VS 吸血鬼サウード
(咲良) そう言えばトリナさんの耳とか尻尾って何の動物なんですか?
(トリナ) 強くてカッコいい狼よ!
(シャル) つまり犬であると
(トリナ) なんでそうなっちゃうのさ!
(ハリィ) 取ってこ~い
(トリナ) !!
(サリア) 走って追っかけてる…… やっぱり犬じゃないか
おそらくだが吸血鬼サウードは実力的には自分たちと比べて劣っていると4人は考えていた。
だからこそ、彼はこちらの攻撃を躱しつつ、隙を見て攻撃を加えるという、ある意味では格下が上級者に対して選ぶような戦法をとっていたのではないかと。
その予想は当たっている。
随分仰々しくさも大物のように振る舞っていたが、実際はそんなことはなく、言ってしまえば凡庸な吸血鬼である。
吸血鬼自体、高い身体能力と驚異的な回復能力で持って人間離れしているわけではあるが。
さて、筋肉の増強剤のような薬で強化されたサウードだがその姿は人間離れしていた。
この薬、小瓶に入っていたが、人間が服用するとしたら水で希釈しなければならない。
まして、一気飲みしてしまった場合に体にかかる負担と言ったら、効果の利きすぎで身体が耐えられず、即死するレベルであった。
しかし、回復力の高い吸血鬼であれば、ダメージを受けても回復が早く、その効果を十分に受けることができてしまった。
「コの拳ヲ受け止らレるか!」
「む!」
サウードの放った拳をハリィが盾で受け止める。
ガン!
と鈍い音が鳴りハリィの身体は少しだけ後退した。
ハリィの硬化魔法は盾だけではなく、自分自身にも掛かっている。
自分の身体を硬化すると同時に、地面と足を硬化魔法でつなげることで、後退を防ぐと同時に作用反作用で相手にダメージを与えられるようにしているのである。
にもかかわらず、それを腕力で強引に破りにかかっているという状況、かなりよろしくない。
魔法を物理的な力で破られると、魔法の種類によっては発動者にダメージが来る。
実際、ハリィは何かしらダメージを受け、苦しそうに息を切らしている。
しかし、サウードの意識がハリィに向いているのは好機でもあった。
「水の型 その参 渦潮!」
「ハァアアア!!」
シャルとトリナがサウードの両腕に斬りかかるが、彼の腕が切り落とされることはなかった。
「なっ……」
「くそっ!」
トリナの剣は途中までは入ったが、腕の筋肉の固さと厚みのせいか、剣がポッキリ折れてしまった。
シャルの刀は折れこそしなかったが、深く刀が入らなかったようで、傷も浅く、すぐ回復してしまった。
サウードはまず、自分の右側の視界にいたトリナを見ると、大きくなった右手で彼女の足を掴んで、そのまま放り投げた。
空中で踏ん張ることも減速もできないトリナはそのままレンガ造りの建物の壁と衝突した。
「おい! 犬!」
サラッとトリナを犬呼ばわりしたシャルだが、彼女自身周りを気にする余裕があるとは思っていなかった。
まさか刀や剣を筋肉で止められるとは思ってもみなかったのだ。
となれば、あとはサリアの攻撃が頼りになる。
「スピニング……」
「それはもう見切ったァ!」
サウードは振り返って、目の前に伸びてきたサリアの脚を掴んで握りしめる。
「ぐっ! ああああああああ!」
サリアの脚からは電流が流れているはずだったが、サウードにはそれも効かないらしい。
「どうだ…… 痛いか? もっと叫べ。 苦しむ声をもっと聴かせろ!」
サウードはさらに両手に力を入れる。
サリアの右脚がミシミシと音を立てる。
「ああああああ!」
サリアはさらに苦悶の表情を浮かべ、抵抗しようとするが脚の損傷のせいで電圧がかからなくなってしまったらしい。
結果、サリアは何の抵抗もできず、激痛に苦しめられるのだった。
「そうだ、その声をもっと私に」
「呻き声聞いて悦んでんじゃねぇ、猛獣が!」
サウードの手首、骨同士のつなぎ目の関節のあたりを刀で切り裂いた。
そもそも腕力に自身のないシャルにはサウードの筋肉を斬ることはできない。
でも、関節、それも手首であれば他と比べて骨や腱が多くを占めており、筋肉も細いので斬ることができた。
それもすぐに回復してしまうわけだが。
とりあえず、サリアを救出できただけ上出来と思うことにした。
「サリア、大丈夫か?」
「まあね、でもこの脚じゃ戦闘は無理だ」
シャルの脚からは電気がパチパチとスパークしている。
彼女の脚は人間のそれというよりは金属による機械のようになっている。
実はサリアの身体は足をはじめ生身ではない部分がある。
現代日本で言うとサイボーグに近いのだが、勿論この世界において、これはありふれた技術ではない。
そんな訳で故障したサリアの脚ではこれ以上の戦闘は困難なのは間違いない。
「だな、とりあえず下がってろ。 一人で歩けるか?」
「左足は無事だからね。 なんとか歩いていける」
「そっか、こっちはそれどころじゃないからね」
サウードの右手はというともうすでに新しい手が生えていた。
「シャルどないする? このままじゃジリ貧確定ぜよ」
「別にいいさ、ダメージが与えられるならそれでよし。
攻撃力不足の私たちの第一目標は時間稼ぎだ」
「周りにあまり被害を出さず?
