夏の終わりに 序章
最近とみに寒くなってきましたが、作中はようやく残暑がおとなしくなってきたかな……ってくらいです。
ある朝、夏の終わりも近づき、涼しくなってきたなぁ、なんて声が聞こえてきそうな陽気の中、レティシアは珍しく普段よりも遅い時間に目を覚ました。
レティシアは幼いころよりあまり眠るほうではない。
勉強や魔法の訓練、この世界に関する研究、とにかく忙しくて寝る間も惜しんでいたのだ。
死んだと思ったら生まれ変わって、しかも日本ではない、もっと言えば地球でもない(と思われる)言葉も理解できない世界に放り出されたのだ、気になっていろいろ調べたくなるのも道理である。
ちなみに、この話をすると漏れなく「だから成長しなくて小さいままなんだよ」というお言葉も頂戴するので、最近は話さないようにしている。
とにかく、レティシアが昼近い時間まで寝ているというのは少々珍しいことではあった。
「まあ、今日はオフだし……別にいいか……」
そう、今日はオフ、各自自由行動である。
正確に言えば昨日から、であるが。
冒険者という職業は兎角忙しい。
魔物討伐を受ければ数日は帰ってこれないし、近場だといってもまず一日仕事になる。
遠征などしようものなら何か月、という話になるし道中、道が整備されているといっても魔物や盗賊は出るから、ローテを組んでいるといってもまず心休まらない。
一日で終わる仕事は採集か護衛任務くらいだが、始める前には念入りに準備をしなければ命が危ないし、仕事が終わった後もギルドへの報告や装備の調整などしていればやはり一日つぶれる。
そういうわけで、冒険者はただでさえ危険な仕事なのに、めちゃめちゃ忙しいのである。
だから、任務の合間合間には休みをしっかり取ることにしているし、レティシアが寝坊をかましたといっても何らとがめられることはない。
「有意義な休日の時間を睡眠でつぶすというのも惜しくはあるが、睡眠も重要なことだ」
誰に言うでもなく呟いたレティシアは背伸びを一回すると着替えて部屋の外に出る。
「おはようございます、レティシア様」
「一応聞くが今私が起きたのを察知して来たんだよな? ずっといた訳じゃないよな?」
目の前にいたウサ耳少女、ベルはくどいようだがレティシアをとっても敬愛している。
であるからして、寝坊したレティシアをずっと入り口前で待っていた可能性があるのである。
「………………ご想像にお任せします」
答えなかった!
YESともNOとも言わなかった!!
何をご想像せよというのか!?
それはすなわち言外に……
「ところでベルは今日暇なのか?」
しかしレティシア話題を転換!
深く考えないことにした!
「はい、暇です。 仮に暇でなかったとしても、それはレティシア様の気になさるところではありません。 例えどんな用事があろうとレティシア様が来いと仰るならばたとえこの世の」
「わかった、わかった」
レティシア食い気味に返す。
「とにかく用事がないならついてくるか? いろいろと買い」
「行きます!」
対するベルも食い気味にカウンター。
兎に角、二人の休日の予定は決定したようだ。
二人だけでなく、今日という日に各々、思い思いの休日を過ごし、そこでいろいろなトラブルに巻き込まれる。
そんな夏ももうすぐ終わる、ある日の休日の話。
流石に短いので明日も投稿します。




