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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
夏の終わりに
108/125

トリナと咲良とククルの休日 1

わりとシリアスで重い話が多いこの作品ですから今章では明るく気軽に、を目標にやっていきたいと思います。

 「やっと帰ってこれた……」


 「大袈裟ね。 今回は一泊だけじゃない。 精霊樹は一回行ってるし」


 冒険者ギルドにやってきたトリナと咲良、何かの返り血を浴びたらしく、全身を生々しい赤黒色で彩る二人。

 返り血を浴びることは冒険者として珍しくもないが、ちょっと異様な有様ではある。

 どうやらダンジョン≪精霊樹の虚穴≫に行っていたようだ。


 「一泊でも起こった出来事がいつぞやの時より濃いんだよ。 二足歩行する人間サイズの軍隊アリとか、地面が柔らかいなと思ったら一面にミミズが敷き詰められてたとか、最後には自分の体液を自爆してぶちまけるミノムシですよ!? 女子泣かせにもほどがあるわ! 前回とも振れ幅は何?」


 とにかく、大変だったらしい。

 会話から何かあったかは簡単に想像できそうではあるが、想像したくもない。

 女子二人が行って、正常な精神のままで帰ってこれたのは奇跡といえるかもしれない。


 「前回は下層でしょ? 今回は上層、上と下で生態系が違うのよ。 下はトカゲみたいな爬虫類メインだけど上は虫ばっかりなのよね」


 「そう言えば前回は下層だったか…… ってことは前回はレティシアさんたちが?」


 「さぞかし心休まらない数日間だったでしょうね」


 (今回も下層がよかった……)


 「とりあえず拾ったもの換金してくるわ。 ちょっと待ってて」


 「わかった」

 

 今回のダンジョン潜入の目的は咲良に力をつけさせるためのものであるから、あまり採集には重点を置いていなかった。

 とはいえ、冒険者たるもの売れればそこそこの金になりそうな物を前にして放っておく、というわけにもいかず、持っていける分は二人のリュックに詰めたのである。

 おそらく換金したところで大した値にはならない、とのトリナの談ではあるが、小遣い稼ぎには悪くなかろう。

 ちなみに、ほかのパーティーメンバーにはこのことは周知済みである。

 いくら自由行動とはいっても、二人で冒険者活動をするわけだし、それで少なからず稼ぐのだから当然である。

 パーティーが崩れる要因は人間関係特に色恋沙汰、もしくは金銭トラブルの二つが多い。

 前者はある意味、対策のしようもない面があるから仕方ないにしろ、後者に関しては前もってパーティー内に決めごととして固めておけばトラブルは回避できるのである。


 さて、換金の間少し暇になった咲良はギルドの掲示板の前に来ていた。

 基本的に冒険者に回る依頼はここに掲示される。

 ダンジョンから戻ってきたばかりで依頼を受ける気なんてないが、ここに貼り出されている依頼を見るだけでも、この世界について知ることができる気がするのだ。


 「岩トカゲ討伐……荒地なんかに出ないでダンジョンに出てほしかったなぁ……あとは翼竜(ワイバーン)退治にオークにゴブリン……なんか魔物系が多いな。 ん?」


 咲良が目にとめたのは掲示板の右隅にある紙の束だった。

 依頼は羊皮紙に書かれ、ピン止めされたうえで一枚一枚掲示される。

 しかし、咲良が見つけたものは紙が束になってピン一本で貫通するように無造作に掲示されていた。


 「なんだろ?」


 「どうしたのサクラ?」


 その紙の束を手に取ったところでトリナが戻ってきたので、聞こうとしたのだが、それよりも先にトリナは咲良の手元に視線を向け、眉をひそめた。


 「それのどれかを受ける気ならやめときなさい『赤』だから」


 「赤? たしかにどれもスタンプまみれで赤く見えるけど……」


 「依頼ってのはね、受付で受けるって話を通すと一回その日のスタンプが押されるの。 受注済みだから間違って掲示されたり依頼を受ける人間が被らないようにね。 でももし失敗したと判断されたらスタンプ付きのものがそのまま掲示されるってわけ」


