トリナと咲良とククルの休日 2
(咲良) この仕事みんなに話してないから、帰ったら怒られたりしない?
(トリナ・ククル) ……怒られたら謝る。
(咲良) ですよね~
幽霊屋敷と言われるお屋敷は王都から西のはずれの森の中にあった。
建物としては二階建て、貴族の屋敷のように見るからに華美な装飾が施されてるような派手なものではなく、むしろ地味、ただの家とするなら十分だし外見はかなりきれいであるがお屋敷、と仰々しく言ってしまうと名前負け感は否めない。
つまるところ大きさこそ立派だが決して目立つような屋敷ではなかった。
トリナ、咲良、ククルの三人はその屋敷の正門前に来ていた。
門の向こう側には一本の屋敷につながるストロークが、そして両脇には一切人の手が入っていない雑草だらけの庭が広がっている。
「二人とも準備はいいわね? 私が一番前に出るから二人は後ろで援護しつつ退路も確認」
トリナは剣士だから前衛になるとして、咲良は魔法使いだから後衛、ククルは前後どちらもできるが、バランスいう点では後ろをやったほうがいい。
ククルが前衛に来た場合、前が二人になり咲良が援護するべき対象が二人となり、負担も大きくなる。
その分前衛がトリナ一人になり、攻撃が集まりやすく、また突破力にも欠けてしまうという欠点はあるが、以前洞窟でオークを退治した時とは異なり、明確に敵という存在があるわけでもないから、今のところ問題ない。
もしもの時にはククルが前衛に上がればいいのである。
なのでククルは後衛というより遊撃、という役回りと思えばいかもしれない。
改めて各々の役割を確認したところで、今度こそ幽霊屋敷への潜入が開始された。
ギギギ……という長年の錆が門を開くことを拒絶する。
長いこと手入れが為されていないことの証左であり、やはり誰の立ち入りも許していないことを暗に示しているように感じなくもない。
草が無秩序に生えその分『何か』が潜む隙を生み出しているが、門から屋敷までのストロークには何もなく、ただ不気味なままに三人は屋敷の建物へとたどり着き、その扉を開いた。
「お邪魔しまーす……」
(バカ! 中に何かいるのかもしれないのよ!? 声出してどうすんの!)
(あ、ごめん……)
今のは咲良が不用意であった。
ここで何人もの人間が消えているのは確かなのだ、屋敷に踏み込んだ途端……ということも十分あり得る。
相手に自分たちの存在を伝える行為は慎むべきだろう。
気を取り直して、トリナが屋敷の中へと歩みを進める。
中は窓という窓がカーテンでおおわれていることもあってだいぶ暗いが、思ったよりも綺麗なようだった。
とはいえ、外観が外観なだけに、内装もそれほど華美ではない……というか何もない壁と床、家具のようなものもパッと見、玄関や廊下にも見えなかった。
「とりあえず一階から見ていきましょう」
一階は食堂のようなキッチン併設の広間、それから応接間らしき広めの部屋、それから物置のような床材も使われていない部屋がいくつか。
途中、公衆のもののように便器がいくつもあったトイレや、広い風呂場などがあり、三人それぞれ違う意味で生唾を飲みつつ乗り込むということがあったが、何も出なかった。
途中で迷うといけないので、ククルが玄関広間から簡素ではあるがマッピングをしており、その甲斐あり迷子になるということもなく、スタート地点に戻ってくることができた。
「何も出なかったわね、二階も行ってみましょう」
二階こそ何かあるのかもと思ったが、そこはもっと何もなかった。
おそらく居住スペース、すなわち自室、寝室だったようでどの部屋も同じ広さで備え付けのベッドと机が置かれていた。
「何なのこの地味さは!? こんな何もないとこを調べるために冒険者連中が何人もいなくなったっていうの!?」
トリナが怒るのも無理はない。
そもそも屋敷の探索、という任務があって最初冒険者たちはここに赴いたはずなのだ。
そのあといろいろないわくがついたというのに、三人は無事だし、現在屋敷の正門前まで戻っている。
探索任務という本来の目的からしても結局報告できるようなことはなく、なにもありませんでした、と言うしかない。