それも厳しいのでは?」
「二人ならな」
そう言うとシャルは顎をしゃくった。
ハリィがその方向を見ると十数名の男たちがやってきていた。
「さあ、お嬢さんたち! あとは我々に任せておけ!」
その中の青年が勇ましい声で二人に声をかけつつ、大剣を構える。
「この町の冒険者たちぜよ?」
「じゃないか? でも質はよくなさそうだなぁ」
「ウチらよりランクが上の冒険者はここにはおらんはずやったが……」
「そもそも治安良いし、魔物もあんまり出ないしねぇ」
冒険者たちはサウードと相対すると
「さあ、吸血鬼! 我が剣の錆となれ!」
「ここがお前の墓場だ!」
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
「もう何も怖くない!」
「必ず追いつく、だから先に行け!」
「ほら、もう駄目だよ。 死亡フラグ乱立してんじゃん」
「先に行けっていったい何処にぜよ?」
二人の心配をよそに冒険者たちは意気揚々とサウードに立ち向かっていく。
弓矢と魔法による遠距離攻撃を放ちサウードに多少ダメージを与えつつ、動きを封じ、剣士などの近距離戦闘要員が距離を詰めて追撃をかける。
質はともかく、数打ちで攻撃を食らわせればサウードにダメージを与えられる。
ただし、くどいようだが吸血鬼の回復能力はすさまじい。
まして、お世辞にも高いとは言えない攻撃力ではすぐに回復してしまう。
なので、魔法や弓矢の攻撃は瞬時に回復し、剣士たちに襲い掛かる。
彼らが真正面から飛んでくるサウードを回避できるわけもなく、吹き飛ばされ半数が戦闘不能になってしまった。
「そ、そんな……」
冒険者の一人が恐怖に慄いた。
「邪魔だ、退いてろ!」
シャルが一喝とともに、サウードと冒険者たちの間に割り込み右の手首をまた斬りおとす。
「右ストレート!」
ハリィもサウードの脇腹に右ストレートを打ち込み吹き飛ばす。
サウードは民家に吹き飛び、土煙で姿が見えなくなった
「た、助かった……」
「ったく…… 相手との力量差もわからないで喧嘩売りやがって
下がってろよ。 あとはコッチで何とかするから」
「あ、ああ、わかった」
ちなみに、冒険者のほとんどがシャルとハリィより年上である。
「行くぞハリィ。 どうせまだ死んでないんだから」
「よっしゃ!」
ハリィが置いておいた盾を拾い上げて構えようとしたが……
ドンッ!
土煙の中から黒い影が飛び出し、ハリィの首を掴み、地面に叩きつける。
「かはっ……」
飛び出してきたのはサウードなのだが、その姿はさらに変化し、三メートル近くなり大きくなった筋肉と相まって、もはや人間どころかまるで魔物のようだった。
シャルがサウードに斬りかかるがそれを左腕の筋肉で受け止め右腕で払うようにして吹き飛ばした。
「水の型 その肆 滝壺!」
刀を振るい、水を打ち出して衝撃を抑え、何とか受け身を取った。
しかし、それでも無傷ではないし、起き上がることもすぐにはできない。
そうこうしている間に、目の前にサウードが現れた。
ハリィも放り投げられたようで家屋の壁にめりこんでいる。
あれだけ動きの速かったサウードがゆっくりした足取りで向かってくる。
もう勝負は決している、サウードの歩みは勝者のそれだ。
シャルも刀を握って立ち向かおうとするが、おそらく、勝負は厳しい。
死すら覚悟したシャルであったが、思わぬ横槍がはいった。
サウードの首筋に斧が刺さっている。
斧が投げられた方向を見てシャルは驚いた。
「サクラ…… お前なんで出てきた!」
(シャル) 死亡フラグ乱立って言ったけど、そのあとの私のセリフがフラグクラッシャーになるっていうね。