 「……っていうことはどれもこれもスタンプがしこたま押されてるこの依頼の束は……」


 「何度も何人も失敗してしまいには受ける冒険者もいなくなった依頼の数々。 ある意味冒険者にとっては恥なんだけど、わざわざ名誉のために失敗する可能性の高い依頼を受けようっていう殊勝な冒険者はいないわ。 命が最優先なんだから。 緊急性が高いものは遠くの冒険者に依頼を出すからそこにあるのは放っといても誰も困らないものばかりで、ギルドとしても無理に行かせようとはしないのよ」


 「なるほどね…… グリフォンの巣の駆除……ハチの巣じゃないんだから。 マギナ山の地龍討伐……そういえば龍退治は冒険者の誉れなんだっけ? それから黄金花の採集……これはよく知らないや。 あとは幽霊屋敷の調査……幽霊屋敷?」


 「あ、それ聞いたことあるわ。 町はずれにあるお屋敷なんだけど一度入ったら最後戻ってきた人はいないっていう」


 「調査に行ったはいいけど、戻ってこないから何があるのかわからないままか…… 敵の正体がわからない分おっかないね。 でもそうか……幽霊か……」


 そう咲良がつぶやくと、トリナが悪い笑みを浮かべる。


 「なにアンタ幽霊怖いんだ? そういうの信じちゃうクチ?」


 「む……別に怖いわけじゃないよ。 ただ、信じてるかどうかと聞かれたら…… いるものの証明は楽だけどいないものを『いない!』っていうのは難しいんだからね」


 「その通り!! ただ自分が目にしていないだけのものをいないと断じるなど愚の骨頂!!」


 「あ、ククル」


 咲良達の後ろに現れたククル。


 「アンタもギルドに用事?」


 「ポーション売ってたの。 小遣い稼ぎだね」


 ポーションとは、飲んだり、塗ったりすることで怪我や病気を治すことができる薬品のことである。

 薬品と魔力、そして知識さえあれば誰にでも作ることができるが、治療効果は作成者と材料に大きく左右される。

 ククルが作ったものは主に怪我に効用があるもので冒険者がよく使うものである。

 効果は並だが、その分売値も低く、怪我が多い冒険者に重宝される。

 最も、ギルドが購入する額も低いから小遣い稼ぎである。


 「そんなことよりも、だ。 君らが言ってた幽霊屋敷のことなんだけど」


 「気になるの? ククルみたいなタイプって、こういうの興味無いと思ってた」


 ククルは研究者、いわゆる理系女子なので、幽霊に食指が動かない、というか信じないものと咲良は思っていたのだ。


 「それは偏見だね。 この世界に私が見たことの無いものがどれだけあると思う? 世界のすべてを知らないのに無い、と断言してしまうのは大きな損。 むしろ積極的に関わっていくよ、それどこの話?」


 「ちょっと待ちなさいよ! わかってるの? それ何人も失敗してるのよ!? しかも生きて帰って来た奴もいない、龍の巣穴に鼻歌歌いながら入るなんて馬鹿でしょ!?」


 どうやら依頼を受けるつもりっぽいククル、そんな彼女をトリナが止める。


 「怖いの?」


 「……は?」


 「へぇ……めずらしいな。 怖いのは幽霊? それとも人が帰って来ないところ?」


 (挑発してるなぁ……)


 咲良がジト目でククルを見やる。

 なんともテンプレな文言を詰め込んだわかりやすい挑発か。


 (こんな挑発にひっかかる人なんて……)


 「怖い訳が無いじゃない! いいわ! 私もその幽霊屋敷とやらに行ってやろうじゃないの!」


 (ですよね〜)


 正直咲良はこうなるとわかっていた。

 そして、自分もなんやかんや巻き込まれることも。


 (ってか私まだ休みめないの? 今日お休みでしょ? 早く帰って来れるといいけど……)


 咲良もとっとと済ませて休暇といきたいようだが、彼女も、ククルもトリナもどうも抜けているようだ。

 この幽霊屋敷の調査が何度も失敗していることを。

 つまりここに潜入して生死に関わらず、戻って来た者がいないことを。


 それがどれほど恐ろしいことであるのか三人はまだ知らない。

(咲良) 明るく?


(トリナ) 気軽に?


なりますから!

怪談チックだけどなりますから!

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