「う~ん。 お屋敷の大きさからして貴族様のお屋敷だと思ったんだけど、その痕跡もないな~ せめてどの家のお屋敷か家紋の一つでもわかれば調べられるのに……」
と、ククルは腕を組み首をかしげる。
「一応戻って来れたっぽいけどどうする? 幽霊は夜に出るってのが相場だから日が沈んできてからもっかい行く?」
「幽霊も怪しくない? 咲良が魔法で灯りつけてたとはいえあれだけ暗いんだから幽霊の一体や二体出てきてもいいでしょ? でも何もなかったって報告して後からまたなんか出た、なんてことになったらパーティーのせいにされるだろうしやっぱり一日張るべきだは思う」
何もない、とギルドに報告して出入りが自由となり、そのあとで死人でも出ようものなら自分たちの調査が不十分だ、と言われるのはあきらかだ。
「そうね。 じゃあ、あと一時間もすれば日が沈むから……ねぇサクラどうかした? ずっと黙ってるけど」
咲良はここに戻ってきてからというもの手を顎に当て何事か考えていた。
しかし、どうにも結論が出なかったようで、二人にも意見を求める。
「そもそも幽霊屋敷っておかしくない?」
「やっぱサクラもそう思う? 幽霊の『ゆ』の字も」
「あ、ククルが言ってるのとは別。 屋敷に入って帰ってきたものは居ないっていう触れ込みでしょ? どうにも幽霊と繋がらないんだよね。 『人食い屋敷』とかのほうが良くない?」
「「良くない?って言われても」」
そんなの人の感じ方一つだろう。
「っていうか帰ってきた人がいないなら幽霊見た人だっていないじゃん」
「でも人のうわさなんてそんなもんだよ? 怪談とか都市伝説なんて人から人に伝わる中で変わるよ? 幽霊だってその手の話かも。 誰も住んでいない貴族様のお屋敷があって何でだか人が消えてる。 それ自体は警戒するべきものだけれど、幽霊って話は後付けかも知れない」
「う~ん、さもありなん…… 勝手に広まったならいいけど…… あ、貴族のお屋敷ってのはないと思うよ?」
「そうなの? でもこんな大きな家貴族かよほど金持ちでもなけりゃ住まないでしょ?」
「いや、自室が全部二階、おまけに全部同じ広さと構造だった。 お金持ちの家でそれはないでしょ?」
貴族の家の部屋割りというのは家によって差があるとはいっても共通しているところもある。
例えば、貴族は多くの使用人を抱えておりそのほとんどが住み込みである。
であるから使用人の部屋というのもあるのだが、それらが主人やその家族以上に立派になることはないし、同じ階もしくは上の階になる、ということは決してない。
というのも使用人が家の身内よりも上の階で寝泊まりすることはすなわち、使用人のほうが上にいる、と言っているようなものだからである。
そんな不遜は許されないので、おおむね使用人の部屋は一階に宛がわれ、中身も質素なものとなる。
これはミレッジ家でも変わらない。
「と考えると貴族の家って可能性はない。 むしろ長屋やアパートに近い印象を受ける。 ここに住んでいたのは貴族はおろかそもそもどこぞ一家だったのかも怪しいね。 怪しいといえば」
「「まだあるの?」」
ずいぶん引っかかるところがあったものだと二人はあきれ気味だ。
「この家廃墟になってる割には中も外もきれいじゃない? 調査依頼が出たの何年前?」
ククルが懐からメモを取り出す。
ここに来る前に軽くではあるが、下調べをしていた。
「ええっと依頼が出されたのが二十年くらい前、ただそれ以前から空き家として近くに住んでる人は知ってたみたいだからそれより前にはここにあったってことだね」
二十年前もすれば風雨にさらされ外壁は崩れるだろうし、中も相応に汚れていてしかるべきなのだ。
「じゃあ、何? この家を手入れしている人間でもいるっていうの?」
「…………人間だといいね」
なんとも含みのある咲良の言に二人は背筋がゾクッとした感覚を味わった。
「ば、バカバカしい! 幽霊が掃除なんてしないでしょ! どのみちここを出入りしている奴がいるのは確かだわ! 日が沈んだらまた行くわよ!」
高らかに宣言するトリナ。
「「さっきもそれ言ってた」」
二人の反応はやっぱり冷めている。
「いいの!」
(咲良) 勝手に広まったならいいけど……そうじゃないなら…… 目的も気になる、遠ざける気なのか、近づける気なのか……?




