さあ? その先は書いてないね。 でも、国が滅ぶとかそういうレベルの過去の話だし、どのみち……」
「ま、それはそうね。 さて、これどう報告しようかしら?」
そもそも三人はこの屋敷の調査に来たのである。
であるから、ギルドには何かしら報告はしなければならない、しかしだ。
「このまま報告するのは……ねぇ?」
咲良がこういったのには理由がある。
単純にこの世界の技術水準を上回る可能性があるからだ。
トリナが知らないということは下手をすれば歴史に消えたロストテクノロジーなのかもしれない。
それが表に出た日には……
碌な結果にならない。
どれだけのコストがかかったか不明だが、国が本腰で真似ようとすれば不死の軍団が生まれうる。
それはさらなる戦厄を招くだろう。
その先にあるのは滅びだけだ。
「道中で魔物を狩って住み着いていたことにする?」
「フリーになったと知れればここにも人が大勢やってくる。 理想は人がここに来ず、かつ安全とわかってもらえること……」
「「そりゃ無理だ」」
トリナとククルがハモる。
安全と知れれば人は気軽に近づくことだろう。
危険だから人が寄りつかないのだ。
「何も無かった、けれど建物内部が老朽化してるので近づくには危険! ってのはどう?」
「苦しい……けれど一番いい落としどころね。 ククルの案でいきましょう」
トリナがそう纏めて話は決まった。
幸い、咲良が床をぶち抜いた跡があるので、老朽化を裏付けることはできる。
「ということでゴーレムちゃん。 私の床が抜けた跡残して置けないかな? っていうか名前何?」
「トゥエルブ=シルバーです。 先程のお話、承知しました」
そう言ってトゥエルブはうやうやしく頭を下げた。
***
また機械的になったトゥエルブに玄関先まで見送られ、三人は研究所を去っていった。
「あーあ、結局幽霊はいなかったか」
と、残念そうなククル。
「そう? ドクターとかって奴の執念ったらすごそうよ? あのゴーレムだってその怨念が化けて出てきたってほうがありそうじゃない?」
「そういう非科学的な話は好きじゃないな。 第一それなら依頼失敗じゃん」
「どのみち誰か来ても出て来ないようにトゥエルブちゃんには言っておいたし、あの屋敷にも近づかないように言えば鉢合わせはない。 ちょっとぼろく見えるように頼んでおいたしね」
「サクラ、アンタいつの間にかあのゴーレムに話したのよ? わざわざ小細工するまでさせて」
トリナはちょっと呆れ気味だ。
「帰り際にちょっとね。 ちなみに小細工するのはトゥエルブちゃんじゃなくてあの家のほう。 あの家もゴーレムなんだよ」
「「マジで!?」」
「うん、トゥエルブちゃんにも確認したし。 だからこうやって外壁の一部ももらえたし。 その気になれば自分で修復できるんだろうね」
「私はドクターが何を目指そうとしているのかわからないよ…………」
そう言うククルは苦笑いを浮かべた。
家がゴーレムだなんて人間がどうこう言う話からかけ離れているからである。
「もういいじゃない。 終わった仕事をいつまでも振り返るもんじゃないわよ。 さっさとギルドに行って、夕飯にしましょ。 どこかで外食ね」
そう言ってトリナは歩き出した。
星と月が三人を照らしていた。
***
咲良たちが屋敷を出る少し前、廊下にて―――
「トゥエルブちゃん、ちょっと聞きたいんだけどさ」
「ナンデショウカ?」
「あ、地下から出ればロボモードか。 まあいいや、それでさ。 ドクターの娘さんってどうなったか知らない?」
「ソノ質問ハ禁則事項トナッテオリマス。 回答デキマセン」
「そう…… 知らないんじゃなくて回答できない……ね。 おかしいと思ったんだ、ずいぶん人間染みた動きをするから。 思考回路も作られたものって感じしなかったし。 こんなの私の世界のロボットでも無理。 でもスタートが違ったんだ。 てっきりロボットだと思ってたけど正しく言うならサイボーグ。 身体はゴーレムのそれでも頭のほうは娘さんの……」
「サクラ様。 それ以上は禁則事項となっております。 何人も口に出すことすら許されません」
そう答えたゴーレムに表情は真剣そのもの……というか不気味なほど無であった。
「……流暢な話し方に戻ったってことは、言わせないことが何よりも優先すべき事項か…… 了解、言わないよ」
「ゴ理解頂キ感謝イタシマス」
そう言って頭を下げたゴーレム。
再び挙げた顔には人間のような極上の笑顔が張り付いていた。
(誤魔化す気あんのかな?)
と咲良は疑問に思ったが口にはしなかった。
※来週はお休みします。
代わりの次回予告
(シャル)戦争をもしたボードゲームねぇ………
(???) 次は俺の番だお嬢さん。
(クロエ) 望むところよ……
(シャル) クロエが押されてる?
(クロエ) フッ カッコつけてなんていられないわね。
絶対絶命のピンチ! 追い詰められたクロエは逆転の一手を打てるのか?なある日の休日、クロエ、シャル編 どうぞお楽しみに!!




